◇113




肌を突き刺す太陽光。視界の先に見える景色が陽炎の様に揺れるイフリー大陸の平原...と言うには少々緑が少ない道を、わたしは猫人族と一緒に歩いていた。


ウンディーポートを出発した船はトラブルもなくイフリーポートへ到着。

目指す街はイフリーポートからそう遠くないが、出来る事なら馬車に乗りたかった...が、お金を貯めなければならない状況。極力出費を押さえるため徒歩で、今回の目的達成までの拠点となる街[オルベイア]へ向かってる。



「暑っ... 死ぬ、るージュース持ってないの?」


「ジュースかよ...にゃいニャ。すぐ着くから頑張るニャ」


平原の時点でこの暑さ。ターゲットが生息している場所は火山...考えただけでも溶けそうになる。大体、ウンディー大陸からイフリー大陸に入る際、気温変化に注意してください。等のアナウンスを船でするべきだろう。ウンディーの気温と比べれば、現時点で10~15度は違うぞこれ。


「フロー」


「...なに?暑いから喋りたくないんだけど」


フローじゃなくてエミリオだ!と言う体力も無く、わたしはダラダラ答える。

するとるーは前方を指差し苦笑いを浮かべた。

指先、わたし達の前方には赤茶色の猪が8体、こちらを見て唸りをあげていた。


最悪だ。

この暑さの中でモンスターと遭遇エンカウントしてしまうとか...戦闘なんてしたくないし、完全スルーして進み、もし挑んできた場合のみ相手をすればいいだろ...。

全部この鬼猫のせいだ。間違いなく、るーのせいだ。誰が何と言っても。


「るーのせいで猪にタゲられたんだから、ちゃんと処理してよ」


わたしは無理矢理るーへモンスターを押し付け、その場に座りフォンからベリージュースを取り出した。

フォンに収納してある食材系は現在居る場所の温度で保存される。ナマモノやアイス系は注意が必要。

取り出したベリージュースはぬるく、不機嫌な味になっている。


「俺のせいかよ、ってフロー、お前飲み物もってるにゃら俺から奪おうとすんニャよ!」


モンスターを押し付けた事より、飲み物を奪おうとしていた事を怒るか...。


「はいはいごめんなさい、んじゃモンスターよろしく」


猪の相手などしてる余裕はわたしにはない。

それにるーはどちらかと言えば戦闘狂。脳筋タイプだ。

大好きな戦闘をわたしが奪う真似はしたくないのだ。


「街ついたら、にゃんか奢れよフロー」


呆れ声でそう言い、るーは背中の大剣をホルスターから抜く。

武骨で飾り気のない大剣だが、刃からはただならぬオーラを感じ...なくもない。


るーが武器を構えた瞬間、8体の赤茶猪は土煙を巻き上げ、突進。

突進...るーの後ろにはわたしがいる。るーが8体全てを処理しなかった場合、猪はわたしへ突進攻撃してくるだろう。


これは...ダラダラと座り観戦している場合ではない。が、立ち上がる気力も、戦闘する気力もない。ここはもう任せるしか選択肢はないのだ。


「フローはそこで休んでるニャ」


るーは大剣を両手で持ち、大きく踏み込む。すると大剣は強い無色光を纏い、右から左へ水平に大きく振られた。


重く太い音と共に振られた大剣は、太く広い斬撃を赤茶猪へ...飛ばした。

飛ぶ斬撃...あれは確か、飛燕ひえんと呼ばれる戦闘スキル。

ディレイキャンセルや、わたしが使う魔法剣も言っちゃえば戦闘スキルの一種だ。


砂煙を斬り裂く鋭利な斬撃は飛燕により鋭い音を奏で8体の猪を通過する。

飛燕撃ヒットで6体の赤茶猪がその身を分裂されリソースマナに姿を変えるも、両端にいた猪はダメージを受けなお突進を続ける。斬撃の先がヒットした程度では、行動を停止させる程のダメージにもならなかった。


「チッ...」


猫人族は舌打ちを吐き、白髪を揺らし動く。

剣術を発動させ、すぐに行動するこれはディレイキャンセル...いや、違う。

ディレイキャンセルはその武器を持つ腕等から意識を切り離し、ディレイが終わるまで自分の身体に付いて回る邪魔なモノ扱いになるだけ。

行動は出来るが、自分の意思でその武器と腕を動かす事は出来ない。

しかしるーは今左腕を、大剣を肩に担ぎ、猪へ飛び込んでいる。


「...らぁ!」


気合いの声を響かせると大剣は微かな無色光を放つ。

1体の猪の頭叩き斬り、大剣は止まる事なく地面を叩き、るーを打ち上げる。

そのまま宙で身体を翻し、空中から先程より弱い飛燕撃を放ち、最後の猪を処理してみせた。


「にゃぐっ...。空中でディレイは勘弁してくれニャ」


着地と言うより、落下で戦闘を終えたるー。

どうやら最後の攻撃後、るーの全身は硬直...ディレイに襲われたらしい。さすがの猫人族もディレイには逆らえなかったか。


「お疲れ、今のなに?」


戦闘終了時の定番の挨拶を飛ばし、わたしは今るーが見せた動きの説明を求める。

飛燕はわかる。ディレイキャンセルもわかる。

しかしるーが見せた動きはディレイキャンセルではない。

剣術の途中、または終わりに別の剣術の初動が一致した場合、今発動中の剣術を切り、別の剣術へ繋げるスキルならわたしも出来る。しかしるーは剣を振り終えてから肩に担ぎ、剣術を発動させた。

水平斬りは振り終えた時点で剣術は終了、つまりディレイ対象になる。

ディレイの硬直、硬化を利用した防御方法は存在するものの、相手が攻撃時、必ず狙ってくる場所 を見抜いていなければ大変な事になる。


るーが今の結果をディレイ前に予想し、ディレイ直後に動かしたとしても、腰下から肩まで大剣を移動させ、走り大剣を振るなど不可能。


それに2体余す と予想していたのならばスキルチェイン───剣術から剣術へ繋げるスキルを使えばいい。



猫人族は妙に長いディレイを消化し、ショルダーベルトにあるホルスターへ大剣を戻し言う。


「今の?猪の名前は知らにゃいニャ」


「いや、猪じゃなくてさ、るーの行動。なんで空中...最後の猪を倒し終えるまでディレイが来なかったの?ディレイポイントは他にもあったと思うけど」


「んにぃー...こゆ時キューレにゃら何て言うかニャ?」



なぜキューレの名前が出てくる?ディレイ落下時に頭でも打ったか?


「あ、思い出したニャ。街でアイスを奢ってくれるにゃら教えてやるにょじゃ。アイスが情報料じゃニャ」



...もう猫人族語とキューレ語が混ざってグダグダなのじゃ。

まぁ戦闘も押し付けたし、その情報も知りたいし、アイスくらい奢ってあげなきゃバチが当たりそうだ。


「わかったよ、奢るから教えて」


「今にょは...キャンセルプラスってスキルだニャ」


「キャンセルプラス?どんな感じなの?」


質問すると、るーは大剣を再び持ち、単発剣術をカラ撃ちする。


「今俺はディレイ中にゃろ?この時にぃ、ディレイキャンセルして、すぐに次の剣術を使うのニャ」



ディレイ中にディレイキャンセルをして、剣術を使う?

なんだそのスキル。

そんなスキルが本当に存在するならば大変な事になる。剣術→ディレイ→キャンセル→プラス→ディレイ→キャンセル、と無限ループ出来ないか?


いや出来るだろ。


「多分フローの仲間も出来ると思うニャ。ただ、あんまりやらにゃい。理由はディレイからディレイキャンセル、キャンセルプラスの流れだと “発生中のディレイにキャンセルプラスで使った剣術のディレイが上乗せ” されるからにゃ。それにぃ連続でキャンセルプラスは使えにゃい」


「?...んーと」



ディレイ中にディレイ対象、剣の場合は剣を持つ腕から意識を切り離す[ディレイキャンセル]をして、すぐに剣術を使う。

これが[キャンセルプラス]と言うスキル。


①ディレイ→②キャンセル→③プラス→④ディレイの流れになり、最後のディレイは①の残りと④のディレイが同時に襲ってくる。


キャンセルプラスはディレイを消化するまで使用不可能。


って事かな?そうに違いない。


「理解したニャ?」


「理解した。これってスキルチェイン...ディレイが発生する前に剣術から剣術へ繋げるスキルで、剣術繋げ巻くって、ディレイになったらキャンセルしてプラスってのは出来るのかな?」


「やってみるニャ」


そう答え、るーは大剣を構え、剣術を発動させる。

剣術が終わる前、無色光が消える前に次の剣術を使う[スキルチェイン]、何度か剣術を繋げた後に最初の剣術のディレイがるーを襲った所で、ディレイキャンセル、そして...転んだ。


「無理ニャ!キャンセルはいけるけど、切り離した腕にまた意識を向けるとディレイににゃるニャ」


なるほど。チェイン→キャンセルは可能だが、チェイン→キャンセル→プラスをすればプラスが発動する前にディレイが復活し、今るーが見せた様に全身が硬直し転んでしまう。復活するディレイはキャンセル前の状態と言う事か。


「おっけー、わかった。実験ありがと」


剣術、体術のスキルはまだ存在しそうだ。

色々とスキルを知ればそれだけ戦闘時の幅が広がるのだが...まずディレイキャンセルを使える様にならなければ始まらない。勿論、わたしは使えない。

何度も挑戦したがスキルチェインよりも集中力が要求され、タイミングもシビア。

ディレイに逆らおうとすればディレイタイムが増加するという最悪な結果で毎回終わる。





デザリアの地下でレッドキャップと戦闘した時、ドメイライト騎士団本部での時も、もっと言えばギルド フェアリーパンプキンの雷狐プーが暴れた時も...。


わたしはハッキリ言って、何も出来ていない。


ここ最近わたしが相手にした人達は恐ろしく強い。もう装備の性能で押し切れる世界じゃない。

エミリオは魔女。と世界に広まったからと言って、魔術を乱用するのもダメだ。

わたし個人がどう思われようと知った事ではないが、矛先はわたしではなく、セッカやみんなにも向く。


魔術は使う。それがわたしの最も得意とする戦闘手段だから。でも、魔術だけに頼るのはダメなんだ。わたしは魔女だけど、冒険者だ。


スキルチェインの成功率も上げて、ディレイキャンセルも1/2...いや1/3でもいい。使える様になって、キャンセルプラスも覚えて、自分の戦闘スタイルを完璧にしたい。


誰にも迷惑かけずに、誰にも頼らず生きれる力が欲しい。とまで考えていない。

迷惑もかけるし、助けられたいし、頼りたい。

でも、迷惑もかけられたいし、助けたいし、頼られたい。


武具の素材集めを始めた今、わたしはここでワンランクでも強くなるべき時なんだ。


剣術、体術、魔女力ももっとモノにして、戦闘経験値や知識、感覚的なモノももっと磨き、レベルアップする時なんだ。



「...フローにゃに考えるかわかんにゃいけど、早く街いくぞ。腹へったニャ」


「わたしの成長への希望と主人公っぽい雰囲気台無しかよ!船で散々食い漁ってたのに燃費悪すぎだろクソ猫!」


「腹へったニャ」



....オルベイアの街へ行こう。




上質な鉱石が採掘できるイフリー大陸の火山、[オルベイア火山]の麓にある街[オルベイア]。

火山の街や鉱石の街と呼ばれている。

今回の旅の目的である【炎を宿した喉笛】をゲットするまで拠点となる街なのだが...到着する前から気付いていた。でも言わなかった。


今オルベイアに到着し、目的の素材を入手するまでここで生活する事を考えれば...言わずにいられない。


わたしはオルベイアの街の入り口、アーチ門に書いてある[鉱山・火山の街 オルベイア]という文字を溶けた眼で見上げ、声を溶かした。


「さすがに暑すぎるだろ...」


暑いのは覚悟していだが、覚悟が足りなすぎた。汗ももう出ないのではないか?と思う程暑く、今のわたしの装備には帽子はないので日光が直接頭を刺す。


「早くにゃんか飲もうぜフロー」


同じく、溶けなくなりそうな猫人族のるー。背負っていた大剣をフォンポーチへ収納し、猫背を越えた、ゾンビの様な歩き方でわたし達はオルベイアの門を潜った。


同じイフリー大陸の街、デザリアとは一風変わった街並み。

木材素材がほぼ無く、石材で作られた建物が並ぶ。


門の文字も石を削って作られていたし、ここは木材より石材が主流なのか...


「フロー、あそこ入るニャ」


わたしの意見も聞かず、るーは石材の建物へ吸い込まれる。

宿屋と繋がったカフェなのか酒場なのかレストランなのか...とにかく宿屋で飲食商売している店に違いない。


猫人族を追うようにわたしもその建物へ向かう。ドアも薄い石材で作られていて、それなりに重みがある。

地面を擦り押し開けられたドア、中へ入ると...先に入っていたるーが、大人達にハンマーや斧、謎のドリルを向けられ、囲まれていた。


「あ...間違えましたゴメンナサイ。ごゆっくり」


わたしはそう残し、一礼して店を出ようとした。

しかし石材のドアの前に同じ様にドリルを構えた大人が2人、わたしの帰り道に立ちはだかる。


...あのクソ猫、なにやらかしてくれた!

お前のせいでわたしにまでドリルの恐怖が向くじゃないか!ソロじゃないんだがら行動

や発言には責任を持ってほしいものだ!


「お前等、その格好からしてこの大陸の者じゃねぇな?」


リーダーっぽいオッサンがわたしとるーを見て怒りの秘めた声を吐く。


デザリアから来ました!

と言うべきか...いや、バレたらドリルの餌食になりかねない。ならここは...最近デザリア軍に派遣された者です!

...ダメだ。その後に続く言葉が思い浮かばない。


「にゃにイライラしてるニャ?そんにゃに怒るにゃって」


結構な武器を向けられているにも関わらず、るーは呆れた雰囲気を醸し、発言した。


「何しにこの街まで来た!?」


集団の中で結構若手っぽい奴が質問を飛ばしす。ここが攻めるチャンスだ。


「わたし達は」

「俺達は炎犬を探してるニャ。でも...この街には狂犬しかいにゃいみたいだニャ」


うぉーい!

るー何で喧嘩売ってんの!?

ここに来た理由を話して、次はこっちが質問する感じが理想的な流れだったのに...このバカ鬼猫、やってくれる。


「炎犬を探してるって事はお前等、冒険者か?」


「鉱石泥棒に見えるニャ?見えるにゃらお前の眼は石ころ以下だニャ」


暑くて喉カラカラでお腹減ってると、るーはイライラするタイプか...もうどうなっても知らない。

わたしは逃げるからな。


「お前等のランクは?」


「お前より上ニャ」



質問に対する返事をるーは喧嘩腰で答え、予想通り相手も喧嘩腰になり、その後はもう。



そして。




「で、るーさん。ぶん殴った後どーすんの?」


「こいつ等が喧嘩売ってきたニャ、そんな事よりにゃんか飲もうぜ」


この猫人族、人間...それも冒険者ではない相手にも容赦なく体術を使って、多数の大人をノックアウトし宿屋兼酒場を制圧してしまった。



「やっほーい!頼まれてた石食い蜘蛛倒して来たよぉ...おぉ?」



やっちまった的雰囲気が充満する酒場に元気よく登場した女性。暑い大陸なのはわかるが...露出度が高い上半身が水着の様な装備で外を歩き、ここまで来たのか?

高めに結ばれたポニーテールをユサユサと揺らし、倒れる街人を確認。目立った傷や異常がない事を確認し、次はわたし達を見る。


右腹部にロゴタトゥーを持つ女性は、わたしより年上だろうか。


装備中のグローブを確り装備し、 ブーツの踵で地面をコツコツ叩く。


「この人達に何かしたのは2人?」


知り合いがやられた!と怒ってる様子でもなく、ただ聞いて来た感じ...わたしは親指で隣の猫人族を指差し、自分関係ないですオーラを出した。


「ちっちゃい方は関係ないのねぇー!りょーかい!」


直後、ブーツで地面を蹴りその場で跳び、宙で身体を捻り、るーへ蹴りをお見舞いした。


「にゃん!?」


突然の攻撃だったが、突然現れた女性に警戒...とまで言わないが注意していたので、るーは反応が遅れる事なく両手をクロスさせ蹴りをガード、数センチだが後ろへ押された。


勢いもつけずその場で跳び、身体を捻り放った蹴り。

体術スキルの高さは今の動きでわかる。そして...体格差のある男性を数センチでも後ろへ押す威力。コイツは何だ?


「にゃんだいきなり」


「仕返し」


そう言ってウインクを一撃放った女はすぐにるーへ攻める。

右拳を煙らせたかと思えばすぐに蹴りが迫る。るーは回避、ガードでやり過ごすも女の猛攻は止まらない。

蹴り後、るーは女の腕を掴み動きを止め、攻撃ではなく言葉を放つ。


「にゃんだお前」


「みんなを倒したのは鬼さんでしょおー?みんなの仕返しだよおー」


女はそう答え、右足───正確には右足に装備しているブーツへ無色光を纏わせ スパンッ と抜けのいい音を響かせ鬼猫を蹴り飛ばした。

石材のドアは開いたままで、るーは蹴りで発生したノックバックをうまく使い、外へ出る。


「逃がさないよおー!」


女がるーを追うため外へ1歩出た瞬間、女の横─── 石の壁に鋭い傷が入る。


「にゃんだか知らにゃいけど、まだやるにゃら斬られても文句言うにゃよ」


外へ出た時、フォンポーチから黒銀の武骨な大剣を取り出したるーは、牽制の斬撃を放ち、女に考える時間を与える。


「大剣使いなんだね!私は...コレにゃん!」


女がフォンから取り出した武器は魔銃、ワンハンドで扱えるリボルバータイプ。


「んニ!?」


焦り色が強い声を溢し、るーは右へ飛び込む様な回避。

回避に入ると同時に破裂音が3発響く。


「にゃーん!この距離で回避したすごぉー!」


驚き顔だがフリーズ等はなく、シリンダーへ弾薬をリロード、再びるーへ銃口を向け放つ。リボルバーが破裂音を吐き出す中、左手でフォンを操作し、女は別の魔銃を取り出した。


大きさ的にロングボウガンかライトボウガン。冒険者セシルが使っている魔銃、ヘビィボウガンとは比べるまでもないデザイン。


「次のは回避できるかなあー?」


右手のリボルバーを放り捨て、大型の魔銃を身体の横で構える。身体の横まで移動させる際にガシャっと鉄っぽい音が聞こえた...多分リロード音だろう。

わたしは止めるべきなのだろうけど...魔銃が使われる戦闘を数回しか見た事がない為、観察する事にした。


「るー、死ぬなよー!」


わたしの声が響いた後、すぐにダン、ダン、ダン、と先程より重い破裂音がオルベイアの街に響く。


銃弾の速度は先程より遅い。しかしるーの前で銃弾がスライムの様な姿に。


「にゃんだこれ!?」


鬼猫は驚くも、スライムを2つ大剣で斬り捨てる。しかし撃たれたスライム弾は3発。

ラスト1発はるーの足にヒットする。


「鬼猫捕まえたあー!アメーババレット、カッコイイでしょおー?」


女は魔銃の銃身...と言うのか?左手で銃を支えているハンドグリップを前後に素早く動かし、空っぽになった弾薬を吐き出させた。るーにヒットした アメーババレット やらは打撃に似たダメージらしく、血は出ていないが射たそうな顔をしている。

あの感じから、アメーババレットはダメージ重視ではなく、デバフワザ。鈍足や拘束系の銃術だろう。そして、ハンドグリップを動かす行動が装填と見て間違いない。


「終わりだよおー...」


銃口を猫人族へ向け、ハンドグリップを引く。先程より遅く重そうにハンドグリップを引いていくと、銃が無色光を溢れさせ、銃口に無色光が集まる。


「...、フロー!」


るーがわたしを呼び(もうフローでいいや)、眼線を横へ送る。わたしが辺りを軽く見渡した瞬間、今まで感じた事のない感覚、マナを濃く凝縮した様な感覚がわたしに届く。


「せーの、ランバートショット!」


女が叫ぶと魔銃は薬莢を吐き出し、銃口に小さな無色の...魔法陣に似た円形の何かを展開させる。

直後、轟音を響かせ銃撃とは言えない規格外な銃弾が放たれる。


銃弾の大きさはアップルやオレンジ程、それが3発不規則な動きでるーを狙う。


「フロー!!」


るーは自分に迫る弾丸を睨みつつ、再びわたしの名を叫ぶ。

わたしは答えず、唇を忙しく動かす。


るーは足にまとわりつくアメーバを体術───拳術で弾き飛ばし、ランバートショットやらを回避する。


回避され標的を失った弾丸はオルベイアの街を。

時間は昼過ぎ、街には人も沢山いる。


喧嘩するのはいいけど、もう少し考えろってか、わたしに迷惑かけるなよ。


二度目るーに呼ばれた時、わたしは魔術の詠唱を開始していた。るーが回避または処理出来なかった弾丸を処理する為だ。

緑色の魔法陣が展開し、風の矢が弾丸へ迫る。矢は弾丸の中心を捉え、空へ打ち上げたると、弾丸は爆発。

何かに接触すれば爆発するタイプの銃弾でよかった。ホーミングタイプならば、もう少し派手な魔術を使わなければ街にも、最悪街の人々にも被害が出ていただろう。


「にゃんとかにゃったニャ。よかったよかった」


「あっぶなあー...回避される何て考えてなかったから、びっくりしたあー!」


「終わり終わり!わたしジュース飲みたいし、もう魔術使いたくないし、まずクソ猫から話を聞いて、それで納得いかないなら街の外で喧嘩しろよ。わたしを巻き込むなっての」




もう勘弁してくれ。

喧嘩するためにクソ暑い大陸まで来たワケじゃねーっての。




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