-炎を宿した喉笛-
◇112
ミスリルインゴット(大)×1
炎を宿した喉笛×1
優雅な風切り×1
濃霧の秘棘×1
地核鉱石×1
「そのリストが武器の素材だね、ミスリルは【氷樹の細剣】をインゴットにすれば出来上がる」
室温が妙に高い、芸術の街 アルミナルにあるビビ様の鍛冶屋。
ファンキーな外装で一見ヤバそうな店だが、武具やアクセサリー加工、高性能な義手義足を作り出す天才的な鍛冶屋だ。
「エミリオちゃんも大変な武器を狙うとか、やるねー!」
ノムーから船でウンディーまで戻り、ウンディーポートから馬車に揺られ揺られて、常人にはとても理解できない芸術センスを持つ者達が集まるウンディー大陸の街、[芸術の街 アルミナル]へわたしは来ていた。
目的は武器と防具の生産。
必要な素材もわからない状態なので凄腕鍛冶屋ビビの店に顔を出し、武器素材を聞いた所で、うるさい男───見た目は女だが男の鍛冶屋、ララが会話に参戦してきた。
鍛冶屋ってヤツは男なのに女より綺麗で、なんだこの生き物は。
「なんでララがいるの?自分の店は?」
「ビビの店のほーがモノがいいからね、それに私もこの街で店を構える事にしたんだ」
質のいい鉱石がとれるイフリー大陸を拠点に、鍛冶屋をしていた皇位スミスのララ。
しかしデザリア軍は軍力や兵力の底上げを重視しなくなり、鉱石の流通量も増え、冒険者をターゲットにしつつ、他大陸の間にあるウンディーが一番稼ぎやすい場所に。
ララは元々ウンディーの人間らしく、この街にもすぐ溶け込む。
皇位情報屋キューレの話だと、スミスとして2人に差はほとんど無い。
言うならば、ビビはデザイン性が高く、ララはカラーバリエーションが豊富。
皇位の称号を持ってるのはララだけ。
「...ね、なんでビビ様は皇位拒否したの?てか皇位ってどんな感じなの?」
皇位イコール凄い。
それは雰囲気で理解していたが、皇位を持つ事で何が変わるのか。気になったわたしは2人へ質問をぶつける。すると2人はリレーする様に答えた。
「皇位を持つと優先的にいい素材が回ってくる。称号を知った客が足を運ぶ」
「でも皇位になるとどこかの組織、軍や騎士に雇われる場合がある。だからビビは蹴った」
ララ、ビビの順番で答えてくれた2人。
皇位を持てばレア素材等が回ってきてプラスになるが、雇われると言う事は、人殺しに特化した武器を生産させられる事になる。
お金を貰う変わりに人を殺す。
そんな感じか。
「...皇位はお偉い方々が話し合って、誰に称号を与えるか決める。でも最近、国が仲悪くて皇位は誰にも与えられてない。ま、今も簡単には与えられない称号だけどね」
風船ガムをプクプクふくらまし言うララ。
皇位補正が入るなら、簡単に称号は送られないだろう。
「マスタースミスは10人くらいいて、マスタースミスは実績を残し続ければ必ず辿り着ける場所。その10人が皇位対象で、送られたのは3人。皇位を受け取ったのは2人だけ」
次はビビ様が一服しながら言った。マスタースミスは冒険者ランクみたいなモノで、そのマスターが皇位対象か...3人に送って2人しか皇位を受け取らなかった...蹴ったのはビビ様、受け取った1人はララ、あと1人は?
わたしの表情をから質問を予想したマスタースミスと皇位スミスは、声を揃えて言った。
「「 スウィル 」」
「スウィル...って、あのレッドキャップの羊!?」
聞き返すと、同時に頷く2人。
まさかレッドキャップに皇位持ちが居たとは...騎士団長もレッドキャップだし、想像出来ない事ではないが、驚いた。
犯罪者が皇位...
「ね、その皇位ってのは没収したりできないの!?犯罪者を評価してる感じはどうかと思うし」
「無理」
ララが即答すると、ビビ様が繋げる。
「一度受け取った皇位は返せないし奪えない。元皇位とか現皇位とか、ややこしくなって混乱しちゃうし、嘘もつけるからね。だから受け取った皇位はその人が犯罪者になろうと残る。死んでもね」
結構な話だ。
犯罪者が武具を欲しがれば、皇位持ち犯罪スミスに依頼する。
犯罪商人もレア素材をスウィルに流す確率も高くなるし、悪巧みしてる人ならスウィルに色々と流す。
犯罪者になろうと皇位が持つ称号の魔力は強い。
「さ、仕事仕事!エミリオはビビから武具素材聞いたんだし、集めに行きなよ!」
「まって、防具素材聞いてないってば!」
追い返されそうになる中、重要な防具素材を聞いていない事に焦り、ビビ様へ視線を飛ばす。
すると、
「あー、防具に使う素材はレアな素材も今ビビ持ってるんだよね。買い取るなら保存しとくけど...あ、1つだけ素材がない」
買い取りたいが、まずはこの話題だ。わたしはフォンを取り出し恐る恐る言葉を吐き出した。
「あの、買い取りたいんだけども、武器と防具のお値段は?」
「武器は素材持ち込みで、250万ヴァンズ。防具は素材買い取りと1つ持ち込みで、250万、合計500万ヴァンズかな。防具素材も全部集めるなら100万くらい下がる」
「色入れするなら、武器は20万固定、防具は色種や配色数にもよるけど...1万~60万まであるよー」
わたしもそれなりに強いモンスターを狩れる様にはなってきたし、ランクもA+。
必要ない素材を売ったりしてお金も貯まってきた所だが、500万て、ワタポの手くらい高いじゃんか!
それに色染めが1万~50万ヴァンズって、ぼったくりのレベル越えてる気すんだけど!ステータスへの影響もプロパティ上昇もないのに、なんだその値段!やってもらいたいけども!
「あ、ワタポの初代義手が600万、二代目がドッキング部分も冒険者専用みたいな感じにしたから、1200万だったんだよね。二代目壊れたって聞いたけど、修理や強化が可能な作りにしてあるし...みんな次のステップに進んでるね」
「なんでみんなお金持ってんの!?金銭感覚バグってるって!」
「「 A+からは頑張れば1000や2000貯めれる。S3なら頑張れば5000貯めれる 」」
このクソ鍛冶屋。なにが1000や2000貯めれるだ!
500万の時点でイカレタ性能の武具じゃなきゃ買わねーぞ!
「エミリオが今回作る武具は、一生使える武具のベースになるモノなんだよね。冒険者や騎士は必ずこの500万コースの武具を生産して、それを強化やリファインしてランクを上げる。言い換えれば今回の武具を作れば、武具生産からは卒業。アクセやマテリア生産は一生ついて回るけどね」
ビビ様の言葉を聞いて、わたしの中で何かが反応した。
「...みんなはそれやったの?」
わたしが言った みんな は、ワタポ、ハロルド、プーの事だ。
ビビ様もそれに気付き、答える。
「プンプンとワタポは前回の時点で防具だけね。ひぃたろは防具の準備を前回済ませてる。エミリオと同期ランクも今回からベース作りを始めるかな」
「簡単に言えば、自分専用の最強装備を作る為のスタートが、今回の500万コースだよ」
ビビ様とララの話を聞いて、わたしの答えは出た。
何を迷っていたんだ。
こんなチャンス逃すエミリオ様ではないだろ。
「作ろう、最強装備。最強装備がなきゃ始まらないし、やっぱ装備は最強じゃなきゃね」
親指をビシッと立て、素敵な返事を返す。
現在の所持金は...うん。
「そだ、エミリオ!私この街に店を構えるって云ったじゃん?使わない素材あるなら買い取るよ!」
「なぬ!?是非全部買い取ってください!」
「あ、ビビも欲しいのあるかも。見せて」
◆
手持ち、倉庫の素材を2人の鍛冶屋に買い取ってもらい、所持金が30万ヴァンズまで潤った。目標最低金額は500万v、出来る事なら800万vくらい貯めて、武器や防具の色も拘りたい所だが...。
素材&お金集め頑張れ。で、武具修理を無料でしてくれたビビ様、現在武器を持っていないわたしはララから剣を借りた。
AGI《敏捷》VIT《体力》が上昇する効果と、
AGIが上がればいつもより早く身体が脳の命令を聞いてくれる。VITが上がれば単純に体力が上がるイコール普段より長く活動、行動できる。
[ドレイン]は...攻撃すれば何かを吸収するのか?HPやMPを吸収し、回復してくれる有能スキルだとわたしは予想している。
細剣ではなく剣だが、武器なし状態で狩りに出るよりはいいし、細剣をその辺りのショップで買うと1万~10万くらいだが、買いたくない。
刃に黒のギザギザ模様を持つ剣を背負い、わたしはアルミナルから数ヶ月ぶりのバリアリバルへ。
木製の橋は素材が木材にも関わらず、石の様に堅く、飴色の光沢を持つ。
その橋を渡れば自由の街、冒険者の街、女王の庭、色々な呼び名を持つ街 バリアリバル。
懐かしささえ感じるバリアリバルの街並み。行き交う人々は冒険者だけではなく、他大陸から来た者も増えた。
日々世界事情は変わる。数ヵ月前までは冒険者の方が多く見えた街だが、冒険者以外も今は見てとれる。
こうして人が集まり、繁栄を続けていくのが世界。
魔女界では考えられない事だ。
「フロー暇か?」
バリアリバルに浸っていると、背後から声が届く。
わたしの事をフローと呼ぶのは...
「暇そうに見える?るー」
猫人族の大剣使い。自身のステータスを上昇させるディアを持つ、元黒髪、現白髪の鬼猫のるー だ。
角の様に尖り堅い猫耳をポリポリ掻きながらるーは笑う。
「フローはいつも暇そうな顔してるニャ」
上半身は包帯、下半身は以前装備していた和装備のモノを使っている謎のセンス。肩にかけられたベルトで背中の大剣を固定している。
「そのファッション凄いな...」
「服がにゃいから包帯を服変わりにしてるだけニャ。気にするニャ」
そう答える鬼猫るー。
包帯を服...防具変わりに使うくらいなら、その辺で弱くても戦闘用防具を買った方がDEF《防御力》が高いだろ...。
長く伸びた前髪を右眼にかけているのはデザリアで悪魔ナナミと戦闘した際、右眼を斬られたから。
るーの眼もワタポの手も、わたしのせい...なんだよね。
「格好いいにゃろ?片眼で暴れる感じ」
「は?」
「フロー両眼ちゃんと見えてるか?」
「え?、うん」
「そかそか」
なんだ今の会話...と思った瞬間、わたしの記憶が巻き戻った。
デザリアで眼、[魔女の瞳]を奪われたが、時間をあけずにるーが取り戻してくれた為、わたしは今も自分の両眼で、眼の前の世界を見る事が出来ている。
お礼の1つくらい言わなければ雷が降ってきそうだな。
「るー」
「お?やっぱり暇かニャ?にゃら...コイツ討伐付き合ってくれニャ」
わたしの話を聞こうとしない鬼猫るーは、フォンを操作し討伐対象のデータを送ってくる。
ランクはA+の火山地帯に生息するボス...───フレアヴォル!?
わたしは急ぎ素材リストを確認する。
「...このフレアヴォル?ってのから【炎を宿した喉笛】ドロップするよね?」
ビビララに素材の入手場所を質問した時、この【炎を宿した喉笛】のモンスターだけ知っていた。
イフリー大陸の火山に生息している【フレアヴォル】からドロップすると、わたしは聞いた。
「そうにゃのか?フローはその口笛狙いかニャ?」
わたしは無言で頷き、皇位情報屋のキューレ様へ素材メッセージを飛ばしておいた。
キューレといつ会えるかわからないのでメッセージに2000ヴァンズ添付し、送信。
足りないと言われれば追加で支払えばいい。
送信完了を確認し、最近存在を知った【フォン専用ポーチ】へ収納する。革素材で作られた薄型の箱と言えばいいのか...ベルトポーチに装着、または足のどこかに装備するフォンの為だけのポーチ。
ここへ来る前にララからプレゼントしてもらった旧モデルだが全然使える。
「炎犬がいるのって、イフリーの火山よね?詳しい場所わかる?」
鬼コスプレの猫人族へ場所の詳細を質問すると、るーはマップを立体化させる。
魔術の立体マップに比べれば、マップのみを立体化させるのでレベルは低いが、それでも充分に助かる。
フォンの新機能は術式の様な文字が書かれたカードを購入し、自分のフォンへ入力する事で追加される。日々進化しているのは人だけではない。
魔女界にもフォンは存在するが使っている者はまずいないので、こういった新たな発見や進化が毎回楽しくなる。
「俺の持ってるマップにゃと....入り口までにゃらわかるニャ」
そう話し指で噂の火山入り口を叩き、親指と人差し指を付け指を広げると拡大される。
[火山の街 オルベイア]
鉱石、鉱山の街とも呼ばれ、上質な鉱石が採掘される街。
[オルベイア火山]は普段、立ち入り禁止とされている。
「...このオルベイア火山?に炎犬がいんの?」
「そうにゃ。イフリーにゃもっと大きな火山も存在するけど...今そこに用事はにゃいし、お互いターゲットが一緒にゃら、一緒にどうニャ?」
「...るーの目的素材は?あれだったらお互いの目的素材を交換するスタイルでどう?討伐クエ...じゃないしょ?」
討伐系クエストの対象が炎犬ならば、クエストリストを見せてくるハズ。モンスター図鑑を送ってきた事から、ほぼ確定で素材集めという事になる。
「交換するにゃら、お互い運が必要ににゃるニャ...俺の目的は[魔結晶]で、フローの目的は[炎を宿した喉笛]、両方ドロップ率は低くて大変ニャ。ちなみにぃ、フレアのリポップ時間は5日ニャ」
【炎犬 フレアヴォル】を討伐した際、マナ集まり再び召喚されるまで5日もかかるらしい。ここは一撃でドロップしたいが...レア素材&魔結晶となれば相当なLUKが要求される。わたしは我慢強くない方なのでヤバイ...。
「もし、もし初戦でドロできなったら火山でキャンプ!?」
「それはハードすぎるニャ。オルベイアを拠点にぃ、何度も火山へ行くしかにゃいニャ」
見知らぬ街を拠点にモンスターを討伐...上級冒険者っぽい響きにわたしはテンションが上がり、猫人族とパーティを組む事を決めた。
「パテリダはわたしね、るー部下ね」
「にゃんでもいいニャ」
フォンを操作し、るーをパーティ勧誘する。
フレンドリストに登録している者や自分の周辺にいる相手をパーティ勧誘出来る機能だが、周辺にいる者を勧誘する場合は名前が表示されない。
自分が今いるマップが表示され赤点で勧誘相手を判断しなければならない。名前を聞き、入力する事で、周囲にその者がいればパーティ勧誘もフレンド登録も飛ばせる。その場でパテを組む場合は名前を聞けば早い。
るーはフレンド登録済みなので問題なく進み、炎犬討伐パーティが完成する。
「準備は?」
「街で最終確認して火山はいるし、大丈夫ニャ」
「ん、じゃウンディーポートからイフリーへ行きますか」
冒険者になると決め、ドメイライトを旅だって数十ヶ月。
あと数ヶ月で一年が経つ。
ウンディー大陸は少し肌寒い風が吹いていた。
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