◇291
赤や青、青紫や黒など様々な魔法陣が展開する。詠唱から発動までのラグを感じさせない魔術を容赦なくフローへ放ち続けるエミリオ。
自分がどこまで
「オネーサンは今日本当にお話ししたいだけナリ! やーめーてー!」
と、クチでは言いつつも器用に空間や隙間などの魔法を使っては回避移動、バフで自身の速度を極端に上昇させ魔術の間を縫い走り、攻撃魔術で相殺してみせたりと、フローは余裕ある対応を見せる。
「お前のやる気なんてしらねーよ! 黙って食らってろ!」
能力───多重詠唱、多重魔術を遠慮なく使い、様々な属性、ランクの魔術を乱発するエミリオ。黒紫に魔煌した瞳と濃い魔女力、そして溢れ出す独特な雰囲気にフローは一層楽しそうに笑った。
「.....こりゃすげーナリ。黝簾は本当に頭のイカレた魔女だわさ」
フローはポツリと呟き、今のエミリオの姿を過去に見た天魔女───金剛魔女エンジェリアの姿と重ねた。
魔力を帯び靡く髪、黒紫に魔煌する瞳、底が見えない魔力と腹の底をゾクゾクと刺す威圧感、そして容赦の無い攻撃。
この状態でまだ未完成な魔女とくれば、フローは今後のエミリオが楽しみで仕方ない。
「グヒヒ.....、ストップストーップ! ちょいとお話しを聞いてケロ!」
「あァ!?」
「おぉ、話をする余裕あったんかい....それなら始めから聞けっての───ぶぉぁ!? わかったわかった! やめよう! はい、一旦ストップ!」
話を聞く余裕、つまり魔力の暴走ではない状態のエミリオは、フローの愚痴にも思える文句に魔術で反応するも、今回も攻撃はヒラヒラと回避された。
「もぉ~、色々話したい事あったのに流石のオネーサンも話す気なくなったわさ」
「捕まる気になったか?」
「なんねッス! っと待て待て、お前さんはすぐキレるし、キレたら見境なしになる所とか、エンジェリアたんにそっくりだわさ。アブネーアブネー」
大袈裟な警戒を見せつつフローはゆっくり下がる。どこまでもふざけているグルグル眼鏡だが、一瞬凄まじい魔女力を溢れさせた。
「───クソ眼鏡、すげーの持ってんじゃん」
「だしょー? まぁ使わないけど。それよか.....エミリオちゃんもすっっげーな! でな、今さっき思った事なんだけども聞いてくれるナリ?」
「何だ? 聞くだけ聞いてやるよ」
「ンフフ~! えっとな、わたしはクラウンとして目的の為に突っ走るナリ! んでも、その間にダプネちゃんを育てようと思うの。でなでな! 育ったダプネちゃんとエミリオちゃんが勝負してケロ~! もちろんエミリオちゃんも誰かの所で修行して強くなってもいいし、なんならオネーサンが育ててあげてもいいんやで? お?」
「は? ワケわかんねー事を喋ってんじゃねーよ」
返事に魔術を添えて放つも、フローは空間魔法で回避し姿を現さない。
「今のはオッケーって事で受けとるわさ! めっさめさ強くなったダプネちゃんにブッ殺されないように頑張れよ後輩! あーあ....色々話したかったのに全然だったわさ」
姿を見せず声だけを飛ばすフローへエミリオは「出てこいクソ眼鏡!」と言いつつ感知を広げるも、掴めない。
「もう飽きたし、ダプネちゃんにこの事を報告したいし、帰るわさ。また機会があったらお話し.....はもういいや。次からは容赦しないわよん! うふん! んじゃ、ばいにー!」
「おい!.......何しに来たんだよクソ眼鏡。にしても、疲れた.....魔女力を使い続けるとクッソ疲れるんだな......」
完全に消えたフローを追う手段もなく、エミリオはウンディー平原に寝そべり、どんよりとした曇り空を見上げた。
魔力、魔女力、色魔力.....全部同じでよくないか? と、わたしはウンディーの曇り空を見上げたまま胸中で呟いた。
昔だったなら.....1年前くらいのわたしだったら、色魔力という謎のワードにはしゃいでいただろう。でも今は正直どうでもいい。きっと目標.....目的みたいなモノが自分の中でぼんやりしてしまっているのだろう。
最初は───魔女を全員ブッ飛ばしてやりたいと思ってた。特に天魔女とかナメた称号を持つ母魔女を。
わたしを外界から───魔女界から弾き出した奴等を全員ブッ飛ばしてやりたかった。
でも地界で、ノムーのドメイライトで店をやってる人間の夫婦に助けられて、ご飯をもらえて、寝る場所を、住む場所を与えてもらって、魔女である事を隠して人間として生活を始めた。
この辺りではまだ魔女にイラついてたっけな.....。それから冒険者って職を知って、その冒険者は強いモンスターや危険なモンスター、魔女なんかを殺すと報酬金が貰えたり高く売れるアイテムを拾えたりするって知って、冒険者になる事を決めたんだ。
それから.....アスランやワタポ、キューレやセッカに会って、ハロルドやプー、音楽家とかビビ様とかに会って、色々な種族にも会って、魔女とか人間とかそんなもん気にする事なくみんなで楽しくダラダラ過ごせる環境が欲しくなったんだ。
この辺りから魔女の事はどうでもよくなりはじめて、種族なんて気にする事なく生活出来る環境を密かに求めてた。
それはわたしだけじゃなく、セッカもそうだったみたいで、セッカは密かにではなく全面的にそういう雰囲気を出してウンディーの女王になり、種族なんて飛び越えて様々な人を受け入れて.....そういうのはセッカに任せればいいって思ったんだ。
「色んなもん見て、色んな事あって、色々変わって.......わたしは今、何がしたいんだろうな」
自分が何を求めているのか、何を目指しているのか、見えなくなっていた。
今の生活に不満はないし、今の生活、周りの人達や環境は最高だ。でも気が付けばハッキリした目的や目標が無くなっていた。
.....変化っていうのは必ずしも、いいものとは言えないんだな。
「.........、.....とりあえず、髪切るか」
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