◆173



特種魔弾───ウルフバレットは、だっぷーが作ったオリジナルの魔弾。最近では各大陸の武器屋でも取り扱われ、値段は通常の魔弾より高いが、性能から値段を考えると破格となる魔弾。ウルフバレットという名は商品名をつける際に感覚で名付けたらしい。決して狼が銃口から召喚されるワケではない。

しかし属性を持つ魔弾や、特種効果を持つ魔弾は想像以上に便利なモノだ。わたしやダプネは魔女だからこそ、魔術を利用した魔剣術を使える。しかし停止して詠唱しなければならない他の種族は不可能な戦闘スキル。それを魔銃限定とはいえ、可能にしただっぷーは皇位レベルの実績だろう。


「属性弾や特種弾は状況を見て変えられるから、便利かなあーって思って自分用に作ったんだけどねえ! みんなも欲しいって言ってくれるから販売する事にしたんだあ!」


「それで商品名を決めたワケね、イカスじゃん」


わたしは指先で魔弾をクルクルと遊ばせ、ダプネへ弾き飛ばした。先程から気になっていたらしいが魔弾は攻撃系の消耗品、使えもしないわたし達が譲ってくれなど言えない。


「....これは有能品だが、デメリットなしとは思えないな」


プリュイ山を進みながら魔弾の話で盛り上がっていると、わたし達の前に怪鳥型モンスターが奇声をあげ現れる。


「デメリットはあるよお、今ひとつ見せてあげるねえ!」


だっぷーはリボルバーをホルスターから抜き、クルクル回して弾をひとつ抜いた。

そこへ通常の弾を装填し、一度わたし達へ視線を送る。

クチで説明するより見た方が早い。というような瞳。


だっぷーはリボルバーを構え、怪鳥を狙う。


「これがノーマルバレット!」


ダン、と重低音な破裂を響かせ放たれた弾丸は怪鳥の腹部を掠めた。


「これがウルフバレット!」


今度も似た破裂音だが、発砲と同時に薄緑の魔方陣....に似た光が銃口で展開、即座に拡散し、だっぷーの腕が少し上がった。ウルフバレットは怪鳥の胸を貫通し、遠くの空でガラスの様に砕け散り消えた。怪鳥は悲鳴を残しリソースマナへと成り変わる。


「なるほどね」


赤髪を揺らしたルービッドは何かに気付いたらしい。続いてダプネも頷き、噂のデメリット①を理解する。


「ノーマルと比べてウルフは2倍近く反動があるのね。反動は次への行動を遅れさせる....けど、属性弾は強いな」


ダプネが感心するように言い、わたしは初めて反動の存在を思い出す。ノーマルと比べれば確かにウルフを撃った時、だっぷーの腕は少し浮いていた。そしてノーマルかウルフかを見分けるには放たれた直後に展開、拡散する魔方陣に似た光。恐ろしいRES───反応を持つ者が相手ならば弾の種類を判断したうえで、対応してくるだろう。


デメリットは反動増加と見抜かれやすい、という点か?


「属性も特種も強いよお! でも今の通りデメリットがあって、もうひとつが───フォンポーチに収納出来る数なんだよねえ」


リボルバーをホルスターへ装着し、フォンを慣れた動きで撫で、だっぷーは画面を見せてくれた。


火炎弾 33/40、疾風弾 29/40.....と表示されている。

属性は最大40発、特種はその性能で30の弾もあれば5の弾もある。


「どうしても不安な時はベルトポーチとかに入れて持っていくんだけどねえ。今私のポーチには弾が沢山入ってるけど、少し重いしやっぱり動きは遅くよお」


「想像以上にデメリットがあるんだな....でも、どれもデメリットとは思えないほどウルフは使えるなー。撃つ時かっけーし!」


魔女だからこそ、属性が持つ驚異的な補正をわたしはバカにできない。幼少期、攻撃系魔術を初めて習った時は、属性の関係性から教わった。状況によっては、属性魔術は数倍の威力を発揮する場合もある。

その属性を魔術以外で使う方法は武器自体に属性を持たせる事、つまり特種効果エクストラスキルで属性を盛る以外に存在しなかった。しかしこの特種魔弾ウルフバレットは武器に属性がなくとも、魔術を使えなくても、属性攻撃を可能とした夢のアイテム。

これが今、各大陸で販売されているとなれば....魔銃を使い始める人も増えるだろう。


「あ! そろそろ中層だよ、モンスターがあまり出ないエリアに山小屋があるから、少し休んでいこう」


ルービッドの声に全員が頷く。強モンスターやトラブルもなくスムーズにプリュイ山の中層まで到着したわたし達は、誰が建てたのかも知らない山小屋で休憩する事を選んだ。

制限区と言ってもプリュイ山のランクはA、標高も低く山頂までそうかからないだろう。わたしは山小屋でポーション類を一応確認をし、だっぷーが撃ち抜いたモンスターからドロップしたと思われるアイテムを整理する事にした。

山小屋の見た目はボロだったが、中は意外に快適。イスやテーブル、山全体のマップもある。


「小さい山なんだな、プリュイ山って」


ダプネは小屋にあるボロい地図で、現在の位置と山頂までの距離を確認し、イスへだらりと座る。


「この山は小さい方かな? モンスターも弱いし。ただ霧のデバフと山頂のドラゴンが制限区指定の対象になってる感じかな....」


ドラゴン─── SS-S2ランクの霧棘竜【ピョンジャ ピョツジャ】というふざけた名前の竜が、わたしの求める素材を持つモンスター。今ルービッドが言ったように、遭遇するモンスターは弱い。しかしドラゴンとなればランクBだとしても強力な存在。霧棘竜の性格がおとなしめなのか、ドラゴンが生息しているエリアにしては、制限区ランクが低く思えるが、鬱陶しい霧が冒険者達を寄せ付けないのだろうか。


....しかし、こんな鬱陶しい霧が立ち込める山に、なぜだっぷーは登りたいと思ったんだろうか?


「なー、だっぷーはなんで山登りしたくなったの? 霧ウザすぎるし、モンスターもいいもん落とさないし....まさか、ドラゴン狙いか?」


だっぷーからメッセージを受け取り、ルービッドも同行を認めてくれたが、だっぷー自身の目的をわたしは聞いていなかった。こんな山に用事もないのに登りたがるタイプではないだろうし、ウルフバレットの販売契約やらでそんな暇もないだろうに。


「私の目的も、その狼だよお」


短く放たれただっぷーの言葉にルービッドが素早く反応する。


「だっぷーさん、その狼を知っているの?」


わたし達....というか、ルービッドは “狼の調査” という、掴み所のないクエストを現在攻略中。狼に対しての情報が余りにも少なすぎるため、だっぷーから何か情報を聞き出したいのだろう。


「多分だけど、知ってる」


「多分....って言うのは?」


わたしはあまりクチを挟まず、会話はルービッドに任せるとしよう。


「うん。私はその狼を見た事ないからねえ....証拠とか聞かれても困るけど、多分その狼は......私の知っている人間」


狼に対して人間、というワードが出た事にわたし達は驚いた。狼───言っちゃえば犬だ。どう間違えても人間には見えないし、人間とは思えない。人型....亜人型モンスターならば二足歩行をするので人とも思えなくはないが、人間と間違える事はまずない。


「とにかく、私はその狼に会って確めなくちゃいけない。もし、私の探している人だったら、どうすれば助けられるのか.....」


「ターゲットが元人間で、今狼だとしよう。元別種族がモンスターになる原因は、ひとつしかない」


黙り座っていたダプネがクチを開いた。こういうタイミングでダプネが発言する時は、声音でおふざけか真面目か判断できる。今の声は真面目な雰囲気を持っていた事から、モンスター化の原因とやらを知っていて、それを戻す方法も知っているのだろう。わたし達は無言で続きを待った。


「その知り合いは “アテられた” んだろ。黒い風に」


「黒い風....アテられた....、イロジオン!?」


ルービッドはダプネの短い言葉からヒントを拾い【イロジオン】というワードを絞り出した。そしてダプネは頷いた。


「イロジオンについて話してもいいが....その前に外へ出よう」


「は? 引っ張るなよイロジオン。だっぷーも気になるしょ.....だっぷー?」


イスから立ち上がり、外へ出ようと言い出した魔女ダプネ。頭が霧にアテられたのか? と思い止めるも、ダプネは山小屋のボロ扉の方へ進む。わたしはだっぷーへパスするも、わたしの声が耳に届いてないのか、ダプネと同じように扉を一直線に見ていた。


「そこの帽子とは違って、わたしは先輩達に媚を売って感知術を結構学んだからな....、人間とモンスターのマナを持つ何か....多分噂の狼だろうな。ここへ近づいてくるぞ? 用事あるんだろ?」


ダプネはわたしとルービッド、最後にだっぷーを見て言い、ミストポンチョを装備し直した。




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