◇303 -命彼岸-4



【命彼岸】-めいひがん-

渇いた風が吹く地に咲く特種な彼岸花の一種。

赤く細い花弁は彼岸花の特徴、命彼岸は生き物の体内に宿り、宿主の命を吸うように根蔓を伸ばし宿主の命を吸い尽くして赤く細い花を広げる。原産地とも言われているシルキ大陸でも命彼岸を見る事はほぼ不可能とされている。特種で絶滅種。


「めいひがん.....まず彼岸花ってのを知らねーから命彼岸のどこが特種なのかもわかんねーぜ」


そもそもなぜシルキの花がウンディーで? それも絶滅種とか.....絶滅してねーじゃんかよ。


「シルキの花がノムーとウンディーで.....それも人体から咲くなんてビックリだ! 残念ながらビックリ以外なにも思わないや」


「え? ノムーでも咲いたの? あー.....だから残念女とトサカがここにいんのか」


「残念女って何かヤな呼ばれ方だ! でもそゆ事ね。イフリーではまだ発見されてないけど情報は持ってて損はないでしょう?」


なるほどね.....この花はウンディーだけじゃなく、ノムーでも咲いた。それも同じように人体に.....まてよ? その人体ってのは笠マンか?


「ノムーでは誰の身体に寄生して咲いたんだ?」


「誰かは知らないけど、そいつは私が所属してる隊の隊長に姿を変えててね。リビールした時に見せた姿は和國装備の男だったよ」


「和國.....トンガリの笠装備してたか?」


「してたしてた!」


同じだ。わたし達がユニオンで遭遇した男と同じ笠マン.....アイツの目的はわたしの瞳だったが、残念女の所には何を求めて行ったんだろうか。


「私がシンディの所へ行った時、既にシンディがその和國の奴と戦闘していた。ドメイライト騎士団の本部であそこまで大胆に暴れるとは......どっかの冒険者軍団を思い出すよ」


後天性 悪魔のナナミンが何かを考えるように言う。ナナミンが何しに騎士団へ行ったのかは知らないけど、タイミング的にはナイスだったのかもしれない。あの笠マンは正直強い。


「今集まっている情報をまとめましょう」


「それならザックリじゃが話を聞きながらまとめておったぞ。送るのじゃ」


この場の仕切りと言っていいだろうセツカの声に情報屋が反応し、今ユニオンにいる全員へ今回の件のまとめを送信。全員にメッセ送れるのかよ、と思ったがヤツは冒険者である前に皇位情報屋という事だろう。騎士や軍などの枠さえ既に越えた存在か。

キューレから届いたメッセージを全員無言で眼を通した。


今集まっている情報でわかった事は───

①和國装備の者が過激な動きを見せた事。

②拘束など手詰まりになると命彼岸で自爆。

③ウンディーでは魔女の瞳を狙っていた。

④ノムーでは悪魔の心臓を狙っていたらしい。

そしてこれは確定情報ではないが、悪魔の死体や数名の騎士が和國の者の手によって消滅した。


「悪魔まで狙ってんのか笠マン.....いい加減にしないと死ぬぞ」


「もう死んでるわよ。情報を渡さないために手詰まりで死を選ぶ......馬鹿げてる」


「.....ナナミン?」


なんだろうか、とても人間らしい───といっても元人間で今も人間の心を持つ───悪魔の横顔に、わたしは不思議な感情を拾った。寄った眉と鋭い眼は怒り系だが.....唇を噛むクチは何かを悔やんでいる感じか?


「情報といえる情報が無い中でもここまでの情報を導き出せました。ここからは想像で、各自警戒してください。何か異変などがあった場合はすぐに報告しあい、情報を共有すべき問題だと私は思っています」


「それは私も思う。いやいや成長したねーセツカ姫。その成長過程を見られなかったのが残念!」


「イフリーの方は今大陸を仕切る存在がいないので、こちら側で上手くやってみます。意見はウンディー側と同意です」


ウンディーはセツカ、ノムーは残念女、イフリーはゆうせーさん。何かいい感じの雰囲気でいいじゃないの三大陸。

この調子でもっといい感じになれば最高じゃね? 頑張れよセツカ.....セッカ。


「とりあえずコレっちゅー情報もまだないしのぉ、この辺りで解散じゃの」


キューレの言葉から解散の方向へ話は進み、約十分後には完全に解散。ユニオンや騎士本部でほぼ同時に笠マンが暴れたので、こうして集まり情報やお互いの状況を確認したのだろう。なんかいいな、こういうの。





「っ~~~カァー! まっずいなコレ!」


と、豪快な男性の声が響くアルミナルの酒場。男性はジョッキを片手に酷い表情を浮かべている。


「お客さん、いい呑みっぷりだねぇ! もう1杯どうだい?」


「いらねー! これ何の酒なんだ? 舌も喉も麻痺しそうだ」


「これはパラーズモスっていうモンスターからとれる体液を使った酒さ! この街でしか呑めない酒だよ。お客さんこの街.....いや、この大陸は初めてかい?」


「おいおい、そのモンスターの体液って呑んで大丈夫なのか? っと、挨拶が遅れた。俺は螺梳ラスって者だ。シルキ大陸から宝探しに来た」


「シルキ!? こりゃ珍しいねぇ!」


「だろ? サインは後でならしてやろう。で、ひとつ聞きたいんだが───」


螺梳は細い眼を更に細め、雰囲気のある視線を酒場の店主へ送る。


「な、なんだい?」


鋭い視線と、ただならぬ雰囲気を持つ男性。店主はアルミナルという場所で酒場をしている理由は、この街へ訪れる冒険者を見るのが好きだからだった。強者オーラを纏う者、冒険者になりたての者、何か企む者など、様々な冒険者がこの街アルミナルへ鍛冶屋を求め必ず訪れる。そんな冒険者を見て、時代の変化などを感じるのが店主の趣味とも言える。そうでなければこんな街で酒場など開かない。この和國の男性、螺梳はどの冒険者よりも鋭い視線と鋭い雰囲気を纏っていた。


「───プール」


「.....プ、プール?」


酒場に訪れた冒険者と会話し、様々な話を聞き、情報屋にそれを買い取ってもらう事もしている。しかし今聞いた プール というアイテム名は初耳だった。宝探しに来たと言っていた事からレアアイテムなのだろう。と店主は思い、プールというワードを脳内に刻む。


「そう。プールと呼ばれている女性を見放題な楽園が外の世界にはあると聞いてな。俺はそこへ行きたい。いや......行かなければならない」


「........」


また変なのがウンディーに来てしまったな。と店主は心の中で深い溜め息を吐き出した。





ユニオンで笠マンの事や、よくわからん花の話を終え、わたしは今───イスに座っている。それも屋外でだ。もちろん理由なく座っているワケではない。伸びに伸びた髪を今度こそ本当に切ってもらうため、わたしは今イスに座り、その時を待っているのだ。


「.....ズバッといっちゃっていいぜ。音楽家」


さぁ。ひと思いにズバッといってくれ! さぁ! さぁ! さぁ!


「.....いや、エミリオ。髪切るのはいいけど、どんな感じにしたいとかないワケ?」


ハサミをジョギジョギと鳴らし、わたしを不機嫌そうな表情で見る音楽家ユカ。髪を切ってくれと頼んだのはわたしだし、後回しにしたのもわたしだが、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。


「そんなに怒るなよ? な? 髪はそうだな.....別にこうしたいっての無いし前みたいな感じでいいや。とにかく邪魔くさいから切ってほしい」


「はぁ.....そんな性格でも一応女なんだから、もう少し髪や服を気にしたらどう?」


そんな性格とはどんな性格だ? と聞き返したくなるも、たしかにわたしは.....装備の防具こそ持っているが服は持っていない。防具も今装備している【シャドー】だけ。防具についた汚れなどは一度フォンポーチへ収納する事で消えるし、何の問題もないが、たしかに女の子的に考えれば残念すぎる。とは言っても、服は防御力も耐性も何もないモノ.....それなら普段なら防具を装備していた方が楽だし突然の襲撃にも対応できるではないか!


「いいんだよ服なんて無くても。それに少しは気を使ってるんだぜ? 今日わたしは武具を新しくするんだ、髪も伸び伸びじゃ格好つかないしょ?」


然り気無く、新しい武具ゲットだぜ! の自慢風報告をしてみた瞬間、音楽家のハサミジョギジョギが停止する。2、3秒の停止なら気にもしないが、5秒、6秒と経ってもハサミ音は聞こえず音楽家も喋らない。気になってた後ろを見てみると何やら考え事をしているような雰囲気で黙っていた。


「なぁ、早く切ってくれよ。短ければなんでもいいし文句言わねーからさ」


「うん、いや.....武具新調はビビの店でしょ? 私も一緒に行っていい?」


.....ほほう。なるほど、わたしの新装備が気になって他の事が手につかないパターンだな? わかるぞ音楽家よ。なんせこのわたし、超天才魔女で超絶美女なエミリオさんの最強装備だからな。気にするなという方が無理な話だ。


「いいぜいいぜ、一緒にいこう! なんなら知ってるヤツ全員呼んで新装備お披露目会してもいいんだぜ? クールなBGMに合わせてわたしがバリアリバルの街をウィッチウォークするのも悪くないな.....ステージでクール&ビューティーなポージングも.....迷うなどうしよう」


「あーうん。とりあえず行こうか、アルミナル」


「オーケー! 行こうぜ───わたしの装備に会いに!」





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