◆30
シーサーペント。
細長い身体に6つのヒレ、堅いクチバシを持つ水性型ワイバーン。
湖の中からワタシ達の動きを観察し、隙を見つけ一気に水面から現れる。と隣に居る金髪の女性プンプンが言う。
湖を1周する間にお互い遅めの自己紹介をした。
金髪のこの女性はプンプン、一緒にいたピンク髪の女性はひぃたろ。情報通り2人は同じギルドに所属しているらしい。
ドラゴンに詳しいプンちゃはワイバーンにも勿論詳しい。
シーサーペントと水中戦する場合は水中戦用のバフが必須、ワタシもプンちゃもそのバフは使えない。
となると作戦は限られる。
シーサーペントがうち上がった瞬間に鱗を削ぐかシーサーペントを釣り上げて陸で戦うか...うち上がるのをじっと待つ時間も心にも余裕は無い。釣りも同じ...。
「ワタシが潜ってシーサーペントから鱗をとってくる」
黙ってチャンスを待つ余裕は無い。
ワタシの出した答えにプンちゃは無理だと言うけど、やるしかないんだ。1分でも1秒でも早く鱗を入手して戻る。
「うち上がった時は任せるよ、クゥもプンちゃとそのチャンスを狙ってね」
空気を肺に入れようとした時、プンちゃがフォンからアイテムを1つ取り出しワタシへ。
3センチ程の透明な球体。
「酸素玉。それを噛まずに飲み込めば酸素を吸わなくても平気になる、でも3分だけ。副作用が強くて1日1つが限界だから、よく考えて使ってね」
「うん、ありがとう」
お礼を言いクチの中へ酸素玉を入れる。キャンディーの様にクチの中で転がしてみるも味はない。
「シーサーペントはB+、弱いドラゴンと同じランクだから気を付けてね」
「了解!行ってきます」
B+のワイバーン。
ドラゴンは最低ランクがB+ ワイバーンの最低はD、最高はS以上だと聞いた事がある。
B+なら何とかなる...かな?
水面に揺れる景色をリセットする様に湖へ潜った。
想像以上に冷たい水がワタシの全身を包み、視界の悪さが不安を煽る。
それにしても...生き物が見当たらないのはどうしてだろうか?
湖へ飛び込んだ時の音で逃げちゃった?...ワケではない様子。
ここより下...湖の底で何かが動く気配と水の動きが微かに変わったその一瞬をワタシは見逃さなかった。身体の向きを変え一気に潜ると更に視界が悪く...、
「!!」
螺旋状に身体を回線させ一気にワタシの方へ上ってくる生き物、大きさもスピードもこの辺りに生息するモンスターとは段違い。ワタシは酸素玉を素早く飲み込み迎え討つ姿勢に入ろうとしたのだが...。
相手の動きは見えているのに身体が上手く動かない。
迎え討つ事を諦めずっと握っていた剣を迫るモンスターへ横向きに構え、刃の中心より少し上に左手を添え防御する。この防具方法は剣へのダメージが大きいうえ、ノックバックしてしまうので普段は選らばい防御方法だけど、今の状況では迷っている暇はない。
顔の半分がクチバシ...身体は白に青い模様で長い...シーサーペント!
「!!?」
シーサーペントの突進...なのかクチバシでの突き攻撃を剣で防御。
防御には成功したが予想を越える反動とそのまま押し上げられる力に身動きがとれない。ここで下手に動いてダメージを受けるよりこのまま外へ。
ワタシはこの流れに身を任せる事にした時、背中に凄まじい冷気を感じ顔を少し動かし上を見る。
水面の一部分、コース的にワタシが到着する水面に氷が産まれる。徐々に氷は大きくなりそして鋭く尖る。
このままでは完全にアウト、串刺しにされる。
何か方法を考える暇もなく今度は前、シーサーペントのクチから冷気を感じる。
開いたままのクチから吐き出された氷の塊。防御状態のままだったので直接身体に当たる事はないがその氷の塊が剣を押す。
シーサーペントは氷を吐き出した時に停止、ワタシは減速どころか更に速度が上がる。
前は氷の塊とその奥にシーサーペント。後ろは巨大な氷柱。逃げるにしてもどうやって.....、いつからだろう。
逃げる事ばかり考える様になったのは。
さっきもだ。勝てる勝てないは別として戦う道だって確かにあった。でもすぐに逃げる事を考えた。
こんなんじゃ、いつか...エミちゃもクゥも見殺しにしてしまう。
それだけは、絶対にイヤ。
手首を曲げる....剣の刃を氷の塊へ向ける行動と剣を振る行動を自分でも確認出来ない速度で無意識に。
奇跡的に、あるいは狙い通りに氷の塊を斬り崩す事に成功。速度を殺さず感覚で身体を捻り剣を再び振る。
氷柱を斬り砕く事に成功し、そのままの速度で水中から脱出を狙う。砕けた氷を眼で追いつつ後ろを見るとシーサーペントがすぐそこまで迫ってる。
爆発音の様な音を響かせ水飛沫と共にうち上げられたワタシと、自らうち上がったシーサーペントが空高くで睨み合う。
水粒の1つ1つまでハッキリ見えるこの感覚。
何年ぶりだろう...久しぶりにスイッチが入った。
シーサーペントが次の動きへ入る前にワタシは叫ぶ。
「クゥ!!」
名前を呼ばれる事を予想していたクゥはワタシが落下を始めた時点でもう飛んでいた。
「すっごぉー...ワンコあんなに高くジャンプしたよ...」
クゥを見て驚いているプンちゃを視界の端で確認したワタシはすぐに声を出す。
「プンちゃ!鱗お願い!」
「おっけー!ボクに任せて!」
言い終えると同時にワタシは白銀の背中へ。
その時シーサーペントの腹部を大きく膨張していた。
「気を付けて!ブレス攻撃がくる!」
ブレス攻撃ぃ!? と心で叫びシーサーペントを見る。エミちゃならこう言うだろう。
ワイバーンのくせに生意気だな!と。
「シーサーペントは水より氷属性攻撃が得意なんだ!だから、火が効く!」
水の中に生息しているモンスターなのに火が弱点...面白いモンスターだけど同時に面倒なモンスターでもある。
「わかった!ありがと!」
水中で炎属性、雷属性の攻撃は不可能。でも今は水中じゃない。それに火ならある。
「クゥ!シーサーペントのブレスをお願い!」
「ガウ!」
このモードのクゥは声が低くて野性的な音質。
返事をし空気を肺一杯に吸うフェンリル。
ギィエエエエ と耳が痛む鳴き声でアイスブレスを吐き出すシーサーペント。そのブレスへクゥは先程吸い込んだ空気を一気に吐き出す。
空気は炎に姿を変えアイスブレスとぶつかり合う。
「おぉ凄い!火吹いたよワンコ!」
フェンリルの戦闘能力は非常に高い。でもそれだけじゃない。知能も高いフェンリルは言葉を理解し、状況を一眼で確認し対応策をすぐに考え出し行動する。
そしてフェンリルには高い魔力がある。
プンちゃの言葉を聞き弱点は火だと知ったクゥは吸った空気を炎に変え吐き出した。
アイスブレスとファイアブレスが激しくぶつかる空中でワタシは手に持った剣を睨み言った。
「言う事聞け!あのブレスを焼き斬る!」
強く言い握り直すと刃が一気に灼熱色へ染まる。
柄に温度は無い。
ワタシはクゥの背中から飛びシーサーペントのクチバシ先からクゥの炎の半分辺りまでを狙って剣を大きく振った。空気を焼く音が耳に届いたと思えば次は甲高い悲鳴が空に響く。
剣先がクチバシを掠めたらしくその温度にシーサーペントはブレスを止め身体を捻り怯んだ。ファイアブレスが斬られた事を即座に感じたクゥは身体を回転させ剣筋からずれていた。
「とどけぇーーー!」
叫び身体全体を使ってカタナを振るプンちゃ。
カタナの刃が無色光を放つ。あれは剣術の光。振られたカタナは三日月の様な弧を夕闇に描きシーサーペントの鱗ごと肉を斬り裂いた。
見るからに分厚く堅い鱗を簡単に斬り、その奥にある肉までも斬る剣術と弾かれず綺麗な弧を描くカタナ。
今の一撃だけでハッキリ解る。プンちゃの実力はこのモンスター、シーサーペントを遥かに越えている。
「シーサーペントの鱗、ゲットだぜ!!」
違和感のないブイサインを決め言うプンちゃ。目的のアイテム シーサーペントの鱗を入手する事に成功。
30分以上戦っていた感じはしていたが湖に到着して15分も経過していないのが現実。
ワタシはそれ程までに集中していた。
水面から生える様に伸びた木へ着地し、すぐに飛びワタシとプンちゃを救出してくれたクゥ。もう水中に入る事なく陸へ到着、シーサーペントはダメージを負ったものの命に関わる程では無いため死んではいない。再び湖深くへ潜り消えていった....ごめんね、鱗ありがとう。
「すっごいねー!ワンコもワタポも強いじゃん!」
自分の身長程のカタナを自由自在に操るプンちゃがワタシとクゥをキラキラと輝く瞳で見て言う。照れ笑いし言葉を返そうとしたが急に疲れがワタシの全身を襲う。
「身体が重くなったでしょ?それが酸素玉の副作用だね。鱗もゲットしたし急いで戻ろう!」
「この副作用、水中で起こらなくて助かったよ...。戻ろう、クゥ」
「ウ!」
プンちゃに渡された鱗は2枚、白い鱗と青い鱗。
モンスター図鑑同様にアイテムともマナのやり取りをするとアイテム情報が確認出来る。
固有名は[マーブルペント白]と[マーブルペント青]、白が温度を吸収する効果があり、青は凍らせる効果がある。
必要なのは白。ワタシは白を貰い青はプンちゃへ。
日も暮れて月が顔を出す夜空の下を急ぐ。
ほどよく気持ちいい夜風がワタシの温度を正常に戻してくれた。
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