◇114




武器素材の1つ【炎を宿した喉笛】を求め、ウンディー大陸からイフリー大陸の街[オルベイア]まで干からびそうになりながら、何とか到着した。

何よりも先に喉を潤したい。

そんな気で入った店で猫人族のるーは意味不明な喧嘩をした。

理由もわからない中で、るーは絡んできたオルベイアの大人をボコボコにし、なぜか酒場を制圧。

そこに現れた謎の女が「仕返し」と言い、るーと喧嘩。

わたしの超絶美しい魔術で2人の喧嘩を止め、とりあえず水分補給しつつ、女へ説明をした。


「突然絡まれて、ムカついてぶん殴っちゃったんだ?それはごめんねー、最近鉱石盗む人いるから、冒険者には厳しく当たっちゃうんだよお」


オールドローズ色の髪をユサユサ揺らし、軽い謝罪をする女。


「それはもういいニャ。それより...魔銃って凄いんだニャー。俺のVITがにゃきゃ死んでたニャ」


出た。

るーが言う「俺のVIT」。このワードは拾うとゲスい会話に派生する。俺の魔銃 とか言い始めたら終わりだ。ここは話を変えるついでに、この女が何者なのかを聞くルートへ。


「粗末なVITの話はいいとして、名前は?わたしはエミリオ、こっちは猫人族ケットシーのるー。2人とも冒険者ね」


「冒険者なんだあ!?私はだっぷー!デザリア軍がこの街の人からお金を沢山とっちゃうから、私が軍に変わってモンスター倒したりしてるんだけど、最近軍が静かになったから安心だあ!」


だっぷーと名乗る女は冒険者ではなく、傭兵に近い感じか?デザリア軍が静かになったのはまぁ、色々あったんだろう。今はもうお金を請求する事はしないと思うし安心していいはず。傭兵的ポジションだからこそ、街で喧嘩したるーへ仕返しをしたのか。鉱石をパクる腐れ冒険者も湧くみたいだし、大変だなだっぷー。


「だっぷー、炎犬フレアヴォルってモンスター知らにゃいか?」


水を容赦なく喉へ流し、猫人族は目的であるフレアヴォルの情報を探る。

キューレタイプが相手だと、ここでヴァンズや対等な情報を要求してくるが、だっぷーはあっさり答えてくれた。


「知ってるよお!この辺りにいるモンスターの中で、結構強い方だね!でも...今はやめた方いいかもよお?」


グローブを装備解除し、薄紅色の液体を飲みつつフォンを器用に操作するだっぷー。

モンスター図鑑を表示し、水の入ったるーのグラスに手を伸ばす。


「フレアちゃんは普段この水みたいに、喉に透明液体を溜めてて、身体も冷えた石みたいな色。でも、今時期のフレアちゃんはこのドリンクみたいに身体が赤くて、喉にはマグマを溜めてる。ランクで言うなら普段はA+だけど、今時期はS+かなあ?」


S+。

だっぷーはサラッと言ったが、モンスターランクでS+は2つ目の強さを持つランク。

最高ランクのSS───S2はボス系しか存在しないとして、S+はSランクモンスターのボス達に与えられる称号ランク。

この辺りからモンスターの強さは異常だとよく聞く。


A+なら...とナメた考えで来たのが間違いだった...正直、A+でも持て余すだろうけども。


「2人は何を狙ってフレアちゃんに?ただ戦いたいだけで挑む相手じゃないと思うし」


わたしが答えようとした時、今わたし達がいる店の店主───先程るーがボコボコにした街人がコーヒーを3つ運んできた。


「さっきは悪かった、てっきり鉱石泥棒かと思っちまった」


ゴツイおじさんはテーブルにコーヒーを置き「これで許してくれ」と呟く。だっぷーは瞳に星が見えるレベルの笑顔でコーヒーを喜び、るーは普通に「もう気にするニャ」と言う。わたしは...、


「おじさん、わたしコーヒー苦手なんだけと!許して欲しかったら火山のマップデータくらいポンっと出してよ!あー知らない街でいきなり泥棒扱いされて散々だったなー!あーあーあーあー!」


コーヒーなんてキモく苦い飲み物で喜ぶのは、トリガーハッピーのだっぷーとワンコ連れてる義手の人間だけだ。


「フローここぞとばかりに、相手をゆするねえ!」


「んな!?だっぷーまでフローって呼ぶんか!」


「フローでいいにゃろ」


「うっせーなんだその耳!猫耳じゃなくて鬼角だろ!気持ち悪いわ変態みたいで!」


「変態ってゆーにゃら、だっぷーの装備もにゃろ!上半身水着みたいにゃろ!」


「本当だよ!変態2人とコーヒータイムなんて最悪だわ!」


「私に飛び火したあああ!」



ギャーギャー騒いでいると、店に残っていた、るーが喧嘩した街人達の1人がフォンを取り出し「この辺りのマップデータなら譲るよ」と言ってくれたので、わたしは速攻かぶりつく。


受け取ったマップデータから[オルベイア火山]を選びタップ、マップホロ化で表示し、噂のフレアヴォルがどこに生息しているのかだっぷーへ問いかける。


「火山のボスだしょ?やっぱ温度高い場所?このへん?」


一番暑そうな場所を勘で指差すと、だっぷーは顔を揺らし自分のフォンをさわる。


「オルベイア火山から入って下の方へ進むとね...地底火山があるんだよお。えっとね、ここ」


地底火山 とやらのマップを表示し、拡大された場所にフレアヴォルが生息しているらしいが...拡大された所で全然わからない。


「全然わかんにぇー。もうだっぷーも行こうニャ?」


「いいよお!暇だったし」


「え、いいの!?」


事細かに説明してくれてたし、誘っても来てくれなさそうなオーラ感じてたが、ナイスだるー。

だっぷーの気が変わらない内にそそくさパーティ勧誘をし、承諾。

片手剣の天才魔女エミリオ。

大剣使いの猫人族るー。

クールビズのガンナーだっぷー。

3人パーティが完成した。


「早速行こう!ほらクソ猫!溶けてる暇ないって!」


「溶けてたにょはお前だニャ、フロー。早くブーツ装備しろニャ」


急ぎフォンから武器や防具を出し、装備。

ポーション類の確認をしていた所で、だっぷーが思い出したかの様にクチを開く。


「あ、暑いマップだから防具は火耐性または耐熱効果のあるモノがいいよお」


「「 .... 」」


わたしの防具【シャドー】シリーズは闇耐性持ち。火耐性はない。勿論、耐熱効果とやらも無い。

るーは...見るからに無いだろう。


「ないならファイアプロテクのバフがあればいいんだけど、そんなバフ使える人があんまり...」


「フローどうニャ?」


「余裕。バフある」


試しに詠唱してみると、突然だっぷーが鋭い視線をわたしへ飛ばす。


「青髪で剣持ちの魔術師...噂の魔女?」


わたしは詠唱を一旦やめ、噂の魔女 という言葉に照れ答える


「あ、はい。最近噂の魔女です。噂の」


「だから独特な魔力なんだねえ!悪い魔女じゃないって聞いてたけど、魔女だし構えちゃったよお!バフ続けていいよお」



あら?もっとこう...魔女!?やべーすげー!ねぇ魔女ってさ! 的な質問攻めを覚悟していたのだが...あっさり終わった。


少々モヤモヤというか、不満な気持ちの中わたしは炎耐性+耐熱効果を持つバフを詠唱し、発動した。

身体に一瞬赤色の光が宿り、気温で上がっていた体温も平均値まで下がる。


「火じゃにゃくて炎か、やるにゃフロー」


「鬼猫と違って有能だしょ?」


るーが今いった火ではなく炎、これは結構大きな差だ。

火耐性だと中級魔術までしか耐性が働かないが、炎となれば上級魔術にも耐性が働き、耐熱効果の効力も大幅に変わる。

さすがにマグマに落ちるのはヤバイが、炎の中でも戦える上に火傷耐性も高く、火山を歩くには持ってこいのバフ魔術。


「うん!炎バフあるなら大丈夫だねえ!それじゃ街で必要なアイテム買って、地底火山へ行こう!」


だっぷー案内でオルベイアのショップを数件回り、飲み物やポーション、アイテム系を少し補充し、いざオルベイア火山へ。





オルベイアの街をエミリオ達が出発して数十分後、街に入る1つの影。


黒いフードケープと背中には剣を背負う影は水をあおり、門を見上げる。


「...だっるー、エミリオの魔力がここから移動してるじゃん」


黒いフードケープを外し、濃い緑髪を露にした女性剣士。

宝石の様な赤い瞳がゴツイ街人を捉える。


「ねぇ、ここに青髪のチビ女来なかった?....剣士かな?」


緑髪の女性はゴツイ街人を呼び止め情報を集める。


「青髪のチビ...あぁ、来たよ。少し前に火山へ向かったが、知り合いか?」


「まぁね。あ、もう1つ!そのチビは1人だった?」


「いや、えらくデカイ兄さんと、この街から1人ついていったよ。アレだったら連絡してみようか?」


「いやいや、ありがとう」


女性は礼を言い、ビンに残る水を一気に飲み火山らしき山を見る。


「火山、ね...」



呟き、女性は火山方向ではなく、レストランへ向かった。





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