-ダンジョン-

◆66




相変わらず この街の芸術とやらは謎めいている。

前に来た時は無かった。絶対無かった。

街灯の上に立つ天使の像。

そんなモノを追加して何になるのか...それを聞いた所で理解不能な事を言われるに違いない。


「今回は晴れてるね」


ワタポの言う通り、前回は雨が降っていて観光どころではなかったが今日は気持ちいい程晴れていて、午後のアルミナルは活気付く。

セッカがウンディー大陸を国と言った日からアルミナルの職人達は何か1つセッカの為に造ってあげたい。と日々案を出してはセッカにごとごとく その案を粉砕されている。

城も像も必要ないと言い張るセッカへ 何が必要で何なら許されるのか、もう意地でも何かを献上してやろうと職人魂を燃やすアルミナルの変態達....頑張ってくれ。

わたし達はアルミナルの現状確認に来た訳ではなく、マスタースミスのお店へ来たんだ。

早速そのお店へ足を運ぶも、途中途中で謎のオブジェや、お前それは...とツッコミたくなるファッションの人間達に眼を奪われ進みが遅い。

これもこの街を歩くうえでの醍醐味なのか、プーは黄金色の瞳をキラキラ輝かせ、ハロルドはあからさまに嫌そうな顔をする。


「ねぇねぇねぇねぇ!ひぃちゃん!ボク達も」


「却下」


「むっ、まだ何も言ってないじゃんかー」


「ここに住む、泊まる、遊びにくるのも嫌よ!」


「えぇ~!?こんないい街なのにぃー?」



プーの眼から見たこの街は いい街 なのか...ハロルドの反応が正常だと思うが、プーよ。

この街の闇を知ればきっと住むなんて考えを捨てるだろう。


わたしは屋台でホットドッグを1つ購入し、騒ぐ狐へ渡した。

突然渡されたホットドッグに戸惑うプーへ 食べてみなさい。と身振り手振りで伝える。

ホットドッグを手にした時点で言葉はいらない。

さぁ、闇を知れ。


「いただきまーす....」


一クチ大きくかじり両頬を膨らませその味を探る。

くるぞ!覚悟はいい?


「~~!?、!」


麻痺状態に陥った様に震え何かを伝えようと必死に眼を見開くが...誰も助けられない。

それがこの街の闇...食べ物が兵器的な味!

桁外れのダメージに耐えようとすればするほど地獄は続き、吐き出したくてもここは街中だ。こんな所で吐き出せば芸術的な街を汚した罪になるのは間違いない。飲み込めば終わりだが喉がそれを拒否する。

それがこの街の食べ物だ!それでも住みたいと騒ぎ散らすかい?プーよ。


「....酷い味だね、ボクはじめて食べ物食べて死ぬかと思ったよ」


飲み込んだ...のか?

まさか!いや...吐き出している様子は無かった...この電気ウナギ中々やりおる。


「そのホットドッグを飲み込むとは やーるじゃん」


街中で騒ぐわたし達の背後から迫り声をかけるこの手口は....キューレか!?

毎度毎度、突然現れては話しかけてくるその登場はやめてもらいたい。


職人や観光客が行き交う昼下りのアルミナルでわたし達を発見し声をかけてきたのは例の情報屋ではなく、黒スーツに白シャツ黒ネクタイで栗色ロングヘアーを靡かせる格好いい女性。

音楽家 ユカ だった。


「ラブリーベイベー、話すのは久しぶりだね。元気...だったみたいね」


音楽家ユカはこの街アルミナルに住んでいる。確か楽器の調整?やらの仕事を持つ冒険者だ。音楽家と呼ばれているし音楽関係の仕事をしていてもおかしくない。

音楽、楽器、芸術的。

繋がらなくもないが ユカ自身はこの街よりバリアリバルの雰囲気が好きと言っていた。


「久しぶりね、ユカは仕事?」


ラブリーベイベ には触れず挨拶を返し会話を始めるハロルド。プーはまだ闇をさまよっている様子だ。

ワタポに関してはクゥと遊び始める始末。

...ま、元気になったしいっか。


「いやー私はビビんトコに頼んでた武器を取りに行く感じ。ほらプンプン これあげるから飲みなよ」


ほぉ。マスタースミス様に武器を依頼していたのか?メンテ?強化?まさかの生産?

音楽家が使っていた武器は短剣だったはず...まてよ、雨の中でボス討伐していた時は別の武器を使っていた気が。

ビビ様もユカ様も武器を変えては戻し変えては戻しで何が得意ジャンルなのか謎だ。


短剣、か。

わたしも盾買うか迷って結局買わず短剣を1本装備している状態だったが使った事無かったなぁ...次からは使ってみよう。ビビ様の所行くんだしついでに強化とかしてもらおうかな。


「へぇ。私達も今向かってる所なのよ。一緒にどう?」


「マジか!メンテはバリアリバルでも出来るし...強化?生産?」


音楽家の言葉にハロルドはワタポの方へ目線を送り音楽家も状況を把握した。

目的地が一緒だし一緒にあのサイケな武具店へ行く事に。

門を潜り、広場を進み、大通りを抜けた先に職人通りがある。

職人通りは坂になっていてその坂の一番下にその店はある。行くときは下りだが帰りはどっちに進んでも上り地獄。

文句も言ってられないので坂を下り地面が平行になっている場所にその武具店は妙なオーラを放ち存在している。


木製のドアに描かれているのボトルとジョッキ。

壁にはハンバーガーとフライドポテト、フライドチキン等のイラスト。

赤黄でファンキーなピエロと白スーツのメガネおやじのキャラクターイラスト。

その2人の間に謎の言葉、ホッピー マッコリあります!と刻み書かれた看板を持つ黄色の鳥系キャラクター。


やっぱり理解出来ない。

武器や鎧のイラストを書いたり、ハンマーやインゴットの マークを刻んだ方が客足も増えると思うが...ま、そんな事しなくてもマスタースミスの称号を嗅ぎ付けた冒険者や義手義足を求める客は途切れないか。


「酷い店ね」


「うわぁー...このキャラクターって有名なマクドナ」


「プンちゃん」


「...、こっちはケンタッ」


「プンちゃん」



さすがハロルド、プーの攻撃を確実に潰し追撃さえも打ち消す。長年一緒にいるからこそ出来る対応か...しかしプーも黙っていない。このまま放置するのも面白いが、そうもいかないので音楽家を先頭にわたし達もマスタースミスビビの武具店へ入った。



「おじゃまー...うわ、アッツ」


先頭した音楽家が眉を寄せ言葉を溢した。確かに店内は異常な熱...暑さだ。

客も居ない店内でこの熱気...これは間違いなく奥の炉、フォージが燃え武具に何らかの手を加えている証拠だ。

わたしは1度外へ出てドアに吊るされた札を見る。その札は白文字でクローズと書かれている。

今日は予定外の客を招かず仕事をし、依頼品が完成した場合報告し店に来てもらうスタイルか。今わたし達は思いっきり予定外の客...。


「ちょっと奥行ってくるから適当にしててよ」


音楽家は自分の店と言わんばかりにズカズカ進み奥のドアを開き中へ消えた。ガラス1枚で仕切られる店内だがハンマーの音等は一切漏れない。カーテンで作業中の姿は見えないがあの奥、音楽家が入った部屋にビビ様はいる。


それにしても...見た事ある防具や見た事ない武器、アクセサリーが沢山並べられている。リピナのギルド防具はビビ様が生産した防具らしく、ここにその見本、モデルが展示されている。金属相場や素材持ち込みの場合の工賃、今売り出している完成品の細かい説明等、街の武具屋とは比べ物にならない程 1つのアイテムに対して情報が多い。その店内で見つけた1つの項目にワタポはくぎ付けに。


義手 義足の調整と変更に関する説明。


身体の成長に合わせて義手義足も調整が必要なのは予想していたが、変更、パーツどころかそのモノを新調する場合もある。今回はその新調になるだろう。

値段は...150万~400万v。


「みんな いくら持ってる?」


わたしは素早く言い自分のフォンで所持金を確認すると20万v程度しか。ビビ様が作る義手義足は武具ではないのでこのお値段。勿論もっと安い武具もあるが高ランクモンスターとの戦闘で使える武具となれば義手より遥か上の値段になる。マスタースミスの店へ20万しか持って来ない時点でわたしはバカかひやかし となる。


「いや、いい。今度はワタシが自分で買う」


「そっか、了解」


自分で買うと言う相手に いやいや払いますよ!なんて言う必要はない。まぁ腕を奪った責任があるわたしは少しでも力になりたいが、金銭的な面ではなく素材等でもそれは出来る。それに素材を持ち込む事で値段も下がる。

ワタポは最初、ただ普通に生活する為の腕を求めていたが今は違うだろう。普通に生活できる腕は最低条件でその上に、戦闘で役立つ腕 と条件や希望が上乗せされる。

今回は義手生産依頼ではなく、武具の生産依頼のジャンルに分類される。


生産者のビビが仕事を終えたのか、中断したのか奥の工房から店内へ登場した。

オーバーオールに革で作られた大きな手袋、髪を無造作に束ね頬には煤を付けている。


「コマンタレプー、そろそろ来る頃だと思ってた」


謎の挨拶を言い革の手袋を脱ぎ捨て丸イスへ腰かける。

タバコを1本くわえ革製品に焼印を刻む時に使うであろう熱々の鉄スタンプで火をつけ一服。音楽家は許可なしにビンを開け飲み物を。わたし達にもビンを投げ飛ばしてくる始末。


「今フォージの火落としたから温度下がると思う、それまで我慢よろ」


どれだけ燃やして作業してたんだ?と聞きたくなるが説明された所でわたしには理解できない領域。そう言えば、


「音楽家の武器は完成したん?みしてよ」


そう言うとニヒッと笑い完成品の武器を披露。

短剣よりも長く、剣よりは短い、緩く弧を描く剣が2本。


「固有名はショティドオーン。ゲリュオーン戦でドロした素材と別素材を使って作られた剣、ショテルみたいに軽くて、でも剣みたいに頑丈。クールだろ?」


軽くて頑丈な武器は羨ましい。わたしの持つ細剣、マグーナフルーレも軽さと頑丈さを持つビビ生産武器。多少手荒な使い方をしても問題ない点はありがたい。


「ゲリュオーン素材なんて使った事なかったし1回失敗したけどね」


失敗!?

鍛冶職人が与えられる最高級称号、マスタースミス を持っている者でも失敗するとは。

高ランク素材は扱い方も難しく、練習出来る程出回っていない。出回っていても練習様に買えるヤツは王族クラス。

初見素材を扱う時に要求されるのがスキルと経験値って事か。マスタースミスを持つ時点でその両方は充分にある。

依頼者は失敗よりも成功を望み願い依頼するので受注側、ビビ様もレア素材が相手となると相当気合いも入るだろう。


「で、今日はどんな仕事の依頼かな?」


どうやらわたし達がこの店に来る事を予想していたらしく、話を聞いてくれる事に。

タバコの煙を切る様に順番にビビ様へ依頼をする。


ワタポは義手の他に武具の相談、わたしやフェアリーパンプキンの2人も同じく武具の相談を。

ここで気になるのはやはりお値段。希望スペック等を告げるとビビ様は慣れた手つきで金額計算するも突然手を止めフォンを置いた。

煙を吐き出しタバコの火を消すと小さく笑う。


「面白い話があるんだけど」


そう言うとフォンではなく紙切れのマップ、地図を取り出し一点を指さす。



「ここ、アルミナルからそう離れてない場所に “ダンジョン” が見つかった」



ダンジョン。

長年発見されなかった遺跡の様で遺跡でもない未開の迷宮。世界樹の死後マナのバランスが崩れ 各地大小様々なダンジョンが発見された話はわたしも聞いた。そのうちの1つがこの大陸にあるとビビ様は言った。ダンジョン内はモンスターの巣窟だが冒険者は勿論、騎士団もダンジョン攻略を行う。

ダンジョン内のモンスターはそのダンジョンから決して出ない。外に生息しているタイプのモンスターもダンジョン内に存在していた場合は絶対に出ない。理由はマナの違いだ。外と比べてマナの量が段違いなのでその中で産まれたモンスターはそこでしか生きられない。人体に影響はなくてもモンスターには何らかの影響がある空気中に漂う力。それがマナ。

ダンジョン内のモンスターは外でDランクだったとしても、迷宮内ではBランククラスの実力まで成長しているモンスターも存在する為、半端な冒険者では自殺しに行く様なものだ。しかしそんな危険極まりないダンジョンへ向かう者は後を絶たない。

その理由は、ダンジョンにはお宝が眠っているからだ。

そこにしか存在しないモンスターの素材やそこにしか存在しない鉱物 金属、武具までも存在する。ダンジョンを完全攻略した冒険者や騎士の名は嫌でも広まる。それが高レベルダンジョンならば尚更。


「ビビはこのダンジョンのボスが凄いアイテムを持ってると思う。発見されたのは前なのにまだ誰も攻略出来てないダンジョン。ザコモンスターのランクがBらしい」


ダンジョンには主、ボスが存在する。そのダンジョンで最強の敵であり支配者。

ザコモンスターのレベルが高ければ高い程、ボスのレベルも比例して上がる。存在するアイテムのレア度もだ。


命をかけて迷宮を進みその迷宮の王を倒し完全制圧する。

それが...


「...ダンジョン攻略。冒険者っぽいじゃん!」


「高ランク ダンジョンなら私も気になるわね」


「ボクも行きたいな!強くなりたいし」


「ちょ、ワタシ腕ないよ...」


「ビビに変えの腕借りれば?」


「あるよ。何系がいい?ドリルにハンマー、魔銃もあるけど」


「えぇー!?普通のでいいです!」




ダンジョンを完全攻略後、わたし達は今以上に強くなってるだろう。

その時自分に合った武具をマスタースミスに生産または強化してもらう。



「行こうぜ!ダンジョン!!せーの.....」


「おぉー!」

「え、ちょ」

「がんばろー!」

「....」



...掛け声は揃わなかった。









「本当によろしいのですか?同盟という形も...」


「んにゃ、みんにゃで決めた事ニャ」


「...、わかりました。では この瞬間からケットシーの地は私達バリアリバルの領土となり、そこに暮らす猫人族はバリアリバルの国民になります」


「よろしくニャ-、これはシケットまでにょマップデータとケットシー達の事をまとめたデータニャ」


「ありがとうございます。では我々も」


「んにゃ、大丈夫ニャ。私達はただ世界を広げたいだけニャ。そっちの情報はこっちで集めるニャ」


「わかりました。あなた達の存在はこの国の大きな力になります。本当にありがとうございます」


「戦争にゃんかにぃ 巻き込まれたくにゃいからにぇー。巻き込まれるくらいにゃら、その渦の中に入りたいニャ」


「しませんよ。戦争なんて」


「ニャハハ、それを聞けて安心ニャ」


「あなた達はこの街で暮らすのですか?」


「そうなるニャ。私達は人間と猫人族を繋ぐのが役目...丁度いいニャ。女王様 私達のギルド登録をお願いするニャ」


「ギルド?構いませんよ、ギルド名は?」


「R&G」


「あーる...わかりました」


「マスターの名前にゃまえは りょくん でよろしくニャ。んにゃ早速クエストを...」


「早速クエストですか?、それなら面白い話が...こちらも手が足りなくて困ってましたし猫人族の戦闘能力なら可能かと...これです!」


「猫の手も借りたい状態かにゃ?どれどれぇ...」










「...ダンジョン?」







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