◇290



魔女が持つ魔力について軽く話すと言うフロー。わたしの種族は魔女だが正直この辺りの話はわからない。コイツ自身も魔女であり、地界では今やレッドキャップと同等───いや、今の時点ではレッドキャップよりも危険な犯罪者として地界全土に名を轟かすだろう。

そんな相手を前に、このわたしが手を出さず黙っている理由は───コイツはわたしの知らない事を知っているからだ.....わたし達、というべきか。

とにかくこの胡散臭いグルグル眼鏡フローは、皇位情報屋のキューレなんて問題にならないくらいの情報を持っている。それも様々な世界、様々な種族の情報を。


「......わたしが持ってる魔力ってどういう事だ?」


わたし、魔女族のエミリオが持つ魔力について何か知っている風な事を言っていたが、他の魔女達と何かが違うのか.....ダプネもわたしの魔女力ソルシエールを前に “ヴェジマ” という恐らく魔女語であろう単語をクチにしていた。


「エミリオちゃんの魔力量は狂ってるわさ。わたしも、ダプネちゃんも、エンジェリアたんも越える魔力の絶対量を持ってるのが、チミ! エミリオちゃんだわさ」


「それは自覚してるぜ。わたし天才だなって」


「うっほ、自分で天才ってかい! ま、エミリオちゃんは馬鹿と天才を行ったり来たりし続けてる存在だわな」


「天才を行ったっきりだろ。で、わたしの魔力が何なんだ? たしかダプネは.....ヴェジマって言ってたぜ」


「うんうん、“色魔力” って書いて “ヴェジマ” だわさ。魔女力って書いてソルシエールって感じと同じ」


色魔力───ヴェジマ。

何の事なのささっぱりわからないうえに、色魔力ってダサさを感じる。魔力に色でもついてるのか? って、そんなワケねーか。


「んやや! それが、そんなワケあるんだなー!」


「おま、また闇魔術かクソ眼鏡」


闇魔術への警戒をすっかり忘れていたわたしは、本日二度目の闇魔術をあっさり受けてしまった。闇魔術はバフやデバフ系で闇属性魔術は攻撃系。なので今の闇魔術にダメージこそないが、その瞬間の頭の中を覗かれるのは良い気はしない。


「ダメだよ~、ピーピング対策を怠ると。クロロも「凝をおこたるなよ」って言ってたでしょ?」


「あ? なにワケわかんねー事言ってんだお前。それよりまぢでやめろよ覗くの! 次覗いたらブッ飛ばすかんな」


意味不明な事を生態擬似魔術で言いつつ、どこか楽しそうにするフロー。ピーピングもだが、常に遊んでいるような態度にわたしは苛立ちを隠せなくなっていた。


「おーおー、怖や怖や。それよか、その “まぢ” は “し” じゃなくて “ち” だね?」


「は?.....ち に点つけてぢだろ?」


「それ魔女がよーくやる間違いなんじゃらほい! じ に点でマジがガチ。イントネーションというか、何というか、ちょっと違うから気になってたんだけども、まぁどーでもいい話ナリ」


「どうでもいい話ならすんじゃねーよクソ眼鏡。それより色魔力について教えろよ。次話がそれたらぶん殴るかんな」


そう告げ、わたしはフローを睨んだ。


「殴られるのは勘弁! だから話すね。んとねー、色魔力ってのは魔女が持つ魔女力よりも凄い魔力だっちゃ。そーだね~.....まずは一応魔力から話そうか」





変彩の宝石名を持つ魔女フローは得意の変彩魔法で自身の姿を黒髪の人間へと変えた。変彩する必要はないものの、恐らく気分的に学者や研究者になりたかったフローは白衣を靡かせ、口角を得意気に上げ、魔力、魔女力について軽く話した。黝簾魔女エミリオは長く伸びた髪の毛先を指で遊ばせ、その話を流すように聞いた。


「───って感じだけど、今のは本当にかる~くざっくり話しただけ。魔力や魔女力について詳しく知りたいなら自分で調べてクリ。魔女力はヴァル宮の書庫で調べれるナリ。んで───エミリオちゃんが今一番知りたい “色魔力” ってのはな」


ここでフローは話を引っ張るように眼鏡をくいっと上げ、曲がったネクタイを戻し、噂の色魔力について語る。


色魔力ヴェジマっていうのはスーパー簡単に言うと凄い魔力。魔女でも全員持ってるワケじゃなくて、何千年にひとり持って産まれれば凄いやったね! みたいな確率。何千人じゃなくて何千年、人数じゃなくて年数ってのがエグいよねぇ~そう思うよねぇ~」


「......何千年、って事はダプネは持ってないって事か?」


「持ってないナリー! でも色魔力の存在は知ってるど! ヴァル魔女なら知ってて当然だけどねん。特魔クラスも色魔力の事は詳しく知ってるぞー! それだけ有名な魔力だけど、アホみたいにレアな魔力。そんな魔力をエミリオちゃんは持ってるワケなんですよねぇ~凄いよねぇ~凄すぎるよねぇ~!」


「.......」


色魔力ヴェジマと呼ばれる謎の魔力───何千年にひとりが持てると言われる魔女の魔力にエミリオは黙り込んだ。突然スケールが大きくなる話を飲み込めないのか、ただ一点を睨みエミリオは黙り続けた。


「......なぁ。その色魔力って、色があるのか?」


「あるナリ。難しく話すと頭ショートするでしょ? 簡単に言うわさ。エミリオちゃんは今、魔力、魔女力、色魔力を持ってる。魔力は沢山! 魔女力は60パーセント自由に使える! 色魔力は魔女力をさらにパワーアップさせる事が出来るわさ」


「.....もうダメだ。全然わかんね」


「う~む......ざっくり言うとな、今持ってる魔力は全部魔女力になる。そんで魔女力を色魔力に出来る。んでも色魔力は保存出来ないから魔女力を使う時に色を混ぜる。ちなみに魔女力は保存出来るから可能なら魔力全部魔女力にしてしまえば楽ナリ。可能なら、ね」


エミリオは今現在、自分が持っている魔力を必要なだけ魔女力に変化させて使っている。変化させられる最大量は60パーセントで、それは蓄積出来る最大数でもある。

魔力を10パーセント魔女力にした場合は残り50パーセントしか変化使用出来ない。しかし本来ならば自分が持つ魔力を全て魔女力に変化、昇華させた状態になってこそ魔女と言える。

だからこそ魔女達は魔女界以外では魔力隠蔽魔術【マナサプレーション】で自身の魔女力を普通の魔力のように隠蔽し行動している。

魔女力を普通に使う場合は普通の魔力と同じ感覚で使えるが、魔術を使う際の要求魔力以上に魔力を使って威力を大幅に増加させる場合、瞳が発光する魔煌を使い、魔女力の蓋を開いて使う。本気状態の魔女は瞳が魔煌し、全ての魔術が規格外ともいえる威力になるが、あとで押し寄せる疲労も増加するため、普段は魔煌させずに質の薄い魔女力を使う。


「色魔力に関しては個体差.....その人その人で違いが出るから使ってみなきゃ何とも言えないわさ。とりあえずエミリオちゃんは今ある魔力を魔女力にしない事にゃ始まらないわさ。使う分だけ変化させるじゃなくてねん」


「......他の魔女、強魔女や四大魔女、エンジェリアも全魔力が魔女力なのか?」


「そうナリ。わたしも全部魔女力ナリ! これが出来なきゃいくら魔力大量の魔女でも魔女相手にするのは大変よん。言っちゃえばエミリオちゃんは “魔力が多いだけ” の魔女。魔女力を完全に扱える特魔が本気出せばれない事ない存在がエミリオちゃんだわさ」


「なるほどな.....って事は、わたしはまだまだ強くなれるって事な?」


「そゆこと。魔女力を使いまくって対応出来るようになっていけばいいナリ。んでも、無理すると暴走しちゃう事もあるから注意ね? 色魔力は全部を魔女力に出来てからの方がいいかもね~。同時にやれない事もないけど、本当に天才じゃなきゃ無理だわさ」


「おーけー、とりあえず魔力やら魔女力やら色魔力やらについては自分の感覚で覚えていけるし、詳しく知りたくなったら家帰れば調べれるのな。それなら楽勝だぜ」


「本当に楽勝かにゃー? ま、いいわさ。エミリオちゃんが色魔力を持ってるってわかった時点で、わたしを含めた魔女達がエミリオちゃんを狙うから気を付けなはれー!」


「どういう事だ?」


「グフフ~。色魔力を持つ魔女の瞳はすっごいレアで、両眼分を装備する事で自分も色魔力が使えるようになるわさ。もちろん魔女の瞳にはその魔女の特性も含まれるから.....エミリオちゃんの眼は多重詠唱や多重魔法が使えるようになって、色魔力も使えるって事わさ。し・か・も! 魔女じゃなくても瞳があれば色魔力を使えるようになるからエグい。その場合はまた違う形になるんだけどもねん」


「よくわかんねーけど、まぁいいや。とりあえず───」


黝簾の魔女エミリオは一度言葉を切り、魔女が作ったキャスケット帽子を被り直し、長い髪を後ろへ払いフローを見て言葉を続けた。


「───お前はアイレインを滅茶苦茶にしてルービッドを女帝化させたクソピエロのボスだ。お前をここで捕まえて、後でゆっくり話を聞かせてもらうぜ」


エメラルド色の瞳を黒紫色に魔煌させ、エミリオはフローへ敵意を向ける。


「まてまてまてい! オネーサン今本当にやる気ないんだっちゃ! お話を......ちょ、話を聞けってばさ!」


あたふたするフローを気にする様子もなくエミリオは魔術を爆発させた。





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