◇248



雨音だけが悲しく響くアイレインの教会前。グッと堪える表情を見せるリピナへ掛ける言葉が見当たらず、だっぷーとカイトは視線を合わせ小さく頷いた。


だっぷーは教会前───外にリピナ残り、カイトは短剣を拾い上げ教会へ向かう。飾られているワケでもない短剣を掴み、教会の門を刃で軽く触れてみる。すると、突然教会のを包むように魔力が現れ、雨音を消し去るほど激しく魔力のガラスは割れた。


突然の事にカイトもだっぷーもリピナも眼を見開き驚いた。割れ散る破片がカイトに降り注ぐも、破片は宙で消滅。

何が起こったのかも理解出来ない状況の中、音は遠くへ響くように消えた。


「これ.....大丈夫なのか?」


短剣を持ったままカイトは一度振り向きだっぷーを見る。


「大丈夫だよお。エミーは普段ふざけてるけど、さっきは真面目だったし!」


「今の.....魔法破壊? 教会に何らかの魔術が掛けられていたのかも」


だっぷー、リピナが言いカイトは短剣を取り合えずフォンポーチへ収納。エミリオが言っていたように教会へ入ろうと足を少し動かすも、


「あの音だ、きっと誰か出て来るだろう」


カイトは入る事をやめ、だっぷー達の元へ戻った。





微かな揺れと、耳を突き刺す音に教会内部の者達は一斉に驚いた。巨大なガラスが一気に割れ砕けるような音、割れた隙間から入り込み、一瞬で充満する不安感。


「......アスラン、ジュジュは急いで外へ! アクロスとキューレはわたくしの護衛を!」


誰よりも早く声を飛ばし、誰よりも早く行動を起こしたウンディーの女王セツカ。女王の指示通り素早く動く4名。

それに習いノムー、イフリーも行動へ。


先に名を呼ばれた2名、アスランとジュジュは走り外へ。その後をセツカが歩き、護衛が左右を。


「えぇ判断じゃぞ女王様。以前のセッカちゃんじゃったら我先に外へ走っとったじゃろうに」


にゃはは、と笑うキューレだったが、右手には麻痺短剣を持ち、左手には有能なハンドガード付きの毒爪を装備していた。

普段戦闘を面倒臭がって避けるキューレも、今の音には警戒している様子。

アクロスは左手に大盾のみ装備し、長剣は背中へ。右手で綺麗なクリスタルの杖を取り出し、それをセツカへ渡す。


「これは?」


「前にドロップした杖だ。防御面の性能は有能だけど杖で防御は......で、全然買手が決まらないままポーチで眠っててね。でも今その防御性能が使える気がするから、装備してなよ」


危険、緊張、警戒などの状況になると冒険者はセツカへセッカとして接してしまう。堅苦しい会話を普段からしない冒険者だからこそ、今のような状況下で「~です」などと言ってられない。勿論この事はセツカ自身も理解し、許している。

危険と隣り合わせ、背中合わせの戦闘などは、椅子に座って指示を出している者よりも冒険者の方が圧倒的に有能。セツカはアクロスから杖を受け取り、足を速めた。


屋根を叩いていた雨音が徐々に大きくなり、前方の扉は両方とも全開状態。ノムー、イフリーよりも先に外へ出ていいものなのか? とセツカは考えるも、そんなくだらない事を考えている暇はない。と判断し教会から出る。


想像よりも強い雨と───想像だにしていなかった外の状態にセツカは息を飲んだ。


キューレはアクロスへセツカを任せ、視界に入った3名───だっぷー、リピナ、カイトの元へ。


「よぉ、何があったんじゃ?」


さすがの情報屋も外を一切感知出来なくなる術式に囚われていたので、何の情報も持ち合わせていなかった。

疲労する3名と荒れ崩れる周囲を観察しつつ、キューレは言葉を待った。


「えっと.....ピエロ、クラウンってのが現れて───」


カイトはそこまで言い、リピナへ視線を向けた。その気配りにも似た行動にキューレは、


「うむ。お前さん達が無事なら今はええんじゃ。セッカの所へゆくぞ」


深く聞くのをやめ、3名と共にセツカの元へ。

遅れて行動したノムー、イフリーも外へ到着し、イフリーの仕切り人ビルウォールが奇妙な声を響かせる。


「な......何が起こったのだ!? クラウンか!? おい貴様達、外に居た冒険者だろう!? 詳しく話せ!」


「クラウンらしいのじゃが、詳しい話はまだ聞いとらん。あと───お前さんは少し黙っとれ」


キューレは軽く答えるとビルウォールは眉間に深いシワを刻み、


「貴様、何様だ? 埃まみれの冒険者が私にどんなクチをきく?」


「お前はイフリーの王様か? ただの王族風情じゃったら、ウチへのクチの聞き方には気をつける事じゃぞ」



挑発で返したキューレを殺す勢いで睨むビルウォール。その鋭い視線の間を堂々と横切る影はだっぷー達とキューレを見て言う。


「何があったか話して頂けるとこちらも動きやすくなる。そちらのキューレさんへ話して頂ければ、我々へも伝わるだろう。ノムー騎士は街の状況を調べよ!」


セツカの父であり、ノムー大陸の王は騎士へ命令を飛ばし、1名残したトサカ頭の護衛騎士へ瓶を渡した。その瓶を護衛騎士がだっぷー、リピナ、カイトへ。


「ドメイライト騎士団産のドリンクです。気を落ち着かせる効果と疲労回復の効果があります。どうぞ」


渡された瓶を受け取った3名は軽くお礼を言い、黄色の液体をクチへ。


「んぉ!? それすっぱウマイやつじゃな!? ウチにもくれよ」


「......キューレは落ち着いてて疲労もしてないだろ?」


「む、お前さん最近偉くなったようじゃが、ウチにそんなクチ聞いてええんか? お?」


「はいはい、すみませんでした、皇位情報屋さん。これで許して頂けると助かります」


トサカ頭の騎士が皇位情報屋を強調するように言うと、ビルウォールは眼を見開きキューレを見る。


「うむ、許してやるぞヒガシン」


キューレはトサカ頭の騎士をヒガシンと呼び、すっぱウマイ噂のドリンクを受け取り───ビルウォールへ一瞬視線をぶつけた。



皇位 情報屋のキューレはこの1年で更に大きく評価され、今では皇位持ちの中ではトップクラスの権限を与えられている。王族の中でも本当に王位を持つ者以外はキューレよりも下の立場となる。


イフリー唯一の王族ビルウォールは王族生まれだが、今現在ハッキリとした王位を持たない。そのためこの場ではキューレよりも下の立場となる。



「落ち着いたかのぉ?」


冒険者1の権力を持つキューレは3名へ呟く。


「俺は大丈夫」

「私もだいじょうぶ」


カイトとだっぷーがそう答えると、キューレは頷き、セツカへ何かを話す。セツカはキューレの言葉を聞き2秒ほど考え頷くと、情報屋は3名の元へ戻ってくる。


「瑠璃狼と錬金銃は街へ出てくれんかのぉ? 何が起こっておるか全くわからん、危険な状況じゃと思うが......ウチはここを離れるワケにはイカンのじゃ」


自分が街へ出て歩きたい。そんな気持ちをキューレは押さえ込み、セツカの護衛としての役割と情報屋としてリピナから情報を聞く事を選んだ。


「わかった、俺とだぷで他のみんなの様子を見てくる。何かあったらすぐメッセ飛ばすから」


「うむうむ。それが助かるのじゃ。どんな状況、状態になっとるかわからん。気をつけるんじゃぞ」










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