◆170



ギルド【アクロディア】のマスターとして、ルービッドは依頼人である男性騎士から話を聞いていた。その間わたしとダプネは別の席から様子を見守り、ルービッドを待った。

男性騎士の装備、胸のマークから見て、間違いなく【ドメイライト騎士団】の騎士。どんな理由で騎士がギルドに依頼を持ちかけているのか知らないが、そんな理由はどうだっていい。目的の武器素材さえ入手できれば騎士の依頼だろうと、犯罪者の依頼だろうと関係ない。



「───お待たせ」


依頼人との会話、クエスト内容の確認などを済ませ戻ったルービッド。騎士はわたし達に見向きもせず、そそくさとカフェを出てアイレインに溶け込んだ。


「どんな内容だった?」


同行する身としてはクエスト内容を知っておく必要がある。わたしが質問し、ダプネと共にルービッドの回答を待っていると、ルービッドはフォンを操作し、革袋から20万ヴァンズを取り出し、わたしとダプネの前に10万ヴァンズ金貨を置いた。


「報酬の30万ヴァンズを置いて、帰っちゃった」


「「 ───は? 」」


「クエスト内容は今送った通り、プリュイ山の調査で、調査内容は山に若い狼が生息しているか調べる。もし狼と遭遇した場合は可能ならば討伐、不可能でも何か形跡を入手して、ドメイライト騎士団へ一般人を装って依頼と共に投げてほしいって....」



怪しい、なんてレベルじゃない。まず若い狼を発見できなかった場合、この報酬金はどうなる? 冒険者が善人の集まりだと勝手に思って、先払いしたならばそいつのミス。しかし相手は騎士で、ルービッドのギルドに依頼を持ちかけている。狼を発見できず、形跡も発見出来なかった場合、わたし達はわざわざドメイライトまで報酬を返しに行かなければならないのか?

そもそも、なぜ騎士団が動かない?


「なんか、よくわからないけど....報酬金は準備代に使ってくれって。狼の形跡も発見出来なかったとしても、クエストを受注してくれた時点で報酬を渡すつもりだったみたい。騎士団が動かない理由は───」


ルービッドもわたしやダプネと同じ事を思い、騎士に色々と質問し、その答えを話してくれた。騎士が任務として騎士を動かさない理由は、まずここがウンディー大陸だから。そして、曖昧な情報で “制限区” である【プリュイ山】へ入りるのは危険だと判断したかららしい。

報酬の方はとにかく気にせず受け取ってくれとの事。そうであればわたしは遠慮なく頂くが、ルービッドは納得いかない様子。


「まぁとにかく、その山へ行って若い狼を探してみようぜ」


10万ヴァンズをフォンへ収納し、わたしはルービッドへ視線を送り、言った。するとルービッドは頷き、フォンを操作し、わたしへマップデータもモンスターデータを飛ばす。

マップデータはダプネへ横流しするとして、モンスターデータ....これが個人的に重要だ。わたしはデータを開き、情報を確認する。



【ピョッジャ ピョツジャ】

SS-S2 竜種。

全身が白い鱗に覆われたドラゴン。鱗には赤紫の棘を持ち、その姿から白薔薇竜とも呼ばれる霧棘竜。霧が濃い山頂を好み、静かに暮らす。

頭上には蒼白の棘があり、その棘が “濃霧の秘棘” と呼ばれる高ランク素材。秘棘は数百年に一度、抜け落ち生え変わる。



これだ。この【濃霧の秘棘】が、わたしの求める武器素材にして、最後のひとつ。

SSランクのドラゴンを相手にしなければならないのは、超高難度だが、SSの素材を使う武器....相当に期待してしまう。棘というよりは....角のようなモノか? 濃霧と言われていたので、灰色系を想像していたが蒼白。数百年に一度抜け落ち、生え変わるらしいが、今はどのタイミングなんだろうか....ま、行ってみて落ちそうになければ、折るだけだ。



「ラピナさんの店に、ミストポンチョを借りにいこう」


「プリュイ山ってのは、傘やカエルじゃダメなのか?」


「わたしカエルのままが理想なんだけど」


「プリュイ山の霧は特種な霧....デバフミスト って呼ばれていて、移動速度の低下やらのデバフにかかっちゃうんだよ」


なるほど、それで制限区指定のマップか。身体が重くなる特種な霧、それを防ぐのに【ミストポンチョ】とやらが必要になる場所。

高ランクのドラゴン、特種な霧....ランク制限しなければ、一攫千金狙いで山登りを始める者が、続出してしまうってワケか。


「傘とカエルは取り置きしてもらって、街に戻ってきたら同じものを借りるといいよ」


ルービッドはラピナへメッセを送信し、噂の【ミストポンチョ】の用意をお願いし、わたし達はカフェを出た。


制限区指定の【プリュイ山】と、【若い狼】そしてドラゴンの【ピョンジャ ピョツジャ】か.....、こういう冒険者っぽいの、久しぶりだな!





若い狼───ローウェル 。

なんの根拠もないが、だっぷーは確信していた。【プリュイ山】に、自分が探している “人物” がいる事を。


───待ってるだけじゃ、何も進まない。


だっぷーはフォンを素早く撫で、メッセージを送信。すぐに馬車に乗り【雨の街 アイレイン】へ向かった。





「おぉー! これが噂のポンチョか。楽しみだなプリリ山」


わたしは艶消しの黒ポンチョを装備し、どこかの犯罪ギルドを思い出し少し嫌な感じがするも、これから向かう場所を想像し、気分を高めた。


「プリュイ山、制限区だよ。冒険者ランクA以上か、騎士や貴族の通行許可書がなきゃ立ち入れない場所。エミリオは入れるし、ダプネは同行者って事で入れるし、問題ないよ」


SS-S2 のモンスターがいるであろう山が、Aランクから自由に出入り出来るのはどうなんだ? と思ったが、Aランクまでになれば引き際、つまり逃げるタイミングも見極める事が出来ると判断しての、Aランク指定の制限区なのだろうか。


先程ルービッドから貰ったマップデータをもう一度確認するため、フォンを取り出すとタイミングよくメッセージが届く。


「お、だっぷーからだ」


差出人の名を呟き、メッセージを開きわたしは少し驚いた。

どうやら【だっぷー】は今、この街へ向かっているらしく、プリュイ山へ入りたいと。どこかで話を聞いていたのか、たまたまなのか、とにかくタイミングがいい。


「なー、ルービッド。ひとり誘っていいか?」


「うん? クエストに同行するって事?」


「プリュイ山に入りたいって人がいるんだよ。クエの事話してないし、別の目的があるんじゃね? アレだったら山に入れて放置でも大丈夫だぜ? 簡単に死ぬタイプじゃないし」


「ほぉー。いいよ、一応ミストポンチョを一着多く借りて行こう」



わたしはだっぷーへ返事を送り、ルービッドは【ミストポンチョ】をもう一着ラピナに借り、ダプネはポーションの確認をする。

プリュイ山はアイレインを抜けた先。嫌でもアイレインを通らなければならない。


待ち合わせ場所はアイレインのちょうど中心にある、四大精霊の像前に指定し、わたし達はラピナの雨具屋をあとにした。





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