◆75





空気を押し潰す様に振り下ろされたツーハンドアックスは地面を深く抉り、火薬瓶を爆破させ数メートル先まで爆裂させる。


あの攻撃は相殺もガードも出来ない。回避して正解だった。


剣使いの半妖精ハーフエルフひぃたろはハクの攻撃に対して回避を選択した事へ安心するも戦闘は始まったばかりだ。判断ミスをする事なく初見武器のツーハンドアックスへ対応し、生まれた隙を逃さず突く。


今のハクの攻撃は剣術ではない為ディレイに襲われる事はない。しかしツーハンドアックスを全力で地面に叩き付け爆裂させる攻撃後は相手の攻撃への反応は極端に下がるだろう。

ひぃたろはそこを逃さず一気に距離を詰めパールホワイトの剣に無色光を纏わせ振り下ろした。


単発重剣術 アルテュール。

両手持ちで上から下へと振り下ろされる剣は接近時の速度が乗せられ、威力増加状態でデザリア兵を襲う。

ここでひぃたろは気付いた。

爆風とハクの背に隠れ、よく見えなかったツーハンドアックスが無色光を纏っている事に。


ハクは身体の向きを後ろ...ひぃたろへ向けると同時にツーハンドアックスを横振りする。縦でも横でも発動可能な斧を使用した剣術。

単発重剣術 スマッシュ。

2つの無色光が赤々とした街で激しくぶつかり合い、爆散、消滅した。


お互いの武器が弾かれノックバック状態の中、ひぃたろは素早く正確にクチを動かし詠唱。

下級風魔術 ウィンドカッターで追撃する。

ディレイに襲われてしまった武器では迎え撃つ事は出来ない。重くなった武器を手放す事も身体を大きく動かし回避する事も出来ないハズ。

それが剣術を使用した者に求められる対価、ディレイ。


それは間違っていない。


しかし、このディレイを先伸ばしにする事は可能。ディレイを先伸ばしにするスキル、技術をひぃたろ自身も使用するので今ハクがディレイを先伸ばしにしていない事はハッキリ解る。

が...剣術にはまだひぃたろの知らないスキル、技術が存在していた。その1つをハクが披露する。


武器は右手で掴んでいる為、右手はディレイ対象になり自由に動かない。しかし左手は自由に動かせる。

ハクは打ち上がったツーハンドアックスの柄頭を左手で押し、腰を捻りウィンドカッターへ背を向ける姿勢を作る。

そのままアックスを押し斧先を地面につけると同時に飛び、ツーハンドアックスを支え、または軸にして身体を空中回転させウィンドカッターを回避して見せた。


ディレイ中は今の様な大きな動きは不可能、無理に動いても数十センチが限界なハズ。


しかしハクはひぃたろの眼の前で不可能を可能にして見せた。ここでお互いのディレイが終了する。


本来の重量へ戻った武器を構え同時に地面を蹴り接近、剣と剣をぶつけ押し合う。

素早い変形で斧から剣盾へと姿を変えたハクの武器に対してひぃたろは驚く事もなく、そんな事 変形武器なら当たり前だ。と 心の中で呟き別の言葉を喉まで運ぶ。

お互いの剣が相手の剣を押す鍔競り合いの中、ひぃたろは短く言った。


「さっきのは驚いたわ」


さっきの とはディレイ中にハクが見せた回避行動の事だ。

本来、剣術を使用した後のディレイ中はその武器での防御と大きな動きでの回避は不可能。

動けて数十センチが限界。の ハズだった。しかしハクは大きく身体を動かしウィンドカッターを危なげなく回避して見せた。不可能を可能にして見せた。


「意識的な問題だ」


ハクも短く答え、お互いの刃へ剣を滑らせ鍔競り合いは終わる。

意識的な問題...ハクの言葉を脳内で何度か繰り返すもすぐに答えまでは辿り着かない。

戦闘中に考え悩むのは全ての行動をワンテンポ遅れさせる。ひぃたろは素早く頭を切り替え1度、2度と剣を振った。


流石は対人訓練を日々重ねているだけの事はある。単調な攻撃に対しては剣を見る事なく処理する。


ハクの動きに眉を寄せひぃたろはバックステップで距離を取る。ここで1つミスを犯した。距離を取るイコール火薬瓶を補充させるチャンスを与える事になる。ハクはこのチャンスを逃さず盾に火薬瓶を補充しツーハンドアックスモードへと変形させる。

しかし驚かされたのは補充、変形のスピードだけではない。今の動作は停止状態扱い、先程のノックバックも自分の意思で動いていない為、停止状態扱いになる。つまり、魔術詠唱が可能という事だ。


魔女に比べれば行動中の詠唱とは呼べないが、戦闘中に起こる動作を利用した詠唱はどの種族にも可能。落下中やノックバック中は意識的に動いていないのでその動きに逆らう事さえしなければ詠唱可能、装填中や抜刀時等は動きが最小限の場合、停止状態扱いになり詠唱可能。

勿論、本来の停止詠唱に比べればファンブル率も高くタイミングもシビアだが慣れてしまえば迷う必要はない。

ハクは膨大な戦闘経験値からそのタイミングを完全にマスターしている為、火薬瓶補充と剣から斧への変形を最小限の動きで行いその最中で魔術詠唱を済ませ発動させた。


準備と詠唱チャンスをみすみす与えてしまった事にクチの中を苦めるも、発動された下級火属性魔術 ファイアボールへ素早く反応し火球を回避した。


「見え見えだぞ」


「...ッ!?」



ファイアボールは牽制、囮だった。いや、少し考えれば解る事だった。しかしハクの行動1つ1つに気をとられひぃたろは攻撃や動きを予想する事を忘れてしまっていた。

ハクはこのチャンスを逃すハズもなく魔術発動後素早く足を動かし火球で回避誘導した先へ向かい、無色光を纏うツーハンドアックスを振り下ろした。


ひぃたろは咄嗟に剣でガードするも簡単に押され肩に斧が触れる。斬られる痛みがひぃたろを襲うと同時に重く突き抜ける衝撃が地面を抉り身体を浮かせる。そして轟音と熱がひぃたろを瓦礫の様に吹き飛ばし焼いた。

痛み、衝撃、熱に襲われる中でひぃたろの胸に浮かんだのは焦りや恐れではなく、記憶と感想。


デザリア王国1の戦闘狂 他国や冒険者達の間では 白い死神 と呼ばれる男ハク...ここまで強いとは驚いた。


そう胸で言い終えると瓦礫の山へひぃたろは呑み込まれた。


乙女座との戦い。

レッドキャップとの戦い。

ダンジョンボスとの戦い。

ここの所ひぃたろは三連敗していた。




油断していた?違うわ。

過信していた?そう、それね。


私より強い生き物は沢山存在している事は理解していたわ。でも、その強い生き物に遭遇する機会がなかった。

私自身のレベルを知り、更に高みを目指す事が今出来る。私より強い生き物に沢山会える。抑えていた自分の力を全力で使って、自分を成長させられる今を、私はずっと求めていた。


プンちゃんも最近ディアを少しずつでも使う様になった。昔は嫌われたくないから、怖がられたくないからって使う事を恐れ力を隠していたけど....遠慮する必要はもうないわね。 だってみんな...強くなりたいと思っているもの。

それに...あの魔女は大勢の前で、平気で移動詠唱と多重魔法を使ってる。嫌われたらそれでいい、出来る事を隠して何かを失うよりよっぽどいい。

そんな顔して、堂々と魔女のステータスを使っている。


私も自分の存在を素直に受け入れて...更に上へ、翔ぶ。








勝利を確信していたハクは崩れ飛ぶ瓦礫の音に足を止め両眼を見開き驚きの視線を飛ばす。

攻撃は確かにヒットした。肩を斬り、瓶を爆裂させ焼き飛ばした。それは間違いない。その証拠に防具の肩は切れ所々焦げもある。しかし...斬り傷も火傷も、瓦礫で付くであろう擦り傷さえ、そこに立っている女性剣士には無かった。


「続き...やりましょ?」


小さく笑って言う女性剣士にハクは心の底から喜びを感じた。

殺し合いや奪い合いではなく、単純に強い者と戦いその者に勝ち、喜びと自分の強さを全身で感じたい。それが自分の求めていた “戦闘” 。

それに付き合ってくれる者が今、眼の前に存在している。


純粋な勝利への欲が全身を駆け回り溶け込んだ。


何ヵ月、あるいは何年ぶりだろうか。


ハクは自分の戦闘の記憶を辿るもこんなに楽しい気持ちになれた戦闘を思い出す事は出来なかった。

求めていたが忘れる程 出会えなかった理想の戦闘。

それが今、ここで出来る。


ハクは堂々とポーチへ手を伸ばし火薬瓶を取り出し最大まで武器に装填、次に独特な形状のポーション瓶を2つ取り出し1つをひぃたろへ投げ言った。


「全薬のエリクシアだ。飲め」


エリクシア。

体力、魔力、状態異常、傷、戦闘で発生する全てに効果抜群で本来のポーションではあり得ない即効性を持つ世界1有能で高価で希少な薬品。

それを戦う相手へ迷いなく渡し、飲む様に進めるハクの行動にひぃたろは「これは偽物ではないか?」と当然の疑いを抱いた。

ハクはそれを予想していた様子でひぃたろを見る。


ひぃたろはフォンを取り出し受け取ったエリクシアをフォンポーチへ1度収納する。これによりこの薬が偽物なのか本物なのか一瞬で解る。


「...本物」


エリクシアは本物だった。しかしこれでますます解らない。なぜ敵に全回復薬を差し出したのか。

その答えはすぐに告げられる。


「全回復して続きをしよう。ポーチは無し、勿論アイテムは無しだ。俺も今装填した瓶だけで今後この戦闘では装填すらしない」


そう言いハクは腰のポーチを外し投げ捨てる。


ポーションやアイテム等の小細工は一切無し。体力的な面もお互い全回復させた状態での戦闘を望んでいる。

半ば強制的なハクの行動にひぃたろが乗る理由は無い。ここでエリクシアだけを飲みアイテム使用禁止を断り戦闘しても誰も文句は言わない。

それはハクも理解している。

しかしハクは自分を制限し、相手が自由を選んだとしても勝てる、勝つ。と踏んでいるからこその行動だろう。

この行動はひぃたろを刺激するには充分だった。


面白い。

アイテムを使って勝利を掴む気など始めから私にも無い。


お互いただ純粋な戦闘力での勝利を求めている。


ひぃたろはハクと同じ様にポーチを外し、エリクシアを飲んだ。


勝った方が強者、負けた方は弱者。それ以外求めていないし必要ない。


二人の戦闘狂は楽しそうな瞳を交わし再び衝突、火花が消える前に次、また次の火花を散らす。


まばたきすら命取りになる攻防。少しの迷いが勝敗を決める戦闘。


楽しい。


お互い無意識に口元をゆるめ踊る様に武器を振り、同時に無色光が発光した。


単発剣術を撃ち込み無色光は消える。ここでハクは止まる事なく足を動かす。

武器を持つ右腕は自由に動いていない様子だが他の部位は剣術前と変わりなく自由に動く。


剣術後全身が重くなる訳ではなく剣術を使用した武器と、基本的にその武器を掴んでいた利き腕がディレイ対象になる。ひぃたろもハクもディレイ対象は武器と右腕。

ここでハクは右腕から意識を切断する事で剣術前と変わらない行動力を見せていた。

ひぃたろはその事に気付き自分も腕から意識を切断し足を動かしてみた。するとハク同様、ディレイ中の行動制限から解放される。


勿論ディレイが消滅した訳ではないので剣術はおろかディレイ対象の武器を使った攻撃と防御は不可能。

しかし移動、回避は自由に出来る。


このスキルは使える。

そう思う反面、このスキルは剣術と剣術を繋ぎディレイを先伸ばしにするスキルと同じくらいの集中力が要求される。と自分のスキルリストに書き込んだ。


数分前まで存在すら知らなかったスキルを戦闘中に知り、使って見せるひぃたろのセンスにハクは心を踊らせた。


お互いのディレイが終了するとすぐに無色光を放ち2本の光が1本の線を描く様に合わさる。剣術と剣術を繋いだ連撃が奏でる音は綺麗な歌声の様にも感じる。

無色光が消えそうになれば再び発光させ剣術をぶつけ合う。その中お互いがお互いの異変に気付き重剣術を発動させ意図的にノックバックを起こし距離を取る。


「白髪...と、肌が」


と、ハクの髪を見てひぃたろが呟き。


「微粒子...と、翅」


と、微粒子が纏わり付く自分の武器を見て、次にひぃたろの背を見てハクが呟いた。



ひぃたろが使用したスキル、造形魔法 エアリアル。星霊戦で使い、ダンジョンでも密かに使っていたが恐らく今初めて本気のエアリアルを発動させた。翅も大きく、以前まで薄ピンク色だった翅の色は濃く、形もハッキリし透き通る色に。微粒子は微妖精達の様に幻想的で優雅に宙を舞う。

抑える事なく発動したエアリアルの制限時間は以前よりも多く長く15分前後。

遠慮なしに使うエアリアルの翅は1枚1枚自由に素早く動かす事が可能で、移動手段だけではなく、防御にも使える硬度を持つ。


「エアリアル。見るのは初めて?」


そう言うひぃたろはハクの姿に注目した。

黒色だった髪は灰色に、そして白に変色し、肌は少し赤黒くなり、歯や爪も伸びている。

エンハンス、変化系のディア。

威圧感だけではなくステータス面も間違いなく強化上昇されているのは眼に見えて解る。


「白い死神...これがその名の由来になっていたのね」


ひぃたろは呟き剣を構えるとハクはツーハンドアックスを片手で軽々と構え、足元を抉る程の速度で距離を詰める。

それに対しひぃたろのエアリアルはソニックブームを起こし爆進する。

風を切る音さえ遅れる速度でお互い接近。ひぃたろの右腕は翅から溢れる微粒子を微かに纏い、剣は強い無色光を放ち、ハクより一瞬、早く剣を振った。


我慢できず剣を振った。


ハクはここで自分が勝ったと心から思った。

振られた剣をハクは回避しツーハンドアックスをカウンターの様に振り下ろそうとした時、視界を通過する微粒子の動きに違和感を感じた。


翅から溢れ漏れる微粒子は柔らかく上へ登り消える。しかし今の微粒子はまるで自分の背後へ回り込む様な動き。

ハクは剣術の初動に入っている為、振り向く事は出来ない。視線を上へ向けると自分の頭上にも無数の微粒子が宙で停止している。

丸い小さな粒だった光は細く短い線に姿を一瞬で変えツーハンドアックスを持つ右腕を的に射ち進んだ。


1つ1つは小さく弱く、軽い。しかしそれが数十、数百集まり同時にツーハンドアックスを四方八方から叩き射る事で軌道をずれす事だけではなく、武器を地面に叩きつける程の重さと威力になる。

叩き付けられたツーハンドアックスは無色光を失いファンブル、本来よりも重く長いディレイに襲われる。素早く意識を右腕から切断しこの場を離れようとするが視界を照らす光に意識を奪われる。


ひぃたろの剣術は単発ではなく連撃系。初撃は微粒子を拡散させる為に早く放ち、その微粒子が矢に姿を変えハクの武器を攻撃した瞬間に連撃の続きを撃ち込みに来た。


「チッ!」


回避は不可能、武器でのガードも不可能。この状態にハクは舌打ちし左腕を伸ばしひぃたろの剣を掴んだ。

剣術を素手で受け止める事は自殺行為。腕が斬り飛ばされるだけで剣術は止まらない。しかし響いた音と手応えは素手にぶつかったモノではなく、堅い何かにぶつかった音。

その音が響き消え、無色光も消滅した。


「速度と攻撃力だけじゃなく、防御力も底上げするディアの様ね」


ひぃたろの呟きにハクは両眼を閉じて答える。


「文字通り悪魔になるディア。でも本物の悪魔になる訳じゃない」


そう言い両眼を開き自分の左腕を見た。

ひぃたろの剣が手のひらを進み手首を過ぎた所で停止していた。

本物の悪魔ならば剣を掴み止める個体も存在しているだろう。しかしハクのは悪魔の様な姿になり悪魔の様な力を得るディア。悪魔になる訳ではない。その証拠に黒ではなく赤色の血液が脈打つ様に溢れる。


「何で微粒子の矢で俺を狙わなかった?」


戦意を失った声、負けを認めた声でハクが1つ質問するとひぃたろはすぐに答えた。


「狙わなかった訳じゃないわ....狙えなかった、が正解ね。微粒子がある場所にしか矢は射てない」


お互いがお互いの力を使いその異変に気付き距離を取った時、確かにハクの武器には微粒子が纏わり付いていた。

あの時点で既に的を決め、この攻めを作っていた事になる。

ハクは小さく笑い「そうか」と呟いた。


微粒子が自分の身体に付いていた場合、矢の的は自分だった。攻撃力は低かったとしてもダメージは発生し剣術ラインから外れファンブル、微量の痛みに気をとられた隙に斬られていた事になる。


「矢よりも早く俺が攻撃していたらどう対応していた?」


「翅でガードして連撃を入れていた」


ひぃたろは矢を外した場合の保険も確り用意していた。どう足掻いても勝てなかった事実にハクは負けを認める事しか出来なかった。


ファンブルディレイが終了するとハクは武器を手離し、それを見たひぃたろは同じ様に武器を手離した。

始めから殺す気はない。ここで剣を抜けば限度なく血液が溢れてでハクは命を落とす恐れもある。ひぃたろは剣をそのまま、自分の手だけを離しハクがその剣を支える。


ポーチを拾いポーションを取り出し座り込むハクへ渡すとハクのフォンが短く鳴り響く。


アスランからの撤退命令が届いた。


「完敗だ。強い奴が他にもい...は?」


言葉の途中で切りハクは声を漏らした。ハクが座る地面に緑色の魔方陣が展開され、そこから風の槍が突き抜けディアエンハンスで防御力上昇中のハクを簡単に貫いた。


上級風魔術 カドスグニル。


心臓部分を貫かれたハクは最後の命を燃やし、ひぃたろの剣を抜き捨てると再び魔方陣が展開され中心が開く。開かれた魔方陣の中心部から風の腕が現れハクを掴み魔方陣へ呑み込み消えた。


「これは...」


ひぃたろは記憶の糸を手繰りネフィラの最後を思い出す。

あの時も同じ、風の槍が貫き、風の腕がネフィラを回収するかの様に魔方陣へ呑み込み消えた。


誰かいるハズだ。


ひぃたろは看破リビールスキルを全開に使い辺りを見渡すと瓦礫の中に違和感を感じた。完全に看破するレベルまでには自分の熟練度が足りなかった様子だが、違和感に気付けただけでも充分だ。

ここで「そこにいるのは誰?」等と質問する必要はない。隠蔽ハイディングスキルを使っている時点で敵か、何か企んでいる人物に違いない。


ひぃたろは剣を拾い迷わず斬りかかるとハイディングは解け剣撃はヒラリと回避される。


赤黒いローブを装備した白髪の女性は小さく微笑んで言った。



「こん、ばんは。半、妖精、さん。お、久、しぶ、りで、す、ね?...あ、はじ、めまし、て、かな、?」



独特な句切りとスローな喋り方でひぃたろを煽る様に挨拶する女性。


久しぶりと言ったのは恐らく、ネフィラの時に隠蔽して一方的に私を見ていたからだろう。


ひぃたろは言葉を返さずただ女性を見ていると女性は一瞬眉を揺らし言った。


「ごめ、んなさ、い。ゆっく、りお、話、して、みたい、け、ど今、は時、間、がない、みた、いな、の。また、会い、ましょ、う」


微笑み、そして一瞬だけベトつく殺意を混ぜた視線を飛ばし女性は姿を消した。


「今のなに...」


最後の一瞬、本当に一瞬だけで今の自分では戦いにすらならない。ひぃたろはそう思わされた。それ程までに今の女性は強く、危険な存在。


一気に張り詰めた緊張、あるいは恐怖が緩み解け止めていた息を大きくゆっくり排出する。


「ハロルド!?ハロルドー!」


「エミリオ...と、アスラン」


「無事だったかー!ってハロルドは余裕か.....どしたん?顔色最悪だけど拾い食いしてお腹痛くした?」


「「お前と一緒にするな」」


「拾い食いしてもお腹痛くしないし」




ひぃたろは自分の中で今起こった事の整理がつかない為、二人に話した。


ハクが眼の前で殺された事に対して悲しくない悔しくないと言えば嘘になるが、追う事も泣いてあげる事も出来ない。


「悲しまんでええぞ。俺達は生きて国に帰っても殺されて終わりや、それが早まっただけや。...ユニオン行くぞ」



やりきれない思い、何とも言葉に出来ない思いを残し、3人は無言でユニオンを目指し歩いた。










あなた達はだれ?


ボクの質問に答えてくれたのは眼の前の....ではなくて。



「あ、なたの、妹、よ?久、しぶ、り、ね。プン、プン」



独特な句切りと冷たい声がボクの背を撫でた。

耳に焼き付く声、忘れたくても忘れちゃいけない声、ボクはこの声の主を...一生許せないだろう。

もう2度とボクの様な人を生んじゃいけない。もう2度と誰かの大切なものをこの人に奪わせちゃいけない。

誰かがこの人を止めなきゃいけない。

それの役はボクがやる。

ボクが止める。


この人を殺してでも。



「リリス」



振り返るとそこにはいた。

ドロドロの中身を微笑みで包み隠す悪魔と...ピンク色の髪、ピンク色の両眼で悲しそうな表情を浮かべた女の子。



「...、モモカ?」



「....お姉ちゃん」








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