◆16



ノムーポートは全体的に茶色が多い港町だった。

他の色も勿論使われていたが、茶色系メインだった為、落ち着いた色合いになっていた。今上陸したこの港町は青がベースになっている。


船を降りると、お疲れ様 ようこそ。と声をかける男女が港にいる。一人一人に声をかけ返事をしてくる人とは軽い会話をする。なんとも面倒そうな仕事だ。わたし達も港へ降りひとまず適当な喫茶店へ入る事に。





「乗ってるだけなのに船も疲れるねー」


アイスコーヒーにストローを突き刺し言うとワタポも同じ様に疲れた表情を浮かべ小さく笑っていた。それにしても、この港は何ポートだ?

キョロキョロと店内を見渡してみるもヒントになりそうなモノは無い。おとなしくワタポに聞いてみよう。


「ね、ここ何ポート?」


わたしの質問を聞き答えようとするワタポを止めるかの様に届く別の声がわたしの質問に答える。


「ここはウンディーポートじゃぞ。久しぶりじゃのぉ~」


届いた声は年寄りじみた口調だが質は若い。この独特なしゃべり方をする人物をわたしは知っている。

約1ヶ月前に出会い、色々あって変な別れ方をした皇位持ちの情報屋だ。この1ヶ月で皇位等の称号についても勉強したわたしはこの情報屋の凄さをやっと理解した。


「キューレ!久しぶり!」


「え!?キューレって...情報屋の!?」



驚きを隠せない様子のワタポを見てキューレはニヤリと笑い隣の席へ腰かける。

キューレは相変わらずのフードローブ姿。ワタポもフードローブ...並ぶと怪しい2人に見えてしまうのは何故だろう...。ニヤニヤしてわたし達を交互に見るキューレへさすがにワタポが質問をぶつける。



「あの、何ですか?」


「おぉ、すまんのぉー、挨拶が遅れてしもうて。ウチはキューレじゃ、よろしくのぉ...どっちの名前で呼べばよいかのぉ?」



最後の言葉にワタポは驚き眼を丸くしてキューレを見つめる。どっちの名前...言われてみれば確かにワタポには名前が2つある。騎士隊長をしていた時のヒロ、ペレイデスモルフォのマスターをしていた時のマカオン。オススメはヒロだ。マカオンなんてダサすぎる。

しかしなぜにキューレがその事を知っているのか。そこはわたしも気になり聞いてみると...。


「知りたいかのぉ?この情報は500vでよいぞ」


お金とるのかよ!!と心の中でツッコミを入れ勿論払わない。しかしワタポはわたしを見て 払いなさい。と眼で言う。渋々フォンから500v金貨を出し指で弾いて渡すと口元を緩ませてキャッチし即フォンへ収納。お金が好きすぎるだろこの情報屋。と、そこでキューレの注文していたホットミルクティーが届く。


「このミルクティーは400vなのじゃがぁーコレも払ってくれんかのぉ?」


ニヤニヤしながらミルクティーを両人差し指でさし言う。ワタポはまた 払いなさい。の表情。


「わかったよ!払うから話してよ詳しく!」


まいどぉ~、とご機嫌に言いミルクティーを一口飲みさらにご機嫌状態に。そして話を始める。


「もうどの大陸にも届いとるぞ?お前さんらの噂がのぉ~」


噂?わたし達はコレと言って派手な行動はしていないハズだが...確かにフードで顔を深く隠していたが..それだけで噂になるか?


「元騎士の隊長様でペレモルのギルマスをしとった女と青髪の魔女の噂じゃよ」


「「 !? 」」


「ほぉ、その様子じゃと噂は本当らしいのぉ。安心せい。ウチもこのテの話は上手く誤魔化しとるからのぉ」



魔女が存在する。と広まる事は覚悟していたが...まさか青髪の魔女。なんて呼ばれているとは...。髪色なんて変えても伸びれば青が出てくるし、それに...何かカッコイイ。

青髪の魔女。うん、カッコイイぞコレ。

わたしの方はこのブレスレット..マテリアで魔力をガッツリ抑えているから大丈夫だとして、ワタポはどんな風に言われているのか。


「金髪のポニーテールと言われとるから確信は無かったんじゃが、正解らしいのぉエミリオは何と呼んでおるんじゃ?」


「ワタポ」


「うむ、ならばウチもそう呼ぶぞ。よろしくのぉワタポ」


キューレはそう言いフォンを取り出しフレンド登録しようとするが残念ながらワタポのフォンはわたしのポーチに入っている。腕が治るまで預かってくれと言われフォンのポーチにフォンを入れるレアな体験をしている。

ワタポは頷き、わたしはフォンからフォンを取り出すまたまたレアな体験を。


「なんじゃ?お前さんのフォンは魔女っ娘が持っとったのか?」


「誰が魔女っ娘じゃ。色々あるんですよウチ等も」


そう言いキューレとワタポはフレンド登録を(操作したのはわたし)済ませ落ち着く。



どうやらここはウンディーポートらしい。ウンディー...と言う事はバリアリバルがある大陸!ギルドの国!わたしが目指していた場所!

ここに腕を治せる...義手を作れる職人がいるのか。これはラッキーだ。義手をゲットした後はバリアリバルを拠点にしよう。

サクサク進みたいわたしはキューレに、マップデータを売ってくれ。と言い一番高いマップデータを買った。

マップはウンディーポートと街が2つ埋められていた。他にもまだ埋まりそうだが、マッピングマニアではないわたしはポートとバリアリバルの場所さえ解れば他は気にしない。


「ワタシもバリアリバルは初めてなんだ。楽しみだね!」


意外にもバリアリバルへ行った事なかったワタポは眼を輝かせて言った。ワクワクドキドキしている気持ちは同じ。しかし最初は義手だ。義手を完全にマスターしバリアリバルへ行くべきだ。雑魚い冒険者やダサいギルドにナメられない様に準備を確りしてから行くのがベスト。


「お前さんらはバリアリバル初じゃったか!ならばウチが情報を特別無料でプレゼントしてやるのじゃ」


もうミルクティーを飲み干したキューレがベロで唇の端を舐めながら言った。この女の事だからいい所で これ以上は有料じゃの。とか言い出すだろうが...タダならば貰って損はないし、気になる情報ならば買えばいい。


「まず、知っておって損はないギルドからじゃ」


そう言いフォンから大型のフォンを取り出した。初めて見る大型フォン。コレは一体...。


「へぇータブレも持ってるんですか」


タブレ。

大きなフォン。モンスター図鑑やメッセージ 通話機能は無いがその分、内容量が多く便利な品物。皇位持ちやギルドマスター、人や物を多く管理している立場の者のみ持つ事が許される。



その大型フォンへテーブルの端にあるコードをさし...タブレを慣れた手付きで操作し画面をわたし達へ見せる。


そこには ギルド名や謎のマークが書かれているリストが表示されていた。

試しにキューレは自分の名前を指でタップして見せた。



[キューレ]

情報屋として世界で唯一皇位を持つ女性。どのギルドにも所属していないソロでの情報屋。

情報屋で皇位を獲得するのは極めて難しいと言われている中での皇位。誰もが1度と言わず何度も頼った情報屋だろう。彼女の情報は高いヴァリスを支払っても買う価値がある。



と、書かれている。おそらくコレは有名な人物等の情報が記入されたモノだろう。わたしのフォンからでも見る事は可能だが大型で見た方が眼に優しい。写真部分は黒に白色で ? と書かれている。コレは写真入手失敗したのかキューレが止めているのか謎。


フォンを持ちプラグインさえ出来る環境ならば誰もが見る事の出来るフォンページだ。確かにコレは無料の情報。しかしギルドや皇位の情報を今まで見た事なかった、いや、このページの存在すら忘れていたわたしは地味に感動している。


「まぁこんな感じで有名な人物やら凶悪犯罪者、過去の出来事を確認できるからのぉ。便利じゃぞ」


そう言ってキューレはタブレを引き戻し操作し始めた。今度はフォンページではなく、何かのアイテムを取り出した。そこで役目を終えたのかタブレからプラグを抜きフォンへ収納。取り出したモノをテーブルへ置いた。

どこからどう見ても1冊の雑誌。タイトルは [不定期★クロニクル] とふざけ倒した名前の雑誌だが...。なになに。



今回の表紙は...今大人気の戦う音楽家!? ユカ!


ギルド “赤い羽” マスター アクロスと謎のアロハ男による新米冒険者達へ詰まないためのクエスト選び!


謎が謎を呼ぶ!?注目ギルド!フェアリーパンプキンのロゴマークが明らかに!


世の男性陣お待ちかね!恋人にしたい女性top3!ナカネは3年連続の1位達成なるか!?

女性が選ぶ恋人にしたくないランキングも!今年も彼の独走か!?



と、 表紙には書かれている...これはまさか...。



「ギルドとか冒険者の雑誌!?」


「んじゃぞ。この雑誌はバリアリバル以外でも販売されとるうえ、大人気じゃぞ!色々な人物や情報も手軽に入手できて良いぞぉー、お前さんらも発見次第買ったほええぞぉ」


なんとも素晴らしい雑誌だ!

これに載る人は有名人じゃないか!

いつかわたしも表紙にグラビアに袋とじに!

....、取り合えず拝見してみると、イケメン音楽家がバイオリンみたいなギターを持ってる写真と何かインタビュー記事、悪趣味なサングラスを装備した男と悪趣味なアロハシャツの...まてまて、このアロハシャツの男見た事あるぞ!?


間違いない...アスランだ。

気色悪いアロハシャツで悪趣味グラサン男と格好つけてる写真、新米冒険者へのアドバイス!?..完全に調子乗ってる顔で何がアドバイスだ。このサングラス男がアクロスか。この2人は要注意だ。次のページへ進もうと思った時、キューレが雑誌を横取りしパラパラとめくり、あるページを開いた。


「なになに、皇位持ちのギルド マルチェ が新たな商売、傭兵派遣。.....マルチェって色々やってるギルドだよね!?」


ワタポは記事を読み、声のボリュームを少し上げキューレへ質問する。うむ。とだけ答えるキューレを横に雑誌へかぶり付きそうな勢いのワタポ...マルチェってなんだ?

わたしは先程覚えたページをフォンで検索し、マルチェをタップした。


[マルチェ]

超大型ギルド。ギルドマスターは皇位を持つ男性、ジュジュ。

食材、武具、魔結晶にマテリア、最近では傭兵派遣などマルチに活動をする商業ギルド。

マルチとマルシェをかけた何処と無く可愛らしいギルド名とは裏腹にマスタージュジュは戦う商人でもある。

冒険者やギルドの者が日頃お世話になっている集会場もマルシェが考案し営業している。今後もマルシェの活動はさらに住みやすい世界を創るだろう。



ここでも皇位が出るか。しかし冒険ではなく商業に眼を付けてギルドを立ち上げるとはこの男、なかなか頭がいい。冒険者や傭兵、冒険ギルドが増えれば増えるだけマルシェは潤う。こういう稼ぎ方もあったとは勉強になる。



「凄いよエミちゃ!バリアリバルには有名人が沢山いる!アクロスもジュジュも、眼の前にいるキューレもみんな超有名人だよ!」


ミーハーなのか何なのか、凄く楽しそうなワタポだが、わたしから見ればその人達やキューレよりもマトリョーシカ婦人の方が有名人に思える。


苦笑いを浮かべページを変えるキューレ、次に開いたページを見てワタポのキラキラ光る瞳は一気に暗く曇る。


ギルド ペレイデスモルフォが壊滅。謎の魔女と人工魔結晶。

と書かれていた。冒険者やギルドの雑誌なので覚悟はしていたが...。


ペレイデスモルフォ(以下PM)は人工魔結晶を作り貴族達へ売りさばき金儲けをしていた。魔結晶の件はPMマスターマカオンの命令ではなくメンバーが単独で行っていたらしく、それを知ったマカオンは怒り、青髪の魔女と手を組みギルドを壊滅。メンバーの1人が逮捕されマカオンは逃走中、全国にAランク犯罪者として指名手配されている。逮捕されたメンバーによると、青髪の魔女とマスターが他のメンバーを殺した。自分は何とか殺されずに済んだ。と語っている。



「こんな記事も載るからのぉ...ま、この件もあと数日すれば薄れるじゃろな。何があったか詳しく知らんがお前さん達はここまで来たんじゃ、前だけ見て生きればよい」



慰めなのか何なのか解らないがキューレの言いたい事は解る。ワタポもそれを理解しているし、わたし達は進むだけ。その為にウンディーポートまで来たんだ。次は噂の職人が住む街まで進み、そこからバリアリバルを目指す。


「うむ、大丈夫そじゃの....さてさて、ウチはそろそろ行くかのぉ~その雑誌はプレゼントじゃ!また会おうぞお2人さん。ごちそうさまじゃ」



心配していたのかそう言ってキューレは雑誌を置いて店を出た。

わたし達もここでダラダラしている訳にもいかないが、もう少し雑誌を見てから店を出る事にした。

目指す場所は、芸術の街 アルミナル。





外へ出ると重たい雲が空を覆っていた。



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