◆67



ダンジョン。

魔物の巣窟になっている迷宮で、中のモンスター達は外の同種モンスターとは全く別の存在。

同種なのに別。これは見た目はそう変わらないがステータス、戦闘力や危険度がまるで違う事を意味する。

外ではBランクでも迷宮内、ダンジョンではAやSランクの実力を持つモンスターや、その逆で外ではSでもダンジョン内ではCランク程になるモンスターも存在する。勿論ランクが変わらないモンスターも。

そのランクは戦った冒険者の体感なのでモンスター図鑑を使ってもランクは外のモノで表示される。


ダンジョン内に生息しているモンスターはダンジョンから出る事は無い。

無い と言うより出られない が正しい。外に出てしまえばそのモンスターはリソースマナを排出し消滅。ダンジョン内のモンスターはダンジョン内でしか生きられない。消滅したモンスターも次はまたダンジョンにリポップする。


ダンジョン内のモンスターからは珍しいアイテム、外の同種からは獲得出来ないアイテム等が入手でき、ダンジョン内には危険を犯してまで手に入れたい宝も眠っている。


ダンジョンを完全攻略する場合はダンジョンの主、支配者であるボスモンスターを討伐する事で達成される。

ボスはダンジョン内のモンスターや宝よりも遥かにレアなドロップアイテムを持っている。特別なマナを持っている為、討伐後には入り口とボス部屋を繋ぐ空間魔法が永久発動される。

ボスはリポップしない。


攻略が完了していないダンジョンのマップデータは勿論無い。自ら進みフォンがマッピングしたデータも高く取引されていて攻略後でもモンスターはリポップするので冒険者や騎士等は何度も攻略済みのダンジョンに潜ってはアイテムを求めたり戦闘を繰り返し自身のレベルを上げたりしている。


外のモンスターを発見次第無差別に狩り倒す行為は基本的に禁止されている。生態系が狂う恐れもあり、モンスターの中には危険ではないモンスターも存在する。

死にかけた土地に木を植えるモンスターや迷った人間を入り口や出口まで案内するモンスター、肉が食料になるモンスターや毛皮がコートになるモンスター等々、様々な形で人や世界の支えになるモンスターが沢山存在するため、モンスターだからといって全てを狩っていい訳ではない。


しかしダンジョン内のモンスターは人だけではなく迷い込んだ外のモンスターや動物も容赦なく襲う。そして外よりも早くリポップする。

レベル上げや戦闘経験値稼ぎには最適の場所でダンジョン限定のアイテムは人々の生活に役立つ物もあるので攻略済み宝も根刮ぎ回収されたダンジョンでも潜る価値は充分にある。


しかし ダンジョンは危険な場所。普段からモンスターと戦闘している冒険者や騎士達でさえもダンジョンで命を落とす事が星の数程ある。

戦闘知識や技術は勿論、装備品、ポーション類、判断力と運と勘も必要になる場所。

それがダンジョン。

今わたしの眼の前には冒険者や騎士、外の生き物を誘い込む様に広がるダンジョンの入り口。ダンジョン入り口は基本的に地上にある。中に入ってみなければ どんなダンジョンなのかは不明だが、基本的にはダンジョンを進む=地下へ下る。という事になる。そのため多くのダンジョンマップはB1がエリア1、1階層とされる。

どこまで深く長いかも入って進んでみなければ わからない。


どんなモンスターが生息するのか、どのレベルなのか、どこまで深いのか、どんなボスモンスターなのか。

これらの情報を入手してからダンジョンへ潜り込む事を選ぶならばボスとの戦闘や宝はほぼ諦めなければならない。

当たり前だが攻略済みエリアまでしかマップデータは存在しない。情報も同じだ。

わたし達が今攻略するダンジョンの情報、マップはB1の半分も無い。

少ない情報の時点で このダンジョンのモンスターランクは最低Bと発表された。最低Bという事は奥のモンスターはさらに上のランクかもしれない。ボスモンスターは最低でもB+ランクなのは確定だ。


今のメンバーランクはわたしエミリオでC+、ワタポのランクはA、ハロルド、プーのランクはB+ 。

ランク的には危険すぎるダンジョン攻略。

装備品はマスタースミスのビビにメンテナンスしてもらい、ポーション類も多く用意した。現在入手可能なマップデータと情報も余さず。

素早く、効率よくお金や素材を集めたりレベリングしたい場合は安心安全では素早く効率的にとはいかない。不安で危険が多い安全の1歩先へ進まなければ望む速度と結果は出ない。

冒険者ならばDランクだったとしても知っている事だ。


「今回はワタシがパテリダするね」


そう言いワタポは 新しい義手が完成するまでビビ様に借りた義手の指先を素早く揺らしわたし達をパーティへ勧誘する。

パーティを組めばドロップアイテムがパーティメンバー全員に自動的に分けられて、モンスター図鑑もパーティメンバーの誰か1人が使えば全員のフォンにその情報が追加される。マップにパーティメンバーの位置が表示されるのではぐれた場合も便利。


パーティを組み終えたわたし達はついにダンジョンへ踏み込んだ。



ダンジョン内には風が流れていない。どこか生温く重い空気。意外にもダンジョン内は明るく、視力保護魔術を使う必要はない。

ダンジョン内に漂う特種なマナを壁の一部一部が吸収し、まるで松明を燃やしているかの様に発光しているからか...雰囲気は充分すぎる程ある。


離れず近付かず モンスターにエンカウントした場合素早く戦闘できる様にパテメンと絶妙の距離を取り進む。

横に4人並んでも呆れる程 余裕ある幅広の道、通路の所々にある別の道。マップデータが通用する今は無闇に進む必要はない。マップを見て行き止まりではないかを確認し進んでいるとモンスターが別の通路からこの通路へ現れた。

1本道ではないので予想出来た事だが気配も感知出来なかった事に正直焦りを感じた。


「戦闘準備!」


ワタポの声がダンジョンにこだまする中でわたしは利手...左手でメイン武器のマグーナフルーレ、右手にはダガーを持つ戦闘スタイルをとる。

数ヵ月前に盾を買うか迷った時、盾ではなくダガーを持つ事を選んでいた。

今日はこのスタイルでどこまで戦えるか、便利なのか不便なのかを確認したい。


モンスターの数は2体。

爬虫類と人型のデミヒューマン型モンスター。

右手にはショートスピア、左手にはバックラーを持つトカゲ人間と言った所か。


「リザードマン!外じゃCランクだよ!」


プーの言葉を聞きワタポは素早く指示を出す。


「左はワタシとエミちゃ!右はよろしく!」


短く返事を言い石作の地面を蹴った。

入り口周辺に生息しているリザードマンはこのダンジョンに存在するモンスターの中で一番弱いだろう。

ダンジョン内のモンスターは外に出てしまえば死ぬ。入り口周辺はモンスターから見ると危険な場所だ。そんな場所に生息しているモンスターは奥まで、入り口から離れた位置まで潜り生息し続けられる程の力はないと言う事になる。

さて、ザコモンスターでどのレベルなのか。


わたしのフルーレはバックラーに受け止められるも、1歩踏み込みリザードマンの胴を狙いダガーを振った。

この距離と角度なら入る。そう思っていたが予想以上の力でバックラーを押し、わたしの攻撃を潰しにくる。

このまま押されれば攻撃はミス、バッシュされれば大きな隙が生まれる。

奥歯を噛みダガーでフルーレを強く叩き盾を押し返す事を選んだ。武器と武器がぶつかり合う音が耳を刺す中で、わたしの横を素早く通過しショートスピアを狙い 借り物の剣を振る義手の剣士。

リザードマンの武器を上から叩きショートスピアの攻撃方法を潰す。ショートスピアは突きがメインの武器。斬りも出来るが棒の先端にダガーより少し長い刃があるだけなので振り回して使うタイプではない。刃先が地面に接触している時点で武器を使って攻撃する事を諦め盾で防御する事を考える。しかし盾をワタポへ向けるとわたしが容赦なく攻撃する。


ショートスピアの上で剣刃を横にする様に返し剣先をリザードマンの胴へ向ける。すると無色光を剣が纏い、素早く突き出される。

2連突き剣術がリザードマンへヒット。緑色の血液を出しノックバックする敵とディレイに陥るワタポの間へ素早く割り込み、がら空きの胴を斬る。確かな手応えとリザードマンの悲鳴が攻撃のヒットを伝える。

テカテカとぬめりある身体を捻り距離を取るリザードマン。

さすがはダンジョン内に生息するBランクモンスター。今の攻撃でも倒れる事はないか。

怒り狂うリザードマンは盾を前に、ショートスピアは高めに構え先端の刃がわたし達を睨み、無色光がショートスピアを包む。


「はぁ!? アイツ剣術使うのかよ」


不思議ではないが、あのステータスを持つモンスターが剣術まで自在に操るとは...これがダンジョンか。

気合いを入れ直しリザードマンの剣術を迎え撃とうとした時 既に足が地面を離れていた。まばたき すら許されない速度で迫るショートスピアに反応なんて出来るはずもない。ただ迫る先端を見つめていると、あと数センチでわたしに届くという距離で停止した。


「ぼーっとしない!」


リザードマンが距離を取った時既にワタポのディレイは終わっていた。恐ろしい速度の放たれた突進突きをワタポは借り物ではない方の、左義手で掴み止めた。

ディア...は使っていない。ワタポの動きを見切るディアは使用中 瞳孔が小さくなるのが特徴。今両眼にその反応はない。この速度を危なげなく普通に掴み止める事が出来るのとは...戦闘経験値の差か。


無色光が弾ける様にショートスピアから消える。これは剣術がファンブルした時の反応。ファンブルのディレイは大きい。この隙にワタポは迷い無くリザードマンの長い首を跳ね飛ばし戦闘は終了。

ハロルド&プーもほぼ同時にリザードマンを討伐しダンジョン初の戦闘は勝利で幕を閉じた。


「情報通り...ここは最低Bランクだね」


借り物の剣を キンッと鳴らし鞘へ納める溜めていた息を吐き出すワタポ。ザコモンスターでこのレベル。この戦闘があと何回続くのか、これ以上の戦闘も....。


「...ふぅー。入り口周辺で戦闘が大体40秒かぁ...マズイねコレ」


カタナと言うより太刀を背中へ戻し苦い表情で言うプーと頷くハロルド。今のリザードマンは2体、わたし達は4人と倍の数。ワタポはクゥを下がらせたが戦闘も出来るクゥは頭数に含めてもいいだろう...それでも10秒も縮まらないか?

相手が2体だったから勝てたもののこれが4体5体だった場合は...。


「もうここからは出し惜しみ無しで進むわよ。渋ってたら殺される」


ハロルドの言葉に無言で頷き武器を戻す。二刀流ではなく双剣と言った所か、このスタイルは悪くない。あとは自分自身のレベルか。

このダンジョンを無事に攻略出来た時、今の自分より確実に強くなっているだろう。


全員の表情は戦闘前とは大違い。覚悟を決めた顔。

進む。この先に進んでボスを倒して自分達のレベルを上げるんだ。

今より強くならなきゃ、なれなきゃ、レッドキャップには触れる事も出来ないだろう。



さっきのリザードマンを1人で倒せる様になるのは最低条件だ。


灯る壁の光が揺れる迷宮を1歩ずつ確実に踏み 前へ進んだ。

そろそろマップデータが通用しない場所がくる。

そこから本当の攻略が始まる。



不安と恐怖はある。でも、それよりも...ワクワクしている心が大きかった。







濡れる様に、あるいは滑る様に輝く鱗を持つモンスターがどこか愛らしい猫人族を襲う。

数10分前にエミリオ達が戦闘した亜人モンスター リザードマンだが数は6体。


ショートスピアを使って放たれる突進剣術やバックラーを攻撃に使うシールドバッシュ。ヌルリと動く蜥蜴の剣士を前に猫人族達は驚きはしたものの焦りの色は無い。


黄金色の鎧と短い黒髪、謎の旗を背負う猫人族の重剣士は表情1つ変えずに両手持ちの赤い大剣でリザードマンを盾、鎧ごと斬り潰し命を今終わらせる。赤いマントが剣風圧にバタつき旗も忙しく揺れる。


続く様に別の猫人族が動く。ポニーテールの黒髪揺らす、黒地に赤い羽織の和服猫が大剣を大きく横振りする。鬼の角で作られたかの様な大剣の刃がバックラーを簡単に斬り潰しリザードマンを両断。花柄の赤い羽織が靡きモンスターが排出したリソースマナを扇ぎ消す。


2体のリザードマンは僅か数秒でリソースマナへと姿を変えた。残り4体。


桃地に緑の羽織、ピンクの髪をまとめたお団子ヘアーが悪戯笑いで地面から壁へ飛び移り重剣士二人の横をウォールランで通過する。ニッ と笑い尻尾をご機嫌に揺らす和服猫は可愛らしい見た目からは想像出来ない程 早く、確実に、迷いなく2体のリザードマンの長い首を剣とも言えぬ太刀とも言えぬカタナとも言えぬ武器で跳ねた。


通路の奥に残り2体が猫人族を鋭く睨み、ショートスピアを構える。無色光を纏う武器を前に3人の猫人族は各々の武器をしまった。

気付いていない訳ではなく、自分達の仕事は終わったと言わんばかりの表情と余裕で顔を色付け笑う。


リザードマンの足が地面から押し出される様に離れ加速する中で響く破裂音とも言えぬ爆発音とも言えぬ...射撃音。

直後、蜥蜴の頭は弾け飛び力なくダンジョンの地に滑り倒れる。


3人の後ろ、奥から赤い魔銃...ライトボウガンを構える黒紫の全身鎧の影。ヘルムはどこかヒーロー要素を感じるデザインで緑色に発光するヘルムの瞳。マントをわざとらしく靡かせ3人と合流。


全員が視線をぶつけ合った瞬間、それは起こった。


黄金の鎧を装備した猫人族は左手を腰へ、右手は天高く伸ばす。その両隣で2匹の和猫も同じポージング。

3人の後ろで謎のヒーローヘルムは右手を腰へ、左手は斜めに上げまさにヒーローが変身するかの様なポージングをとる。


恥ずかしさの欠片も感じさせない程 決まったポージングと誇らしげな表情がそこにはあった。


これが数時間前にバリアリバルと手を結んだ猫人族の冒険者。


黄金色の鎧で身を包む重剣士はギルド R&G のマスター。りょくん。


黒地に赤羽織のポニーテールが、るー。


桃地に緑羽織のお団子ヘアーが、弓も使える猫人族 ゆりぽよ。


そして一番謎の雰囲気を全身から溢れさせる黒紫のヒーロー、彼が烈火。



ギルドとして正式に認められて僅か数時間。Bランクモンスターを簡単に倒す実力を持つ猫人族のギルドがダンジョン攻略に参加した。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る