◇249



上下左右.....四方八方に展開されては消える空間魔法にわたしは弄ばれる。


数分前───ダプネが紅玉色の瞳を魔煌で燃やし、黒曜は魔女力を使いわたしへ。

有り得ない速度と量の空間が展開され、その中からダプネは魔術を放ち、わたしが対応した瞬間、別空間から魔剣術で攻撃を。


「......空間魔法ってこんな使い方も出きるんだな。驚いたぜ」


と、強がってみせるも内心は驚いたなんてものじゃない。移動や回避などに使うのが一般的だった空間魔法。攻撃と言えるの方法は相手を空間へ落とし、出口から出て来る瞬間を狙うものしかないと思っていた。しかしダプネは今、空間魔法を瞬間移動のように使い、攻めてくる。


どこから何が出て来るかわからないなら、わたしも空間に突撃して中でダプネを───と思い突撃するも壁に衝突したかのような衝撃だけがわたしの身体を襲った。

あの空間は本来のモノとは違って、恐らくダプネの許可なしには出入り出来ない。


「ひきこもりで泣き虫のダプネちゃんが復活か?」


「喋る余裕あるのか?」


わたしの声にダプネが反応し、耳元で声が響く。

ゼロ距離で展開された空間魔法に全く気付けず、声でやっとその存在を知ったわたしは、すぐに空間から離れようとすると───


「敵へ考えなしに話しかけると思ったか?」


別空間からダプネが現れ、緑色光───風属性剣術を纏う剣を躊躇なく振り下ろす。

数分前ならここでわたしは攻撃を受け、傷を増やしていただろう。だが───今度は違うぜ。


緑色光───風属性の剣術を確認した瞬間わたしは今までにないほど速くクチを動かし詠唱、炎属性に属する上級魔術を躊躇なく放つ。赤茶色の魔法陣が上空に展開し、豪炎の雨を勢いよく降らせる。

ダプネの剣術は連撃系だった。わたしは一撃目を何も持たない右腕で受け、二撃目が迫る頃、炎魔術の雨がわたしとダプネがいる場所へ落下し、爆裂する。


地属性中級魔術と炎属性中魔術を同時に詠唱、発動させて初めて産まれる魔術。メテオレイン と言った所か? 小さな隕石が雨のように降り注ぎ、何かに接触した場合、数秒後に爆発するという無差別な魔術。


ヒットした場合は鈍器で叩かれような痛みと衝撃に加え、火傷を負う場合もあり、爆発すれば火傷の餌食になるメテオレインを、見事わたしは受けまくった。しかし怯んでもいられない。ダプネの剣術は今ファンブル状態に陥り、ディレイに襲われている。


わたしは鋭く小さく息を吸い込み、素早く詠唱しつつ大きく下がり───重力、水、雷の順で魔術を発動させた。

重力魔術───グラビド系の魔術は闇や光とは違ったセンスが必要な魔術だが......魔力の系譜が系譜なので重力魔術も難なく使える。


無色に近い銀色の魔法陣がダプネの足下に展開され、重力が押し潰す。

さらに青色の魔方陣がダプネの横に展開され水圧が押し寄せ、青紫の魔法陣がわたしの前に展開され、雷の槍がダプネを貫こうとした瞬間、消滅した。


「!?───......ローユの特種か」


水魔術を受けた所でディレイが終了していたダプネは軋む身体を動かし、わたしの雷槍を剣で迎え、竜素材の特種効果エクストラである馬鹿げた性能の魔法破壊で槍を消し去った。


「最初の無差別な魔術は初だった.....お前の魔術だろ? あんな危ない魔術をまだ作ってたとはな」


ゆっくり喋り立ち上がるダプネ。メテオレインは空間魔法をも破壊してくれたので無差別だが今後もわたしは使うだろう。


「他にも沢山魔術はあるぜ。全部見せてやりたいけど、全部見せる前に死ぬだろ」


「お前はやっぱり......面倒なヤツだな」


ダプネは剣を鞘へ戻し、わたしを睨む。ダプネの魔煌が強く輝き、魔力量も跳ね上がる。何らかの魔術がくる事はすぐにわかったので、わたしも魔術を詠唱へ。どんな魔術がくるかはわからないが、わたしの能力ディアは三種同時詠唱、発動できる。何属性が来ようと最悪三種をぶつければ相殺できるだろう。


「少し飛んでろ」





ダプネは普段使っていた空間魔法とは違うタイプの空間使った。

一瞬でエミリオの足下に展開された入り口は赤黒に渦巻き、吸い込むようにエミリオを飲み込んだ。

ダプネが持つ、ダプネだけの空間魔法。対象を空間へ吸い込み、長時間空間内をさ迷わせる拘束系の魔術。


ダプネはエミリオを、殺す事ができなかった。ここまで来て、この状況に立ってもまだ、まだ揺れている自分に呆れた。



「───殺せなかったのかいな? ダプネちゃん」


「フロー......。どうせ見てたんだろ」


「おう、ばっちし見てた」



どこからともなく変彩の魔女が語りかけ、ポワンッとふざけた爆発音を奏で、グルグル眼鏡の魔女が現れる。



「わたしも.....使えない魔女オモチャだろ?」


「ほぉ、自覚してんのかい。でも.....まだ捨てるオモチャではないな」


「女帝にするか? 瞳をとるか?」


「んや、今までどーり.....とはいかないだろな。数分後ここに魔女が湧くぞ。幻想術の魔女だけど、天、四、強、みーんな湧くナリ」


「は?......なんで魔女が」


「さぁ? ま、わたしは丁度いい機会だから魔女に喧嘩売ろうと思うんだ! グヒヒ」



魔女に喧嘩を売る。その言葉の意味を理解するのにダプネは時間がかかった。


魔女───フローも魔女であり四大魔女という高位を持つ存在。しかし四大魔女とはいえ、魔女全員を相手にするのは無謀以外なにものでもない。

ダプネはそう思う反面、フローは本気で喧嘩を売るだろう、と疑わない。


「んでよぉ、ダプネちゃんはどーするん?」


「どうするって、なにを?」


「えぇぇー、そっから言わなきゃダメなの?」


と、フローは大袈裟に面倒そうな仕草を見せ「よく聞きなはれよ黒曜ちゃん」と言い、良さそうなサイズの瓦礫へ座った。


「お前は今、黝簾を持ってる。金剛の魔女......ダイヤモンドは黝簾エミリオをどーにか使えないものかと考えてるだろに」


「金剛......天魔女の宝石名か?」


「そ、初耳かいな? 一番良さげな名前を持っての天魔女だから.....魔女の中では高級な玩具かいな? グヒヒ.....んでんで、どーすんの? お前はエンジェリアの特命でわたしに付いて回ってるじゃん? 魔女達が来たら魔女側いかなきゃ裏切り者。んでも、魔女側いったらクラウン的には裏切り者にしちゃうゾ。そんでそんで、どっちも選ばず黝簾の方選んでも───お前はそっちで既に敵扱い。どこに転んでも裏切り者で誰かが敵になる結果は変わらないけど......どこが楽しそうなのか、この辺りでハッキリ決めた方いいゾヨ?」


「───お前......わたしが天魔女の指示で動いていた事を知ってたのか?」


「即わかったナリ。面白そうだから受け入れてみたナリ! あと3分くらいで魔女が湧くぞ。もうモヤモヤしてモタクタしないように───この辺りで自分の歩き方を決めろよダプネ」







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る