◆172



雨の街アイレインからプリュイ山道へ足を踏み入れたわたし達。山道で数回モンスターと遭遇するも、だっぷーが迷い無く速射し戦闘は速攻終了、制限区だというのに緊張感のない会話で盛り上がりつつ進み、やっと本番がスタートするであろう、山の下層部に到着していた。

数メートル先が見えないほどの霧、山道とは全く違う雰囲気を充満させるプリュイ山。


「ここからがプリュイ山だよ。下層、中層、上層、そして山頂って感じかな?」


ルービッドはマップデータを立体化───ホロ化させ、下層、中層、上層を指差し説明してくれた。ここまで濃い霧が発生しているプリュイ山だが、マップ機能は働いている。通る者にはデバフを与える霧だが、フォンには何の影響もないらしい。


「とにかく進もうぜー!」


わたしは山頂があるであろう、霧の上を指差しプリュイ山を進む。モンスターが現れてもだっぷーがヘッドショットを決め、リソースマナへ変換するので下層も楽に進める。


「凄いね、だっぷーさん。特種系の弾丸を完全に操ってる」


ルービッドはだっぷーの戦闘....というには一方的過ぎるように思えるが、モンスター相手に迷わず魔銃を放つだっぷーに何度も驚かされていた。特種系の弾丸───属性や特種効果を持つ弾丸をだっぷーは素早く装填し、動くモンスターにも確実にヒットさせる凄腕ヒットマン。


「つえーだろ? あの弾だっぷーが作ってるんだぜ?」


自分が作ったワケではないが、なんだか嬉しくなり、わたしが自慢気に言うと、


「.....え、だっぷーさんって、特種魔弾ウルフバレットを作った錬金術師!?」


「....ん? なにそれ?」


「いやいや、わたしの方見られても困るから」


なんとかを作った人?と聞かれ、わたしはわからずパスするようにダプネの方を見るも、無知な魔女ダプネにそんな事わかるハズもなく。わたしはバンバンと響く銃声が止むのを待ち、戦闘を終えただっぷーへお疲れのハイタッチを交わし、質問してみる


「なー、ウルフバレット? ってだっぷーが作った弾なの?」


ミストポンチョをふわりと揺らし、リボルバーへ弾を装填しつつ、だっぷーは短く答える。


「そうだよお、ちょっと待ってねえ!」


明るく答えてくれただっぷーの指先は狂う事なく、装填作業を進める。リボルバー....シリンダータイプの魔銃は装填出来る弾数が少ないが、だっぷーの装填速度は中々に速く、別のシリンダーにも弾を込めポーチへ収納している事から、あのリボルバーはシリンダーを外し別のシリンダーを装着出来るのだろう。


「おっけー! フローこれあげる!」


装填を済ませただっぷーは魔弾をひとつ、わたしへくれた。リボルバーをホルスターへ納めつつ、魔弾を指で弾き飛ばす姿が妙に格好よく思える。


「ありがとう、って言いたいトコだけども、わたし魔銃はんて持ってないよ?」


わたしは魔銃使いではない事を伝え、キャッチした魔銃をダプネと共に観察する。薬莢には狼のシルエットマークがあり、想像以上に重い。


「フロー、進みながら話そう!」


「そだな、行こう! ....ん?」


プリュイ山を登りつつ、色々と話を聞こうとした矢先に、わたしのフォンがメッセージを受信する。相手はセッカ。

話があるらしいが、わたしは今超重要な武器素材を求め山登り中である事を伝え、少し先を歩くみんなの元へ急ぎ、プリュイ山制覇を再開した。





「プリュイ山....って、はぁー」


晴れ空の下で大きな溜め息を吐き出したウンディー大陸の女王【セツカ】を見て、細く長く、美しい形の耳を持つ純妖精エルフ達は少し笑った。

息苦しささえ感じる隙もなく、ただ張り詰めていた純妖精達も今では心に余裕を持ち、セツカ達人間と協定を結ぶまでに変わった。キッカケさえあれば生き物は変われる。セツカ自身も大きなキッカケがあり、今のセツカが存在しているからこそ、純妖精達にも手を差し伸べたのだろう。


「エミリオはどこに?」


純妖精達を変化させたキッカケのひとつ、半妖精ハーフエルフの【ひぃたろ】がセツカへ声をかける。


「プリュイ山....制限区の霧山で、場所はウンディーなんですが、エミリオの事ですし、戻るのは数日後になるでしょう....」


今度はガックリと肩を落とし、二発目の溜め息。


「こっちも突然じゃったし、ウチはあの魔女が1ヶ所でおとなしくしとる方が、考えられんがのぉ」


「ハハハ、それはワタシも思う」


年寄り染みた口調の情報屋【キューレ】と、元騎士の冒険者【ワタポ】が笑う。


セツカ達は【妖精の都 フェリア】で用を済ませ、ホームの【バリアリバル】まで戻ろうとしていた時、妖精のドライアドが【迷いの森】で妙な2人組に会い、帰り道を教えたとの話を聞いた。この内容だけならば別に何の問題もない。

しかしその2人組のひとりが「水色の髪を持つ魔女を知らないか?」と、ドライアドへ訪ねた。その時ドライアドがわざと思い出す素振りを見せ、2人組を観察していると、突然ムカデが現れ、ドライアドの下半身を喰い千切った。命を奪わなかったのは自分達の存在を広めるためだろう。2人組は去り際に「レピドライトとアンバーがお前を探している」と言葉を残し消えた。


セツカ達はその2人組が【レッドキャップ】ではないかと考え、残したワードから探り、辿り着いたのが、

レピドライト ───雲母。

アンバー ───琥珀。

と、両方とも宝石の名前という、意味不明なモノだった。

レッドキャップにその名を持つメンバーはいない。新メンバーを加入させたとしても、命を奪わず、わざと情報を残して消える様な真似はしない。水色の髪を持つ魔女は間違いなくエミリオ。直接エミリオへ話そう、と思いセツカはメッセージを飛ばした所、エミリオから〈今プリュイ山だから戻ったら行く、忙しいから返事は遅れるからよろしくな!〉との返事が届き、セツカは溜め息を吐き出さずにいられなかった。


負傷したドライアドは植物妖精が持つ自己再生能力で再生し、本人もエミリオを恨む様な事はなかったが、協定を結んでいる種族が傷つけられたとなれば黙っているワケにもいかない。

それに、エミリオへ用があるにも関わらず、関係ないドライアドを平気で傷付け伝言を吐き捨て消える輩だ。人間が相手でも同じ事をすると考え、迅速に対応すべき問題。


「エミちゃんの居場所がわかってるなら、ボク達が行こうか?」


微妖精を肩に乗せた魅狐ミコプンプンがセツカへ提案するも、返事はない。

誰かを向かわせる手段は悪くないが、向かわせる者の選択が重要になる状況。謎の2人組が別の街で同じ事をしないよう警戒しつつ、もし、被害を出した場合は即座に拘束する。つもりだが、その拘束が問題。

ひぃたろ、プンプン、ワタポの3名は今回の更新でSS、S、S、の冒険者にランクアップしている。2人組の実力は未知だが、ドライアドの下半身を、一瞬で消すムカデを従わせているレベルの相手。バリアリバルや他の街が手薄になるのは避けるべきだが、全冒険者が警戒、警備にあたれるワケでもない。

しかしプリュイ山は制限区、冒険者ならば、ランクA以上でなければ踏み入る事が許されないエリア。


「....とにかく一旦バリアリバルへ戻りましょう。純妖精達も警戒し、どんな小さな異変でもわたくしへ報告してください!」


女王を失った純妖精達だが、セツカを女王と見て、行動するつもりらしく、素早く頷き森全体へ情報を拡散させた。


「とにかく戻ります、その間にキューレは各マスターや冒険者へ、不審な2人組がウンディー大陸に居る事を伝えてください。各大陸へは私から伝えます!」


セツカはそう言い、フォンから1000ヴァンズ金貨を3枚取り出し、キューレへ弾いた。

女王であるセツカは冒険者への報酬は、緊急時以外は必ず支払う。情報の拡散だけで3000ヴァンズ。女王から直接下る命令【クイーンクエスト】の報酬は中々に高い。


「崖越えは我々が手を貸そう、崖の先にドラゴンがいるので注意しつつ、帰還してくれ」


「ありがとう。崖の先にはドメイライト騎士とクゥが来てると思うから、一気に森を抜けられるよ」


ワタポは純妖精達へお礼を言い、愛犬であり相棒のクゥが迷いの森まで来ている事をセツカへ伝え、冒険者達はホーム、バリアリバルまで急いだ。



不審な2人組【雲母の魔女 グリーシアン】と【琥珀の魔女 シェイネ】は【黄金の魔結晶】をエミリオが持っていると判断し、外界の魔女界から地界へ来た、強魔女。






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