◆213



魔女力に反応し瞳の色が鮮やかになる魔煌まこうを使う事なく、紫全裸の悪魔を倒す事に成功し、見物を決め込む一本角の悪魔へわたしは言う。


「よぉ、残念だったな。お前、この悪魔を能力ディアへ堕とそうとしたんだろ?」


一本角の悪魔は戦闘に参加する事もなく「ディアを使ってやれ」と命令した事から、悪魔がディアに呑まれるとどうなるのか見てみたかったんだろう。

何が目的で地界へ来ているのかは知らないし興味もないが、ディアに呑ませる煽りをした時点で迷わずディア使用者を消さなければ───多分わたし達は殺され、最悪の場合アイレインまで被害は行っていただろう。


命令に従う悪魔と命令を下すだけの悪魔、そして逃げた悪魔の存在......ただの霧山観光にしてはやりすぎだ。


「.....なんか言えよ。次はお前が呑まれるまでやるか?」


「........」


一本角の悪魔はわたしを見詰め、数秒後に首を軽く振りその場を離れた。

以前のわたしならば追っていただろう。しかし今のわたしは相手のヤバさくらい何となく解る.....アイツは強い。


「......~~、お前は! 本当にバカなのか!? あの挑発に悪魔が乗って来てたら全員殺されてたかも知れないでしょ!」


と、リピナは溜めていた怒りを吐き出し、わたしの頭をヒーラーワンドでポカンと叩く。


「私も弾切れだし戦闘になったら、エミー捨てて逃げてたよお!」


さらっと囮作戦を溢すだっぷー。声のトーンは普段と変わらないが表情には鋭さにも似た緊張感が残っている。だっぷーも一本角の悪魔のヤバさを感じていたのだろう。


「とにかく悪魔一体倒せたけど.......殺してよかったのか?」


ヘソだけではなく、ついに上半身を露出し始めた狼男は、胸に痛々しい傷痕を抱えていた。傷を与えてきた相手を───悪魔を悲しそうな瞳で見詰め言った言葉は優しさなのか甘さなのか。


「頃合い見て逃げれるなら逃げてたさ。でもあの悪魔少しオカシイんだよ.....悪魔も能力ディアに呑まれる。そして誰も呑まれる事を望まない。なのに......アイツはさっきの一本角の命令を迷う事なく聞いていた」


「つまり、あのままやってたらディアに呑まれて更に暴れてたって事?」


リピナはヘソへ追加の治癒術をかけ終え、ヘソへ触れ他に怪我はないかディアで確認しつつ質問してきた。


「そゆ事。呑まれたら80%....いや90%の確率で性格崩壊の性格地雷になるだろな、暴れないヤツの方が珍しい。そうなった場合、それが友達だったとしても討伐対象として見て対応しなきゃ自分だけじゃなく他の誰かも殺される.....それくらい危険なんだぜ」


「友達でも討伐対象.....か。それは辛いな......俺もだぷも能力ディアを持ってないから、持ってる人を見る度に便利でいいなと思っていたけど、リスクもあるんだな」


「だねえ。カイトも私もリスクについては何も知らなかったなぁ......それでエミー、あの悪魔どうするの?」


氷柱に深く貫かれている悪魔の死体。

悪魔は死んだ時に【悪魔の心臓】を残して死体は消える。しかしアイツは消えない。


「やっぱオカシイぜアイツ。死体は知り合いの悪魔の所へ持ってく、なーんか嫌な感じするんだよな......」


さっきの一本角悪魔が持つ雰囲気と声を.....知っているような........気がした。


「解剖ならラピ姉の知り合いにひとりいるかも.....生物生態マニアが」


「お、いいね。それじゃそのマニアにもお願いするとして、とりあえずキューレをここに───」


「わっ!?」


リピナと会話し、キューレを呼び出して悪魔を小さくしてもらおうとフォンを取り出した瞬間、だっぷーは驚き声をあげ下───中層部への道を指差す。そこには、


「.....キノコ?」


「え、でかすぎない!?」


カイト、リピナがキノコの傘を見て反応すると、キノコはフルフル揺れる。頭までしかまだ見えないが、あれは.....、


「しし屋だ。あとから来るって言ってたけど、本当に来たんだな」


ゆっくり、ゆっくりと登ってくるキノコ帽子の料理人しし屋は姿を現すと元気よく、


「───いた! お弁当売り切れたからノコノコ来たよー」


と言うも、表情には疲労が。

多分【ミストポンチョ】を装備せず特種な霧が広がるプリュイ山を登ってきたからだろう。プリュイ山を登れるという事は最低Aランクの冒険者という事になる。ポンチョの存在くらいは知っていてもおかしくないと思うが.....


「ふぅー、クタビレダケ」


ぺたん、と座り休むしし屋。リピナは見たことあるらしいが、ここはみんなに紹介すべきか? と考えたが別の考えがわたしの頭を走り回った。


「しし屋! ちっさくする薬今持っている!?」


お弁当屋で見た小人サイズの人間。あの人間達を小さくしているのがしし屋産のポーション。持っているならキューレを呼ぶ手間が省けるうえに、霧山を降りる事が出来る。


「えっと、ちょっとマツタケ......うん! 余分にあるよ」


ポーションの残量を数え、譲っても大丈夫と判断したしし屋から収縮効果のあるポーションをひとつ譲って貰い、わたしは串刺し悪魔の元へ。

氷魔術は悪魔の肺や心臓を完全に貫いているにも関わらず、悪魔は消滅する気配すらない。

氷柱を消し、わたしはしし屋から受け取った収縮ポーションを悪魔へ垂らす。すると悪魔の死体はみるみる小さくなり、15センチ弱まで収縮した。


悪魔を空き瓶の中へ入れ、わたしは空間魔法を使う事を全員へ伝える。


「空間で下まで降りよう、10秒くらいしか持たないからサクッと戻ろうぜ」



魔女に続いて悪魔......いや、それを言うなら天使が地界に来た時点で何かがおかしかったのかも知れない。





地面に転がり大袈裟に笑うグルグル目玉の悪魔───の姿をした魔女フロー。

一本角の悪魔───の姿をしている魔女ダプネは深い溜め息を吐き出しフローへ言う。


「お前は.....何が目的だったんだ?」


「いやいやー面白い。聞いた? “次はお前が呑まれるまでやるか?” だってさー面白すぎるってば」


ケタケタ笑うフローはエミリオが一本角ダプネへ言った挑発を真似し、再び笑う。

折角作り出した悪魔を失った状態にも関わらず、随分と余裕で楽しそうなフロー。


「......悪魔の死体持っていかれたぞ?」


「あ~いいの いいの、可愛い後輩へのプレゼントってやつ? 笑わせてもらったしお礼でもあるわい。ダプネちゃんも夜まで休んでていいよ~」


目的だった “悪魔が能力ディアに呑まれるとどうなるのか” は見れなかったものの、エミリオの能力ディアが二重魔法から三重魔法へと成長している事を知れたフローは満足したのか、変彩魔法を解きプリュイ山を降りていった。






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