◇139




猫人族側にいた冒険者達も全員ではないが、森へ入る前にレイドと合流していた。

ここまで大規模な調査、討伐パーティが組まれたのは何年、何十年ぶりだろうか。そんな事を考えるベテラン冒険者も中には存在する。それほどまでに今回のパーティは珍しい、のだが。


「んにゅ~....にゃっぱりマップがみれにゃいニャ」


ピンク色のツインテールをユサユサと揺らし、頭を左右に動かす猫人族のゆりぽよ。冒険者達は安全地帯───安置で足止めをくらっている状態のまま15分が経過した。【迷いの森】で見事に迷った冒険者達。しかし焦る事なく、下手に進まない選択は正解とも言える。無理に進み同じ所をグルグル回るだけならばいい、しかし道から外れた所をグルグル回ってしまうと、安置もなくただ体力が減る。安置に留まり、今後の事を考え話す選択は賢い。


「S2も数名いるのに迷子....って仕方ないよね。キーになる花が枯れちゃってるんだし」


鎧で身を包む冒険者 ゆうせーがマイペースな声音で呟く。戦闘はあまり好きではない雰囲気を持つ彼だが、壁───タンカーとしては優秀な存在。セツカは最悪のケース、つまり、強敵と遭遇してしまったパターンも予想してタンカーやヒーラーも集めた。ヒーラーで一番最初に名前が上がったのはギルド【白金の橋】だが、マスターリピナとメンバー達は猫人族の里で治癒術ではなく、医療技術や知識などを猫人族達に教えた終えたら合流する事になっている。


「しっかし、どうすんや?足踏み状態のままここに居っても話にならんやろ?」


「んじゃの。じゃが無闇に進むのは賛成できんのじゃ。小パテじゃなく大パテともなれば尚更じゃ」


アスランとキューレ。この2名が会話しているとごく稀に何を話しているのかわからなくなる事がある。それほど特徴的、個性的な口調をした2人は揃って頭を抱える。

独特なマナが充満し、爆発的な成長を続ける森。姿形を変える【迷いの森】では鈴の形をした花を使い、マナを一時的に一定質へ固定する事で進む事が可能になる。しかしその “鈴の形をした花” が中々の曲者。花を摘みポーチへ収納していると数分で枯れ、ロストしてしまう。その場で摘み、使うのが理想だが【女帝 ニンフ】が一瞬溢れさせた濃く冷たいマナにより、花が枯れてしまっている状態。マナが安定───本来の迷いの森のマナに戻れば花はすぐに咲く。


「セツカ。ここで長時間休んでいられないけど、無闇に進むのはやっぱり危険。確実に進める方法がわかるまでここで休むって事を全員に伝えた方がいい」


黒に赤の光が揺れる、悪魔の瞳を持つナナミはセツカを一直線に見て言う。元人間の悪魔....妹を殺したあの時、自分の中の人間としての色が濃く残っている事を知り、レッドキャップのメンバーとして犯してきた罪を背負って、人間....冒険者達に力を貸す立場になった。複雑で居心地のいい立場ではない。ナナミを認めない者は多く、ナナミを怨んでいる者も必ずこの世界には存在する。それでも、最後の最後まで人間として人間のために、人間の味方をしている種族のために、悪魔の命を使う事をナナミは選んだ。


「そうですね....皆様にお話してきます」


セツカはナナミの意見を聞き、自分の中にあった気持ちとリンクし、全冒険者へ話しかけて、説明した。この場でセツカが声を響かせれば全員嫌でも注目する。しかしセツカはわざわざ自ら歩みより、事細かに説明して回った。最初は皆 “女王が話しかけてきた” と驚いていたが、女王ではなく冒険者───ギルド【マルチェ】のメンバーとして同業者と話すセツカの姿勢を買い、徐々に砕けた口調でストレスも少なく会話が続く。そんな中、


「む!?」

「ぬ!?」


冒険者アスランと情報屋キューレは鼻をピクつかせ同時に声を出す。


「どうせ足止めだし、お腹いっぱいにしてから攻略方法考えよう!」


そう笑顔で言ったのは【美食の街 アルコルード】に店を持つ冒険者【しし】は回収した食材をその場で調理し、皆に振る舞う。【しし屋のお弁当】と言えば子供だけではなく、大人にも人気で、ししはお弁当屋だけではなくレストランも持つ料理人であり、冒険者。アルコルードでキノコデザインの看板を見つけた際は迷わず入る事をオススメされる程の腕前。


「お?ナナミンは腹ペコじゃったのか」


ししの声にいち早く腰を上げたナナミ。キューレがニヤニヤ笑い反応するも、クールに答える。


「お腹は普通、それとナナミンはやめて」


「なんじゃい、冷たいのぉ。腹減っとらんなら何するんじゃ?」


「1人じゃ大変そうだし手伝ってくる」


ナナミは眉を寄せ、アスランとキューレへ刺さる視線を飛ばし、ししの元へ向かった。


「何か手伝える事はない?」


「ありゃ、手伝ってくれるの?それじゃ甘えて....これとそれとアレとアレ、あ!それにはそっちのソースかけて、みんなに渡してくれると助かるかなぁ。そんで、そっちの」


「見た目によらずザックリした性格なんじゃのぉ。しし....」


目が回る程の指示を出すししにナナミは混乱一歩手前まで追い込まれた時、キューレがいいタイミングで助っ人に登場した。


「えー?私はこれですぐ覚えれたけど、そっかぁごめんね。それじゃ、このキノコスープを、この器にいれる、キノコスープが入った器を、ここに来た人に、渡す。これでわかったかな?」


「....うむ、わかったのじゃ」


まるで子供に教える様にゆっくりと優しい口調で説明したししだったが、口調とは裏腹に手は凄まじい速度で料理を続けていた。 キューレは「ウチらは子供かい!」とツッコミたくなったが、ししの料理スキルの高さにツッコミを見失った。キノコのクリームスープはキューレの大好物。溢れそうになるヨダレを我慢し、指示された通り冒険者達へ渡す。他にもハーブを使った肉料理(モンスターの肉と採取したハーブの様な葉の料理)やキノコパスタがある。


「初めましての子も多いから、パスタはちょっと薄味にしてるの。薄いなぁと思った子はクリームスープを少しかけたり、お肉のソースを少しかけたりすれば変わるから、好きな方で食べてくれぃ!」


薄味派や濃味派が存在していてもおかしくないレイドで、出来る限り料理に手間をかけず、好みにカスタマイズ出来る料理を作り上げたしし。キノコは苦手....と言う冒険者もひとクチ食べ、これなら食べられそう と喜んでいた。


「んにゃ、ベロ火傷したニャ」


「にゃっはぁ~ん、ゆにぽにょは子供らニャ~ん....ん熱ッ!?酔い冷めるニャ!」


猫人族組と一緒にレイドへ参加していた猫人族ケットシーの【ゆりぽよ】と【リナ】は揃って賑やかな声をあげる。


「お前ら落ち着けニャ。急いで食べるキャりゃ、火傷するんニャ」


と、大人っぽく言う猫人族の【るー】だが、恐ろしい速度でパスタを食べる。まるで飲み物の様に。


「「 誰も盗らにゃいし、お前が落ち着けニャ 」」


「ガハハハハハ!るーさんよ、俺様と早食い勝負するか!?こっちには早食いの天才、痛風持ちの烈風がおるで?」


俺様と~と言いつつ無駄に【烈風】を巻き込むアスランは大口で笑う。

武具も最低限だけ装備した集団。ここだけ見れば本当にキャンプを楽しんでいる集団に見えても不思議ではない。


「.....」


「どーしたんじゃ?ナナミン」


一歩下がった場所から全員を見て、少し笑ったナナミが気になり、キューレがそれとなく話しかけると悪魔はまた小さく笑い、人間部分を見せた。


「冒険者なんていつ死んでもおかしくない、そんな職なのにみんな心から笑って、私もそんな風になれたらいいなって」


「ほぉー、お前さんがそんな事言うとは思わんかったのじゃ」


「悪魔になって人間の頃よりも得たモノはある。力もそう。でも、人間だった頃より空っぽになったモノもある。頼ったり頼られたり、そんな事から私は拾っていきたい」


「悪魔になったら何か無くすって聞くが、中身の話なんじゃのぉ」


「後天だと必ず何か失い、それと引き換えに力をもらえる。失ったモノを集める事も出来るけど....出来ない人もいる」


「出来ない?例えばなんじゃ?」


「私が昔あっちで出会った後天性の吸血鬼は記憶の80%が無くて、残りも薄くなってる」


ナナミの言う “あっち” とは四大陸がある地界ではなく、魔女や悪魔、その他種族が生息している外界。純妖精も魅狐も数百年前に外界から地界へ来た外来種となる。


「思い出せぬなら、以前自分が居った場所へ行けばいいじゃろ?」


「そうだな....シガーボニタが以前の形なら、拾えたかもね」





鉄を弾き奏でられる複数のオルゴール、バイオリンが色付けし、オルガンが空間に深みを生む様に、薄暗い部屋で響く。木製の棚にはガラスビン、その中にはおぞましいモノが液体漬けにされている。

グジュグジュと湿り気の強い音と、吐息。正気ではとてもいられない空間で、艶のある声を途切れ途切れ溢し、震え嗤う影。


「汚れちゃった。綺麗になったら....、治し、て、あげる、わ、モモカ。貴女、も、縫い、治し、て、あげる、パメラ」


ベットリと濡れる自分が鏡に。それを見た女性は沸き上がる快感に堪えきれず、小さく痙攣。眼球を回し、ネットリとした感情がクチから漏れる。


呪われた街【シガーボニタ】の人形劇場跡地、秘密の人形劇。

生きた人間は彼女しかいない部屋で、生温かい温度を持つ、人の皮を被ったオートマタは渇いた瞳のまま演奏を続けた。





「女帝って、さっきのクソビッチが!?」


甘い木の実を食べつつ、ロン毛エミリオさんは大きな声を出してしまった。が、驚かずにはいられない言葉がドライアド達から告げられたのだ。数十分前にわたし達が戦闘していたウネウネのキモい触手女モンスターが、なんとあの【女帝種】だったらしい。

女帝についてはわたしの隣にいるダプネから色々と聞き理解しているつもり。


「そう、さっきのが 森の女帝 ニンフ だ」


ドライアドがそう答えると、友人によく似た顔立ちの純妖精エルフが唇を噛み、視線を下げた。この純妖精について何も聞いていない事を思い出したわたしは女帝の話題を一旦止め、純妖精へ質問を飛ばした。


「なー、名前は?」


話しかけられた事に驚いた様子の純妖精は【さくたろ】と答えた。わたしのフレの名前は【ひぃたろ】で半妖精ハーフエルフ、顔が激似のこの純妖精は【さくたろ】と....名前も似てる。


「わたしはエミリオ、さくたろはなんで、ワタポとあの遺跡にいたの?」


「ワタポさんが居た理由はわかりません。私が居た理由は、悪妖精ダークエルフ達に捕まって、女帝を解放しろと言われて....」


捕まった?女帝を解放?この純妖精はそんなにレアな人物なのか?まぁそれはいい。


「で、解放したって事?」


「私は戦闘が出来ません....皆様の様に剣も扱えませんし、攻撃魔術も小さなモノしか....私が持っていた鍵を奪われた時、ワタポさんが来てくださいました」


見るからに弱そうな純妖精さくたろ は眉を寄せ、唇を震えさせる。自分のせいでワタポが~、なんて事を考えているのだろうけど、状況もハッキリわからないわたしはさくたろへ何も言えない。


「私達が知っている事も話そう。この人間は女王を助けに行ったワケではなく、仲間を助けに旧フェリア遺跡へ向かった」


「仲間って、金髪のボクっ娘と、女王に似てるピンク髪!?.....女王!?」


「すみません、言う必要もないかと思い....、私は純妖精族の女王 さくたろ です」


コイツが女王で、ワタポは多分プーとハロルドを助けに行って、女帝がいて....そもそもプーとハロルドは何してるんだ?さっき魔力を感知したけども....待てよ、女王とハロルドの激似具合は「似てるよね~」のレベルではない。色違いのレベルだ。


「なぁ」


もし、もし双子また姉妹なら女王も半妖精って事か?半妖精が純妖精をまとめてるってみんな知ってるのか?あーダメだ、何か色々な情報が一気に入ってきて整理するのが面倒くさい。


「なぁなぁ」


「ん?何だよ、みょん」


「わたしは みょん かよ。大天使みよちゃん って敬意を持ってありがたく呼べやババア」


一番面倒くさいヤツがこのタイミングで話しかけてくるとか、なんなんだよ本当に。


「でさババア、そのワタポさん?の仲間って放置していいの?助けに行ったってノリじゃん?」


「んぁー、大丈夫じゃね?その仲間2人とも強いし」


「ふーん、あっそ」


何だかひっかかる言い方で会話を終わらせようとする天使のみよっち。わたしはみよっちを【みょん】と呼ぶ事にした。と、まぁそれこそどうでもいい。みょんは何でこのタイミングで話を割ってまで入ってきたのか。そこが気になる。


「なに?みょんわたしのフレに興味ある感じ?」


「は?興味ねーわ。ただ、助けに行くなら方向教えてやんよってだけ」


みょんは偉そうに言い、赤く小さな木の実をクチを数個投げ入れる。カリカリと心地よい音を響かせ、手を止めず木の実を食べる。


「方向って、わたし天才だからさっき感知したわ。あっちだろ?」


旧フェリア遺跡、とやらの方向を指差すとみょんは頷き、木の実を飲み込んで言う。


「んで、逆には沢山人がいて、えみりんの友達の1人は寝てるか死んでるよ」


「は?」


「ごめん、死んでるは嘘だわ。寝てるか気絶してる」


わたしだけではなく、ダプネもゆきちも思っただろう....この天使は何を言っている?と。流れで一緒に来る事にはなったものの、イフリー大陸から今まで、天使みよっちは戦闘になっても準備1つせず、自分のスキルさえ見せていない。そんな彼女が恐ろしいレベルの感知スキルを使ったのか?それとも適当に言ったのか?


「あーん?なんだその顔。3人とも大天使みよ様をなめてるな?」


ここで大天使みよ様こと、みょんは丸太のイスへ立ち、とてつもなく誇らしげな顔で、


「イケメンからモンスターまで、どんな気配も逃がさず感知出来るのが大天使みよちゃん!ババアが魔女なのも、ダプネさんが魔女なのも、マユッキーが純粋な人間じゃない事も、.....、全部お見通しよ!天才だろ?」


今度は大天使みよちゃん か。様やら ちゃんやら忙しいヤツだ。と思いつつも、わたし自身もエミリオ様やエミリオさん と自分の事を偉そうに言う癖がある。みんなこんな気持ちになってたのか....。それにしても、


「普通にすげーな。わたしやゆきちは事前情報を拾えなくもないけど、ダプネの情報なんてキューレも持ってないし....ガチ感知だな」


「魔女の魔力隠蔽術も貫通デスし、本当に凄いデスね!みよちゃん」


「凄いけど、それあんまり言わない方いいぞ。わたし達魔女から見れば、凄すぎて厄介なレベルだからね」


ダプネはみょんにそう言い、鋭い眼でドライアドとさくたろを見る。無言で「他言するなよ」と伝える瞳と少し尖った雰囲気を出す。すると妖精種は頷き、ダプネの雰囲気もいつも通りに。コイツは他人の事でここまで動く魔女じゃない。恐らくみょんのその感知術がこの先いつか使える、と思ったのだろう。


「んでな、よく聞け下級種族ども」


ダプネと妖精種の無言のやり取りが終わった直後、みょんは似合わない程の真面目フェイスで言う。


「さっきのキモいモンスター、ずっと先にある街か何かに向かってっけど、放置していいの?」


「街?そんなの森の奥に───」


ある。わたしは以前ハロルドから聞いた。迷いの森の奥にはニンフの森があり、その更に奥には純妖精エルフ達が住む街がある、と。

女帝ニンフ、アイツが本物の女帝ならば街へ向かい、元同族を喰い、封印されていた期間に弱まった力を起こすだろう。


「まぁ、あたし達が動く義理はないデスよね。エミーの友達のワタポさんは助けたし、女帝を復活させたのは純妖精エルフデスよね?下手に動いて責任を押し付けられても困るデス」


後天性吸血鬼は自分達の立場、イレギュラーな存在としての立場を把握した上で、そう言い放つ。見知らぬ者達が純妖精の街に現れ、女帝と戦闘する。勝手も負けても、女帝の封印を解放したヤツはこいつらだ。と誰かが言えば一気にこちらの立場が悪くなる。

悪妖精と呼ばれる反純妖精が、女帝復活を女王の責任にしようとしていたのでは?と思う点もある。そんな所に飛び込んで面倒事になるのは正直ゴメンだ。


「女王様もいるし、女帝がこれまた足おっせーんだわ。だからあと10分くらい迷えるよ」


みよっちはそう言いながら、地面に絵を描き始める。絶望的な絵のセンスだが、理解は出来る。

わたし達が今いる位置、ニンフの森を丸で囲い、妖精の街がある方向にはプーとハロルドを星印で描き、その先には女帝と思われる酷い絵、そして街。

逆方向───迷いの森には大勢を意味しているであろうグルグルマークと、その後ろに数個の丸。


「タコ足女の方はわかるっしょ?こっちは何かモヤモヤしてて種族までハッキリ見抜けないけど、相当な数がここで止まってて、後ろから数人追っかけてる感じ」


ダメだ。いや、我慢する時だろうけど、、ダメだ。


「みょん、この絵はダメだって!笑わせにきてるしょ!」


絶望的な女帝のイラスト。実物を見た直後なので破壊力が数倍にも増していて笑わずにはいられない。上半身は人間で下半身はタコ、無駄に大きな胸と唇、真ん丸で雑な眼。化け物という点では完全に化け物だ。


「は?この芸術を理解できないババアの腐った眼が理解出来ないわー。眼玉交換してこいよ」


「やめろよ、眼玉奪われた事あっから笑えねーよ」


緊張感の欠片もないわたしとみょんだったが、ドライアドの1人が簡単な地図を地面に描き、ゆきちが話を強引に進める。


「この後ろにいる集団は恐らく....バリアリバルの冒険者デスね?女帝のイヤな魔力が一瞬溢れたの覚えてるデスか?エミー」


「うん、わたし達がイフリーにいた時だしょ?」


「デスデスー、イフリーであれだけ感知出来たって事はウンディーにいた冒険者はもっとハッキリ感知出来たと思うデス。それで、魔力調査~と言う形で冒険者のレイドが組まれたと考えるのが妥当デスね」


以外にも頭の回転が早いゆきち。吸血鬼ヴァンパイアって頭いいのか、それとも後天性という点で、人間時代のゆきちが賢かったのかは不明だが、ダプネとは違う感じの進行で個人的にゆきちの方がいい。


「この後ろの数名が気になりますが....今は放置して、女帝が純妖精の街へ向かってる点は放置デスか?女王様」


小さく笑ってさくたろを見るゆきち。純妖精を助ける義理はない、と数分前にズバッと言い放ったにも関わらず、今は助けなくていいの?と言う雰囲気。何か狙いがあるのか?


「....私は純妖精達を見殺しにするつもりはありません。1人でも女帝を追います」


「そうデスか、でも確実に殺されるデスよ?女王様弱いデスし、自殺なら女帝を使わず他でもいいかと思うデス」


「私では勝てない事くらい、わかってます。それでも....無視できません!」


「そうデスか、今から追っても街で追い付く感じデスね。弱くても貴女は女王様デスよ?街には女王様を見殺しにする純妖精しかいないデスか?」


「......ッ」


「ダメな女王様デスねぇ....あたし、エミー、ダプネさん、みよっち、このメンバーで女帝に勝てる保証はないデス。でも、貴女よりは強いデスよ?雇いませんか?無駄死には嫌デスし、雇われて仕事する形なら女帝と戦う理由になるデスよー」



なるほど、いいぞゆきち。雇われた身として行けば変なトラブルは全て雇った本人、この場合さくたろの責任になる。普段なら、勝てる保証はない、と言うヤツを雇うバカはいないが今さくたろにある選択肢は、わたし達を雇い女帝を追うか、ソロで女帝に挑むかの2つ。可能性があるとすれば前者。



「報酬の話は後でキッチリ出来るなら、後回しでもいいデスよ。どうします?」





驚いた。まさか私に取引する価値があるとは思わなかった。


さくたろはマユキの言葉を聞き、最初にそう思った。

さくたろは女王とは言え、女王らしい事、例えば外の世界や種族と関係を持ち純妖精を、妖精種族の発展になる行動をした事がない。純妖精だけではなく、微妖精も含め全ての妖精達を想う心は持っていて、今もそれはある。しかし純妖精達はさくたろを見て挨拶はするものの、街のお姫様を見る程度の気持ちしかないだろう。簡単に言えば───女王に何1つ期待していない。

さくたろ自身もそれには気付いていたが、何をどうすれば良いのか、何をすれば皆が喜ぶのか、それが全くわからない。さくたろの存在は皆を笑顔に....気を張らせずに生活させられる存在。ただ、それだけの存在だった。女王ではなくお姫様として見られている事が答えだ。お姫様の成長を見ていた民間人はその成長に微笑む。それと同じ眼で純妖精達だけではなく、ドライアド達もさくたろをそう見ている。


そんな自分に取引を、選択するチャンスを与えてくれたマユキ。


───私には何の価値があり、私はこの者達に何を払えるのだろうか。


そう考えるも、今すぐにその答えが見つかるハズもない。


───迷っている時間も、もうない。純妖精達を見殺しにする事は絶対にしたくない。私1人が女帝に挑んでも....最悪、私を助けようとした純妖精達が死んでしまう。それも嫌だ。


「報酬のお話は後程必ずします。ですので、どうか....純妖精の里を救う為に、私に力を貸してください」


私に力を貸してください、とさくたろは言った。つまり、さくたろ自身もエミリオ達と共に戦うという意味。


「はい、最大の努力はするデス」


「わかった、わたしも出来る限り力を貸すよ」


「よっしゃ!クソビッチ狩りだ!途中で寝てるわたしのフレも巻き込もうぜ!」


「バーバ、テンション上げすぎるとポックリ逝くよ?大丈夫?」


「ありがとう、ございます」



さくたろは深く、深く頭を下げ、泣きそうな顔を隠した。

初めて自分で決めた事に、同族でもない者達が力を貸してくれる。


純妖精達の街、フェリアに危険が迫ってる状況だが、力を貸してくれる者の存在と、自分に選択する機会を与えてくれたマユキの存在が、嬉しくてたまらなかった。


「あたし達は移動中に装備調整するデス。女王様しか道を知りません、急ぐデスよ」


「ドライアド、ワタポの事頼んだぜ」


「わたしの事も頼むぜ?一生養ってくれ」


「はぁ....エミリオでも余してるのに天使様もこの感じか....カーレイドに置いていかれるぞ」



最後まで緊張感なく、エミリオ達は【ニンフの森】を出発した。目的地は女帝が向かっている【妖精の都 フェリア】という名の、純妖精エルフの街。






大規模な空間魔法が展開されたニンフの森。虹色に揺れるその奥から14名の星霊族が現れる。

靄に呑まれる半妖精は星霊族を見て、小さく笑った。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る