◆89
フェアリーパンプキン+ と コンステレーションの一戦目は想像を越えた成長をワタポが見せ、勝利。
二戦目は魅狐のプンプン 対 獅子座リーオウ。数ヵ月前プンプンは星霊界でリーオウと戦い、勝利している。しかし今回も勝てる保証はない。
数ヵ月前とは比べ物にならない成長を見せたワタポ、勿論プンプンもひぃたろも、エミリオ達もレベルアップしている。星霊達も例外なくレベルを上げているという事だ。
「面白い武器、見た事ない防具の冒険者が試合してるって聞いて、急いで見に来たけど...やっぱりビビブランドかぁ」
ミントグリーンの癖毛の毛先を指先でクルクル巻き鍛冶屋ビビを見て言う人物。ビビと同じマスタースミスの称号を持ち、闘技大会 会場にブースを持つ鍛冶屋ララ。
「ララやほ」
ドライな返事でララとの会話を終わらせるビビ。仲が悪い訳ではない。ビビの性格的に興味を持った相手にしか深く絡まないだけだ。同じマスタースミスの称号を持っている同じ鍛冶屋が相手だとしても、自分の興味を刺激されなければ最低限の会話しかしないのがビビ。
「爆破する剣ってあの長刀...じゃないよね?その剣士はもう試合終わった感じかぁ...残念」
溜め息を吐き、そのまま観客席に座るララ。
ララはビビメイドの武具が気になるらしく、ビビは別に誰が作った武具だろうと、ドロップ品だろうと気になったら調べ、気にならなかったらスルーするだけ。
直感的なビビと勉強家のララ。同じ鍛冶屋でもタイプは全く違う。
並ぶ2人のマスタースミスを見て参加者なのか観客なのな、とにかくザワつく。
「ねね、キューレ。ビビララってやぱすっげーの?」
ショートヘアを人眼も気にせずガシガシと掻き、エミリオがキューレへ質問する。
「すっげーのじゃ。基本倍率、追加数値、他にもプロパティ的な差はお互いそんなに無いかのぉ。ビビはデザインに拘り、ララは色に拘る感じじゃの」
「ほぉー!ビビ様は粘土が得意でララは絵が得意って事か!わたしも粘土好きだったなぁー。塗り絵は好きだけど絵は下手だから苦手かな」
と言うエミリオ。
今の返事で、全く理解出来なかったんだな。と全員が思う。
そんな話をしていると司会ケロッチが叫ぶ。
「お待たせしました!先程の試合で起こった爆発で地面がボコボコになっていたので、フラットにしてました」
フラット の部分が妙に気取った言い方になっていたが誰もツッコミを入れない。
音楽家達の試合後もそうだったが次の試合前に闘技場が荒れていた場合等は1度ケアし、次の試合が始められる。
これは地形有利を無くす為であり、前者がセットしたトラップ系等を消す為でもある。
「そいそいそい!早速始めてもらうしかもう選択肢はないパターンだ!気合い入れ直して真剣勝負!!勝つのは俺だぁー!フゥー!」
「ワクワクしますぅねぇ!金髪対決ですよぉ!みなさん!」
「金髪いテも、色違うネ」
「あなたは一言一言ヘイト高いですねぇ。サイレントかけますよぉ?ウザいですぅ」
最早お馴染みゲストの噛み付き合いを挟み、ケロッチが試合開始を空へ叫ぶ。
合図と共に刀身が波打つ様にデザインされた紫の模様が揺れる。
最初に距離を詰めたのは黄金色の毛を持つプンプン。
「ヌァ!?」
唸り大剣の腹で素早く長刀の一撃を受け止める事を選んだ獅子座。
体格差は倍以上、武器の太さもまるで違う。
一見不利に見えるのはプンプン。しかし獅子座は迎え撃つではなく受け止めるを選択した。
その理由はすぐ解る。
姿勢を低くし走り、アタックする前に速度を跳躍力に変え、宙で身体を捻り自分より長いカタナを横振りする。
速度を乗せ、落下の重さと回転の力を盛った一撃は重い。
長刀を腕で振り回す ではなく 全身を使って長刀を操るプンプンの戦闘を知っているからこそ選択出来た防御。
プンプンと初見で戦闘する場合、その身丈に合わない武器を見て、返り討ちを狙う者の方が多い。腕だけで長刀を使っているならば返り討ちは容易い。しかしプンプンは全身を使い武器に振り回されるではなく、武器を振り回す。
扱えている証拠に、狙った位置へ確実に斬撃を撃ち込む。
太刀よりも長さが、リーチがある武器 長刀。
扱うには
プンプンはSTR重視ではなく身長も長刀を使うには足りない。しかし猫人族やキューレも驚く
プンプンだからこその戦闘スタイルだ。
初見でこれらを見抜くのは難しい。
獅子座は1度身をもってそれらの情報を得ているからこその選択、防御。
耳だけではなく肌も刺す様な衝突音が闘技場を貫く。
「やるやんプンちゃん」
「俺は長刀使えなかったからなぁ。凄さが解る」
「む、待て!俺はカタナも使えないぞ!?論外か!?」
ワタポの試合は参加者達へとすぐ広まり、他のメンバーも恐らく上級者だろう。と睨んだ冒険者達が試合観戦へ訪れる。
アロハシャツを靡かせプンプンの戦闘を見るアスラン、烈風、ジュジュ。
「ほぉ。やはり天才か...」
「長刀格好いいかも」
「僕は長刀も気になるけど大剣も気になる」
ヘビィボウガンを背負うセシル、見た事ない武器を背負うハコイヌ、そして盾剣...デザリア軍が愛用していたタイプの武器を背負うルーク。
「さすがプンちゃん!そのまま押しきったれー!」
「私はワタポ戦見たかったなー...出来れば今回ワタポと戦いたいし」
「あの子が噂のプンちゃん?強そうに見えないけど...ごめるしゅー舐めちゃダメだね」
赤い鎧に身を包むギルド 赤い羽のマスターアクロス。髪も眼もメガネも真っ赤なギルド アクロディアのマスター ルービッド。幅広の大剣とも太刀とも言えぬ武器を背負う無所属冒険者のメルシュー。
他にも参加者達が続々と闘技場に集まる。
今大会初の誰もが注目する試合。
初撃を終えたプンプンはステップで距離を取り、獅子座は大剣を片手て軽々振り、構える。
挨拶は終わり。
と言う様な2人の表情、視線をぶつけ合い本格的な戦闘が始まった。
◆
攻撃、防御。
たったこれだけでお互いあの頃より数倍強くなっている と知る。
空気を揺らし美しい音を奏でる長刀。
竜刀 月華。プンプンが愛用していたカタナは竜騎士族のモノだった。
それを適応するモンスター素材と合わせ鍛冶屋ビビが、長く、鋭く、頑丈にしたモノが今の武器。
長さも見た目も以前のモノとか変わったが、一番変化したのはそのプロパティ。
以前はなかった
「行っくよぉ~!」
人懐っこい笑みを浮かべ、驚くべき速度で直進ではなく回り込む様に走るプンプン。獅子座は眼を見開きそれを眼で追い、両手持ちで構えた大剣で地面を抉り振る。
剣を振った直後すぐにプンプンへ直進した事から、多少でも速度を下げ飛び交う地面の破片で移動するコースを限り、そこを叩く作戦。
獅子座の狙い通りプンプンは速度を下げ回避しつつ走る。
この回避コースを見切り、獅子座は動いた。
巨体と言える身体を持つ獅子座リーオウ。そして巨体からは想像できない行動速度。
全てを潰す程の力と獲物を狙い狩れる速度。まさに獅子。
今回の標的は狐。
「速ぇだけじゃ俺には勝てねぇよ」
闘技大会でPK、殺しは反則行為。即失格で即逮捕される。
それはリーオウも理解しているハズだが、迷いも遠慮もない大剣でプンプンを狙い振る。
上から空気を圧し潰し振り下ろされる大剣をガードするのは不可能。長刀のリーチがマイナスに働き防御の構えが追い付かない。無理に防御すると折れる確率が高い。回避を選択するにも飛び交う瓦礫が回避コースを制限する。バックステップで距離を取りやり過ごす事も不可能ではないが恐らく剣先がヒットし、完全な回避にはならない。
雷を全身から放出すれば何とかなる。そうエミリオは思ったが、それも完全な回避ではない。痛み分け、相討ちに終わる。
直後、プンプンは長刀とそれを持つ右腕だけを一瞬スパークけさせる。青白い雷がバチッと弾けた瞬間、有り得ない動きでプンプンは高く跳び、リーオウの大剣は地面深くを斬り潰した。
「...何が起こった?」
リーオウの呟く声。一番近くに居た獅子座さえ、何が起こったのか理解出来ていない。
空へ跳び回避したプンプンは闘技場の地へ着地。
「あだっ、着地が難しいなぁ」
着地は失敗し照れ笑いするプンプンたが、攻撃を完全に回避した事に変わりはない。
歓声が沸き上がり答える様にブイサインを送るプンプンをただ見詰める獅子座。
そして気付く。
緩く弧を描いていた身長よりも長く、カタナよりも少し細い長刀が、別の形...武器に変化しているではないか。
「お前...なんだそれ」
「ん?それってこれ?ボクの武器だけど?」
指先で器用にクルクル回転させ持っていた武器を見せる。
長さも刃の太さも刃の形も先程の長刀とは別物に。
カタナより細かった刃はカタナより太い片手剣の刃の様に。形は剣、太刀、カタナ、どれにも分類出来ない。
弧を描かず真っ直ぐ伸びる刃、その刃は直角に曲がり、そして刃先は下を向く様に曲がる。
直角のフックとでも言えばいいのか、数字の七と言えばいいのか、長さも太さも形も先程とはまるで違う。
「この刃で大剣を受けて、その時引っ掛けて身体を捻り跳べば...クルッと回れて回避出来るんだ!いいでしょー!」
回避した方法も勿論気になっているが、ほぼ全員が一番気にしているのは いつその武器に変更したのか、だ。
「....あれ?みんな黙っちゃった...え、ボク知らないうちにスベった!?」
おろおろするプンプンを客席から見ていたエミリオは小さく笑い、プンプンへ「頑張れー!」と叫び、すぐビビを見る。するとビビがニヤリと笑い言った。
「ね?ビビが強化変化させた長刀、ちょっとビビったでしょ?」
「ビビ様の作った長刀ちょっとビビったんだけど!ちょっと説明してよ!」
「お前さん達...それ面白いと思っとるんか?」
キューレがエミリオとビビのつまらないギャグにブレーキをかけ、ビビが簡単に説明する。
「最初のが武器本来の形、姿ね。で今のが変化した状態。プンプンの長刀...
固有名 竜刀
プンプンだけが持つ魅狐の雷を使い、刃の形状を変化させる長刀。雷に対して恐ろしいまでの耐性と特種な雷を持っている彼女だからこそ実現する事が出来た効果。
まさにプンプン専用の武器。
「エミリオが雷魔術でやろうとしても無理、プンプンの雷がなきゃ1ミリも変化しない。ね?ビビったでしょ?」
ビビの話を聞き終えるとすぐプンプンを見る。
謎の形状に変化した武器とそれを持つ右腕が再びバチッと雷を放ち、元の形状...長刀へと姿を変えた。
実際に変化を披露し、獅子座へ見せたプンプン。
「今のでわかった?」
そう言い長刀を1度地面へ突き刺し、背負っていた鞘を外し背を気持ち良さそうに伸ばす。
「...面白いって事だけは理解した。武器自慢は後にして続きやろうぜ」
「えぇー!ひっど!自慢って...説明しろって言ったのキミじゃん!」
プンプンがプンプン怒る中、リーオウが前屈みになり唸りをあげる。
長く伸びていた金髪が荒く伸び身体も大きく筋肉質に。牙と爪がちょっとした短剣程の大きさと鋭さを見せた瞬間、リーオウの姿が消え豪快な衝突音と砂煙が闘技場を包む。
「んなっ、速いのぉー!」
観客席...闘技場を斜め上の位置から見ていたキューレが呟いた。闘技場全体を見通せる席にいたキューレ達でさえリーオウの速度に眼を丸くする。正面でその速度に狙われたプンプンは客席から見ている者よりも数倍速く感じる。
「~~~っ!危ない危ない」
砂煙から抜け出し現れたプンプンはビックリドッキリな表情と少々真面目な色の瞳。
豪快な突進攻撃への反応が遅れたプンプンは長刀でガードする事を選んだ。しかし突進の速度を乗せた大剣の斬撃を防ぎきれず左肩に小さな傷が見える。
唸る様な呼吸音と共にリーオウが姿を見せると、会場はどよめく。
荒々しく伸びた髪と大きなクチ、牙も爪も太く尖り、身体は一回り以上大きく筋肉質な姿に。
獅子座 普段は少々大きい人型だったが本来の姿は獅子と人間を混ぜた様な姿。
変化強化系...エンハンス系のディア。
「エンハンス系のいい所は自分のステータスをベースに強化される所だ。
リーオウの言う通り、エンハンス系ディアは自分のステータスへ能力が上乗せされる。
魔術にエンハンスはなく魔術の場合はバフ、スキル系はエンハンスと言われるがディアエンハンスが一番有能で厄介。
魔術もスキルも熟練度を上げれば威力も効果も増し、消費も減るが限界もある。
魔術のファイアボールならば火球数キャップは10。
しかしディアは使えば使う程その能力がキャップ無く研ぎ澄まされる。
使えば使う程危険も増えるが、エンハンス系ディアは自身を強化する事でもその恩恵が大きく変わる。
ベースステータスのSTRが100、バフ エンハンスで+50が最大値ならばディアでは+100 +200と天井知らずに恩恵値が上昇する。
自分を強くし、ディアを操れればエンハンス時の恩恵は魔術、スキルとは比べ物にならない程までに。
「ふーん。でもボクを一撃で倒せなかったよ?」
「そりゃお前の防具性能がすげぇからだろ?」
リーオウは牙を見せる様に笑うとプンプンは「バレた?」と笑顔で言う。この状況...眼の前に恐ろしい獅子人間がいる状況でも笑って話せるのはプンプンも同じエンハンスディアを持っているからだろうか。
「この防具凄いんだよ!
装備品も立派なステータス。
装備品で強くなっても...と言う冒険者も存在するが、いい装備を持つ事でレベリングへのモチベーションも速度をグンと上がる。
「ハハハ!面白いなお前、それじゃ次は確実に狩るぞ」
「おっけー!ボクも少しだけ本気になるよ、見せてあげる。ボクのディア...少しだけだけど多分参考になると思うよ」
今の発言はリーオウへの挑発ではなく、プンプンの本音だ。
少し本気を出し、少しディアを使えばリーオウを倒せる。そのディアではまだ甘い、自分の使い方を参考にしてみろ。
と 言った様なものだ。
「プンちゃ、こんな大勢の前で狐になるのかな?」
「ならないでしょ、と言うよりなる必要ない、が正しいわね」
ワタポ、ひぃたろが安心して見守り、エミリオ達は不安そうに見守る中、プンプンが動く。
長刀を構えリーオウへ刃先を向けると、リーオウは地面を強く蹴り1回目よりも速度を上げ、突進。プンプンが回避の動きを見せた瞬間、追いかけ大剣を軽々と振る。
速すぎて制御できず、直進しか出来ないのではないか?と思い、サイドステップで回避を試みた所、リーオウはその速度を完全に制御していた。
「うわ!」
驚き声を上げるプンプンだがリーオウの武器攻撃もあっさり回避する。
「またその眼か...何なんだよそれ!気に入らねぇ!」
叫んだ声に全員がプンプンの瞳へ視線を飛ばす。
黄金色の瞳は深紅に染まりリーオウを射ぬく。
「1つに集中すると、それが凄く見えるんだ。その変わりに周りが見えなくなるんだけどね」
ワタポの眼は相手の動きの先を切り取る。
プンプンの、狐の眼は1つに集中する事で恐ろしい速度でも眼で捉える。
ずば抜けた隠蔽さえも1度この眼で相手の姿を見ていれば簡単に見破れる。
しかし魔術...幻想術や隠蔽術となれば対象外。
「チートかよお前」
リーオウは笑い言うも、額には汗、瞳には焦りが浮かぶ。
「最初ボク達が星霊を見た時も同じ事を思ったよ。でもね、こんなのが普通で、これが当たり前の世界にボク達は行かなきゃいけない...。楽しかった!またやろーよ!」
茶色のブーツの足元が、プンプンの足元が一瞬だけ、音もなく、光を弾けさせた。
雷を足元だけで弾けさせ、速度をブーストし長刀が澄んだ音を奏でる。
リーオウレベルでは何が起こったのか考える事も出来ない速度で、煙る様に動いたプンプン。
眼でリーオウを捉えている為、どれだけ速く視界がブレようと外す事はない。長刀の刃は太く筋肉質な両足を冷たく通過。
青白い余韻は溶けるように消え、狐 が 獅子 を狩った。
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