◆256



天使の風が煙幕を吹き飛ばし、視界は回復する。

リリスはプンプンの姿を確認し、眼を見開いた。リリスだけではない、みよ も マユキも、地面に手と膝をつけ倒れないよう必死に身体を支えるプンプンの姿に、息を飲み眼を見開いた。



完全に銀色に染まった毛、一回り以上大きく太くなった九本の尾、バチバチと漏電する朱色あかの雷、


「ヴゥ.....」


プンプンは苦しそうな声を出したかと思えば、


「ハハ、ハハハ.....」


と、寂しそうに笑い始める。


「....、雷、に、頭を、撃たれ、て、おか、しく、なった、の?」


リリスの声に感知器官である狐の耳がピクリと動いた。

プンプンはゆっくり立ち上がり、漏電する朱色の雷を徐々に弱め、鎮めた。


「無理矢理進むなんて、さすがボクだよ......」


「....、?」


リリスの前に立っているのは紛れもなく、プンプン。しかしどこか雰囲気が違う。


「えっと......キミが、リリス?」


「.....、?、本、当に、頭、おか、しく、なった、の? プン、プン」


「お前がリリスか聞いてるんだ。答えろよ」


「───、!?」



まばたきさえ、していないリリスだったが眼の前までプンプンが移動し、リリスを睨み言った。

一瞬なんて言葉では到底足りないほど、一瞬の移動。


リリスは産まれて初めて感じた。


───殺される。 と。



「お前がリリスか? 違うのか? イエスかノーか答えろ。それ以外の言葉を言ったら殺す」


「.....、私、が、リリス、よ」


濃い朱色の瞳は呑み込まれそうなほど深く、ただならぬ狂気を孕むリリスでさえ、臆する視線。


「そうか、キミがリリスか。ボクの妹を殺して人形にして、何がしたいんだい?」


「あ、貴女、こそ、何、者、なの?」


リリスはプンプンの質問に答えず、質問で返した瞬間、魅狐の瞳が一瞬、嫌な色で輝き───、


「あ───、え?」


毛先が朱色に染まる一本の尾が、リリスの腹部を深く貫いた。


「ボクが聞いてるんだよ? お前は人形みたいに聞かれた事だけを答えろ」


尾に薄く雷を纏わせ、貫通力を高めた尾はリリスを簡単に貫き、溢れ出る血液は雷で焼き消されるも雷は拡散状態ではなく、ブレる事なく尾を薄く包む。


「質問を変えようか───モモカはどこにいる?」


「あ、ぁ.....」


「ん? あ、このままじゃ答えられないんだね。ごめん」


空気を漏らすだけのリリスへ魅狐は言い、投げ捨てるように尾を抜いた。濡れた地面に転がるリリスは、あのリリスとは思えないほど───魅狐に一方的にやられている。

接近してきた事も貫かれた事も、気付けないほど魅狐とリリスの間には大きな壁が。


「.......なんなの納得いかない」


「え? モモカはどこにいるの?」


「ふざけんなよ狐......お前が」


「答えろよ」


「.....っざけんじゃねぇぞ、テメェが私より強ぇワケねぇだろ! 獣臭ぇ女狐がフレームアウトした程度で調子乗ってんじゃねぇよ」


ビキビキとモモカの眼球を鳴らし叫んだリリスへ、魅狐は容赦なく朱色の雷撃を落とした。

以前のプンプンは青白の雷を自分から相手に放つ形しか出来なかったが、今の魅狐は空から朱色の雷を落とす事も可能。条件こそ不明だが、以前よりも確実に強く、以前よりも完璧に雷を操っている。


「答え以外はいらないよ」


抉れる地面に深く沈むリリスは、それがリリスだと判断出来ない程焼け焦げた姿で。


「お前はもういい。モモカは自分で探す」


異常とも迷いない判断で、魅狐はリリスを黙らせた。



「───なーんでリリスちゃん焼いちゃったのさ! ってお前、それ、え.....ちょっと大丈夫? それフレームアウト?! うっそ」


「ん?......キミだれ?」


影でこのタイミングを待っていたフローは、わざとらしい声を響かせヒラリと湧き出る。


フローだけではない。ダプネもゆっくり現れ、


「おいおい......本当にフレームアウトしてるのか?」


プンプンの状態を見て驚く。

グルグル眼鏡をかけなおし、プンプンを観察したフローは、


「......んや、S3のF3かな?」


SーStage、FーFrameで能力ディアの状態をいうのは魔女から始まった。

プンプンの状態はステージ3のフレーム3 となる。この状態は能力の侵食率が90%───つまり90% 能力ディアに呑まれた状態。それに加え、


「んや、んやんや、こりゃ暴走状態でもあるわいな。でもレアなケースだ。データとろ」


能力ディアの暴走状態とも言える。


プンプンの場合は能力と上手に共存していた。しかしSFの無理な解放、プンプン本人では耐えられない状態と身体が判断し、能力ディアを前に出した。

そして本人と能力が共存していた理由はモモカの存在。お互いが同じ目的を持ち、それが重なり合った事で、静かに、目的へ暴走している状態。


リリスを見て「キミがリリス?」と質問していた事から、魅狐状態───能力のプンプンは記憶が削げ落ちている状態。下手をすれば仲間に対しても、自分の邪魔している、と感じた場合は容赦なく手をあげる。本来みられる暴走よりも遥かに厄介な暴走状態とも言える。


「ねぇ.....キミ達はサーカス団? それともリリスの仲間?」


フローとダプネをゆっくり見て、魅狐は深く冷たい視線を突き刺した。


「仲間だよ。モモカちゃんの居場所は知らないけどねん」


フローはあっさりと答え、魅狐の言葉を待った。


「そっかぁ......残念」


「次はこっちの質問に答えてくれっかい?」


魅狐が続けて質問してきた場合は、フローも回答者の立場のままだった。しかし質問が途切れた今、このタイミングをフローは見逃すハズもなく、次は自分が質問する番だと言わんばかりに踏み込む。


「いいよ」


「んじゃお言葉に甘えて───」


フローがペンをクルクル回し、質問を喉まで押しあげた瞬間、


「プンプン!!」


天使みよが駆け寄り、魅狐の名を呼んだ。


「あー! お前コラっ! 今わたしの番だぞ!」


「みよちゃんストップ、それ以上は危ないデス」


「あァ? だーかーらー、今わたしの番なんだっての! お前らふたりは下がっとけ!」


現れた天使と吸血鬼に、キィー! と謎の声を出し叫ぶフロー。停止したみよを少し引き戻すマユキを見て、フローは「そっから動くなよ!」と言い放ち、喉で止まっていた質問を吐き出そうとするも、横槍はまだ終わらない。


「にょあ!? にゃんだアイツ!」


「あれ......エミーの友達じゃなかったっけえ?」


「なんかいっぱい居るぞ.....」


るー、だっぷー、カイトが現れフローはまたも質問出来ず。


「おぉー、何か知った顔がいるな」


「あ、るーだニャ」


「んにぃ.....酒にょんで走ると気持ち悪くにゃるニャ.....おえぇ.....」


ユカ、ゆりぽよ、リナがユルい雰囲気で登場し、


「.......プンちゃ?」


プンプンと同じギルドに所属しているワタポが息を切らし、現れた。




「みんな───.......だれ?」







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