◆111





わたし、エミリオが魔女だと世界に発表されて2週間ちょっとが過ぎ去った。一時は公開処刑されそうになった身だが、不死身フェニックスエミリオ様はバリバリ生きてます。


騎士団本部も以前より素敵?な進化を遂げ、職人や冒険者達はウンディー大陸へ帰り始める。

仲が悪かった冒険者と騎士は...仲が良くなったワケではないが、以前より争いは減った。

理由は色々あるだろうけど、まぁセッカがいい感じに何かして、ノムー、ウンディー、イフリーが良い関係になった。



四大陸が1つになる日も、人間界が1つになる日も近いのかな...。



と、まぁそんなスケールが大きい難問はセッカや頭のいい人達に任せて、わたしはわたしのやるべき事をするまでだ。



超絶ムカつく犯罪ギルド レッドキャップの悪巧みを邪魔しまくって、最終的に[黄金の魔結晶]をレッドキャップから奪う。



せっかくいい感じに人間界が進み始めたんだ。[黄金の魔結晶]とか、そういう危ないモノは必要ない。

出会った頃セッカは[黄金の魔結晶]を探し出して破壊する。って言ってたし、わたし個人、レッドキャップにムカついてるし、邪魔するついでに魔結晶を奪ってセッカに渡そう。



その魔結晶を持つレッドキャップは今、妖精エルフの情報を集めているに違いない。

皇位情報屋のキューレでさえ、妖精についての詳しい情報を知らなかった。レッドキャップも同じ状況と考えていいだろう。



情報を集めてから動く方が目的達成率も変わる。今日、わたしは半妖精ハーフエルフから妖精エルフの事を聞いてから今後の進み方を決めるつもりだ。







太陽光を全身に浴び、この上なくダラダラしていると、ドメイライト二階層からギルド フェアリーパンプキンの3名が階段を降りてくる。


黄金色のショートヘアを持つ魅狐みこのプンプン。


足元には小型犬と変わらない大きさのS2ランクモンスター、フェンリル。


魅狐プンプンの隣には、ローズクォーツ色のサイドテールを揺らす半妖精ハーフエルフのひぃたろ。



「おーい!」



3名へわたしは全力で手を振る。普段なら、あの3名の中にフェンリルのマスター、人間のワタポが居るはずだが...。


「エミちゃーん!ワタポは騎士と話してるよー!」


応答し、こちらへ向かってくるのは魅狐のプンプン。

金色から銀色になる雷狐。

身長程の長刀を背負った冒険者で、冒険者ランクはB+だったか?


「今日はワタポに用事じゃなくて、ハロルドに聞きたい事があるんだ」


ハロルド─── ギルドマスターで半妖精のひぃたろを見てわたしが言うと、ローズクォーツ色の瞳をキュッと細めた。


妖精エルフの森ってどこにあって、どうやって行くの?」


言葉のキャッチボールも駆け引きもなしに、わたしは本題をぶつけた。すると半妖精はため息を吐き出し辺りを軽く見渡す。周囲に居る人達だけではなく、ハイディングしている者はいないか、盗み聞き───ピーピングしている者はいないか等の確認をし、ついに妖精の話を聞ける時が。


「ウンディー大陸にある[迷いの森]の噂は聞いた事ある?」


半妖精ハーフエルフのひぃたろ ことハロルドがフォンでマップを開き、立体ホロ化させ言う。


冒険者じゃなくても[迷いの森]の噂話は耳にする程有名な話題。抜け出せなくなる系ではなく、進めない系の話だったハズ。噂話しか聞いた事ないが、ケットシーの森 を攻略したわたしの手にかかれば[迷いの森]なんて庭みたいなものだろう。余裕。


「ここがバリアリバル、ここが森。エミリオ、言っとくけどケットシーの森とは比べ物にならないわよ」


立体マップを指差し場所を教えてくれたハロルドだったが、わたしの表情を見て「コイツ舐めてるな」と察知したのか、一言添え、呆れた表情を見せるも、半妖精は話を進める。


ウンディー大陸にある[迷いの森]、これは別名で正式名は[ニンフの森]らしい。

その[ニンフの森]の先は断崖絶壁。そこを越え、また森を進めば妖精エルフの世界、[フェリア]に到着するらしい。


問題はその断崖。

橋もなく、ジャンプレベルでは谷底へ真っ逆さま。

成長している木々が邪魔をする様に伸び、渓谷を吹き抜ける風が橋製作を阻止する。

翼、翅を作り出す魔術[エアリアル]でも、制御できなければ風に叩かれ落下死...。


「ニンフの森はマッピングが機能しない。悪戯好きなフェアリーが沢山いるわ。人間側から進むと断崖が一番の難所だけど、妖精側から見れば断崖なんてかわいい。妖精側にある断崖付近にはコイツが居る」


ハロルドはマップを閉じ、モンスター図鑑を見せてくれた。


「え...これ」


わたしより先にモンスター図鑑を覗いた魅狐みこのプンプンが声を溢した。

プーを横眼に、わたしもモンスター図鑑を覗く。


「...おわ、カッコイイ!」


そこには黒紫色の鱗を持つ4本角のドラゴン。

翼や背、尻尾は刺々しい鱗で被われている。

名前も情報も未記入な事から、このドラゴンの存在を知っているのは妖精エルフ達だけか?

少なくとも人間や魔女は知らない。


「このドラゴンが厄介なのよ。人間側から進むと断崖で足止め、でも妖精側から進むとこのドラゴンで足止めされる」


ハロルドの言葉を聞く限りで想像すれば...、


森→断崖、谷、断崖→森→妖精。 といったルートか...。


この断崖を攻略、谷を渡った先に噂のドラゴンが待ち構えている事になる。

待て待て、ドラゴンよりも、どうやってあっち側に行くかが最初の問題だ。



「...ニーズヘッグ」


見た事もない断崖渓谷をスペシャルジャンプする妄想で頭をいっぱいにしていると、魅狐のプーがモンスター図鑑から眼を離さず呟く。


「ニーズヘッグ?」


「なにそれ?」


半妖精がリピートし、魔女のわたしが魅狐へ質問した。

ニーズヘッグ...なんかの料理名か?

プーはわたし達の言葉に頷き、モンスター図鑑の黒紫のドラゴンを指差す。


「このドラゴンの名前が[ニーズヘッグ]って言うんだよ。ランクは最大のS2」


ここでわたしとハロルドは思い出す。今まで狐ビリビリのプーを見ていたから忘れていたが、プーは魅狐だけど、竜騎士族の里で育った。

竜騎士族の里で色々なドラゴンを知ったドラゴン博士の狐だ。


「このニーズヘッグ?ってのはどうなの?大型のドラゴンって時点でS2は覚悟したけど、強いの?」


「ボクも実物を見た事ないけど、昔読んだ本には確かこう書いてあった。一定範囲を縄張りに活動するドラゴンで、縄張りから出るのは数百年に1度。ローレルって名前の黒い樹を食べちゃった食いしん坊のドラゴン」


ローレル...月桂樹を食べたドラゴン?

どこかで聞いた事ある様な、ない様な...とにかく[ニーズヘッグ]の縄張りに入らなければ問題なさそうだ。入っても逃げ出れば追って来ないだろう。


S2ランク。

ダンジョンのボス、ハルピュイアは子供を食べてS2クラスになった。でもわたしは純粋なS2と、まだ戦った事ない。

まぁ冒険者ランクがC+から全然上がってないエミリオさんには...。


久しぶりに自分の冒険者ランクを確認してみた所、なんとC+からA+まで上がっていたではないか。


「...、ね、2人のランクどなってる?」


何かのバグか?と思い、とりあえず眼の前にいるハロルドとプーにもランク確認をお願いしてみた所、2人もB+からA+まで上がっていたらしい。


クエストも全然やってないし、むしろ[太陽の産声]を失敗している。それからクエストは簡単なモノを数回...なぜ上がっている?


「冒険者のランクアップ基準....と言うか...評価の枠が...広がった?」


ポツリ、ポツリとハロルドが呟き、途切れた言葉をプーが繋ぐ。


「かもね。ユニオンが1回ダメになってから、セッカちゃんが女王様になって、色々変わった部分もあると思うし...猫人族達が話してくれたり、ダンジョン攻略パテの話とか聞いて、ランクアップに繋がったとか?」



なるほど。

確かにそれっぽい。デザリアが襲撃してきた時も頑張ったし、プーが暴れ狐になった時も頑張ったし、クエスト結果以外も評価対象になるのか。

この点だとワタポもA+になっているだろう。



「まぁランクの話は置いといて、妖精エルフ達が住む[フェリア]まで行くにはエアリアルを完全にマスターしてるフェアリー種族以外は無理よ。翼でもあれば別だけど」



翼や翅を造り出す噂の魔術 エアリアルを操る半妖精が話を戻してくれた。

自在に操れる翅や翼があれば越えれる。翅も翼もない人間達には無理で、レッドキャップの狙いが[妖精の浄血]だと知っても、ハロルドは顔色1つ変えなかったのか...いや、妖精と半妖精。わたし達じゃ解らないしこりや、わだかまりがあるんだろう。



「おっけ、ありがとね!とりあえずその断崖絶壁を自分の眼で見てから考えるとして...レッドキャップも簡単には行けないなら、安心だ」


「行く行かないはエミリオの勝手だけど、私はオススメしないわよ。妖精なんて会った所で、同種以外の話を聞こうともしないし、他種族は敵扱いされて終わりよ」


「よゆーよゆー、ありがとね」


わたしは2人へそう言い、クゥの頭をグシャグシャしてフェアリーパンプキンと別れた。



レッドキャップも簡単に到着できないであろう妖精達が住む[フェリア]。

どう行くかは後々考えるとして、わたしの中で優先順位が変わった。


なんにせよ、ウンディーに戻らなければ何も始まらない。



「まだ船は...あるね、んし」



フォンで時間を確認し、わたしは馬車でノムーポートまで移動、そこからウンディーポートまでの船に乗り、ホーム大陸へ戻った。





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