◇162
「いぇあー!ただいま!」
と、わたしは無駄に元気よくみんながいる建物へ入った。すると、
「久しぶり、エミリオ」
ローズクォーツ色の長い髪が揺れ、どこか変化を感じさせる雰囲気で───半妖精が短く言った平均的で安定率の高い挨拶。
死んだワケではないし、眠っていただけ。それは理解していたが、
「ハロルド!起きたのかー!」
わたしはただ驚き、少し安心した。
◆
ハロルド───半妖精のひぃたろが意識を戻した事にプンプンと喜び騒いでいると、早速一発目の「エミリオうるさい」が炸裂した。プンプンも騒いでいたのだが、やはりここはわたしへ注意の言葉と冷たい視線が飛んで来る。
ハロルドの瞳の色がローズからグリーンに変わっている事にわたしは気付いたが、それは今度理由を聞こう。
「───が、さっきあった事。ワタポはセッカと城に行ったぜー」
わたしは半妖精に怒られてから、話を変える様に【旧フェリア遺跡】での出来事を全て話した。
りょうの件はワタポが話すだろう....と思っていたが、今重要なのはりょうの死よりも、不安定なワタポだ。故郷を失った事でワタポはドメイライトを怨み、ドメイライトを潰すべく行動をしていた。
そんな人間だ....自分を怨み、レッドキャップを怨み、捨て身覚悟でレッドキャップを探し始める可能性は充分にある。ワタポ本人がそれを選んだならば、わたしは止めない。
でも今は不安定、つまり揺れている状態。ここでどうにか別の考えを持ち、別の答えを見つけ出してくれれば───レッドキャップを単独で追うという危険な行動は取らないだろう。
「....リリスが」
パチパチッ、と空気を破裂させ眼を鋭く変えるプンプン。
プンプンの目的は妹モモカであり、そこに辿り着くにはリリスが必ず立ち塞がる。
「.....それで、ワタポの状態はどうなの?精神的な面が心配ね」
魅狐の雰囲気を察知した半妖精は素早く話題をリリスから離す。
「ハロルドはもう大丈夫なのか?」
「私は大丈夫」
「そか。んーなら、ワタポ誘ってご飯食べに行こうぜー! ハロルドの奢りな?」
「は!? なんで私が」
ここにいてもワタポの心境はわからない。ハロルドが上手く話を変えてくれたので、わたしはそれに乗っかり、少し強引に外へ出る作戦を決行した。
「いいのぉ! ウチも遠慮なく御馳走になるとするのじゃ!」
パンッ、と両手を合わせ半妖精へ拝む様にした情報屋。すると続くようにリピナが「治療費って事で」と笑顔で言い扉へ向かい歩くと、扉から突然天使が入室───というより、乱入して、
「私も人の金で肉を食い漁りたい!」
今までどこにいたのか不明だが、相当ハイレベルなハイディングとピーピングで状況を抜き取り、ここぞのタイミングで乱入てきた天使族のみよ。ヨダレを光らせる天使....。
「~~~....わかったわよ!」
普段のハロルドならば120%断っていただろう。しかし本人の中に 少なからずみんなに迷惑をかけた。という気持ちがあったのか、とにかくハロルドの奢りでご飯を食べにいく作戦は見事成功した。
外へ出て各々会話しつつ営業している店を探すが、今の状態で店をオープンする貪欲な純妖精など存在するハズもなく、わたし達の会話量が徐々に減り、妙な雰囲気に。
「お? エミー、なにしてるデスかぁ?」
「何のパーティ? 雰囲気重いな」
下を見て歩く謎の集団を見かけ、後天性吸血鬼のマユキは笑顔で、後天性悪魔のナナミは引き気味の顔で言った。
「おうダブル後天! ハロルドがご飯奢ってくれるってゆーけども、店やってねーのよな」
わたしは大袈裟に両手を広げ、やれやれ、というエモーションを披露すると後天性吸血鬼のマユキ───ゆきち が何かを考え、思い付きで言う。
「城へいきましょう、きっとゴチソウがあるデスよぉ」
「それだ! マユッキー天才!」
ゆきちの発言に大きく食い付く天使のみよ───みょん。しかし....確かに城へ行けばなにかあるだろう。そしてワタポもいる。
「よし....行こうぜ! フェリア城!」
わたしの声にノリノリで反応したのは、ゆきち、みょん、キューレ、リピナ。
ダプネとナナミンは呆れ、プンプンは笑い、ハロルドは困り呆れる。
しかしもうクチは、胃は食料を求めている。こうなった以上は誰にも止められない。
グングンと城へ向かい進み、高級感あるパールホワイトとエメラルドグリーンの建物がすぐ眼の前に。
「あ、ワタポいるよ!」
プンプンが城の二階を見て呟き、わたしも視線を飛ばすと、ワタポとセッカが見える。
「おーい! ワタポ、ハロルドの奢りだぜ! 破産するまで食い散らかそうぜー!」
「エミリオ! 奢るけど面白がって注文しないでよ! 残した分は自腹よ!」
「オデ、クウ。ノコサナイ、ダカラ、オゴッテ。ついでにぃー、このぉー、大天使みよちゃん! の事を養ってよ、お姉さまぁん」
「.....さっきからうるさいけど、アンタ誰!? 」
賑やかに騒ぐわたし達を見て、ワタポは一瞬顔を伏せるも、大きく手を振り替えしてくれた。きっとセッカが、ワタポの心を上手く支えたのだろう。
それは同族─── 人間と人間だからこそ、出来る事。
魔女のわたしには───
「─── 出来ない事、かな」
「頼っていいんじゃないか? 仲間なんだろ?」
「あ? ダプネお前、わたしの心読んだろ!? ふざけんな─── おぉ!?」
うっすらと弱く輝き、フラフラと不安定に舞う、白と黒の羽を持つ蝶が、わたしの言葉を遮った。不安定で小さく、どこか弱々しい蝶だが必死に羽を揺らして飛ぶ。
白黒の蝶は空高く昇り、様々な微妖精達の集団へ混じり、ニンフの森へ向かって行った。
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