◆267



深く冷たい瞳を持つ男はセツカを見て呟き、爬虫類のような瞳をギラつかせた男は楽しそうに反応する。


「ウンディーの女王様が指揮棒タクトを振ってるのか.....」


「はっ、すっげー事になってやがるぜ! 痺れるじゃねぇか!」


フローの感知範囲外で観察する血で染められたローブを纏う3名、レッドキャップ。


「竜騎士族......あれは死体だろう。操っているピエロは───」


フィリグリーがそこまで言うと、リーダーのパドロックは冷たい声を出す。


「リリスだろ。クラウン側についた.....または初めからそっち側だったんだろ。アイツは目的なしに動くタイプじゃない。俺達と一緒にいた事さえ何か目的があったと考えれば、納得できる」


あっさりとリリスの存在を見抜き、クラウン側についた事に対しても怒りや呆れなどはなく、納得できる、と一言で片付けた。


「うむ。私はリリスが敵でも味方でも構わないが、ベルはどうだ?」


「俺もどっちでもいいな.....まぁ、つえー奴が敵になるのは歓迎だ」


「俺達に仲間意識なんて初めから無いだろ?」


パドロックの一言にベルは笑い、フィリグリーは頷く。


「もう少し観察してから.....ウンディー側を叩くぞ」


「ウンディー側? なんだそりゃ」


「先程パドロックがウンディーの女王が指揮をとっていると言っていただろう。 能力ディアで誰かの中を覗いたのか?」


パドロック、ベル、フィリグリーの順で喋るレッドキャップに緊張感も危機感もない。


パドロックは相手の思考を読み取る能力を持つ。以前は視線を合わせる事が条件だったが、SFが解放───能力が進化した今、相手を数秒見続ける事でリンクさせる事が可能となった。背後からでも相手のどこか一部でも見続けるだけで思考を繋ぎ、一方的に相手の思考だけを抜き取れる。

火力的な能力ではないものの、パドロックのようなキレ者には大きなアドバンテージとなる特質系の能力。


「あぁ、適当に覗いてリンクを切った。思考を盗むのも視線と似た気配で感知される場合がある。直接対立してる時は気にされないが、今の状態でバレると面倒だ」


「ほぉー、頭悪ぃ俺には向いてない能力だな.....で、いつ行くよ?」


「弱った所を叩いて、そのあとすぐピエロも叩く。フィリグリーは能力で先行、ベルはフィリグリーが到着後に領域を広げろ」


「了解した」「了解」


「......ついでに竜騎士族の死体をひとつ盗ませてもらうぞフロー」





金朱の焔が至るところで揺れる魅狐神社───と言っても現実の魅狐神社ではなく、能力ディアが見せた幻。狐の狛犬は青に照らされ、鳥居や神社は金色の朱焔に焼ける。

黄色の花は焔に照らされ銀色に。


『ははは.....やっぱり強いね、金色キミは』


数十秒前に、九本の尾を金朱の焔で燃やした銀色は、魅狐族でも最強の存在───天狐のみが扱える、魅狐炎きつねびを使って金色を攻撃した。全ての尾を使う攻撃は魔女が使う最上級炎魔術にも匹敵する威力を持つ妖狐の炎。

使用した天狐は一時的に尾を失うリスクがあるものの、尾を無くしても命に関わる事ではない。しかし銀色の魅狐は膝をつき、苦しんでいた。

その理由は単純に火力不足。

金色が放った魅狐炎の方が強力であり、押し負けた結果───銀色の魅狐は魅狐炎に焼かれていた。


「......銀色キミは優しいね。ボクに足りないものを与えるように、ボクを強くしてくれた」


『そんなんじゃないよ......』


「うん、でも、ありがとう」



銀色は金色を追い込む必要があった。追い込まれた状態でこそ本能的に焔を扱う力が目覚める。魅狐族で天狐が生まれる際は必ず能力とこうしてやり合い、乗り越えた者が天狐の名を与えられる。

その際、必ずしも能力が優しいとは限らない。歴代の魅狐で能力に呑まれた者は大勢存在していて、そのほとんどが天狐を求め敗北した者達。

プンプンの能力はプンプンを助けたいという気持ちが強くあり、この結果になった。

本来であれば天狐の名を持つには弱すぎるプンプンだったが、能力の性格に救われ、狐火と魅狐炎を会得する事に成功した。


『......魅狐火おくりびは死者の魂を在るべき所へ還す力。生きている者には効かないから注意してね』


「.......それじゃ、モモカには」


『うん、モモカの魂を逝くべき所へ送ってあげられる。でもモモカがそれを望んでいなかった場合は無理だよ。相手が望んでいない場合は何の効果もダメージも与えられないのが魅狐火』



この魅狐火こそが、魅狐族がお狐様と崇められている力のひとつ。



『今、ボクがした炎.....金色キミが使った炎が魅狐炎きつねびだよ。これは魅狐火とは違って攻撃的な炎。尾を全部使うけど強力な攻撃を撃てる。これは生者だろうと死者だろうと対象になる』


「尾は時間が経てば戻るけど、他にリスクはないの?」


『強いていうなら、尾がない状態では体内にある量の雷しか使えないって事かな』



金色は銀色の話を確りと聞いていた。直感が銀色にはもう会えないと語っていた。

銀色も金色がそう思っている事を理解し、残された時間でこの力の説明を出来る限りする事を選んでいた。



『今、金色キミは青白の雷と朱色の雷を使える。青白はいつも通りで、朱色は青白よりも強力な雷。その分消費も大きいからね.....あと、魅狐火、魅狐炎の他にもうひとつ。天狐焔アマツっていうのがある』


天狐焔アマツ?」


『これはボクにもハッキリわからないんだ.....機会があったら魅狐神社へ行くといい。そこで色々知れる』


「魅狐神社.....わかった」


『うん。そろそろ時間だね.....金色キミの中に生まれる事が出来てよかった。ありがとう』


「ううん、ボクの方こそ、銀色キミには助けられたよ......謝りたい事もあるけど、ありがとう」



金色と銀色は本来ならば相容れない関係だが、不思議と調和し、金と銀がゆっくりとひとつになった。





「───ッ!」


「わっ.....ビックリした」


突然起き上がったプンプンに、ワタポは驚いた。しかしすぐに安心し「おつかれさま」と声をかける。


「ワタポ.....ボク」


「うまくいったんだね。よかった」


能力を越え、StageとFrameを突破したワタポはプンプンの内面的な変化にすぐ気付く。そして外見の変化にも。しかしクチに出さず、ただ迎え入れた。


「.....ボク、みんなを傷付けたんだよね......その腕も、ボクが」


沈む表情でワタポの両腕を見るプンプン。気にしないでと言うのは簡単な事だが、ワタポは無い腕を見せ、


「うん。ワタシだけじゃない。色々な人をプンちゃは傷つけた」


「........」


「だから行こう。傷つけてしまった人に謝るためには、まず終わらせないと」


「終わらせる?」


「まだクラウンがこの街にいる。プンちゃが眠ってる間に感知網を広げてみたんだけど、今街が大変な事になってる。起きたばかりは凄く身体が重いだろうけど.....」


「───大丈夫、行こう」


「うん」





まだ終わってない。クラウンもレッドキャップもまだこの街にいて、今も暴れている。ボクは誰を傷付けたのかもわからない。もしかすると命を奪っているかも知れない。

それでも、今は行動しなければならない。


ボクはそのために、銀色キミを越えてきたんだ。



「───大丈夫、行こう」



誰かの命を奪っていたとしても、ボクはそれを受け入れて罰を受けなきゃならない。

でも今は───その罰を先伸ばしにさせてください。







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