◇10




セッカは髪を切った。長く綺麗に伸ばされた髪をバッサリと。過去の自分、姫だった自分と別れる為の決意表明なのか何なのかは本人しか解らない。しかし今この瞬間ここに居るのはセツカ姫ではなく、冒険者のセッカ。彼女にはわたしとは違って確りとした目的がある。金の魔結晶を発見し、破壊する事。

目的や目標があるのはいい事だ。それに向かって突き進めるので。しかし今は何より準備が必要だろう。血塗れのドレスじゃ平原を歩く事すら危険。かと言ってわたしの装備はサイズ的に...無理だろう。

ノムーポートに装備を買いに行く事も考えたが、それこそ危険だ。今あの町に戻ると即逮捕されるのは眼に見えている。今後の事も話したいし何処か人眼がなく落ち着ける場所が欲しい。

そこまで考えて思い出す。あるじゃないか。人が居なくて隠れ場所も多い落ち着けるかは個人の問題になるが。


わたしはすぐに2人に話した。ノムーポートとポルアー村の間にある墟村....村跡地を。キューレと出会った場所でもあるので彼女は勿論、セッカもその村を知っていたので話は早い。キューレはポルアー村へ食料品とセッカの装備を買いに行く事になり一旦別れる。


先に廃村へ向かっている時ふと思った。金の魔結晶は何か凄い力がある...で、ヤバヤバ集団はその力で何をしたいのか?

わたしには解らない。

草影に隠れつつ進む中、わたしはセッカに聞いてみる事にした。


「ねぇ、金の魔結晶ゲットして何するのかな?」


突然の質問に少々驚いていたセッカだったがすぐに答えてくれた。


「私には解りません。でも、決して人々の為に使うとは思えません」


同感だ。あんな頭のイカレた奴等だ。この世界を力で支配しよう!くらい考えそうだ。

わたしも同じ立場なら悪い事に使うだろう。何としても先に金の魔結晶を...、


「ねぇ、金の魔結晶って港で貴族が取り引きしてたモノと似てるのかな?」


「はい、人工的に作られた魔結晶は全て球体、天然の魔結晶は鉱石の様に同じ形が存在しない。と聞いた事あります」


なるほど、形で人工か天然かを見分ける事が可能になるっている訳か。人工的に作られた金の魔結晶は球体...金色の球体...これは!


「そだ!金の魔結晶って名前が長いから、キン」


「ゴホンっ」


わたしの略称はセッカの咳払いで切り捨てられた。いい名前だと思ったのだが元姫様には少々好ましくない名になってしまう。ここで会話が途切れ、お互い黙って廃村を目指していると話し声が聞こえてきた。セッカも聞こえた様で足を止め息を飲み草影に潜む。


「あーあ、どうするの?せっかく貴族に作らせてた毒の魔結晶が無くなっちゃったよ」


と、声の質から考えて少年だろうか。舞踏会に行きます!的な雰囲気を醸す目元だけを隠す仮面を装備していて何処と無く楽しんでいる様な口調。


「村1つを使って作らせた魔結晶だったと言うのに、最悪な結果だ」


もう1人も男だ。しかし声の質は大人。同じように舞踏会仮面。何かイベントがあるのか?、、それよりも、今奴等は村1つを使って魔結晶を~と言っていた...毒の魔結晶...まさか奴等があの村を崩壊させた犯人!?そしてヤバヤバ集団が持っていったのは毒の魔結晶!?


魔結晶を作らせていた。少年はそう言っていた。少なくとも奴等は人工的に魔結晶を作る方法を知っている。わたしはフォンを取り出し文字を打ち込みセッカに見せる。


[舞踏会仮面に話を聞いてみる。危なそうだからセッカはここにいて]


一瞬驚いた表情を浮かべたが、ゆっくり頷いてくれた。

それを確認し、わたしは素早く移動、そして舞踏会仮面に話しかけた。


「魔結晶って作れるんだね!」


「「?!」」


わたしの声に驚き振り向く2人。改めて近くで見るとやはりダサい仮面だ。


「なにコイツ...」


「お前いつから聞いていた?」


2人がわたしへ完璧敵意を向けている。なんか...やっちゃった?

しかしもう引けない。


「村を1つ~や、毒の~って言ってたよね?どやって魔結晶作るの?何で自分達で作らないの?」


わたしの言葉が終わるや否や2人は武器を手に取った。

少年はダガー2本、大人は剣。いきなりやる気全開の仮面舞踏会チームにわたしは焦り、両手を開き言う。


「待った待った、落ち着け仮面舞踏会!わたしは魔結晶の事を知りたいだけ!」


「知ってどうする?」



どうするも何も...どうもしないけど、ここは正直に答えても意味がないだろう。


「作れるなら作って、売る。お金が大量に欲しいのよねー完成して売れたら少し分けるから教えてくれんかのぉ?」


おっとここでキューレの口調が出てしまったが、スルーしてくれた。少し悩む様な態度をとり、剣を納めてくれた。

ほっとしていると大人仮面が話を始める。



「魔結晶を作るにはマナが必要になる」


「ちょっと!何言ってんのさ!」


少年仮面が話を止めさせようとするが、わたしはそれを止めさせるべく質問をした。


「マナ?どゆこと?」


「大量のマナを器に注ぎ、無属性の魔結晶を作り、そこに加えたい属性のマナを注ぐ」


正直意味が解らないが、話を理解し聞いているフリをする事にした。


「自分達で作らない理由はリスクが大きいからだ。器にマナを注ぐ時、自身のマナも器に吸収される事があるからな」



ほほう。まず器ってなんだ?そこからもう迷宮入りしている。マグカップ?グラス?

絶対違うだろ、と思う様な器を頭に思い浮かべていると草影から突然セッカが現れ、強く言った。


「マナとは人間の事では!?」


バカ!出てくるな!と心で叫ぶが無意味。案の定 仮面舞踏会チームは再び武器を握り今度こそヤバイ雰囲気を醸す。


「仲間がいたのか!だからボクは反対だったんだよペラペラ喋る事に!」


「しょうがない、殺すか」


殺すか、と言った瞬間地面を蹴り斬りかかる大人。セッカは武器を持っていないどころか、戦った事あるのかすら謎。わたしは慣れないロングソードを抜き大人仮面の攻撃を受け止めた。腕に響く衝撃はモンスターの衝撃とは比べ物にならない。重く、腕が痺れそうになる。


少年はわたしに見向きもせずセッカをターゲットに選び襲いかかる。しかしそれは簡単に予想できた事。相手がやる気なので手加減する事すら考えなかったわたしはウインドカッターを全力で発動した。緑色の魔方陣が風の刃へと姿を変え、少年に襲いかかる。気付かれたがダガー2本じゃ捌ききれない数のウインドカッターを眼にし少年は毒づき回避。

大人仮面の剣をどうにか弾き返し、わたしも距離をとった。


「アイツ剣を振りながら詠唱してたのか」


「その様だな、だが剣の腕は話にならん」



ヤバヤバな状況。さすがにふざける余裕もない。人間との戦いは何度かした事あるが、奴等は完全に殺すつもりで来ている。大人仮面が言った通り、わたしは剣術に自信なんて微塵もない...ならば得意の魔術で、と思ったがあの少年の俊敏力は正直ウザい。

今の段階では100%勝てない。かと言って逃げるのも不可能。まずった。


誰かが格好よく助けにくる確率は0%だろう。この道は人どころかモンスターも選ばない道...これは冒険者としての試練なのか!?

わたしは剣を握り直し構える。同じ剣なんだ。スラストくらいなら使えるだろう。


構え直した直後から魔術の詠唱をしていたわたしは2人の前に泡を出す目眩まし魔術を発動した。パチパチと膨らんでは弾ける白い泡に舌打ちをする仮面舞踏会チーム。ここで黙っている訳にはいかない。最初に少年をターゲットに渾身のスラストを叩き込んだ。素早さが半端なく高い少年だが目眩ましでわたしの姿は見えない。さらにダガー2本じゃロングソードから繰り出される渾身のスラストを防ぎきれない。


奥歯に力を入れ一気にロングソードを振り下ろす。鉄と鉄がぶつかる衝撃音が響いたが吹き飛ばした手応えは全く感じない。それどころか何かに止められた様な感覚。


泡が消え去って姿を現した少年。両手のダガーをクロスさせ剣撃をあっさり受け止めていた。


「本当だ、コイツの剣術は話にならない」


そう言い笑う口元、剣をあっさり弾き返され仰け反っているとお腹に少年の蹴りが炸裂。少年とは思えないパワーに吹き飛ばされる。


「いったー、、」


「おっと動くなよ」



起き上がろうとしたわたしに大人仮面が言った。痛みで眼を閉じていたわたしはゆっくり眼を開くと、、やられた。

大人仮面はセッカに剣を向け少年はわたしを見て楽しげに言った。


「アンタさ、魔結晶作りたいんだろ?コレやるよ」


そう言って眼の前に投げ飛ばされた物を見る。ガラスで出来た珠の様な...


「それが器になる鉱石だ。クリアストーンって言ってね...まぁ説明はいいか。それにマナを注いでから...そうだなぁ、風でいいや!アンタの風魔法を使って風の魔結晶を作ってよ!」


は?コイツ何言ってるんだ?楽しそうな所悪いけど、意味が全く理解できない。


「無属性の魔結晶は大体人間50~60人使えばすぐ完成する。その後お前が風魔法を無属性魔結晶に何度か撃ち込めば完成するだろう、3日待ってやる。3日以内にこの地図の×印の所まで魔結晶を持って来い。早いのはいいが1日でも遅れたらこの女は素敵な魔結晶の素材に使う」


喋り終えると紙切れの地図をその場に投げ捨て、剣を1度地面に振り、砂埃を立てて消えた。


やられた。完全に油断した...いや、油断ではない。わたしの驕りだ。セッカを守りながら戦う事などどう考えても不可能だったハズなのに、もしかしたら。と思い逃げる事を考えず挑んだ。

確かに少年の素早さから逃げるのは難しいが、魔術等を使えば不可能ではなかったハズ。


でも...でも、セッカが出て来なければよかっただけの話。それに冒険者になると言ったんだ。自分の身くらい自分で守れなければ話にならない。


彼女もそれなりに覚悟して出てきたのだろう。

ならば自分でどうにかするだろう。


人工魔結晶の素材が人間とか、あり得ないし。無理。

どこにそんな人間がいるのさ。ポルアー村の人間でも素材に使えって事?笑える。

そんな事したらそれこそ悪人だし、悪人になる為に冒険者になった訳でもない。もしそうして魔結晶を作ったとしても売ってお金にするだけだ。



気が付いたらもう日が沈み始めていた。廃村に到着する頃にはもう辺りは真っ暗。移動中わたしはキューレへ、もう装備とか必要ないから、好きに旅を続けてください。とメッセージを飛ばした。


廃村の教会内にある部屋へ適当に入り使えそうなベッドを見つけ横なると、疲れと睡魔がわたしの身体を押し潰す。



「疲れた...。寝よ」



このまま両眼をゆっくり閉じた。

朝、フォンに届いたメッセージ音で眼を覚まし、返事を返し再び眠りについた。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る