◇251



青白の炎が人形達モモカを包み、優しく消えた。

30体はいた人形を一瞬で失ったリリスは奥歯を鳴らし、殺意を隠す事もせずプンプンを睨み付ける。


「ッッ......優しくお人形にしてやろうと思ったけど止めるわ手足をもいで意識を失った所で腹の中身を引き摺り出して死ぬまで見ててやるそれから綺麗に汚してお人形にしてあげる」


独特な句切りもなく、喋るリリスへプンプンは何も言わず、頬の雨粒を拭い、足下の水を弾き消し一瞬でリリスの前へ跳び、剛雷の一撃を振るった。

落雷の衝撃に空気は揺れ、雷に反応して鳴く空。瓦礫は塵となり消え、リリスは致命傷こそ回避したものの、表情を歪めプンプンから離れる。


「手足を......なんだって?」


雷を纏う魅狐は呟き、視線を宙へ向け落下してくる何かへ雷撃を飛ばす。プンプンの剛雷撃を回避したリリスだったが、複雑に拡散していた雷が右足を掠めていた。膝下辺りを掠めた雷は想像以上の威力でリリスの足を引き千切る形で奪っていた。

打ち千切られた足へプンプンは雷撃を放ち、縫い繋げぬよう塵にした。


攻撃に対して顔を歪めた事から、このリリスは本物だ。とプンプンは漠然と思い、縫い繋げるモノを消した。


「~~~~ッッ!」


「いつもみたいにヘラヘラ笑わないの?」


足を失った痛みよりも、格下に見ていた相手の攻撃によって足を失った、という事実がリリスにとって大きなダメージ。普段のような不気味な余裕を見せる事も出来ず、左右色違いの瞳をプンプンへ向け黙り続ける。


「一度聞いてみたかった事があるんだ」


そう言い、プンプンは身体の向きをリリスへ。


「どうして人の大切なモノを、笑って奪えるの? 何が楽しいの?」


SSS-S3指定の犯罪ギルド【レッドキャップ】は異質な存在感を放っていたが、その中でも更に異質、特質とも言える存在感をリリスは纏っていた。相手と眼を合わせる事でバフ(デバフ)を結び思考を読む事が出来る能力を持つリーダーのパドロックでさえ、リリスの頭の中は理解不能。

どんな事を語ってもプンプンはリリスを許す気はない。しかし会話出来る状況下ならば一度聞いてみたいと思っていた。

なぜ、リリスは他人の大切なモノを眼の前で奪うような真似をするのか。それも見せつけるように。


「そんな事考えた事ないわ」


「......考えた事ない?」


プンプンの中でピリピリと何かが弾ける。


「誰かのモノを壊したり奪ったりする時に考える事なんてないわよ? そういう対象になってる時点で私の中ではゴミ以下の存在だもの貴女はゴミを捨てる時に何か考えるの? 考えないわよね? ゴミ以下となれば更に考える必要なんてないわよね? それと一緒」


「.......本気で言ってるの?」


「本気よ? でも安心していいわよモモカに関しては欲しいと思って手を出したからゴミなんて思ってない私が邪魔だと思ったモノは私が欲しくないモノだからゴミ以下どうなっても知った事じゃないし大事なモノなら私に見せないよう努力してほしいわね」



句切りなく話すリリスの言葉に腹の底が痺れるプンプン。湧き上がる何かを抑える事もせず解放すると、激しい雷音が響き、薄く消えかけていた一本の尾と、消えたハズの一本が復活し、再び九本の尾が開く。


「わかった、もういい」


低く冷たい声でプンプンは言い、尾で地面を叩いた。

雷を使った移動よりも、尻尾を使った移動は速く、リリスを一撃で仕留めるべくプンプンは剛雷撃を落下させた。が、


「アハハ! さっきよりも速いわねプンプン! それが魅狐化したプンプンの力かしら? 素敵よ」


リリスはあっさりと回避し、高い声で嗤い、二本の足で立っていた。


「驚いた? 会話する時間があればこの辺りに転がってる死体から足を取って付けるくらい簡単なのよ? それと───」


リリスは左手を開き、閉じると何かを引き上げるように上へ。


「───死体があれば操れる。私の足を奪ったご褒美に私も混ざってお人形遊びをしてあげるわ」


楽しげな口調とは裏腹に、リリスの表情は歪み、視線には粘りつくような殺意が混ぜられていた。


「さぁ───遊びましょう」


あの眼。あの声。あの雰囲気。

遊んでいるような口調の中で苛立つ感情を持つリリスはプンプンから全てを奪ったあの夜と同じ、まるで悪魔のような人間に。


「リリス。お前はここで───殺す」


「あらまぁ怖いわねでも今の貴女じゃ無理な話よプンプン───貴女優しいものね? さっきまで生きてた人間のお人形を壊せないでしょう?」


人間の死体が複数プンプンへ迫る中、全身に纏う雷を強く荒立たせ、


「ごめんなさい」


と小さく呟き、腕をなぎ払うように振った。一瞬光の線が走り、人形達はすぐに雷に飲まれ塵となる。


一撃で人形を失ったリリスだが焦り苛立つ様子はなく、クチを歪め不気味に嗤い───今まで見せた事のない速度で距離を詰め、雷纏うプンプンへ躊躇なくエストックを突き刺した。


「ッ───!」


「人形は壁よ強い雷を広範囲で使うと起こるディレイを隙って言うのよプンプン」


突き特化の細剣は雷の衣を抜け、プンプンの腹部を貫く。雷は細剣のハンドガード部分で停止し、リリスへ流れる事はなかった。

プンプンが雷を操る能力を持っている事はリリスも知っている。エストック全体には雷耐性値の高い素材、ハンドガード部分には特定の属性を無効化する素材を使い生産された細剣は、対プンプン用とも言える。

人形を使い攻撃している最中でも動きの癖や隙を観察していたリリスは、広範囲の雷撃後に現れるラグタイムを知り、そこを迷う事なく狙い突いた。


「いくら移動速度や反応感度が上がっても雷撃後の硬直は変わらなかったわよプンプン」


喉を鳴らすように喋り、リリスは細剣に無色光を纏わせゼロ距離で剣術を発動させた。

十連撃 突剣術は驚異的な速度で放たれ、プンプンは硬直から解放され素早く離れるもリリスは七連のヒットを叩き出し、それに留まらず更に強い無色光を剣に纏わせ突進型の剣術で追撃する。


狙いも速度も威力さえもプンプンを驚かせる完成度の剣術で、雷の衣はあっさりと貫かれエストックはプンプンへ深く突き刺さり、重い衝撃が全身を叩いた。


「もっと愉しめると思ってたけど全然弱いわね不様に吹き飛んで眠りなさいプンプン」


リリスがプンプンへ距離を詰めてから突進剣術をおえるまで5秒とかからなかった。

プンプンは現在操れる尾の最大数の九本を出し、感覚を鋭く尖らせていたにも関わらず、リリスの行動や攻撃を眼で追うのがやっとだった。それもまだ本気状態ではないリリスの。


「いっ.....」


「あら? 瓦礫に衝突する際に雷を上手に使って衝撃を弱めたのね? 凄いわプンプンでも傷はグチュグチュよ? 無理しないで?」


複数ヶ所に傷を負ったプンプンはその痛みに片眼を閉じていた。突き刺された痛みだけではなく、挽き裂かれるような痛みも傷から走る。


「細剣や短剣は一撃が弱いけれど工夫すれば、愉し、め、るの、よ」


そう言いエストックの刃をプンプンへ見せるように構えるリリス。魅狐状態のプンプンは一点に集中する事でその対象を捉え続けたり、限度はあるものの遠くのモノを見る事も可能となる。エストックに視点を合わせ刃を確認すると───細かいノコギリ状の刃が見てとれる。


「和國の、カタナ、に、こう、いった、刃、を、持つ、モノが、あるの。挽き、削り、痛み、を、増加、させて、相手、の、命、を、ゆっくり、削る、武器」


耳障りな句切り口調が戻り、完全に落ち着きを取り戻したリリスは毒々しく嗤い、左手を開く。


「こっち、へ、おいで。プン、プン」


開かれた左手を閉じる、と同時に引き寄せる動きをリリスが見せた瞬間、プンプンの身体は見えない糸に強く引かれる。

反応が遅れ、抗う間もなくリリスの攻撃範囲まで引かれたプンプン。雷を拡散させリリスが繰り出すであろう攻撃へ牽制するも、リリスは顔色ひとつ変えずエストック───突き特化の細剣へ無色光を粘り付かせ、斬りモーションで振るった。


剣術がヒットする瞬間に雷を強拡散させたプンプン。リリスも無色光を弾けさせるように全力で剣術を放ち、お互い反発するように離れる。

リリスは宙でふわりと回転し、難なく着地し嗤うも、プンプンは反発力をそのまま受け地面を転がり停止。起き上がる事もできず、剣術を受けた右腕を押さえ込み痛みに耐える。


「アハッ! 変に、対、抗、した、せい、で、それ───凄く痛そうよ? プンプン」


「~~~~ッ.....ッ」


倒れたまま瞼を強く閉じ、痛みに耐えるプンプンの右腕は───肘下半分まで挽き裂かれた状態。ドバドバと溢れ出る血液は雷の衣によって焼き焦がされ消えるも、止まらない。


「尾が、九、本、でも、たい、した、事、ない、わね」


どんな状況になろうと、リリスがプンプンを待つハズもなく、急接近し嗤い混じりの声で囁かれた直後、エストックは雷の衣を抜け、プンプンの胸へ───。





「プンプン!」



離れた位置から魅狐と死体操師の戦闘を見ていた天使のみよ。魅狐の胸へ狙いを定め向けられたエストックを見て、みよは一歩踏み込んだ。しかし、


「だめデスよ、みよちゃん」


後天性吸血鬼のマユキが天使の腕を掴み、歩みを止めた。


「離せよ! プンプンが、プンプン!」


「今近付くと多分.....塵にされるデスよ。それにプンプンさんに剣は刺さらないデス」


後天性吸血鬼は言い、指差す。エストックが魅狐の胸へ迫る中、突然ピタリと止まり死体操師は大きく下がった。


その直後、鳴き叫ぶような雷が雲を斬り魅狐へ落下した。







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