-冒険者の街 バリアリバル-
◆15
翅を持つ蜂のモンスター。
蜂と言っても大きさは60㎝と異常。針は15㎝を越え鋭く光る。
飛行移動を続ける蜂モンスターを確り見て停止したこの瞬間にダガーで突くがわたしの攻撃は外れる。
右側から後ろへ回り込んだモンスターを視界から逃さぬ様、頭を先に動かし捉える。
「違う!武器を持たない方へ振り向いてどうするの!」
無駄のない動きで戦っているつもりだったが、この蜂と戦い始めてから4回目のアドバイス...と、言うよりダメだしがわたしの耳に届く。
右側へ回避しそのまま後ろへ回り込んだ蜂を逃さぬ様、わたしも右から振り向いた。左に武器を持つ為、今蜂に近い方...右腕は武器を持っていない。
蜂はお尻を少し引き翅を一気に羽ばたかせ突進、その最中引いていたお尻を前へ出し針で攻撃してくる。カウンターで攻撃を仕掛けるつもりで左手のダガーを構えようとするが予想以上に早い蜂に対応できない。この場合は回避だ。この距離だと完全な回避は不可能だが突き刺されるより掠り傷の方が100倍マシだ。
攻撃しようとしていた体勢から回避へ移った為カナリ無理矢理な姿勢で身体を捻る。
「ぐ、あぁっ」
気合いとは程遠い声を漏らし身体を全力で捻る。わたしの無理矢理な回避は成功せず失敗もしなかった。
戦闘を見ていた女性が突進中の蜂を横から攻撃し、蜂を撃破した。中々の速度で動いていた蜂の弱点部位であるお尻へひと蹴り。クリティカルヒットさせ戦闘は終了。
「ナイス!おつかれー」
モンスターとの戦闘を終え、わたしは女性に声をかけた。
無理な体勢での回避を試みた為、地面に倒れてしまっていたわたしへ手を伸ばし、おつかれ。と言う女性。わたしは伸ばされた手を掴み起き上がる。
この女性はヒロ。わたしはワタポと呼んでいる。色々あって両腕を失った彼女だが、蹴りを使いわたしが危ない時に助けてくれる。
今わたし達は失った腕をどうにかしようと旅をしていた。
その途中で遭遇するモンスターは基本わたしが相手をし、ワタポが戦闘中に色々アドバイスをくれるスタイルで立ち回りを学んでいるのだが...。
「何度言えば解るの?眼を離さない様にするのはいい事だけど、エミちゃはその後がないの。今だってワタシが助けなかったら針攻撃をくらってたよ?」
本当に何度言われたか解らない程、同じ事を言われているが...今までこのスタイルで戦闘してきた為、ついてしまった癖はそう簡単には直らない。
勿論反省しているし言われた通りに動き少しでも体術、剣術を磨きたいのだが...いざ戦闘してみると反省の効果は微塵も出ない。得意の魔術で消し飛ばしたい気持ちもあるが、最低限の体術と剣術を身に付け戦闘のバリエーションを増やしたい気持ちの方が勝る。
「うーん、解ってはいるんだけどね...忘れてしまうのよ」
「それは解ってるうちに入らないよ...はぁ」
戦闘の度に繰り返されるこのやり取りにワタポはもうお疲れモード。申し訳ないと思うが仕方ない事でもある。と開き直っている自分が心の中で威張り腐る。
「アレだよ、わたしの使い慣れた武器じゃないから色々焦るんだよ!」
今使っている武器はダガー、短剣。一番使い慣れた武器は細剣ジャンルの武器。重さもリーチも全てが違うこの武器ではやはり本気を出せないのは仕方ない事なのだ。
「でもさ」
わたしの言葉を聞き何処か疑わしいと言わんばかりの視線でワタポは続ける。
「細剣って突き特化の武器だよね?エミちゃ剣みたいに振り回して使うじゃん?」
そりゃ細剣、剣なんだからそう使うのが当たり前ではないのか?突き特化の武器だったなんて聞いた事もないし、それはランスとか槍系だろ!と思いつつも言えず。
ワタポの剣術は凄まじいモノだ。わたしが見た戦闘でも充分凄いのだが...それでも本気では無かったらしい。そんな使い手が言うんだから間違いない。細剣は突き特化なのだろう。この際すべてを言おう。
「いやー、わたしね...細剣の見た目と軽さが好きで使ってるんだよねー。ダサい見た目の重い武器なんて最強でも使わないよ」
そう。わたしは細剣を選んだ理由は突き特化だからではない。
あの見た目と軽さ、そして冒険者ならば剣を持ちたいと思うのは当たり前だろう。槍や斧、この短剣も好き好んで選ぶ冒険者や騎士の気持ちが全く解らない。
魔術が得意ならば杖を使え!と思う人もいるだろう。確かに杖は魔力やマナの消費を抑え威力を上げてくれるが、わたしには必要ないし杖を持つなら傘を持ってた方がいいと本気で思う。
本日何度目か...もう解らない程連発される溜め息をわたしは苦笑いでやり過ごし足を進めた。
目指す場所はノムーポート。
ワタポを先頭に平原を進み、モンスターと遭遇すればわたしが前へ。これを何度も何度も繰り返していると、独特な香りを乗せた風が港町への到着を知らせる。
気がつけばドメイライトを旅だってから1ヶ月。
魔女の力を使って1週間が経っていた。
◆
2度目の港町は相変わらず活気ついていた。
朝上がったばかりの新鮮な魚を調理し観光客に提供するレストラン。是非そこで遅めの朝食といきたい所だが最初に向かったのは武具屋。
わたしもワタポもここで一旦装備を整える事にした。
わたしは以前使っていたフルーレよりもランクが高いレイピアを武器に選ぶ。
鍔が手を包む様な丸みのあるデザイン、鍔から柄頭まで伸びるラインも魅力的でコレに決めた。刃はフルーレよりも少し太く緩い弧を描いている。
防具はとにかく動きやすさを重視したいのだが..この店は鎧系が多い様子。仕方なくレザーの防具を選んだ。何の飾り気もない茶色のレザージャケットとパンツ。見た目も性能もとるならばやはりオーダーメイドしかないが...今は贅沢を言える時ではない。
帽子好きなわたしでも、さすがにレザーキャップはちょっと...と思っていると可愛らしい帽子が隣にヒッソリ置かれていた。
ツバのないキャップ、固有名はドングリ帽子。
言われてみれば確かにドングリの様な形をしていなくも無い。買わないけどね。
ワタポも似たようなレザー装備を買い店の試着室を使い装備の変更を済ませる。久しぶりに腰から下げられた剣の重みを感じる。
ワタポも装備変更を終え試着室から出て来たが質素なフードローブを装備している為、変更した防具は見えない。
「おまたせ、エミちゃハーフパンツにしたんだね!似合うよ」
「ワタポは何にしたのか見えないね」
等とユルい会話をしていると店内の時計が昼を告げる。
時計の中心が開き、何とも奇妙な木製の鳥がボロロロロ、ボロロロロ、とコレまた奇妙な鳴き声を奏でる。
店主の時計センスを疑っているとワタポが焦り言う。
「あ、船出ちゃう!急ごう!」
急ごう!の段階でもう店を出てしまったワタポを追い港へ。そのまま足を止めず進みシンプルながらも大きな船の前で止まった。
船の前に立つモブっぽい顔の人物とワタポが何かを話しているが多分、乗ります会話だろう。ここで800vを支払い人生初の船へ乗り込んだ。
船内も飾り気がなく、無駄も無い。部屋へ向かう途中で船内のショップで適当な食料を購入し波に揺られる船旅を堪能する事にした。
「乗れてよかったね」
部屋に到着し、すぐにワタポはフードローブを器用に外す。ノースリーブのレザージャケットにレザースカート。ブーツまでも変更されている。独特な形をしたブーツも気になるが...やはり腕部分に眼が吸い寄せられる。
右腕は肘から先が無く、左腕は二の腕から無い。
包帯が巻かれていて傷口は見えないものの、相当な痛みが見てとれる。
「謝る暇があるならアイスコーヒーにストローつけてよ」
今まさに謝ろうとしたわたしへワタポが笑顔で言う。どういう気持ちでそう言っているのか解らないがその笑顔と言葉に何度も心が救われている。返事もできず言われた通りアイスコーヒーにストローを刺しテーブルの上へ置き、パンを半分に分けわたしは魔術を発動した。テーブルの上に小さく緩やかに渦巻く風を出現させ、その上にパンを置く。これでワタポは自分のタイミングでパンをかじれる。
いつもなら何か話をして腕の事から上手く逃げていたが、やはり色々と聞きたい。
「ねぇ、その腕ってどう治すの?生えてくる訳じゃないし、誰かの腕をくっつける訳にもいかないし」
テーブルの上をフワフワと浮かぶパンを一口噛みワタポは言った。
「このパン硬いね...。腕は義手だね、今向かってる街に凄い義手を作ってくれる職人がいるんだ!だから大丈夫だよ」
「その街を目指してたのかー。義手かー」
大丈夫、と言ったが義手ではフォークどころか剣もまともに握れないのでは?自分の意思で指先までを操っていた今までとは大分感覚が変わるだろう...。でも無いよりは断然いいハズ。
わたしはノムーポート限定のノムーヨーグルトを飲みワタポの腕をじっと見ていると、視線に気付いたのか小さく笑って話してくれた。
「廃村で戦った時の最後の爆発で左が無くなった。アジトで右が無くなった。すっっっごい痛かったよ!すぐ治癒術を使って痛みを抑えたけど...今もいた わっ!?なに!?」
痛い。と言おうとしたワタポだったが突然船が揺れ言葉を切った。
「っと、事故った!?」
「解らない、とにかく甲板へ行ってみよう!」
足で器用にフードローブを蹴り上げ装備するワタポ、わたしも腰にレイピアを装備し部屋を出ようとした時また揺れが。
何とか倒れずに耐えたが、わたしの視界に入る倒れたビンと床にこぼれ落ちた白い液体。
「あぁぁ!ノムーヨーグルト...」
まだ一口しか飲んでいないヨーグルトが今の揺れで倒れこぼれた。ワタポがドンマイ。と呟くが諦めつく訳ない。
「誰だよ!ムカつく!」
わたしはこの揺れを生み出した原因を知る為に甲板へ走ったが、甲板付近は人でいっぱい。何が起こったのか状況を知りたい人々は好き勝手に発言し誰が何を言っているのかも聞き取れない。
船に穴でも空いているかも知れない状況で落ち着いている方がオカシイのかも。と思っているとドップリ落ち着いているワタポが到着。息を整えているワタポへわたしは抑えきれない気持ちを言葉にしてみた。
「モンスターかな?おっきいイカかな!?船と言えばおっきいイカだよね!?ワクワクするねー!」
まさに冒険者の乗る船!と言わんばかりの揺れにワクワクしていると船長と思われる人物が大声で語り始めた。
モンスターが船を乗っ取ろうとしてるから今小舟を用意する!小舟に乗れる場所まで移動よろしく!とまぁ、そんな事を言った。
予想と期待通りモンスターが船を...どうしてもそのモンスター、海の主をこの眼で見たいわたしは迫り来る人混みをすり抜け甲板へ出た。ワタポも同じ様に甲板へ出て、眼の前のモンスターにお互い違う反応をする。
「船に穴とかは無さそうだね!」
と、ワタポが。
「イカじゃねーのかーい!」
と。わたしが。
予想していたのは超巨大イカで甲板に足が絡み付いている状況だったのだが、そこに居るモンスターは巨大ではあるがイカではない。それどころか海の生き物でもない。
大きな翼と鋭い爪を持つ足。巨大なクチバシを持つ鳥モンスター。足で船をガッチリ掴んでいる。
ガッカリしながらもフォンを取り出しモンスター図鑑機能を使ってみた。マナのやり取りを即終え画面に表示される情報を見る。
グリフォン。
基本的に何処にでも生息する鳥型モンスター。
希に巨大な個体が存在していて、巨大個体は人間を捕食する。C(+)ランクモンスター。
なるほど。この巨大個体はC+って事になるのか。確かDが一番ダサいランクでプラスはボスランク。
この鳥を倒せばわたしはBランククエストも受注できるレベルって事にならないか?なるだろう。よし。
気合いを入れ買ったばかりのレイピアを構えた。
ワタポも蹴りで参加する様で姿勢を低く構える。
眼の前に現れたわたし達を見て巨大グリフォンは大きく吼える。その声を合図に左右から一気に距離を詰め、わたしはグリフォンの足へ剣術を放った。
久しぶりにレイピアで剣術スラストを使うと、これだ!と思ってしまう。ダガーや剣とは違って程よい重みと空気を斬る音。そしてキィィンと耳を刺す音。
...耳を刺す、音?
「...え?」
眼の前を美しい回転で通り過ぎた先が尖っている鉄を見てつい声が漏れた。
グリフォンの爪にしては小さすぎるし細すぎる。それに色が決定的に違う。
では、今、回転し海へ落ちたモノは一体なんでしょう?
剣術を放った姿勢のまま停止し考えていると、ワタポがグリフォンの胸に強烈な蹴りを叩き込んだ。グリフォンは怯み空へ逃げ距離をとる。
「エミちゃ!何してるの!?」
ワタポの声がわたしを現実へと呼び戻す。落ち着き、レイピアをゆっくり見てみると...。
「だあぁぁ!?なんっっで折れるのさ!」
折れていた。2本連続で細剣を折ってしまった。今回は買ったばかりで古くなっていたなどあり得ない。レイピアは初の戦闘、初の攻撃で見事に敗れてしまった。
レイピアを見て騒いでいるわたしを的に急降下してくるグリフォンだか、正直グリフォン何て今どうでもいい。ワタポが何とかしてくれるだろう。
それよりも、12000vで購入したレイピアが一瞬で...1万2千が1発で海に消えた事の方が問題だ。
たった一撃で...。この鳥、、。
「ふざけんなよ!お前なんて焼鳥になっても食べないからな!」
調子に乗って飛んでいる鳥へ、怒りのウォータートルネードを発動した。魔力を少なめで発動した魔術。海の水を使えば少ない魔力でも相当の威力が出る。
回避されても次の水、次の水がグリフォンを襲い、ついにヒット。1発では足りないと2発、3発とヒットさせ落ちるグリフォンへワタポが強烈な蹴りを炸裂させた。
グリフォンは海に1度落ちるも、すぐに上空へ逃げ船を見る。先程よりも高い位置を飛んでいるが、わたし相手にその距離では話にならない。
海の上に3つの魔方陣が展開。その魔方陣がら水の弾が乱射される。使えば使う程弾の大きさや量、威力が増す魔術、アクアバレットで撃ち落としてやろうとするがグリフォンは さすがにマズイぜ。と思ったのか空高く飛び遠くへ逃げていった。
ワタポがいつもの様に お疲れー と言う。この怒りを何処にぶつければいいのか解らず残るモヤモヤイライラを必死に抑え、おつかれ と返す。
小舟の準備中にグリフォンを撃退させた為、船からは誰一人降りず、船に目立った傷もなく再び船旅が始まった。
逃げようとしていた人々はわたし達の活躍に歓声を上げ照れくさそうにするワタポを残し、テンションが急降下しているわたしは部屋へ帰った。
優雅な船旅が、巨大イカではなく巨大焼鳥にブチ壊されただけではなく、新品のレイピアまで壊され逃げられる始末。もうダメだ。目的地に着くまで寝よう...。
ドアを開き部屋へ入り溜め息を吐き出しベッドへダイブしようと1歩踏み出した時、こぼれたノムーヨーグルトが再びわたしの怒りを煽った。
あの焼鳥、次見つけたら炭になるまで焦がしてやる。
そう呟き折れたレイピアを床に投げベッドへダイブ。
人生初の船旅は最悪な結果で幕を閉じた。
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