◆31
小さな頃、いつも誰かの1歩後ろにいた。隠れる様に必ず後ろ、自分が一番に...先頭になる事なんて無かった。
誰かが言い出した事に乗っかる様にいつも。
責任感がない訳じゃない。自分がやらなきゃいけない事は最後まで絶対にやりとげたい。でも、自分がやらなくてもいい事は誰かがやる。と何時しか自分の中で決めていた。
大切な人も沢山いて、愛する人もいた。
でも、その全てを失ってから同じ思いをしたくない。と強く感じ、そういったモノを避けて来た。
でもそれも昔の話。
今のワタシには少なくても2つ。必ず守りたいモノがある。
1つは今ワタシを乗せてくれているフェンリルのクゥ。
この子と出会ってから心に余裕が出来た気がする。
そして、今ワタシが助けようとしている人...と言っても人間ではなく魔女のエミリオ。
両腕を失った原因と言うのも違う気がするけど...その件に関係している女性。この義手もエミちゃがくれたと言っても過言ではない。
けど、大胆に言うと腕を奪ったのもエミちゃ、腕をくれたのもエミちゃなのでお互いに貸し借りは無い。それじゃあ何故ワタシはこうも必死にエミちゃを助けたいと思っているのか...今その答えは出せない。
でも、一緒にいると見た事のないモノや知らなかった事等が見れる気がするんだ。
それと....遠い未来、きっとエミちゃの存在が何かを変えてくれる気がするんだ。
きっと、きっと。
◆
初のバリアリバルはワタシに大切な事を思い出させてくれた。
逃げない事と諦めない事。
どんな状況でも逃げないワケじゃない。ただ、最初に逃げる事を考えるのは違う。
状況を見て、自分に何が出来るかを確り考えたうえで逃げる道を選ぶのはいい。
でもワタシはあの時、すぐに逃げる事を、すぐに諦め逃げる事を考え選んでしまった。
もしあの時ビビさんが居なかったら、クゥが居なかったらワタシはエミちゃを置き去りにしていただろう。
そう考えるとワタシのした事は.....最低だ。
「ついたよ!急ごう!」
「えっ?...あ、うん!」
自分を責める様な思考に呑まれていたワタシを現実へ引き上げる様にプンちゃが声をかけてくれた。
気が付くとマネキネコ亭の前、空は青黒く星や月が顔を出す夜に。
クゥから飛び降りるとクゥも小型モードに変わる。
大きな、狼の様な姿が本来のクゥ。小さな姿はクゥ自身が自分の魔力を抑え姿を変えている。小型モードのクゥに戦闘力は無いけど結界がある街中等では本来の姿の方が問題だ。
ワタシ達は急ぎエミちゃが待つ部屋へ向かった。
「お待たせ!鱗とってきたよ!」
ドアを開きすぐに言うとぐったりとしたキューレさんやビビさんが、おかえり、と言う。
ユカさんは変わらずサウンドマジックを奏でている。
そしてイスに腰掛ける妖精の様な女性。
プンちゃと同じギルドに所属している再生術を使えるひぃたろ。
「再生は終わったわ。あとは体内の熱を正常に戻すだけ。今はユカの音楽で熱を下げてるけど気休め程度でしかないわね」
再生は終わった。この言葉がワタシの耳に何度も響く。
これで命の危険は...まだだ。熱を何とかしなきゃ。
「鱗をその子のオデコに当てて!熱くなったらすぐ氷水に入れる、それを繰り返せば朝までには正常に戻るよ!」
「わかった!」
短く答え腰のポーチに入れておいたシーサーペントの鱗をエミちゃのオデコへ乗せる。
鱗に熱が移動したら氷水で冷やしてまたオデコへ。
朝までには....、
「ワタシじゃ温度がわからない...」
この腕じゃ小さな温度変化を感じる事が出来ない。
最後の最後でワタシは助けられない...。少し悲しいけど他の人へお願いを。
皆の方を振り向こうとした時、シーサーペントの鱗へ伸ばされる手がワタシの視界に入る。
「待ってる間に寝ちゃったら大変でしょ?一緒にやってあげるから頑張ろう」
無造作に束ねられた赤髪を揺らしワタシの隣に座るビビさん。
温度変化が解らないワタシに変化したタイミングを教えてくれて、でも作業は全てワタシに譲ってくれる。
ありがとう。ビビさん。
「眠気が飛ぶ効果のサウンドマジックはないけど、普通の音楽も魔法になる。頑張ろう」
そう言ってユカは落ち着いた雰囲気の曲を奏でる。サウンドマジックではなく音楽。
不思議と頭の芯が軽くなる。
「それじゃウチは...新しい情報を集めるかのぉ」
キューレさんはプンちゃとひぃたろさん...ひぃちゃを見てニヤリと笑う。
ワタシもこの2人の事は気になる。
「私はギルド フェアリーパンプキンのマスターひぃたろ。隣の彼女がサブマスターのプンプン、メンバーは私達2人だけでお互い冒険者ランクはB+、他に何を聞かれてと答えるつもりは無いし、これ以上言うつもりも無い」
「おぉ、、充分じゃよ」
キューレさんの驚く理由も解る。プンちゃが話す姿は予想出来たけど、まさか隣にいるひぃちゃが話すとは思いもしなかった。
2人だけどギルド、2人ともB+...ギルドメンバーの平均的な冒険者ランクでギルドランクが決まる。と言ってもギルドランクなんて正式には存在しないモノ。
ただ、どのギルドがどれ程凄いかを一言で伝える為に冒険者達が決めたルールみたいなモノだ。2人ともB+で2人しか居ないギルドなら考えるまでもなくギルドランクはB+になる。
このランクは正直凄い。最高ランクは冒険者ランクと同じS3、そのランクを持つギルドはワタシの知る限りでは2つしか無い。
1つはギルドマスターが皇位を持つ男ジュジュのギルド、マルチェ。集会場経営やこの街のありとあらゆる店やスタイルを作ったと言ってもいい存在。今は国外でもその名を知らない人は居ない程大きく素晴らしいギルド。
そして、もう1つは...、
「私達の事は話したわよ?次はあなたの話を聞かせてほしいわね...ペレイデス モルフォのマスター マカオンさん」
「えっ?」
どうしてこの女性は、ひぃちゃはワタシがマカオンと名乗っていたギルドの事を知ってるの...いや、ギルドの事を知っているのは問題じゃない。
何故ワタシが マカオン だと知っているのか...。
「その義手と腕の境に残ってるの...ペレイデスモルフォのタトゥーよね?」
ワタシの右腕を指差しそう言うと、ここにいた全員がワタシを見る。
....今さら隠しても意味はない。
「うん、ワタシがマカオンって名前でやってたギルドがペレイデスモルフォ。今はもう無いけどね。ワタシのランクも2人と同じB+だよ」
「そう」
そう。って、反応はそれだけ!?
もっと色々聞かれると思っていたけど...無いギルドの話を聞いても何の意味もない。か。
「....でもオカシイよね?ボク達1週間前くらいにペレイデスモルフォとクエ中トラブったんだよね、その時眼の下に大きな蝶のタトゥーの女の人がマカオンって名乗ってたけど」
「はぁ!??」
オカシイなんてレベルじゃない。ペレイデスモルフォのメンバーは今ワタシとリョウちゃんだけ...それにリョウちゃんはドメイライト騎士団に捕まってる。
もう存在しないギルドが、ワタシの知らないペレイデスモルフォが今この世界に...。
「私も前に会った...と言うかギルド入れ!って半強制的な勧誘を受けたなぁー勿論断ったけど」
弦を弾きながら思いだし言うユカさん。どうやら本当にペレイデスモルフォは存在しているらしい。別ギルドとトラブルを起こし、半強制的な勧誘...今の話だけでも嫌な予感しかしない。
ペレイデスモルフォに未練もマカオンの名前に愛着も無いけど...無視できない。
氷が溶け小さくなった頃一通りの話は終わり、月は眠り太陽が顔を出す。
そして、エミちゃの瞼が小さく震えた。
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