◇161
旧フェリア遺跡の調査は後日にし【妖精の都 フェリア】へわたし達は帰還する事に。あんな事があった後に遺跡調査などまともに出来るハズもない。ダプネとゆきちは何も無かった様に....と言えば違うが、変わった様子はない。ナナミンは何かを悩んでいる様な雰囲気を見せ、セッカは何かを考えている様で。そしてワタポは....。
「とりあえずみんな休もう」
フェリアへ到着し、わたしはそう提案すると全員が同意し解散。セッカは純妖精のお偉いさん───といっても女王がいない状態なので、話が通じる純妖精へ何かを説明し、戻ってきた。
「その方を....りょうを城へ招きましょう」
りょうの亡骸をどうするべきか、純妖精に相談したらしく、純妖精達は予想外にも嫌な顔ひとつせず城へ招く事を提案してくれた。
城にはスウィルの死体もある。
ワタポはセッカと一緒に城へ、ゆきちとナナミンは街へ溶け、わたしはどうするか。休もうと提案したのは疲れていたからだ。しかし眠いワケではない。ダプネに会ってから休憩と呼べる休憩をわたしはしていない。でも不思議と今は眠くない。
「城へ行かなくていいのか?」
「んや....わたしが行っても何も変わんないし。キューレ達んトコ寄ってから、酒場でも探すさ。ダプネも好きにしろよ」
「そうだな....なら、わたしはお前に付き合うよ」
「それも好きにすればいいさ」
そう言ってわたしはキューレやプンプンがいる建物へ向かった。
◆
「妖精って、本当にいたんデスねぇ。あたし初めて見たデスよ....あなたは?」
夜空の下で踊る様に舞う微妖精を見て、マユキはナナミへ質問する。
「私も初めて見た」
浮かない顔で答えたナナミへマユキは更に言う。
「えーっと、悪魔さんはナナミさんデスよねぇ?」
「あぁ、吸血鬼はマユキ、だったか?」
「デスデス、マユキ デス」
お互いの名前を確認し合った2人は、瓦礫撤去に勤しむ冒険者や純妖精を見つつ、磨き上げられた木製のベンチに腰かける。
「今何時デスかぁ?」
「....もうすぐ23時になる」
「そうデスか、凄いデスねぇ....女帝やら何やらの騒動が終わって、たった数時間でこの雰囲気」
マユキが言った様に、女帝の件が終わってまだ3、4時間しか経過していない。エミリオは途中でワタポと一緒に飛び、その間にフェリアの件はまとまり、ひぃたろは瞳の移植を、他の者も医療を終え、瓦礫の撤去作業を始めていた。
プライドが高く他種族との関係を持とうとしなかった純妖精達だったが、それは先代....何百年も前の純妖精が作り上げた種族の掟や拘り....つまりローカルルールだ。これらのルールを産み出した純妖精は何百年も前に死んでいるので意思を受け継いでいる、と言えば格好よく聞こえるが、中身のないモノを何百年も抱えて生きてきた事になる。
「セツカと純妖精の女王と半妖精だろう。この純妖精達を変えたのは」
「セツカ....凄い人間デスよねぇ。お狐様に半妖精、魔女や悪魔まで受け入れるなんて、真似出来る事じゃないデス」
「そういう部分に何かを感じて、猫人族や純妖精達もセツカと協定の様なモノを結んだのだろう」
「あたしは冒険者登録だけ済ませて、それっきりバリアリバルには行ってないデスからねぇ。今の世界事情はぜんぜんデス」
この後も2人は撤去作業を眺めつつ、他愛ない会話を続けた。
◆
エメラルドグリーンとパールホワイトが高級感を演出するフェリア城。二階のバルコニーで意味もなくひとり、夜空を見上げるワタポがいた。
「ここに居たのですね。お怪我は大丈夫なのですか?」
ワタポへ声をかけたのは、ウンディー大陸を取り仕切る【セツカ】だった。元ドメイライト騎士のワタポと、元ノムー大陸の王女セツカ。ウンディーの女王となったセツカをサポートすべく冒険者ワタポがセツカの護衛などをした事もあったが、こうして2人きりで会話をするのは初めてとなる。しかし、ワタポはクチを閉ざしたまま動きもしない。するとセツカは近くの部屋へ入り、数分後、湯気の立つカップを2つ運んできた。
「ドライアドに頂いたコーヒー....に似た味のお茶です。ひとりで飲むのは寂しいので、お付き合いお願いします」
そう言い、セツカはバルコニーに設置されていたテーブルへ独特な彫刻を施された木製のティーカップを置いた。気持ちを落ち着かせる様な香りが夜風に乗り、ワタポの鼻腔から胸中へと溶ける。
「....いただきます」
「どうぞ」
苦味はコーヒーと変わらないが少し酸味の強いお茶。独特でいながらもハッキリとした香りがワタポの閉ざしたクチをほどく。
「....ワタシは、失ってばかりです。家族や友人、故郷を失って、騎士団に入団した裏ではギルドを作りドメイライト何もかも奪おうと考えていました。しかし騎士団では隊を失い、その後出会ったひとりの魔女にギルドを潰され、両腕を失い....敵だったけどネフィラも....そして りょうも失って....全ての事に自分が関係しているのに、自分だけ生きていて」
「
「....大好きだった人?」
「はい。私の事を王女としてだけではなく、ひとりの存在として、人間として見てくださっていた人。それが演じた存在だったとしても....私はその方を本気で嫌い憎む事は今も出来ません。女王という立場の者としては、あってはならない感情なのかも知れませんがね」
セツカは瞳に揺れる光を宿し、光が溢れない様に眼を細めて悲し気に笑った。女王としてウンディー大陸に住む人々を想い、より良い発展を願い他国と積極的に関係を持ち、冒険者達をまとめ、ウンディー大陸を国として成り立たせる為、何事にも本気で向かい取り組むセツカ。しかしセツカもひとりの人間。悲しい事や辛い事も彼女の胸には存在している。
「ウィル....レッドキャップのスウィルは、私がまだ幼かった頃から、私の面倒を見てくださっていた執事だったのです。犯罪者だと知った時は王女としての生活も失っていましたし、毎晩バリアリバルの宿で、ひとり泣きました」
遠くの空を眺める様に言うセツカの瞳には、優しさと寂しさ、悲しさが滲んだ。
「ウィルを止める事は私には出来ない事....ひぃたろがウィルを止めてくれて、よかったと思っています」
「.....」
「ヒロは失ってばかりではなく、失ったモノばかり見ているのですよ。貴女には腕もある。仲間もいる。そして、りょうは自分を止めてくれた貴女へ感謝していた。その手は壊し、奪う手ではなく、守り、助ける事の出来る手だと、私は思います」
「───.....」
「貴女に今必要なのは罰ではなく、考える時間です。その時間の中で、貴女の存在を必要としている人達へ少しでも手を貸してくださいませんか? 私も貴女が必要ですよ? ワタポ」
───敵わない。
ワタポは胸中で呟き、胸から込み上げる熱が瞳から溢れた。どんな理由があったとしても、最後にりょうの命を奪った自分をこの先もずっと許す事はない。
そう思う反面では、りょうの命を弄んだリリスを怨み、りょうをレッドキャップへ引き込んだフィリグリーを怨んでいた。
ワタポはバリアリバルに戻る事を捨て、レッドキャップを単独で追う事を考えて、プライドも何もかも捨て、手を汚してでもレッドキャップのを探す。そのワタポの考えを読み取った様にセツカは、優しくも厳しく「失ったモノばかり見ている」と言った。
そしてワタポを必要としている存在がいる事と、自分を守り助ける権利が自分に残されている事をセッカはワタポへ。
「....ほら、貴女を必要としている方々が迎えに来ましたよ」
「───?」
顔をあげたワタポはバルコニーから外を見る。
そこには───魔女、天使、人間、魅狐、半妖精、悪魔に吸血鬼まで集まり、ワタポを見つけた魔女は手を大きく振った。
「......ワタシには....まだこんなに沢山の....」
ブレて揺れて、不確定で曖昧だった自分。それでも必死に答えを探して、つまずいて、また失って。
自分の弱さを認めない自分。
白と黒で分けて、逃げていた自分。
─── 色は始めから一色だったんだ。白も黒もワタシで白黒という一色がワタシ。悲しみ悔やむ弱い白色の心も、怨み憎む危うい黒の心も、それらを思うこの心も、全部。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます