◆169



空にかかる虹、四大元素精霊の水を象った噴水にも小さな虹がいくつも浮かび、鳥達は雨粒を気持ち良さそうに浴びる。

ドレスコーデの人々が多く見えるのは、今日この街で結婚式が行われるから、らしい。どの街でも結婚式を挙げるのは可能だが、アイレインは結婚式場が地界一と言われていて、晴れ空に雨、虹、と素敵な条件が揃っているこの街で、結婚式を挙げるのはカップル達の夢だとか。結婚式に関係のない人々も、祝福し、一時的に街はお祭り騒ぎになり、青に黒の斑点模様を持つカエルポンチョも跳びはね、誰かも知らないペアの結婚を祝福した。





「もうすぐ依頼人と会うよ、カフェへ場所しよう」


この街【アイレイン】出身の冒険者、ルービッドはフォンで時刻を確認し、赤い傘をクルリと回し、わたし達へ言う。しかし今わたしもダプネも、ベロを忙しく動かしているので、返事する余裕がない。


「.....そんなに美味しい?」


わたし達は同時に頷き、手に持ったアメ───正確には傘の手持ちのようなフックに吊るされているアメ、を舐めた。

アイレイン名物のひとつ【雨玉】と呼ばれる雫型で、淡い青色の中に黄色の水玉めいた何かが入っている、ガラス細工のようなキャンディー。

舌触りはツルツルで、外側、青色部分は甘く、中の黄色は少し酸っぱい。

魔女は甘いもの、特にお菓子が大好きな種族なので、この雨玉も好ましい味。

黄色が流れるように滴の中を泳ぎ回るので、たまに外側へ現れ、酸っぱさで驚かされるも、次に味わう青色の甘さを増加させてくれる。コレを作ったヤツは天才だ。

わたし達、ウィッチーズは文字通り、ペロリと雨玉を食べ終え、ルービッドのあとを追う。パシャパシャと水溜まりをわざと踏むわたし、ポツポツと溜まった水が落下してくるポイントをわざと通るダプネ。お互い雨の街を楽しんでいると、待ち合わせ場所のカフェに到着してしまった。


「店の中で依頼人を待とうか」


「「 えー 」」


「え? だって依頼人に会わなきゃ詳しい内容わからないじゃん」


もう少し外で雨を楽しみたかったが、遊びに来たワケではない。渋々カフェへ入ると、ルービッドの姿を見たひとりの騎士が立ち上がり、こちらへ頭を下げる。


「....なぁルービッド、依頼人ってあの騎士か?」


わたしは頭を下げた騎士の姿をまじまじと見つつ、ルービッドへ質問すると、


「依頼人と会うまでどんな人かわからないんだよね....でも、騎士が冒険者に依頼って」


驚き、戸惑い、そして疑いの声でルービッドは答えた。しかし依頼人が騎士だとしても、報酬を用意し、冒険者へのクエストとして話を持ってきたのならば、こちらとしては問題ないハズだ。


「とにかく話だけでも聞けば? わたし喉渇いたし、アイツの対応はお前ら冒険者の仕事だろ?」


ダプネは他人事のように言い、テーブルを片付けていたスタッフを捕まえて、飲み物を注文する。わたしとルービッドも注文し、騎士が待つ席へ進む。


雨が屋根を叩く中、騎士はもう一度わたし達へ頭を下げた。





ウンディー大陸の港街【ウンディーポート】の船乗り場で船を待つひとりの女性。オールドローズカラーの長い髪を束ねたポニーヘアに、ヘソだけではなく、肩や背中まで露出した装備。右腹部には何かのロゴマークを持つ女性。

ひとつのベルトポーチだけでは収納が足りないのか、腰周りにはポーチが3つ。太ももにもベルトポーチらしきものが装備されていて、武器と思われる魔銃。片手魔銃ハンドボウガンにしては大きく、両手魔銃ライトボウガンにしては短く小さい、個性的な【リボルバー】タイプの魔銃。


船を待つ女性の名は【だっぷー】、イフリー大陸で錬金術師アルケミストをしている魔銃使い。

錬金術師アルケミストとは、様々な素材を調合し、何かを作り出す者達。魔術ではなく、科学などの知識で調合生産するが、だっぷーは科学に魔術を織り混ぜた錬金術師アルケミト。冒険者達が使う回復薬などの消耗品は全て錬金術師が調合生産し、販売している。


しかし錬金術師だっぷーが作り出す物は回復薬だけではなく、魔弾をメインに調合生産する。

特種効果を持つ魔弾や、属性を持つ魔弾....他にも様々な特性を持つ魔弾を作っているだっぷー。この魔弾が魔銃使い達の中で爆発的にヒットしている。

剣術などと違い、銃術は速度を乗せた威力ブーストなどが出来ない。しかしだっぷーの魔弾はそれらを可能にしている。武具系の鍛冶屋と言えば【ビビ】、着色系の鍛冶屋と言えば【ララ】、魔弾錬金術師と言えば【だっぷー】と謳われるまでに、その名が広まり始めていた。


噂の魔弾を各大陸でも販売するために、ウンディー大陸に訪れていただっぷーだが、目的は他にもあった。1ヶ月と少しの間バリアリバルで生活し、魔弾の販売契約は大成功したものの、別の目的は手がかりさえ掴めていない。一度イフリー大陸へ帰ろうと考え、ウンディーポートで船を待っていた。


ぼーっと、海を眺め時間を潰していると、だっぷーのフォンはメッセージを受信する。

相手は猫人族の大剣使い【るー】


〈るー〉

件名:よ

前の件を情報屋に聞いてみた。今なら多分ウンディーの【プリュイ山】って場所が一番確率高いらしいぞ。ただその山は “制限区” だから、A以上の冒険者か騎士隊長クラスの同行が必須。エミリオはそっちにいるから連絡してみるといい。じゃ、また。



「.....プリュイ山」



だっぷーは簡単な返事をるーへ送り、マップデータを販売している店へ走った。





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