◆257
次々と落雷エリア───魅狐のいるエリアへ集まる冒険者や騎士達。
フローは魅狐への質問を嫌々飲み込み、ダプネは集まる者達から隠れるように空間魔法を発動。リリスとフローを落とし、気付かれない位置へ出口を繋いだ。
「焼けた死体.....どうするんだ?」
空間内に倒れるリリスへ視線を流し、呟いたダプネ。フローは小さな窓から外───アイレインを眺めつつ、
「そろそろ起きろい、リリスちゃん」
と言う。するとリリスはピキピキと全身を震えさせ、焼け焦げた外装を砕き、身体を起こす。
「.....アァ。完、全に、は、防げ、な、かった、わ」
硬度な糸で全身を包み雷撃を防いでいたリリスだが、ドールドレスや肌には小さな焦げ跡は魅狐の雷撃はリリスの予想を越えた威力を見せた事になる。焦げを手で払い、数秒停止したリリスは奥歯をギリッと鳴らす。
「まぁ全防は無理だろなー。ありゃ魅狐として覚醒しつつあるわいな」
窓からプンプンを観察しつつ、フローは楽しそうに言った。
「無理?、私、が、無理?」
「うん。今までのプンプンっ人は、簡単に言うと雷を操る能力を持った人。魅狐って言うにはショボすぎナリ」
フローはポケットを漁り、お菓子を取り出し食べ始める。
リリスとダプネはフローの言葉の意味がわからず、次の言葉を待った。
「.....ん? あぁ、魅狐について知りたいって感じかい?」
ボリボリと棒クッキーを食べつつ窓を覗いていたフローは既に魅狐の話題は終わったものだと思っていた。しかしふたりの表情を見て話題を戻す。
「魅狐ってのは和國にいたお狐様で、妖───アヤカシ。でもただの妖じゃなくて、神様的なノリなー」
神様というワードに眼を丸くするダプネとリリス。神が存在しているなど信じられないし、神とは人が産み出した都合のいい架空の存在ではないか? とダプネは思うが、フローの言葉を黙って待った。
「神様って言っても全能無敵なモンじゃなくて、
「......、それ、が?」
「あぁーんと、竜騎士族も魅狐と同じ神族の枠な。ほら、悪魔族って言っても魔王とか吸血鬼とかいるじゃん? そんなノリで神族は他にも
大きな種族の枠として
「リリスちゃんが今思ってるように、それがどうしたって感じよ。神族全員が神様的な力を持っていたら人間も魔女もみーんなお手上げ。でもそうじゃない。神族の枠にいる種族の中でひとりだけ、神にも近い力を覚醒させる事が出来る。魅狐で言うと、さっきの火と朱色の特性.....プンプンなら雷の特性だから朱色の雷ね。あれが神族の魅狐として覚醒した本物のお狐様だけが持てるチート」
フローはグヒヒ、と笑って次のお菓子をクチにしつつ窓を覗く。
神族の枠にある種族は神にも近い力を秘めた種族で、その力は同族でひとりだけが持てる不思議かつ圧倒的な力。その力を覚醒させた者が神族の何々、と呼ばれる。魅狐の場合は【神族の魅狐】と。しかし本物の───世間一般的に認知されている神とは違うので不可能な事もあり、奇跡などは起こせない。
神にも似た力を持つ者。
「難しい話ってか、神ってワードが出ると話のスケールが大きくなって理解するのが難しいな」
「ダプネちゃん、簡単に言うと天魔女よ。魔女という種族で圧倒的な力と権力を持つ存在。今のプンプンは魅狐族の中で圧倒的な力を持つ存在になりつつあって、望めば魅狐族の頂点に立てる存在───だけども、魅狐はプンプンしかいないからなー。あ、和國行って “ボクが神族の魅狐だよ” って叫んで朱色の雷でも落とせば、お狐様として妖達が両手合わせるかもなー」
声帯擬似魔術を無駄遣いし、プンプンの声質を真似たフロー。
そんな魔術に反応する余裕もないふたりは、必死に話をまとめて、理解した。
「つまり、魅狐、で、魅狐、以、上の、力、を、持った、存、在が、神、族の、魅狐、に、なるの、ね?」
「リリスちゃんは三文字以上をスラスラしゃべれないのかいな!? っと、まぁそれが正解でいいぞ。騎士団の騎士団長とかって強くて権力もあって、沢山いる騎士の中でも、ひとりしかなれないでしょ? それと似たノリ。神様じゃないけども神様くらい圧倒的な存在ナリ」
二つ目のお菓子も綺麗にしたフローは少々物足りない表情を浮かべ、外がどうなっているのか再び観察へ戻る。
「プン、プン、が、強い、子、に、なった、なら、私、も、本気、で、遊ん、でい、いって、事ね。愉し、み」
「~~ッ.....はぁ。お前はついさっき負けてただろ。それよりフロー、リリスは犯罪ギルドのメンバーじゃないのか? クラウンに入っ───!?.......」
「んにゃ? どうしたダプネちゃんや」
「どう、した、の?」
話の途中で言葉を切り、何もない方向を見たダプネ。3人がいるのは空間内で、窓から外を見ている状態。誰かが現れる事もなく、物音さえ発生しない場所でダプネは可笑しな反応を見せた。
「......エミリオが拘束空間を破った」
「じゃじゃ馬魔女!? それよか、どやって破った!? あれはそこらの魔術じゃ破壊出来ないぞ!?」
「わからない.....でも空間を破壊して別の空間に落ちた.....」
◆
ガラスが砕けるように、空間魔法の壁───なのかはハッキリしないが壁でいいだろう───が砕け、わたし、囚われの魔女エミリオ様は別の部屋へ吸い込まれるように落下していた。
謎の空間を流れ続けていたわたしは、何も出来ない時間で色々と考えた。ダプネはヴァルプルギス宮殿を自由に出入り出来る強魔女までになり、そしてサーカスだかクラウンだかわからないが、地界的には危険な集団に加入していた。
理由は.....知らないし、実のところ興味もない。
わたしにとって大事な部分は、アイツが、ダプネが敵かどうかで、アイツは敵だ。
色々と理由があるのかも知れないが、地界の人達を殺したアイツをわたしは無視する気はないし、他の誰かじゃなくわたしがアイツを叩く。
「こんな意味不明な空間でダラダラしてられないぜ」
流れに身を任せていたわたしは、身体を起こし、とりあえず適当に魔術を放った。しかし壁は壊れるどころか傷ひとつ付かない。1ヶ所を複数回上級魔術で叩いたらどうだ? それでダメなら
「くっそー.....外はどうなってんだ? そもそもどこへ向かってるんだよこのクソ空間」
溜まるヘイトを壁へぶつけたわたしは、壁に触れてようやく気付く。
「......!? この壁、、」
壁は特別堅いワケではなく、魔術に対して大きな耐性を持つ壁に仕上がっていた。
この空間魔法自体が魔術。つまり、魔術に対して対抗力を持つ魔術が施されているというワケだ。
「.....なんで気付かなかったんだろ、魔術なら───これで破壊できんじゃん!」
わたしは腰に吊るしてある短剣の鞘を手に取った。ローユ素材で作られた短剣を納める鞘も同じローユ素材。
すると、ガラスが砕けるように空間が割れ、出来た隙間は恐ろしい引力でわたしを吸い込み───今に至る。
鞘はたった一回の攻撃で砕けてしまい、もう使い物にならない。元々武器ではないのにここまでやってくれた事を感謝しつつ、フォンポーチへ収納しようとするもフォンは全く反応しない。
「この空間のせいか? 外に助けを求めるのは無理か......」
空間の壁を気持ち良く砕けた事で、イライラモヤモヤは今の所スッキリしている。このまま落下状態が続けば再びイライラエミリオさんが降臨しそうだが、真っ白な床と思われる空間が見えたのでイラミオさん降臨の心配は無さそうだ。
普段───空間外ならこの高さからの落下は無事では済まない。しかし空間内での落下は着地前にふわりと柔らかくブレーキが働き、危なげ無く着地可能。
「おっ....と、」
今回もブレーキが働きわたしはゆっくり確実に着地、と同時に妙な音が聞こえ振り返る。
ジュクジュクと溶け焼ける様な熱音、痛みからなのか擦り切れるような声を溢し、酷い臭いをあげる何かがそこに居た。
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