◆88




闘技場の観戦席からフィールドを見て青髪の魔女は小さく笑った。そこには間違いなく知り合いの3人が立っていた。


ローズクォーツ色の髪を左サイドで束ねた半妖精の冒険者ひぃたろ。


静電気を含んでいるかの様に毛先が尖る黄金色のショート、魅狐で冒険者のプンプン。


以前プンプンがしていた髪型に似た、金色フィッシュボーンヘアの人間。元騎士で今は冒険者。義手のテイマー ワタポ。

隣には小型犬モードのフェンリル、クゥ。



対するチーム コンステレーションはエミリオの予想通り、星霊界の住人で十二星座。


銀髪ロングの青眼、剣盾使いの乙女座ヴァルア。


金色のツンツンヘアを揺らす巨体、大剣使いの獅子座リーオウ。


1度 星霊王の間で顔を合わせている栗色ヘアのクロー使い。頭に巻角を持つ山羊座カプリ。




ここは星座界ではないので星霊達は以前の様に半不死身状態ではない。勿論斬られても死ぬ事はないが、この世界に生きる生き物と同様、致命傷を背負うと簡単に意識を失う。死なないだけでダメージは同等に残り、以前よりもフェアな戦いになるだろう。


「まさかこんな形で再会する事になるとは」


銀髪の乙女座ヴァルアが凛々しい声で言う。


「いいじゃない。どうせ近々再戦しに行こうと思ってたし」


ローズクォーツのサイドテールを揺らし半妖精ひぃたろが答えた。



「おぉ!?顔見知りの対戦か!?お互い火花を散らす第...もう何戦目とか面倒臭い!チーム、フェアリーパンプキンvsコンステレーション!勝つのは俺だぁぁ!開戦!」



ついに司会が雑になったが、お互いのタイミングとペースで試合を行えるのはありがたい。

最初に闘技場へ進んだのは星霊チームの山羊座、カプリ。

妖精チームからは人間のワタポが身を隠すマントをフォンへ収納し、武器を取り出し前へ。


義手を隠す黒いロンググローブに白黒の軽量系ノースリーブトップ、ベルトポーチに同じく白黒のスカートに黒いロングブーツ。


固有名は防具がリバーシングナイト、足元はニーレングナイトブーツ・オー。アクセサリ枠にはガンベーズグローブと髪を結んでいるヘアゴムに小さな宝石。

右 二の腕辺りには蝶のタトゥーが顔を覗かせる。



「あれがワタポの新装備かぁ。格好いいじゃん」



シャドー一式で身を固める青髪の魔女が観客席で呟くと、ワタポとカプリは武器へ手を伸ばす。

格闘着の背腰から角の様なクローを取り出すカプリ。

背からほんのり赤い刀身の剣を抜刀したワタポ。


クローの固有名はトーラスクロー牡牛座が作った武器なのでトーラスと名が付いている。2本の角の様な爪が拳から伸びる。

ワタポの剣の固有名はダリア クストゥス。ダリア メイリールを強化精錬したので形も色も名前も少し変化し、プロパティはメイリールよりも上に仕上がっている。

2人は数秒視線をぶつけ、先にカプリが動く。


地面を強く蹴り恐ろしい速度でワタポの前まで到着、両眼を見開きクローで攻撃を仕掛ける。

小柄なカプリは超軽量系の格闘着を装備し攻撃速度ASPD俊敏性AGIを極端に上げている。

並みの人間では雑なガードでしか対応出来ないカプリの初撃だが、ワタポの 眼 にはその動きがハッキリ見えている。

ガードでもなく、距離をとるステップ回避でもなく、身体を少し動かしクローを回避し剣を振る。

ワタポの剣撃を同じ様に回避し、素早く攻撃するも今度はパリィで捌かれ、追撃がカプリへ迫る。斬りが回避されたので突きで攻めるも、今度はカプリが突きをパリィし無色光を纏う右クローで重剣術を放つ。ワタポの剣も遅れる事なく無色光を発光させ重剣術で迎え撃つ。重い鋼鉄音が観戦者の耳を突く中で、2つの無色光は消える事なく連撃をぶつけ合う。

単発重剣術から連撃、そして重連撃へ剣術を繋げ撃ち合うも、全て相殺に終わる。

ここで武器はディレイに襲われるが、ワタポもカプリも動きを止める事なく、武器を装備している腕をだらりと伸ばし行動する。

剣術ディレイはその武器から全身へ広まる感覚だが、ここで武器から意識を切断するとその武器と武器を装備している部分だけがディレイに襲われる為、全身停止状態にはならない。お互いがこのスキルを使える事に少々驚くも、すぐに近接戦闘が再開される。カプリの右足とワタポの右足が無色光を同時に放ち、同時に蹴り合い、今回の攻撃も相殺に終わり、反動でお互い数メートル下がる。

ここでカプリの攻撃は終了したがワタポの攻撃は終わっていない。反動中に唇を素早く動かし、火属性下級魔術 ファイアボールを発動させた。

3つの火球がディレイに襲われるカプリへ全弾hit、最初の一撃は妖精南瓜フェアリーパンプキンのワタポが決めた。


「あの者は双子と試合した剣士...ここまで強いとは」


乙女座が眼を丸くして呟くと獅子座がすぐに言う。


「強いな、あの時とは別人かと思った。他の2人も雰囲気が違う...何があったのか知らねぇが、こりゃ暇潰しの領域じゃねーな」


時間にして僅か10秒足らずの攻防は乙女座と獅子座を驚愕させた。

カプリは決して弱くない。あの時、星霊界でカプリが参戦していたならば簡単に勝利出来なかっただろう。しかし、あの頃よりも今現在のワタポは強い。

レベルアップも勿論しているが、それ以上にワタポの心が変わった。いつも1歩後ろで様子を見る様な立ち位置にいたワタポだが、それでは何も守れない。何も救えない。

彼女自身が無意識に自分を抑制していた何かを、打ち消した結果がこの強さだ。

これが本来のワタポの、騎士隊長、ギルドマスターを渡り歩いた彼女の実力。



「なんっだこの戦闘!カプリは人間ではなく星霊族!その星霊族に遅れをとらないワタポは人間!白と黒を身に纏う...白黒の剣士!フゥー!」


「むかぁーし、白黒の蝶がこの世界に生息していたんでぇすよねぇ。優雅に飛ぶあの蝶と重なりますねぇ。素敵ですよぉ」


「キミ、歳いくつアル?」


「うっ歳ですよぉ。この拳をクチにネジ込んであげましょうかぁ?美味しいでぇすよぉきっと」



毎度お馴染みにのやり取りにワタポがプッと吹き笑う。

戦闘中にも関わらず周りの声に耳を向けられるのは強さからの余裕ではなく、落ち着きからの余裕。



「ってぇー。やるじゃん人間!」



ファイアボールが直撃したにも関わらず平然と立ち上がるカプリ。防具の焦げを手で払い、ニカッと笑い構え突進。

ワタポは回避せず迎え撃つ事を選ぶ。



ワタポの両眼に浮かぶ円がキュッと中心へ集まる。

両手持ちのダリアクストゥスが無色光を柔らかく放ち、1歩大きく踏み込む。下から上へと振り上げられたクストゥスは刀身の赤と剣術の無色光が混ざり、綺麗な三日月を描きカプリを斬った。


単発剣術 弧月 が三日月と、キラキラ輝く微粒子にも似た何かを散りばめる。

胸を斬り上げられたカプリはその痛みに顔を歪める。その時ふと気づく。自分にも微粒子の様な何かが付着している事に。

宙を舞う微粒子は小さく震え、一瞬強く輝き、轟音を響かせ爆発。例外なくカプリの身体に付着していたモノも爆発する。



「ワタポ...本調子になってきたなぁー!おいおい!」


客席から身を乗り出し叫ぶ青髪の魔女へ、ワタポはニッコリ笑い声を返す。


「エミちゃ!久しぶり!」


ワタポの使用した剣術はプンプンがよく使う剣術、弧月こげつ。この剣術の万能性には半妖精のひぃたろも驚かされる程。それをワタポも学んだのだろう。

そして輝き爆発した微粒子の正体は爆破鱗粉。

ワタポが得意とする鱗粉を使った戦法で空気震動で起爆する。以前は小瓶から取り出し使ったり、鱗粉が付着している武器を使っていたが今回は少し違う。

クストゥスを強化する際に爆破鱗粉を自由に使える様につけた、特種効果エクストラスキル爆破。

自分の意思で鱗粉を纏わせる事もできる有能スキルはマスタースミスの力があって実現した。

鱗粉を纏わせるのにマナを消費するが、鱗粉量で消費マナ量も変化するが詠唱不要なので剣術に爆破を乗せる事も可能になった。


爆破鱗粉使いの白黒剣士ワタポはカプリへ近付き意識確認をする。


「気絶...かな?」


剣術、爆破、この両方が見事にhitした為、死なない星霊もダメージと衝撃で気絶。


ワタポは恐ろしい速度で戦闘を終わらせた。



「お疲れー!」

「お疲れ様」


プンプン、ひぃたろ とハイタッチをし、勝利を喜んでいると星霊チームの男が叫ぶ。


「やるなぁー!お前等!」


獅子座リーオウが野太い声を飛ばすと、プンプンが笑顔のブイサイン返す。


「次はお前が出るのか?...プンプンだったか名前」


「そうだよー!次キミが出るの?」


「俺はお前と戦いたいからな!お前が出るなら俺が出る!」


「おっけー!それじゃ、次はボク達がやろっか!」



そう元気よく返事し、ワタポと同じ様にマントを消し武器を取り出す。

身丈よりも長い長刀は深紫の鞘に包まれている。


黒いセイラー服に赤いリボン、茶のロングブーツを装備するプンプン。和國デザインのダークセーラー 一式が妙に似合う。


「今度はその長刀をポキポキ折ってやるからな、泣くなよ」


肉厚な大剣を片手でひと振りし、担ぐリーオウへプンプンは親指、中指、薬指を前に出し、人差し指と小指を立て狐を作りニッコリ笑い言う。


「この長刀、強くなったか簡単に折れないよー!コンコン!」


楽しそうに左手の指狐のクチをパクパクさせ、左肩から長刀を勢いよく抜刀する。


空気がビリリと揺れ、澄んだ音が貸すかに響く。






「いい音。アレ、ショボいと音ならないんだよ」


客席のビビがそう言いうっとりする。


「プンの剣も特種効果ありなの?」


ユカがビビへ質問する。チームエミリオも芸術家もラミーもそれが一番気になっている。


「うーん、うん、まぁあるよ。見てればわかる」


そう言って闘技場を指さし、最後に言った。



「ちょービビるから。ビビが作った長刀」




....。


寒い空気漂う熱帯大陸で、プンプンとリーオウは再戦する。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る