◆74




アスランが冒険者としても活動していたのはデザリアの狙いではなく、単純にアスランが冒険者の様に自由な生き方を好んでいたから。しかし数週間、または数ヵ月まえにデザリア王の性格が激変し冒険者の立場さえも利用し始めた。冒険者であるがその前にデザリアの兵だったアスランは王の命令に従いドメイライトの情報をデザリアへ長し始めていた。セッカの事、冒険者の事、今のユニオンのスタイルも。

しかし全冒険者の情報を与えるには冒険者の数があまりにも多すぎる為、ランクB以下は除外した。


今デザリアは心のまとまりはなく王の支配でどうにか繋がっている状態。この状態に誰もが不満を抱いているのは間違いないらしいが...従わない者は容赦なく殺す王。殺人をルールに変えた王に誰も逆らえなくなり、今のスタイルが完成したらしい。

王が国民全員の命さえも監理する国、デザリアが完成した。


マテリアを求め始める理由も聞かされずただ言われた事をする。しなければ殺される世界。国民はデザリアと呼ばれる国の形をした牢獄に囚われた奴隷。

今回セッカを狙ったのは領土を拡大させ牢獄を広げる為以外に理由も狙いもないだろう。それに従ったアスラン達は逆らえば殺されるからだけではない。ウンディー大陸もデザリアの...イフリーのモノになれば必ず見落とし、監視しきれないエリアが生まれる。その監視しきれないエリアで子供等弱い立場の人間を生かせるのではないか?と考えた為、アスランは今回の任務に踏み込んだ。


奪いたくない。

殺したくない。

生かしたい。

生きたい。


目的は同じなのに、どうして過程が、辿り着くゴールが違うんだろうか。人間だから?....いや、種族なんて関係ない。

協力や共存といった考えを捨てたから、はじめからそんな考えを持っていなかったからだ。支配。ただそれだけで...それだけで動くから争い奪い合う事が始まるんだ。


奪われたくなければ守るだけじゃなく、奪って2度と奪おう等の考えが浮かばない様にするしかない。のかな。



「何となくデザリアってかアスランの気持ちはわかったけど、これからどうすんの?今この後とか、その先とかさ」



そう質問するとアスランはフォンを取り出し素早く指で画面を叩いた。一体何をしたのか、わたしには解らないし関係ない事なのだろう。と思い質問する事をやめ、ただアスランの行動を見ていた。何がどうなるのか...街が襲撃されその犯人である人物もこうして手を上げている。もう流れに任せるしかない。



「とりあえず、今この街中におるデザリア達にもう何もするなって言っといたわ。ユニオンいくぞエミリオ」


「ユニオン?なんで?」


「理由はどうあれ、やった事の責任はとらなアカンやろ。貴様が俺様をユニオンへ連れてけ。それが一番安全でみんな安心できるやろ」



理由はどうあれ、やった事の責任...ね。

何をどうするのか。凄く聞きたくなったがここでそんな質問するのは違う。わたしはアスランの言う通り、エミリオが襲撃者を拘束した。という状況を作りユニオンまで向かった。



途中燃える建物等を水魔術で消火、怯える人々は色々なギルドが守り避難させていた。


猫人族も人間達と同じ様に動き、不安に怯える人間を励ましている。その姿を見てわたしはアスランへ言った。



「種族とか立場とか、そんなの関係ないんだ。みんな生きてて、みんな不安で、それでもみんな進んでる。奪い争う事を選ぶ必要はないんじゃない?守り守られて、助け合って生きる選択肢も普通にあるんだよ」


「お前に説教されると死にたくなるわ...でもそゆ事やな」




デザリア王は変わった。

それがレッドキャップの死体フェチの仕業だとしてとそれを知らない人々から見れば王が変わったとしか思えないし、そうとしか見ない。


アイツ等は何がしたいんだ。

マテリアを集めて、殺して奪って、目的は何だ?



考えても答えは出ない。

星霊界でリリス、モモカと戦った時の事を思い出しグッと奥歯を噛み、今は黙ってユニオンへ向かった。







見開かれた両眼が熱くなる。

ボクはやっと、やっと妹に会えたんだ。


やっと願いを叶えてあげられるんだ。


そう思うハズだった。再会した時、そう思うだろうとボクは思っていた。


でも、何かが違った。



髪の毛は伸びている。

でも、笑顔も仕草も声も全部...あの時のままのボクの妹。


「なんで...モモカ?」


死んだはず。いや、死んで、リリスの人形にされたのは覚えている。

リリスの力...ディアで操り人形にされた事も覚えてる。死んだ時点で成長するハズがない。

でも、なんで...なんで髪が伸びてるの?なんでモモカが沢山いるの?


生きてる?


そんなハズない...あの時、モモカの命は止まった。

ボクは助けられなかった。

ボクは妹を守れなかったんだ。

何も出来ずただ...黙って見る事しか出来なかったんだ。


なのに、なんで。



「うーん、わたしの記憶だったらお姉ちゃん髪長かったのになぁー」


「わたしも...最後に見た時は長かった...と思う」


「どっちでもいいじゃん髪なんてさー。やっとお姉ちゃんに会えたんだし」


「髪が短いお姉ちゃんも可愛いと思うよ!」



何が何だかわからない。

このモモカ達は本当にボクの妹のモモカなの?それさえも、わからない。

でも...モモカなんだ。ならきっと。



「ね、ねぇモモカ。どうしてみんな...」


同じ顔なの?と聞きたい。でも聞けない。モモカなら答えてくれるハズ、でも...何かが怖い。視線を1度そらし言葉を飲み込もうとするとモモカが言う。



「どうしてみんな、同じ顔なの?って事?」


「え、いや...えっと」


ボクはモモカの言葉に動揺なのか、焦り本心を隠そうとした。ここにいるモモカはモモカなんだ。モモカじゃない別の誰かだと思いたくない。でもモモカは1人しか存在しない。否定したい。でもモモカを否定したくない。たった1人の妹を傷付けたくない。もう辛くて苦しい思いをさせたくない。でも、でも。


「ごめんね、お姉ちゃん。わたし達はわたし達の事を話せないんだ」


そう言い全員が舌を出した。モモカ達の舌は糸でバツ印に縫われている。その印は何なのかハッキリわからない。でもその印がモモカ達の言葉を制限している何かなのかわなった。


「お姉ちゃん、もう少しだけ待ってくれる?そろそろ到着するから。ダメかな?」


「お願い...」


「少しだけ!...ってどれくらい?これくらい?」


「少しは少し!お姉ちゃんお願い!」


何が起こってるんだ...。

街を襲撃した犯人がモモカ?

誰が到着するの?

何を待ってるの?

どうしてモモカが何人もいるの?

どうしてみんな性格が違うの?

どうしてみんなモモカなの?


眼に焼き付いた記憶が再生されるのを必死に抑え、脳に直接語りかけてくる記憶から必死に耳を塞ぎ、自分を保つ事に精一杯で...。


「どうして」


1人のモモカがポツリと呟いた。頭を少し下げ顔を隠す様にしてポツリと。

すると他のモモカも同じ様にうつむき、ボクの心を不安の手がゆっくりベトつく様に撫でる。


重く苦しい心を抱いてモモカへ声を掛けようとするも、言葉は見つからない。不安が頬を伝って落ちた時、モモカは言った。



「どうしてあの時わたしを見捨てたの?お姉ちゃん」



ギョロりと動き向けられる瞳、小刻みに震える眼球がボクを睨む。


「違う、見捨ててなんか...ボクは」


....違う。

違うんだ。

見捨てたんじゃない。助けようとした。でも身体が動かなかったんだ。何をどうしても、動かなかったんだ。


言い訳かもしれない、でもそう伝えたくてクチを動かそうとしても、ボクのクチは固まって動いてくれない。


「違うの?何が違うの?お姉ちゃん」


「...あなたは...だれ?」


やっと動いたクチから出た言葉は言い訳でも何でもなく、自分でもなぜこんな事を言ったのか理解できない言葉。


あなたは だれ?


ボクは確かに今そう言った。

モモカに...、

モモカじゃ、ない?


剥き出しにされた眼球の色が全員違う。

モモカの瞳の色はピンク色。

片方リリスがあの時奪ったから...モモカの瞳は右がピンクで左が灰色のハズだ。

でもここにいるモモカの瞳は両方とも同じ色で、全員違う色の瞳。


姿形はモモカ、ボクの妹と同じ。でも中身が全然違う。


あなたは...だれ?

いや、いや違う。


熱を持つ空気を吸い込み、ボクはもう1度クチを動かした。




「...あなた達は だれ?」








ワタポとゆうせー、エミリオとアスランが戦う前、プンプンとモモカが再会する少し前に、別の戦闘が幕を開けていた。


変形武器ギミックウェポンを自在に操るデザリア軍...正式にはデザリア騎士団。そのデザリア騎士団の黒髪の男性ハクとギルド フェアリーパンプキン マスター ひぃたろが今まさにお互いの武器を激しく衝突させる。


ハクが使用する武器は剣盾にもなり、その2つを組み合わせて両手持ち斧...ツーハンドアックスにも変形する武器。ツーハンドアックスは火薬瓶を仕込む事で爆破属性にも変わり、その爆破を利用した破壊力が売り。剣盾は破壊力を捨てスピードと防御を得る。

今現在は剣盾モードを使い、ひぃたろの剣撃を相殺して見せた。


お互い顔色1つ変えずただ剣をぶつけ合い、素早く距離を取る。今の接近でひぃたろは剣ではなく盾に注目した。

盾にも刃がついている。防御だけではなく攻撃にも使える盾で、恐らくあの盾が変形しツーハンドアックスの刃になるのだろう。と予想。

今の一戦で情報を得てまとめ、辿り着いた答え...予想は的中している。

盾を持っている場合、攻撃をその盾で防ぎ、カウンターで剣撃するのが基本で効率的。しかしそれをハクはしなかった。ひぃたろにはその理由が簡単に想像つく。


防ぐ程の攻撃ではない。こんな攻撃でツーハンドアックス時の破壊力を下げたくない。といった理由だろう。


ひぃたろはクチに出さずそう言い両眼を細めた。

身を隠す程のシールド、分厚い剣。攻撃力は見た目程高くない。

たった一度の激闘で多すぎる程の情報を獲得したひぃたろは素早く脳内で整理し、使える情報へと変換。

落ち着いて相手を観察、得た情報に自らの予想を組み合わせ答えを出す。戦闘においてこのスキルは勝敗に大きく関係するだろう。しかしハクは、見抜かれたから何だ?と言うように表現1つ変えずひぃたろへ鋭い視線を送る。



ここでひぃたろは気付く。

ハクの視線が他の人間とは何かが違う事に。そしてそれが何なのか。



命を奪う事への迷いは微塵も無い。しかし殺人中毒者、または犯罪者とは違った瞳。


あの瞳に宿るのは命を奪う事への快感や悪意といった感情ではない。


単純な、勝利への欲。



そう感じたひぃたろは素早く脳を切り替える。



殺し合いでもなく、奪い合いでもない。

これは戦闘。

どちらかが死ぬまで ではなく、どちらかが 勝つまでの戦闘。


命を奪う。

殺す。

そういった汚く面倒なモノが全く無い。あるのはお互い...勝利への欲のみ。


ひぃたろ は笑った。

街がどうとか、襲撃者とか犯罪とかそんな事は今どうでもいい。

ただ、この男に勝ちたい。


そう心から思い強者へ挑戦する好奇心に口角が上がった。

直後、ハクも同じ様に口角を上げた。


お互い求めるモノは1つ。

襲撃して何かを奪う事でも、その襲撃者から何かを守る事でもなく。



眼の前の相手を自らの手で倒し、勝利を掴む事。



純粋、または不純な勝利への欲が激しくぶつかり合った。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る