◆214
ウンディー大陸の肌寒い洞窟内でうっすらと揺れるフォンの明かり。
「マップは埋まった。対象も全滅......終わりね」
ローズクォーツ色の髪をサイドで束ねた、グリーンルチルの右眼を持つ隻眼の
蜥蜴頭の亜人種を複数討伐するクエストで、ランクはB~の設定でリストアップされていた討伐系。
蜥蜴亜人の巣である洞窟へ突撃した時点でレートはAクラスなのは確定だが、レーティング上限が固定されていないクエストの報酬はユニオンの者がクエスト受注者からデータを受け取り、そのデータから内容を確認し、内容に合ったレーティングの報酬が用意される。
巣へ突撃し、モンスターを全滅させ、マップデータとドロップアイテムまで持ち込めばまず間違いなくA報酬は与えられる。
「それじゃあ街へ戻ろうか! ボクお腹減っちゃったし、電池切れそう」
「ワタシも眼が少し重いや。クゥもお腹空いてるし」
「そうね。やる事も終わったしこれ以上無理なレベリングは良くないわね」
ギルド【フェアリーパンプキン】は蜥蜴頭の亜人を狩り尽くし、バリアリバルへ戻るべく洞窟を歩き始めた。
◆
「───あばばばばばーッ!」
という品性の欠片も感じない声が響き、後天性悪魔の【ナナミ】は黒赤の瞳を向ける。すると眼の前に虹色の靄が大きく開き───
「───なっ!?」
吐き出されるように現れた青髪の魔女とナナミは衝突した。
空間魔法から文字通り飛び出てきたエミリオは、だっぷー、カイト、リピナ、しし、をアイレインの街へ置き去りにしひとり空間移動を続けバリアリバルへやっと到着した。
しかしエミリオはダプネの様に長距離の空間移動が出来ず、何度も空間を繋いでは移動するスタイルだったため、後半は集中力を切らし計算ミスの連発。本当ならば部屋の中心に着地する予定だったのだが、中々に高い位置へ空間を繋げてしまい、ナナミと衝突してしまった。
「いっ~~~ッ、凄腕悪魔なら避けろよな!」
「突然降ってきてそれか!」
戦闘ならばナナミは簡単に回避していただろうエミリオの落下攻撃。しかし数日前から書類に眼を通し優先順位を決め、セツカへ渡し、セツカがサインした書類の確認をし、それらを各大陸の権力者へ発送する仕事をしていたため、完全に油断状態だった。
魔力感知が一瞬遅れエミリオの落下に対応しきれなかった。
悪魔とはいえ連日続く書類整理や事務的な仕事内容に、反応感覚が麻痺してしまったのか、後天性悪魔とはいえナナミは元人間。人間らしい生活に戻った事で気が抜けてしまっていたのか。
鼻をおさえるエミリオは頭をおさえるナナミへ例の瓶───悪魔の死体入りの瓶を投げ渡す。
「なんだこれ.....───悪魔!?」
「霧山でそいつと他に2人悪魔がいたぜ。ナナミン友達か?」
「霧山.....プリュイ山か?」
「そ。まぁそれは後で話すとしてだ! その悪魔な.....ディア墜ちにビビらず挑んできてあぶねーから討伐したんだけど、見てのとーり死体が残ってんだよ。悪魔的にどう思う?」
エミリオはそう話し、衝突時に散らばった書類を拾い集める。
悪魔瓶を観察しつつナナミは脳を回転させる。悪魔は死後必ず【悪魔の心臓】を残し死体は消滅する。後天性だとしても変わらない事はナナミもよく知っている。悪魔種の中で死体が消滅するまで最も長いのは吸血鬼。しかしこの悪魔には吸血鬼族の特徴であるキバが見えない。
「.....この悪魔、少し借りていいか?」
書類を集め終えたエミリオは紙束を差し出し頷いた。
「何かわかったら教えてくれよ。謎に嫌な感じするんだよ」
「わかった。あ、エミリオお前時間あるなら今からアイレインへ向かって、今日1日はアイレインで過ごしてくれ」
「はぁ? なんでよ」
「行けばわかる、これを街の門付近にいる冒険者かドメイライト騎士に渡せばスムーズに進む。後でお前のフォンにメッセ投げとくから、よろしく」
「あー?......セッカのサイン書いてんじゃん!? そーゆー事なら任ろ、アイレイン行ってくる!」
面倒そうな顔をしていたエミリオだったが、受け取った手紙にセツカのサインが書かれているのを確認し、突然やる気を見せ、ユニオンを爆走しアイレインへ戻って行った。
◆
「全員で行動するのはイフリーの闘技大会以来か? 痺れるねぇ.....」
「全、員、じゃ、ない、けど、ね」
晴天に雨粒溢れるウンディー大陸、雨の街アイレイン へ足を踏み入れた【レッドキャップ】は街の様子を伺う。
ベルの言葉に水をさすリリスはニヤニヤと笑う。その姿を見たリーダーの【パドロック】は、
「リリー、赤鼻が現れるまで面倒起こすなよ」
フードローブで顔を深く隠し、リリスを止めるように言った。
「わかっ、てる、わ。夜、まで、黙っ、てる」
「
半妖精のひぃたろ をターゲットにしているベルは、元ドメイライト騎士団長フィリグリーへ質問すると、フィリグリーは無言のまま頷いた。
ひぃたろがスウィルを殺したとの情報をベルは適当な
「モモカ、に、宿を、とら、せたわ。行きま、しょ」
指を奇妙に動かしていたリリスは死体人形のモモカを使い宿を確保。リリスは強引に空間をこじ開け、室内へ縫い繋ぎ、メンバーは空間移動で宿屋へ流れ込んだ。
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