-太陽の産声-
◆39
ギルドは冒険者達が作った集団、団体、組織、国。
他のギルドとのトラブルも勿論、騎士団とのトラブルもあるらしい。目的もなくギルドを作りダラダラ過ごすのも悪くない。でも目的、活動をハッキリしているギルドもまた魅力的。
しかし迷惑なギルドや犯罪ギルドも存在するのが今の世界。
星の数程 存在するギルドが今日2つ無くなった。
無くなった1ギルドの元マスター、ワタポは1つ傷痕を増やした。ビビンバソードで自らの肩を焼き斬って。
噴き出す血液を水の変わりに使い霧を作る。あれは両腕を無くしたワタポだからこそ出来た荒業だろう。普通なら痛みを想像してしまいそこで自分の血液を使う等の考えを捨ててしまう。肩を斬る以上の痛みを体感したワタポだからこそ。
傷はハロルドの再生術で焼き切れた組織を、細胞レベルから繋ぎ合わせ再生、治癒術で傷を癒す。
細胞が死んでいたら再生術でも再生不可能。今ワタポの腕が眼の前に落ちてたとしても再生術ではもう手遅れという事だ。
腕と言えばあの魔方陣から現れた風の腕....あれは間違いなく魔術。それも相当ハイレベル。詠唱にも気付かなかったなんて...一体誰が何の為にあの場で魔術を?虫の息だったネフィラにトドメを刺し死体を何処かへ...死体を...。
「死体...」
ついクチから漏れた言葉をワタポは
「したい?何を?」
マズそうな葉っぱをクチへ運び、幸せそうな顔とフワフワした雰囲気を全開に出すワタポ、足元にいる小型モードのクゥが更にワタポのフワフワ感を底上げする。
わたし達はあの後バリアリバルまで無事到着した。
門の前でわたし達を出迎えてくれたのはセッカ。元ドメイライトの姫...いや今もだ。しかし姫は行方不明になっている。わたし達を出迎えたのはドメイライト王国の姫セツカではなく、ギルド マルチェのセッカだ。心配そうな表情はわたし達を見て明るく咲き「おかえりなさい」と言ってくれた。全員が「ただいま」と笑顔で返し街の中へ。
街の中に入って、結界の中に入ってやっと帰ってきた感じがする。早朝から行動していたので結構お疲れモードわたし達は仮眠したいオーラを全身から噴き出させる。
仮眠しよう!と言葉を喉まで持ち上げた時ビビ様のフォンが鳴り響く。
まさかの仕事依頼がわんさかと。音楽家も頼まれていた楽器の調整が今日までらしく2人は急ぎ、涙眼で帰る事に。
ビビ様は勿論、音楽家もアルミナルに住んでいたとは...解らなくもない。
ここで慌ただしく解散する事になり、ハロルドとプーもここでお別れ。セッカもわたし達の無事を自らの眼で確認し安心したらしく眠気に襲われていた。
門の前で解散しわたしとワタポクゥはマネキネコ亭へ戻り数時間睡眠をとって今昼食を喰い漁っていた所だ。
昼食時なので客も多く、こんな所で死体の話をすると色々ヤバそうなので誤魔化す事に。
「クエスト、わたしC+から上がれなくて...そえばワタポのランク上げないの?」
ワタシもランク上げたい!エミちゃ手伝ってー!と言ってくるハズだ、言え!早く!
「んー...ランクは気にしてなかったなぁ...」
そりゃな。気にした所で最低ランクのDだろう。でも気にしないとわたしがガンガン高ランククエスト(C+からはクエストランクが謎だけど)を受注してしまうぞ?
フォンを取り出してランクを確認するワタポだが...確認する必要はない。キミはわたしがランクを上げている時ビビ様の所に居たんだから。
「あった。ワタシはAランクで止まってたよ」
「は?」
嘘だ。今普通にバレる嘘を堂々と言ったぞこの女!
わたしはワタポのフォンを覗き込んだ。
....本当にAランクだった。
「ね?ワタシ昔はこの街を拠点にしてたからさ...ペレイデスモルフォでね。ネフィラと色々あってギルドとしても目立っちゃってドメイライトに移動した感じなんだ」
そうだった。
ワタポはペレイデスモルフォのギルドマスターマカロニって名前と騎士隊長のヒロって名前で何かしてたんだ...忘れてた。
しかしまさかのAランクとは...確かハロルドとプーはB+。あの2人よりも高いランク...うん。あの蜘蛛女と1対1で戦ってたんだ。納得できる強さだしワタポは優しすぎるからウザキモ蜘蛛女が相手でも殺すつもりで挑んでないだろうな...。
わたしの時もそうだったし.....。
「エミちゃどうしたの?」
「ん?....あぁ、ワタポほランクが高くて嫉妬し...」
「おい!聞いたか!?マテリア狩りの話!」
嫉妬していた。と冗談をクチにしようとした時 来店するや即叫ぶマナーもない男に言葉は消される。
マテリア狩り.....男は確かにそう言った。
魔結晶狩り は聞いた事ある。
集会場等で「魔結晶目当てで狩りいきませんかー」と仲間募集している冒険者やギルドで魔結晶狩りに行く事もあるらしいが、マテリア狩り...そもそもマテリアはドロップしない。
魔結晶を加工したモノがマテリア。マテリアにしてしまうと武具素材には出来ない。
武具に
武具に
魔結晶は素材に使うともう終わり。マテリアはアクセサリーに加工もできて、運がよければ武具からも取り出せる。
ここが魔結晶とマテリアの違いだ。
魔結晶はモンスターの体内や自然の力で生成される。
マテリアはその魔結晶を知識と技術を持つ者が加工して産まれる。
なので、マテリアを狩る。という言葉は マテリアを持つ者を襲って奪う という事になる。
「マテリア狩りにユニオンへの不信感...この街はどうなっちまうんだよ」
冒険者と思われる男が呟いた。
この店にいる誰もが同じ事を思っていたのか...賑やかだった店は少し静まった。
◆
昼食を食べ終えたわたし達はモヤモヤを抱えてマネキネコ亭へ戻った。
昼食後は集会場へ行ってクエストでも!と思っていたがとてもそんな気分にはなれない。
ボス討伐へ向かったアスラン達はあの日からユニオンに対する不信感等を抱いてしまったらしい。それもそうか...ユニオンが用意した隊の責任者、リーダーが無能すぎて従っていれば隊は全滅する危険もあった。不真面目なアスランが真面目になった事から相当イカレたリーダーだったのだろう。
ユニオンがそんな人間になぜリーダーを任せたのか.....ロキ。確かアイツは国を創るとか言っていた。
そのボス討伐で人をまとめる事が出来る冒険者や臨機応変に動ける冒険者を厳選する作戦だったのか?
下手をうてば全員死んでいたかもしれない状態なのに...いや、全員死んだならそれでよかったんだ。
そうすれば高ランクの冒険者は消える。ロキの腐った野望に噛み付きそうな冒険者が消えたならそれもいい。アイツの考えはこんな所だろうか。
「エミちゃ」
「ん?」
真面目な表情でわたしを見るワタポ...なんだろうかこの不安というか変な感覚。
「ユニオンの上層部は多分、恐ろしい事を考えてると思う。マテリア狩りにも少なからず関わってるかもしれない」
「...どうして?」
ワタポは全部話してくれた。
わたしがビビンバソードに焼き殺されかけた時助けてくれたのもワタポ、その時ワタポが見た事や聞いた事も全部。
ユニオン襲撃犯になっていないワタポ...わたしもそうだ。
わたし達を襲撃犯にしなくてもよくなった?それともわたし達に構ってる暇がなくなった?
話を思いだして考えているとわたしの記憶が1つ揺れ動いた。
ロキ。これは間違いなくユニオンのリーダーだ。
そして変な句切りをつけてノロノロ喋る女を.....わたしは知ってる。数ヵ月前たまたま発見した廃村でその女にわたしは会っている。
キューレから少し話を聞いたハズだ...確か名前は...レッドホットチリ...違う、レッドキャップだ。
世界最高ランクの犯罪集団...ギルド レッドキャップ 。
変な句切りをつけてノロノロ喋る女はリリー。確か死体を操る能力...ディアの持ち主。
ユニオンで戦ったあの貴族っぽい男も死体だったのか?
それと偽羊のスウィルと恐らくロキもレッドキャップだろう。
リーダーの名前や姿は知らないけど命令してた男がリーダーに間違いない。
アイツ等は金玉を探してるハズだったけどなぜユニオン、この街を狙う?なぜマテリア狩りを...いくら考えてもわたしには解らない。
この情報をワタポにも言いワタポの考えを聞く事にした。
「レッドキャップ....犯罪ギルドの...犯罪の象徴的な連中だよ。大きな事件の裏には絶対って言ってもいい程レッドキャップの名前がちらつく。人数もメンバーの特徴も謎だったんだけど話的にリリー、スウィル、ロキ、この3人は間違いなくレッドキャップだね」
やはりロキもレッドキャップのメンバーか。
他のメンバー、情報がほしい。今回のマテリア狩りに関係なかったとしてもレッドキャップの情報は知って損はない。
それにセッカは金の魔結晶を探して壊す事を、ワタポも人工魔結晶の存在やその作成方法を消す事を目的にしている。最悪レッドキャップとぶつかる時がくるかも知れない。
魔女よりも悪魔よりも最低な人間...。
ロキは世界を欲しがってた。
リリーとスウィルは?レッドキャップが世界の王になったら終わりじゃん。黄金の魔結晶が
レッドキャップ 。
子供の頃 聞いた危険なヤツ。一応妖精種だけど人間を好んでターゲットにする。人間を殺す事が楽しくて殺した人間の血液で染めた帽子を装備しているからレッドキャップと呼ばれている。
ギルド名は間違いなくこの妖精からとってるだろう。
人間を平気で殺して、欲しいモノは奪って、名前通り....名前以上にヤバイ集団。
野放しにしているのがオカシイけど...最高ランク、S3の犯罪集団。下手に手を出せば被害者が出て逮捕できず終わる。わたし達がどうこう出来る相手じゃないけど、探しているモノが同じなんだ。ほっといていい相手でもない。
「無視は出来ないけどワタシ達にはどうする事も出来ないよね...」
「ほっとけない、けど何も出来ないね」
レッドキャップを探し捕まえようとしても多分瞬殺されて終わる。
世界的に名前が出回っていてS3の犯罪集団なら騎士団の上層部とかが動く相手だ。任せるしかない。
「レッドキャップを捕まえるとかそんな事より、ロキ....アイツからユニオンを取り上げないと多分この街は死ぬ」
「うん。でもどうやって?」
「簡単だよ。ユニオンのリーダーがレッドキャップだった!って証拠を叩き出せば冒険者やギルドはロキに怒る。これだけの数が怒ればロキも、レッドキャップも手に終えないでしょ?それにユニオンにレッドキャップの1人がいるとなれば騎士団も来る。そうなったらさすがに逃げるでしょ」
その証拠をどう手に入れるか...全然考えてないけどね。
「いや、それはダメ」
「え?なんで?」
「それが上手くいってもその後どうするの?エミちゃがユニオンを建て直すの?この街にレッドキャップがいたって事になったら騎士団はその後この街の人間達を疑って逮捕するかも知れないよ?」
「あ...いや...」
「ここはユニオンに不信感を抱いてる人達に任せるべきだとワタシは思うの。その時ワタシ達が力になれるなら喜んで力を貸す。それでいいと思う」
後の事まで考えていなかった。いや、誰かが何とかすると思っていた。それじゃダメなんだ。
最後を誰かに任せるなら始めから手を出さない方がいい。わたし達が力を貸せる状態だったら貸せばいいだけ。
下手に動いて面倒事を作る所だった....助かったよワタポ。
「そだね、ありがとう」
「うん、解ってもらえたならよかった!それじゃワタシ達は何も知らない冒険者として普通にクエストでもしよっか」
「そだね、何かあったらアスランやキューレ、セッカからメッセージ飛んでくると思うし!いこ、集会場!」
わたし達はわたし達のペースで進めばいい。
無理に物事に首を突っ込む必要はないんだから。
1歩ずつ確実に前へ進めればそれでいいんだ。今はそれで。
◆
「んん~~~....」
迷う。
「エミちゃ、まだ決まらないの?」
迷う。
「もう何分経ってるの...」
集会場に到着してから即クエストリストを見た。
わたしの心を2つのクエストが鷲掴みの引っ張り合いをしていた。
1つは討伐系クエストで恐らくボスクラスであろうモンスター、カトブレパスの討伐。
もう1つは内容は現地で説明があるらしい謎のクエスト。
この2つ...恐らくランク上げに関係しているであろうクエストだ。
2つとも高難度の文字が書かれている。
ユニオンのリーダーは黒だと思うけどユニオン全体が黒だとは思わない。なので普通にクエストをしていればランクも上がるし報酬も確り手に入るだろう。
この辺りでランクをBにしたいのだが...どちらがいいか。
いや、もう決まっているんだ。ただ、内容が無茶苦茶だった時が怖くて指先が動かない。
「...何を恐れている!わたし!」
自分に言い、指先でクエスト受注ボタンをタップした。すると受注完了 の文字が浮かびクエストリスト画面に戻される。
「やっと決まったんだね、どのクエスト?」
ワタポとはパーティを組んだのでわたしがクエストを送る。勿論受注したのはわたしなので条件達成もわたしが行わなければならない。
パーティメンバーに今から攻略するクエスト内容を伝える為にリストを送る。
この時パーティメンバーがこのクエストはイヤだ!とか、無理!となれば
全員が同じクエストを受注出来れば問題ないのだが、このクエストは1人限定らしい。討伐系等は何人も受注できる代表だが、今回の様な謎クエストや おつかい系は1人受注するとクエストリストから消える。
カトブレパスならワタポも受注出来たのだが...1人受注すれば消えるクエストなんて早いもの勝ちで何か魅力的。悪いワタポ、今回はこのクエストをお願い。
「どれどれ...[太陽の産声]....え、なにこのクエ名...内容は現地到着後説明?!ちょ、エミちゃコレはさすがにレベル高いと思うけど」
「センスいいっしょ?」
現地到着後説明。
このクエストは絶対凄いクエストに違いない!
渋るワタポの腕を引っ張りわたしは集会場を出た。
目指す場所はその現地!
この大陸にある[ケットシーの森]を進んだ先にある[猫族の里 シケット]、まずはケットシーの森を探す所からスタートだ。
頑張ろう相棒!
「ガウっ!」
「って お前かーい!」
「1人でなに言ってるのエミちゃ...」
蝶と蜘蛛の件を終え、ワタポはマカロニでも騎士隊長でもなくワタポとして進むと言っていた...。
昼過ぎにワタポの新しい1日が始まった。
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