◇252



「ッ!?.....なんだ今の雷」


「悲鳴、みたいだったねえ......」



鳴き響いた雷に狼耳を立て驚いたカイトと、隣で空を見上げただっぷー。ふたりは街の現状確認としてアイレインを駆け回っていた。

現状は酷いもので発見した人影は地面に倒れ冷たく固まった状態ばかり。その度ふたりは悔い、その者達を座らせる形で起こし、両眼を閉じ、すぐに次のエリアへ移動していた。

本心を言えばカイトもだっぷーも、発見した者をすぐに医者や治癒術師の元へ運びたい。無駄だろうと、可能性がなかろうと、こんな所で眠るのはあまりにも───。

そんな気持ちだった。しかし現在の状況はその余裕さえない悲惨なモノ。


「にゃんだよ今の雷! 雨ににゅれて悪魔の血ににゅれて、次は雷でも降ってくるにょか!? ふざけんニャ!」


と、突然響く怒りの声にふたりは足を完全に止め、声が聞こえた方向を見る。

崩れた建物の影から声の主はゆっくりと迫る中、カイトは持ったままの大剣を構えるが、


「大丈夫、多分.....知ってる人かも」


と、だっぷーが呟いた瞬間、声の主は姿を現した。


「んにゃ? お、だっぷー!」


「るー! なにしてるの!?」


現れたのは鬼角のような形をした耳と白髪、少し赤黒の肌を持った猫人族ケットシーの大剣使い、るーだった。


「俺はさっき悪魔を拾って吸血鬼に押し付けてきてニャ。今は街の状況を確認してる途中ニャ。そっちは?」


そう答えつつも、るーは大剣を持つカイトに警戒したのか、後頭部をボリボリと掻きつつ、背中に装備された大剣をいつでも抜ける体勢をとる。


「あ、悪い。俺はカイト、武器を背負うためのベルトがなくて持ったままなんだ」


そう告げ、カイトは大剣を地面に突き刺し敵ではない事をアピールした。だっぷーと一緒にいる時点で敵ではない、とるーは思っていたが誰が敵で誰が味方なのかハッキリするまで警戒すべき現状だと踏み、カイトを警戒していた。


「んにゅ、俺はるー。猫人族だ。カイトは......何族ニャ?」


耳、そして顔から胸へと走る模様を見てるーは答えた。

一見猫人族にも見えなくない耳だが、サイズと形がまるで違う。尻尾はなく、左眼付近から左腹部まで走る模様はタトゥーにしては少々やり過ぎにも思えた。


「詳しい話は省略するけど、俺は人間なんだ」


「ほぉー.....人間にゃんげん にぃも獣耳持ってるヤツがいるんだニャ。っと悪い、俺は雷が落ちた方向へ行こうと思ってたんニャ。今度ゆっくり話そうニャ、カイト」


「るーも雷が気になったのか? 俺達も気になってて」


「るーも一緒にいこおー!」


目的が同じだったので、同行しようと話を持ちかけた直後、


「「「 ───!!? 」」」


感知スキルを持たない者でも感じる程の濃さを持つ魔力が複数、風のようにアイレインを駆け抜けた。





フローとダプネの前に黒の大型魔法陣が空中展開され、魔女達は現れた。


「───本当に......ッ」


「嘘だと思ってたのかいな!? ひっどいヤツだなー」


キュッと眉を寄せ現れた魔女達へ構えるダプネと、頬をぷくっと膨らませダプネを見て怒っているアピールをする緊張感のないフロー。


「久しぶりね」


「よーう。おひさですわねぇ、天魔女様ぁん」


金髪に紫の瞳を持つ魔女の頂点に君臨している天魔女がふたりを見て微笑む。

ここでもフローは緊張感なく挨拶を返し、他の魔女を見てグヒヒと笑う。


「幻想術とはいえ、9人の宝石魔女が外で集まると派手ですなぁ! こうしちゃいられん、撮影しよ撮影」


フローはフォンを取り出し、パシャパシャと記録機能を使い写真撮影、さらにはフォンポーチから謎の棒を取り出し、先端にフォンを装着し棒を伸ばし自分とダプネも入れて撮影する。


「おいグルグル。幻想術だからってナメてんの?」


「おーおー、翠玉ちゃんは相変わらず怖い怖い。んまぁでもアレでしょ? わざわざ姿を先に晒したって事は何か話あんでしょ? 消すつもりなら魔術でご挨拶すればケーオーだし。あ、今のケーオーはOKって意味と1発KOの意味を持つキメラワードね! ヒッキーで意味不明な本ばっかり見てる魔女には難しい言葉だったかなぁーん? ちなみに今のパシャパシャは魔導具じゃないから安心していいナリヨー」


撮影した写真データを確認しつつ言い、フローは満足したのか棒とフォンをしまった。


「相変わらずうるさい魔女だね~。おっすフロー!」


「お前の声もうるさいナリー。よっす! えっと.....ミディアムヘアーの?」


「モラディアム!」


フローが出した謎のパスを確りキャッチし名乗る輝安の魔女モラディアム。ふたりは同時に、満足そうに笑いモラディアムがクチを開いた瞬間、


「もう黙りなさい、モラディアム」


天魔女が一言いい、モラディアムはベロを出して黙った。


「フロー。貴女は何を企んでいるの?」


「おっほ、天魔女様がわたくしめにお声を! ありがたや~ありがたや~」


ふざけ倒すフローに対し、ピクリと眼元を揺らした天魔女は詠唱なしで火属性下級魔術を放った。フローは同じタイミングで水属性下級魔術を詠唱なしで放ち相殺。


魔女力ソルシエール を完全に操る魔女は下級、中級の魔術を詠唱なしで放つ事が出来る。もちろん詠唱して発動させた方が威力も増すが、詠唱なしの魔術は牽制や数攻めには充分すぎる火力を持つ。


「悪かった悪かった。ちゃんと会話すっから怒るなよエンジェリア」


ヘラヘラした声ではなく、冷たく鋭いトーンでフローは言い、グルグル眼鏡の視線を天魔女へ向ける。


「フロー。貴女の目的は?」


「んー、そう聞かれると答えに困るな......そうだなぁ、楽しむ事かな?」


「楽しむ、ね。貴女の楽しむは限度を越えているわ。完全にアウトなのよ」


「はぁ? そりゃお前の限度で測っての言葉だろ? わたしとお前の限度を一緒にすんなよ。なんだよアウトって」


「だからアウトなのよ。貴女の限度に合わせていたら滅茶苦茶になるじゃない」


「んやそれよ。滅茶苦茶にして遊びたんだよ。ぐっちゃぐちゃになったのを見て楽しみたい」


「本気で言ってるの?」


「本気も本気、ガチのマジのマジョがわたし。オモチャは飽きたら壊して遊んで捨てるに限るでしょ?」



普段とはまるで違う声質、雰囲気にダプネ驚きを隠せなかった。ヘラヘラ笑って、ヘニャヘニャしているフローは今ここには居ない。鋭く尖った雰囲気と声で天魔女相手に一歩も引かず、臆する事なく発言するフローは四大魔女の座を与えられているだけの事はある。ダプネを含む強魔女達はフローの雰囲気が変化した瞬間、驚きの表情でただフローを見詰めていた。


天魔女はフローへ視線を注ぎつつ、


「ダプネ」


黒曜へ話しかける。


「......なんだ?」


「貴女はどっちを選ぶの? 魔女か道化か」


「どっちって、フローも魔女だろ?」


「ええ。種族は魔女よ。でもたった今からフローは私の敵。貴女達も道化として遊びたいなら行ってもいいわよ?」


天魔女は他の魔女達へそう言うも、誰も動こうとしない。

道化───フロー側につけば天魔女の敵となる。それは自殺行為とも言えるので誰ひとり動かない。それほどまでに天魔女エンジェリアは強大な力を持つ魔女。


「おーおー、エンジェリアたんは相変わらず力や恐怖で縛るのが大好きなんですコト。わたし的には、そゆのがくっそダルで付き合ってらんないんス」


呆れる仕草を入れ言い放つフローをスルーし、エンジェリアはダプネへ問い続ける。


「今選びなさい。ダプネ、貴女はどっちを選ぶの?」


「.......ッ、わたしは......」





フローの言葉を疑っていたワケではないが、出来れば嘘であってほしかった。


わたしはどっちを選ぶべきなんだ?

魔女側か?

道化側か?


「.......ッ、わたしは......」


魔女側を選べばフローはわたしを殺しにくるだろう。


道化側を選べば魔女達がわたしの敵になる。


エミリオを選び魔女も道化も.....いや、それはダメだ。

わたしは地界の者を殺し、エミリオにも完全に敵と見なされている。それに地界側を選べば道化も魔女も、まず最初に地界を狙う。


......わたしはなぜ地界の心配をしているんだ?

こんな世界消えようが、どうだっていいハズだろう? わたしにとって地界はその程度の世界でしかないハズだろう?


「答えなさいダプネ。貴女はどっち?」


「ッ、わたしは」


「迷うって事は道化側かしら? まぁ答えられないのなら、そうねぇ.......とりあえず答えが出るまでエミリオを探して殺そうかしらね。無駄に待つのが嫌いなのよ。私は」


「おっ、いいねぇそれ。わたしもエミリオの眼は欲しいし、どっちが先に見つけて殺すか競争しようエンジェリア」



このふたり......エンジェリアとフローはなにを言ってるんだ? エミリオを殺す? 眼が欲しい? ふざけるな。



「全く貴女は邪魔な存在でしかないわねフロー」


「グヒヒ、そりゃお互い様な。先にエミリオを発見してワンパンしたるでぇー! 奪われたくなかったらお前が先に発見すりゃいい。わたしは競い争うのが大好きなんだ」



嘘つくなフロー。お前は競い争ってるヤツを見て笑って、つまらないなら煽って、飽きたら壊して次を探すのが大好きだろ。エミリオの眼が欲しかったら既に奪ってるハズだ。



「む、エミリオの魔力はこの街にはないぞ......どこだよあのクソ魔女」


「全員マナサプレーションを解除。四大はフローを、強は黝簾の感知をしなさい」



まて、待て、待て。

お前ら本気でエミリオを、フローお前は何を考えて..........なぜフローはエミリオを感知しようとした? 隔離空間に閉じ込めている事を知っているのに───



「ダプネ! お前はどっちだ!? こっちか魔女マゾか、ハッキリしろっての! アイツら本気でわたしを攻撃するつもりなんだよコワイヨ! わたしもやり返す気満々だからモタクタしてると巻き込むぞい!? 魔術に巻き込まれて死んでも知らねーからな!」



───フローお前は本当にズルいな。








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