◇160



「なに、アレ....」


「....? アレ とは?」


闇影に潜み観察していた【リリス】と【フィリグリー】は会話を始めた。


「自分、で、殺し、て、おいて、泣く、....───不愉快だ」


独特な句切りもなく、不愉快と発言したリリス。


「我々人間は都合のいい生き物だ。あれが自然な反応とも言えるだろう....?」


平然と応答したフィリグリーだったが、リリスがただならぬ気配───殺意にも似たオーラを溢れさせた事に一瞬戸惑った。隠蔽ハイド状態を消し、辺り構わず撒き散らす様なリリスの殺意。


「....、ムカつく吐きそうつまらない───から、壊す!」


指先を噛み千切り、両眼を見開いたリリスは召喚術で人形モモカを召喚し、闇影から発射する様に飛んだ。


「───....全く、困ったものだ」


フィリグリーは呆れるも、焦る様子を見せずに呟き、リリスを見送った。





少年の死体を前に、ただ涙を溢すワタポへ、わたしはかける言葉を探していた。

人は───生き物は必ず死ぬ。

不死に見える吸血鬼にも、死は必ず存在している。

それがどんな経緯で、どんな理由で訪れようとも、逆らえない絶対的なモノだ。


....だから何だ? わたしはワタポに「残念だったね」と言うつもりか? それとも「仕方ない事だ」と言うつもりか?


そもそも、なぜわたしは声をかけようと思っている?

死というものは何度も見てきた....いや、見てきただけじゃない。実際にわたしが相手の命を奪った事もある。何度も。大切な人が死ぬのは悔しいに近い感情で、悲しい寂しいと思った事は───


「───!?」


色々と思い出しては考える、を繰り返していたわたしの脳は、粘りつく様な濃い殺意を感知し、考える事を止めた。


「なんだ!?」


「わかんないけど....来るぞ!」


わたしの声にダプネは素早く反応し、森の奥に広がる闇を見て、迫る何かに備える。


「これは───」


「アイツ....デスねぇぇ!」


ナナミンの声を上塗りする様にゆきちが声を出す。するとゆきちの瞳が、端から黒く染まり中心が紅くギラつく。


「───アハ、皆さんコンバンハ」


闇から現れたのはツギハギドールのリリスと───モモカ。

耳障りな句切りもなく、両眼を見開き大きく嗤うリリスは恐ろしい速度でわたし達を抜き、ワタポへ迫る。

ナナミン、ゆきち の後天性コンビが追おうとするも、


「あなた達は───」

「「わたし・・・・が相手をするよ」」


真っ赤なゴスロリドレスで着飾るモモカ達が後天性コンビの前に立ちはだかった。


「ダプネ!」


「─── 飛び込め!」


わたしの考えを理解していたダプネは既に空間魔法を展開しており、わたしは空間へ飛び込んだ───


「私が壊してお人形にしてアゲル!貴女の事も!」


「─── やってみろクソドール!」


空間魔法の出口は、ワタポのすぐ近く。わたしは空間から出ると同時に魔術を発動させる。赤魔法陣から速度の速い炎線が噴射する様にリリスへ。


「キャハハ!」


と嗤い、炎を回避するリリス。回避されるのはわかっていた───だが、次はどうだ?

わたしはディアを使い同時に魔術を発動させる。

青紫色の魔方陣と茶色の魔方陣、雷が蜘蛛の巣状に広がる雷属性中級魔術と、地面が尖り貫く地属性中級魔術。

回避する方法は───高く飛ぶ事以外にない。


わたしの予想通りリリスは魔術が届く前に高く飛び、回避する事を選んだ。しかし───


「皆さんコンバンハ───だったか?」


魔術回避を予想し、空間を繋いだダプネはリリスの頭上から声をかけ、魔剣術で挨拶する。三連撃属性剣術───魔剣術がリリスにヒットするのを確認したわたしは、魔女力を使い威力と範囲を最大までブーストし、ディアを使い二発同時に上級魔術を発動させた。荒れ狂う様に逆巻く竜巻と、撃ち焦がす様に唸る雷がリリスを完全に捉える。


剣術後に素早く空間移動したダプネはわたしの隣へ着地し、魔術を見て緊張感のない感想を呟く。


「魔女ったお前は、相変わらずエグいな....でも、こんなモンじゃないだろ?」


ダプネの声を横に、わたしは竜巻と雷を拡散させる様に消した。するとボトボトと何かが落下する音が。


「───....アイツ本当に人間か? スゲーキモい友達いるんだな、エミリオ」


「あんなのと友達になった覚えねーよ」


落下したのはリリスの───。

下半身から千切れ、片足はない。中身があちらこちらに散らばり、片腕がオカシな方向に捻れている上半身も地面に。


「エェ、アェ....、酷い、事、する、わね」


見るに耐えない状態でも、リリスは嗤い喋る。本当に人間か? と言ったダプネの気持ちが痛い程わかる。


「舐め、て、いたわ。貴女、魔女、だもの、ね」


「おいおい、まだ喋るぞアイツ....」


「この、身体、じゃ、もう、ダメ、ね....。モモカ、帰る、わよ」


「はーい!」


モモカ達はナナミン、ゆきち を相手にしつつセッカの命を狙い、ナナミンはセッカを守りつつモモカの相手をしていたのか....とにかく帰ると言うなら帰そう。コイツと本気でやるにはタイミングも場所も、悪すぎる。モモカ達は素早く、ヌルリと動きリリスの肉片を回収しダプネとは違うタイプの空間魔法を使い、どこか遠くへ消えた。


「仲間がいたんデスねぇ、今は追う気分でもないデスし、見送るデス」


「それでいい。リリスを下手に追うのは危険すぎる」


「今のがリリスとモモカ....」


初めて間近でリリスとモモカの本格的な戦闘を見たセッカは、ただただ驚く。しかし今のがリリスの本気ではない。


「.....ふぅ」


わたしは魔女力を落ち着かせ、ワタポの元へ向かった。

言葉をかけるためではなく、無事かどうか確認するために。


「無事か?」


「......うん、助かった」


リリスが現れてからも、ワタポはりょうをギュッと抱き、動こうとしなかった。


「....りょうを連れていこう。どんな生き方をして、どんな最後だったとしても、今りょうが眠ったのは事実だ。ゆっくり眠れる様に、お前がしてやればいい」


悪魔とは思えないナナミンのの言葉にワタポは頷き、小さく震えた。





「....魔女が二体、後天性の悪魔と吸血鬼。魅狐や半妖精も我々の前に立ち塞がる壁になると見て....ふむ。中々に厚く、派手な壁だ」


フィリグリーはリリスの突撃後もハイディングを続け、状況を落ち着いて観察、分析し情報を集めていた。

リリスが帰還後、スウィルとりょうの死体をどう処理するか数秒考えるも、何もせず帰還する事を選び、フィリグリーは闇に姿を眩ませた。





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