◆40
ケットシー。
猫人族といわれる種族。
名前通り猫の様な耳と尻尾を持ち
世界樹を護る為に存在する種族とも言われているケットシーは人間どころか他の種族との交流を求めない事で有名らしい。しかし今回はクエストまで作り他の種に力を借りる行動...[太陽の産声]というクエスト名...。
考えていても始まらない。
とにかくケットシーの森を抜けシケットまで行かなければ。
出発前にアイテムや装備類等のチェックを済ませワタポはマルチェが経営するショップでマップデータを購入している。
ジャンケンでわたしが勝ったのでマップ代金はワタポが払う。勝者がいい思いをする。
これが社会のルールだぞワタポよ。
「エミちゃケットシーの森までのマップはあったけど、森の中、その先のシケットはマップデータが無いんだって」
「無い?売り切れ...はあり得ないよねデータだし...誰も行った事ないって事!?」
「うん」
これは凄い!ケットシーの森攻略&猫族の里シケット発見でわたしの名前が世界中に広まって...間違いなくランクも上がる!
やはりこのクエストを選んで大正解だった。
「最高じゃん!わたし達が最初の発見者になれるんだよ!グフフ...サイン考えとこ」
「はは、そだね(...誰も行った事ない より 誰も行けなかった、攻略できなかった。って考えないのかな...)」
ワタポからマップデータを受け取り確認して驚いた。
ケットシーの森はウンディー大陸に存在しない。
大陸名もない小さな島にその森はあるらしい。行くには...ウンディーポートから船に乗ってイフリー大陸とシルキ大陸の丁度中心にある小さな島に上陸しなければならない。
中心と言えばこのワールドマップの中心にある島...大陸が気になる。
「ワタポ、この真ん中のなに?ヘソ島?ヘソ大陸?」
世界のヘソを指差しワタポに聞いてみると「誰も行かない小さな大陸」とだけ答えてくれた。何もないから誰も行かないのか?気になる。気になるが今はケットシーの森だ。
「まずはウンディーポートだね。それからはポートに着いてから話すね!」
「ほいさ」
さすがワタポ頼りになる。
しかしリーダーはわたし。あくまでも威張らないでリーダーをナビする手下。上下関係を理解しているな。
ウンディーポートまで馬車で移動する事を選び、バリアリバルの馬車乗り場まで行くと丁度よくポート行きの馬車が来た。
妙に揺れる馬車に乗り、わたしの初遠出クエストが始まった。
◆
「ケッツ痛っ...あの馬車ショボいヤツか」
妙に揺れる古い馬車に当たってしまったのかお尻が腰が、悲鳴を。
「古い型だったね、ワタシも少し痛いかも」
ポート付近で馬車の呪縛から解放されたわたし達はここから少し歩いてウンディーポートを目指す...というか、
「クゥに乗ったほ早くて安全だったんじゃないの?」
「うん、でもエミちゃ冒険の雰囲気味わいたいって顔してたし馬車の方がいいかなって」
「もう絶対馬車なんて乗らない。クゥーウンディーポートまで乗っけてよぉークゥー」
クゥを抱きしめ顔をスリスリしてお願いする「ウゥー...」と低い声が...。
白く輝く牙が見えた瞬間、わたしの視界は黒く染まる。
「いだだだだだ!!」
「ちょっとクゥ!やめなさい!」
「ヴゥゥー...」
うねる様な低い声を吐くクゥ....子犬に見えるけどコイツはフェンリルと呼ばれるボスクラスのモンスターだった事を完全忘れていた。
「いだだだ、鼻にピアスしたくないってクゥ、ちょ、だだだだ」
機嫌最悪なクゥの噛み付き攻撃は恐ろしい攻撃力と痛みでわたしを襲う。
引っ張っても、ワタポが注意しても離れないクゥ。
どうやらこの犬はわたしとガチなバトルを望んでいるらしい。仕方ない。どっちが上かハッキリさせるか。
「「.....なに やってるの?」」
たまたま通りかかった2人を見てクゥはあっさり噛み付き攻撃をやめワタポの足下へ。
ローズクォーツの様な落ち着いたピンク色の長髪と 力強い黄金色の三つ編みがわたし達を見かけ声をかけてくれた。
この2人は朝一緒だったギルド フェアリーパンプキンの戦闘狂。と言ってもわたしは2人のガチバトルを見た事はない。街でこのギルドの名前を出せばみんなクチを揃えてこう言う...「ありゃ本物の戦闘ギルド、戦闘狂の集まりだ」と。
しかしこの2人どころかギルドメンバー数までハッキリしていない様子。実際に見た事ある冒険者は極端に少ないのでゴッツゴツの男達、屈強を具現化した様な奴等。とまで言われている。不定期クロニクルにもロゴマークだけしか公開されていなかったし...でも誰1人として「フェアリーパンプキンは存在しない」と言わない...人間達の感覚は不思議なモノだ。
実際のフェアリーパンプキンは2人でしかも女、わたし達とそう変わらない歳だろうか。
人間とは思えない、まるで妖精の様な顔立ちのひぃたろ(わたしはハロルドと呼んでいる) と 元気いっぱいで電気ウナギみたいにビリビリ雷を出したプンプン(プーと呼んでいる)。
街にいる連中がこの事実を知ったら大騒ぎになるだろうな。
「....はい、いいよ。エミちゃもクゥも喧嘩しちゃだめだよ!」
喧嘩を売ってきたのは100パーセント犬の方だしょ!なんでわたしも怒られるのさ!
とは言えず頷きワタポへ治癒術のお礼を言う。
「子犬と喧嘩して負けたのねエミリオ」
「エミちゃん弱いねー!」
「はぁ!?勝ったし!弱くねーし!勝ったし!」
あーでもない、こーでもない、と エミリオ様 ハロプー クゥまでもが騒ぐ。
残念ながらここで「はい負けました」と言ってクゥに勝利を譲ってやるほど わたしは大人ではない。
犬っコロに負けた。という最悪な黒星を刻む訳にはいかない。
ギルド名の事を考えているとクゥは「この青いヤツ...うぜぇな」と言いそうな顔でわたしを見てため息を吐いた。
「ねぇ、2人はどうしてここに...」
「もー我慢ならんぞ!クゥ!ブッ飛ばしてやるから来い!」
「...、グゥゥゥ」
ほぉ。戦闘モードに入ったか。面白い!!
「エミちゃうるさい動くなクチ閉じて」
「え?」
「うるさい」
なぜワタポも戦闘モードに?
低く鋭い声、ワタポがたまーに出す結構怖い声がわたしに、わたしだけに向けられた。またわたしだけ。
ここで「はぁ!?なんでさっきから わたしばっかり!」と言ってみろ...多分殺される。あの眼は本気だ...この女、本当に人間なのか?今の迫力は悪魔か何かだろ..。
悪魔の様な人間に言われるままクチを閉じると「よろしい」と呟き、悪魔ワタポは話を始めた。
「2人はどうしてここに?クエスト中...じゃないね。クエに向かってるの?」
そんな事聞く為にわたしを黙らせたのか!?
「えっとね、ひぃち....ング!?」
何かを言いかけたプーのクチを手で塞ぐハロルド...あれは塞ぐと言うより...顔面叩きのレベルだぞ...痛そう。
「ウンディーポートに昨日と今日限定でベーテルピーチを使ったピーチタルトが販売されてる。それをプンちゃんがどうしても食べたいって言うから仕方なく付き合ってあげてるのよ。別にピーチタルトに興味なんて微塵もないけど、ギルメンがどうしてもって言うならマスターとして付き合ってあげるのは当然でしょ?」
ハロルドが食べたかったんだな。
「そ、そっかぁ...。ベーテルピーチってあの?」
「ベーテルリザードが獲物を誘う為に育ててる世界一美味しい桃、高ランク食材の1つ。1年に1度それも少量しか出回らない幻の果物。そのベーテルピーチを贅沢に使ったピーチタルトがウンディーポートに今ある。それを作ったのが世界一のパティシエ サンデー。1つ3000vの高級スイーツだけど貴族や冒険者達はその価格なんて気にしない。1歩遅れれば売り切れになってしまう程 人気高いスイーツよ」
「へ、へぇ...」
ワタポよ...その気持ち解るぞ。絶対ハロルドが食べたかっただろコレ。どれだけその桃とタルトの情報を集めたんだよ!
一番価格を気にしていない顔してるのは貴族でも冒険者達でもなく、ハロルドだ。
しかし...そんな美味しいスイーツなら是非食べてみたい。
わたし達が攻略するクエストは恐らく命懸けの超高難度。ここは気合いを入れる為にそのタルトを。
「ワタポ!わたし達もポート行くし食べようタルト!」
「そだね!」
「そ。それじゃクゥ早く大きくなりなさい。急いで私達をウンディーポートまで。多少荒いくらいで構わないわよ」
クゥは即フェンリル本来の姿に変わる。
賢いワンコだ。今ここで下手に渋ると剥製にされるのは確定だ。
自分の愛犬と言わんばかりのハロルドの行動...テイマーとしての才能があるのでは?
噂のタルトは売り切れる確率が半端なく高い代物なので急ぎクゥの背中へ乗る。クゥは弾丸の様なスピードで少し潮の香りが混じる風を切り進んだ。
僅か数分でウンディーポートへ到着したわたし達はすぐに門を潜りハロルドを先頭に港街を駆け抜ける。港と街の境界線と言える場所へ到着し、わたしは無意識に呟く。
「うわ、凄い列...」
貴族に冒険者、他にも沢山の人々が列を作る。
その先に噂のピーチタルトはある。
迷わず並ぶと数分おきに1人また1人と笑顔で列の横を通過していく...紙袋を持っている事からピーチタルトはテイクアウト限定の品だろうか。
甘い香りが港街をクヴリールする。
「この香り、バターもクリームもカトブレパスのミルクを使ってるのね。香りもクチ当たりも最高だけど味に強い個性を持つカトブレパスのミルク。それを使うとはやるわね」
カトブレパスと言えばわたしが迷ったクエストの討伐対象ではないか。そのミルクを使ったピーチタルト..、
「え、ハロルド匂いだけでわかったの!?」
調理している所や説明などはない。勿論食べた訳でもない。漂うこの香りだけでハロルドは素材を見抜い...嗅ぎ当てた?
「前にも言ったけど、ひぃちゃん鼻がいいんだよー!」
「「いやいやいやいや」」
わたしとワタポの声が重なりあう。鼻がいいってレベルじゃないぞ。バターの香りだけじゃなく果物、海、それにクリームなんてこの3つに比べれば相当弱い香りだ。
「どんな事したら嗅覚レベル上がるのさ!めっさ鼻いいヤツと電気ウナギってキミ達人間離れしすぎてて怖いわー」
「電気ウナギって...それとボク達 人間 じゃないよ」
「「え??」」
今さらっと凄い事言ったぞ。
人間 じゃない?
別の種族?
いやいやいやいや、それもあり得ない。人間じゃないけど見た目が人間と変わらない種族は「自分は人間ではありません」なんて言わない。
差別等の面倒事へ自ら首を突っ込む様なものだし。
「そう言うエミリオも人間じゃないわよね?ワタポは人間、クゥはモンスター。それくらいすぐ解るわよ」
「はぁ!?なにそれ、わたしゴミに見えるの!?こんな手足あって喋るゴミ見た事あるの!?」
「なぜそこでゴミに行くのエミちゃ...」
ハロルドやプーの話、わたしが何に見えるのか、その話は先送りになる。
わたし達がピーチタルトを買う番が遂に来た。
「いらっサンデー!ピーチタルトですかー?」
この元気いい人がサンデーと呼ばれるパティシエか。オレンジ色の髪が両サイドでドリルみたいにグリグリ...頭重くないのか?
「ピーチタルトを4つください」
4つと言わず全部買ってしまえワタポ!
「ごめんねー...ピーチタルトがあと2つしかないんだ。2つでいいかな?」
なんとまぁどこのバカ貴族だよ大量買いしたのは。
わたし最低1つ食べるつもりだったのにコレじゃ半分しか食べれないじゃんか。それに大きさは?
「それじゃあ2つください」
ワタポがそう言うとサンデーは「ありがとー!」と言いベルを高らかと鳴らす。
売り切れを知らせる音らしく他の者は残念そうに散らばっていく。
狙っていた数の半分だが無事ピーチタルトをゲットできたわたし達はここでお別れを。
別れ際にフレンド登録を済ませ2人はバリアリバル方向へ、わたし達はチケット売り場がある港方向へ足を進めた。
「なんかラッキーだったね。エミちゃ半分食べるでしょ?それともジャンケンでこの1つ賭ける?」
小さく笑うワタポ...バカなヤツめ。忘れたのか?わたしは街でジャンケンに勝利しマップ代金を払わずに済んだ事を。
わたしは迷わずジャンケンを受ける。ピーチタルトはわたしが頂く!!
◆
「....」
「...、、もういい?」
おかしい。
「....」
「...エミちゃ?」
なぜだ。なぜ6連敗するんだ。
あいこ も無く一撃でジャンケンが終わる。なぜだ。
「もっかい!これが本番!」
「そのセリフ何度めさー...それに絶対勝てないよ?」
コイツ...完全に調子に乗ってる。絶対勝てないよぉーん?だと?やってやる。一撃で地獄送りにしてやる。
「遊びは終わりだワタポ、悪いが一撃で終わらせる。いくぞ!.....あっぽっぽい!」
わたしが選んだのは2本の指が美しく伸びる最強のチー、チョキ、ハサミじょきじょき。
対するワタポは全てを粉砕する程力強さを纏う、グー。
「....なんでだ、お願いワタポ今の無しジャンケン無し!普通に半分わけしよお願い!」
「冗談だよ、ただジャンケンしてみたかっただけ」
「ほえ?なにそれどゆこと?」
「ネフィラと戦ってからなんだけど、集中すると相手の動きの1.5秒先が見える様になったんだ。眼で捉えられる速度じゃなきゃ意味ないけどね」
1.5秒先が見える...。
間違いなくディアだと思う。それでわたしの手に全集中力を使って動きを見ていたのか...それで あいこ無しの7連勝。
この能力、ジャンケンでは無敵だ。それに戦闘での1.5秒は大きい。凄い能力を手に入れたものだ。
「へぇーそれ凄い使えるじゃん!わたしのディアは....」
教えてくれたお返しに自分のディアを教える。同時詠唱は戦闘でも大いに役立つ。
同時詠唱と先読み。これは戦闘の幅が大きく広がる気がするぞ。
「よし。早くチケット買いにいこう!ワタシが買う...ん?」
突然わたしの後ろを見るワタポ、つられて振り向くとハロプーがまだいた。子供数人と話している様子。
「何してるんだろね?バレない様に近付いてビックリさせよーぜワタポ」
やめなさい。と言われたがもう遅い。
後ろからゆっくり近付きビックリさせてやるぜ作戦を決行する。
ドキドキする胸を静め息を殺してゆっくり、つま先から着地してゆっくり。
「いいのよ。お姉ちゃん達は別のモノでも大丈夫だから」
「うん!ボク達の事よりコレをお母さんにプレゼントする為に頑張ってお金貯めて並んだんでしょ?」
「お金も要らないからそのタルトと他に何か残るモノを買って、プレゼントしてあげなさい」
「そうだね!お母さん..、喜ぶといいね!」
「「....。」」
人間じゃない。
そうプーは言った。
わたしも人間ではないけど、相手が人間じゃないとなれば自然と警戒...いやこれも立派な差別だろうか。言葉には出来ないけど人間達を見る眼とは違う眼で見てしまう。少なくてもさっきわたしは2人をそんな眼で見てしまった。
なんの種族なのか解らないけどあの2人は人間よりも魔女よりも、優しい心を持った種族だ。他人を想ったりする気持ちに魔女とか人間とか種族なんてモノは関係ないのかもしれない。
「...ワタポ、ピーチタルト4つに分けて食べよか」
「そだね」
初のウンディーポートは理想や希望といった強い想いとワクワクする心があった。
二度目のウンディーポートは甘い香りと楽しさ、あたたかくて優しい心があった。
「クゥ!」
「お前いたの...ウソウソ、わかったから噛むなってば!」
「「..?...またやってるよ...」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます