◇255



鳴き響いた雷の影響か、雨が更に激しさを増したアイレイン。魔女のモノと思われる魔力は既に消え去り、ワタポはとにかく雷が落下した方向へ向かっていた。

今まで生きてきて、耳にした事のない雷鳴。とても自然のモノとは思えない、雷鳴に焦りが湧く。

激しさを増す雨の中、ワタポは様々な結果を想像した。


①ただ自然が起こした不思議な雷だった。


②プンちゃが大規模な雷を起こした。


③プンちゃの能力ディアが暴走した。


④プンちゃが能力に呑まれた。


4つの結果を想像し、最もあり得るものはどれかを更に考える。



①はあり得なくはないけど、今このタイミングで起こる確率も低い。


②これは本当にあり得ない。自然現象レベルの大きな落雷を操るなんて普通の人には不可能。現実的ではない。


③これは最もあり得る。一度プンちゃは暴走状態になった事もあったし。


④これは③よりは低いけど、あってもおかしくはない。ただプンちゃの能力ディアはどこか不思議で、能力とどこか上手に共存している気がするし.....。



自分が呑まれた時の事をワタポは思い出す。あの時はエミリオが───能力に詳しい種族の魔女───が手助けをしてくれたから今の自分が存在している。今エミリオがどこにいるのかは不明。④の結果になった場合、どうなるかはわからない。しかし最も確率の高い結果は③、ワタポは③を想定し、思考を回した。



───呑まれではなく、暴走。そうなった場合は尻尾を切断して雷を強制的に消して止める。ワタシひとりで出来るのか?



一度暴走状態に陥った時は半妖精ひぃたろが理解不能な速度での移動攻撃を見せて、尻尾切断に成功した。その時は自分を含め、何人もの人が一緒にプンプンを鎮めるよう戦った。

今この状況下でプンプンに対応出来る存在が何人いるか......。



「とにかく急がなきゃ」



バシャっと水溜まりを踏み、ワタポは足を速めた。





「ニャぎぃ!?......にゃんかこっち側進むと静電気? みたいにゃにょのがビリビリ痛いニャ!」


濃いピンク色の毛を持つ猫人族の ゆりぽよ は謎の電気に尻尾を立てていた。隣で同族のリナも同じく静電気にやられている。


「猫人族って静電気に弱いの?」


猫人族と共に落雷の方向へ向かっている 音楽家ユカ はネクタイを緩め、強さを増す雨と更に曇る空を見上げ、フォンを取り出し耳に当てた。


「猫人族は雨にぃも雷にぃも弱いニャ......って質問しといて聞く気にゃし!?」


ゆりぽよ はユカを見て「んにゃああああ」と大袈裟な驚きを見せ、乗っかるようにリナも「んにゃああああ」と声を出し、つま先立ちで尻尾を立て、どっちが驚き仕草レベルが高いか、と遊び始めた。

そんな猫人族を横眼にユカのフォンは通話を繋げた。


「ビビ? 今アイレインなんだけど、ちょい映像送る」


そう言いユカはアイレインの状況や空の状況を通話中の相手のフォンへ送る。公開なしで追加されるフォンの便利機能を早速使うユカ。言葉での説明が難しい、または面倒な時に便利な映像転送機能を使い鍛冶屋ビビと通話を続けた。


「......、どう!?」


『アイレインでなにがあったの?』


「色々あって今もまだ色々起こってて、この雨ってか天気大丈夫なの!?」


『いやー、正直ヤバイね。雨の日や天気が悪い日は接合部分が痛んで、雷とか電気にやられると一時的に動かなくなっちゃう。ワタポやレイラの事でしょ?』


「そ、やっぱ色々マズイか。レイラは下がったけどワタポはまだ見つけてないんだ。見つけたら下がるよう言うわ」


『それがいい。ワタポの義手は他よりも特別製で、正直ビビもあれが完成系とはハッキリ言えなくてね。本人にもそう説明したんだけど、あの連中が無理しないワケないでしょ? 店にララもいるし、今から一応そっち行くよ』


「あ、それなら戦闘出来る装備も用意してきてよ。街の状況がさっきのだからさ」


『了解』



鍛冶屋ビビとの通話を終えたユカはそのままフォンを撫で、アイレインのマップを確認する。雷鳴が落ちた場所は中心街ではないものの、中心に近い位置。


「建物の数がそれなりに多い場所か......音の響きが悪そうだ」


音楽魔法は広く音が響く場所や円形の場所で最も威力を発揮する。建物が多い場所では音の抜けや響きが悪く、範囲系の音楽魔法は劣化してしまう。


「近接か......ただの落雷であってくれよ」


ユカもワタポ同様に、先程の雷鳴にはプンプンが関係しているのでは? と思っていた。


「私も、一緒に」


「お? 起きたか。目覚ましにしては嫌な音だったかい?」


無駄に騒ぐ猫人族を横眼にユカは目覚めばかりの騎士、レイラへ言った。


「猫人族の声で、起きたワケではない。さっきの雷は.....?」


「さぁね......。お前動けるなら教会へ向かってくれ。私は猫人族と一緒に ひずんだ雷の方向へいくよ」


「私も.....っ、わかった。無理はするなよ」


「お、意外と物分かりいいね。さすが騎士団長代理殿だ」





「今の......雷、だよね?」


数十メートル先で落雷を見ていた天使は、それが落雷なのかハッキリわかっていない様子だった。


「あたしには、大きな狐にも見えたデスよ? お狐様は大丈夫デスかねぇ?」


後天性吸血鬼のマユキは答え、プンプンを探す。落雷により辺りは煙幕に包まれ、視界は白く染まる。


「プンプンはいる......アイツも、まだいる」


みよは視界を潰されたとしても、鋭く抜けた感知力でプンプンのマナとリリスのマナを探り、ふたりがまだこの場にいて生きている事をマユキへ告げた。


「そうデスか、生きているなら問題ないデスねぇ」


不自然に裂けた雲を見上げ、マユキは眼を細める。


───さっきの雷は少し変でしたねぇ。


落雷は一瞬だった。しかし雷鳴は悲鳴にも似ていて、落下する瞬間の色が赤にも見えた吸血鬼はリリスよりもプンプンを警戒し、視線を空から戻す。


「......モクモクしていて見えないデスねぇ。ちょっと吹き飛ばすデス」


マユキは血液を使い、血の翼を産み出そうとするも、一歩前に出た天使みよが「私がやる」と呟いた。

天使は耳につく金のリングピアスを外した。天使は天界から降りる際、必ずこのピアスを装備し天使である事を隠す。魔力の質やマナは限りなく人間に近くなり翼も消えるが、ピアスを外した今───みよは天使として感知される。

暖かい魔力と柔らかいマナが、みよから溢れた。


みよは鋭く息を吸い、止めた。集中力を高め神経を背中へ集中させると───鈴の音にま似た音を奏で天使は翼を広げる。


「ふぅ───......ッ!」


一度呼吸を入れ、次は翼を大きく扇ぐ。すると羽が辺りに舞い散り、何とも幻想的に輝く風が逆巻くように煙幕を空へ。


「うげぇ....ッ、やっぱ濃いな......、、」


みよはガクッとバランスを崩し膝をついた。急ぎ翼を縮めつつピアスを耳へ装備し、大きく深い呼吸を入れた後、プンプンの方を見た。


「.....プンプンは?」


「あれ......デスかねぇ?」







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