武具と魔法とモンスターと

◇7

飛びついてくるウルフにタイミングを合わせて薙ぎ払う。両手で握った剣に振り回させる様な感覚に逆らってもう一度振る。剣先がギリギリヒットし何とかウルフを討伐した。

「よし、、。」

３匹のウルフを魔術なしで倒し終え、剣を地面に突き一息。丁度いいサイズの岩に腰掛け休憩しつつドロップアイテムに眼を通す。

昨夜はポルアー村の宿屋に帰った所までは記憶にあるが、その後いつ寝たのか全く思い出せない。

長く濃い１日が呆気なく終わり、泥の様に眠っていた。正直起きられたのはワタポが挨拶に来てくれたからだろう。ドメイライトへ旅立つ前に宿屋へ顔を出し、色々教えてくれた。

バリアリバルまで直航する場合は[ノムーポート]から船に乗り[ウンディーポート]で上陸する手段しか無い。

ドメイライトはノムー大陸にあるので[ノムーポート]、バリアリバルはウンディー大陸なので[ウンディーポート]という。

唯一他国の船が出入りする港が○○ポートと呼ばれ大きな港町でマップデータやらも販売されているらしい。

ま、わたしはワタポから[ノムーポート]までのマップデータを貰ったのでサクサク進めるしマップデータなんて通れば作られるんだし買うなんてバカくさい。

ドロップアイテムの確認を終え、今朝貰ったマップデータを開き 現在地と目的地の確認をする。

「ここから真っ直ぐ進めば噂の港町か。途中に村もあるし暗くなったら泊まろう」

マップをよく見て進み、モンスターに遭遇した場合は戦うを繰り返し進んでいる。先程のウルフ戦で魔術を使わなかったのはこの剣に少しでも慣れる為だ。

地面に突き刺してある剣を抜き、背中にある鞘は収納。慣れない武器と慣れない位置にある鞘。収納するのに少々時間がかかる。

騎士学生時代にヒガシンが使っていた剣、ロングソードを旅立つ前に貰った。細剣ではなく剣。大剣ではない一般的な剣だが、細剣しか使った事のないわたしはロングソードすら重く感じる。腰に吊るして歩くとか無理！ と判断し背中に背負っている。冒険者オーラがアップした気分。

ワタポやヒガシンはこのタイプの武器をああも容易く振り回していたのか。

ボロくて飾り気のない武器だが、タダで貰えるなら木の棒でも喜んで頂く。なんせ武器がなかったからね。

薬品類も村で少し買い確り準備し、ポルアー村を出て数時間。見飽きた平原にそろそろ嫌気が...。

馬車を見かけては行き先を聞き、港町へは行かないと言われ渋々歩く。これを何度か繰り返しているとマップデータにあった村が見えてきたのだが、近くまで来て異変に気付く。

遠くからだとそこに建物がある程度にしか見えないが、村に近付くと自然に眼が細められる。

建物はボロボロで妙な臭いが漂う村...村跡地、になるのか？人影もない。建物等を見るとそこまで風化している感じがない...ごく最近この姿になったのか...調査隊が来た形跡も見当たらない。全く騎士は何をやってるんだ。蜘蛛の魔結晶なんて狙う暇があるならこの村を見に来いよ。

....うん。なんか関わると面倒そうだし、ここはスルースキルを使って...通りすぎようと思った時、ヒラヒラと落ちる様に飛ぶ蝶が１匹、また１匹と。パールパープルの奇抜な蝶がボロボロの教会..らしき建物の中へ入っていく。

気になる。もうダメだ。中に何があるのか確かめなきゃ気が済まない。

わたしはそそくさと教会内へ侵入。気分はスパイ。

辺りを確認し人影はないか、床にトラップ等が無い事も確り確認。最小限の動きと足音で欲張らず移動し、そして気配を消し再び確認へ。これがスパイの基本だ。

「、、、誰だ？」

なぬ！？

わたしの侵入がバレたのか！？

恐る恐る声の聞こえる方向を見ると綺麗な服に身を包む貴族っぽいおっさんが...手には紫色に発光する球体。新種のフルーツには見えないが...。

その球体に先程ヒラヒラ飛んでいた蝶が止まり、そして眼を疑った。

蝶は羽を休めていると色が...球体に吸収されていく様な...紫色を失った蝶は灰の様に朽ちた。。さっき平原で倒したウルフと同じ...これはモンスターが死んだ時に起こる現象だ。

あの蝶はモンスターだったのか？それにあの球体は...。

「それが噂の魔結晶か？」

いきなり響く声に一瞬焦ったがわたしの存在がバレた訳では無さそう。二階の手摺に座る謎の...声から考えて男と、その後ろに数人が、いつの間にかそこに居た。

「誰だ貴様等！誰の許可を得てこの村に入った！」

「おいおい、質問したのはこっちだろ？...それが噂の魔結晶か？」

同じ質問をされ貴族のおっさんの表情が一瞬曇った。それを見ていたフードローブの男は指をパチンと鳴らし口笛まで吹いた。

「オーケー、今の顔で答えが解った。リリー」

そう言うと後ろに居た１人が無言で頷き、二階から飛ぶ。

同じようにフードローブで身を隠しているので姿までは見えないが、、全員ただならぬオーラがある。

「貴様！私はドメイラ...」

「知って、る、わよ」

貴族のおっさんが喋っている途中で喉に剣を突き刺した。迷い無く喉を貫いた細い刃は薄暗い室内でも怪しくギラつく。

「お仕置き、は、おしまい」

そう言い謎の細剣使いは左手をローブから出し指を奇妙に動かす。辛そうな形で手を止め、右手を一気に引き細剣を喉から抜いた。

「....スウィル、この、剣、良くない、わ」

「ハッハッハッハ！そりゃ相手が人間だからな！」

殺した相手の話よりも武器の話？人を殺して笑う？

コイツ等、本当にヤバイ。

それに貴族を刺したのは女だ。なんの迷いもなく...何なんだコイツ等。

「リリー、魔結晶を回収後、ソイツにダミーを持たせて後は何時も通り頼む」

一番最初に喋ったリーダーらしき男がそう言うと、リリーと呼ばれる女は頷き魔結晶を奪い、似たガラス玉を持たせた。

女が二階へ戻り何かを話しているがハッキリ聞こえない。会話が終わったのか、その場から消えようとした瞬間、足を止め女は言った。

「そこの、２人、は、いい、の？」

バレていた！？

光ない瞳が冷たくわたしの方向を睨み刃が鞘を走る音をゆっくり響かせる。

「ほっとけ。いくぞ」

鞘に剣を戻した時の小さな音を聞き、安心からなのか、わたしの全身から力が抜けた。....助かった？のか？

奴等はそのまま何もせず教会から姿を消した。

数分の事だったのに、数時間に感じる程長く重い一時が終わった。

一体あのフードローブ集団は何者なんだ...。落ち着きを取り戻そうとしていると、突然、咳をする音が数回響いた。

「、、、。よし。これで魔結晶は完成した」

殺されたハズの貴族がただのガラス玉を高く上げ、魔結晶は完成した。と言い教会を出て行った。もう何が何だか解らないが、助かった事だけは解る。わたしも早くここから出て安全な場所で落ち着きたい...さっき２人って言ってたよね...？

わたしの他にこのボロ教会に誰かが居るのか？

キョロキョロと見渡すが人影はない。ここに居座るのもイヤだし外に出て港を目指す事にした。

早いとこ村から出ようとした時、瓦礫に腰かけるフードローブ姿の誰かがそこに居た。

フードローブ...さっきの連中か。堂々と外で、座って待っているとはナメられたものだ。一瞬右腰に手を伸ばしたがそこに武器が無い事を思い出し何故か腰を軽くほろった。

気をとり直し左肩辺りにある剣へ手を伸ばし右手で鞘先を固定し一気にロングソードを抜いた。

フルーレとは違い鈍い音。あまり好きではないこの音を耳元で聞きながらもフードローブの人物を睨む。

気付いてもいい間合いに入っているのに全く動かない。完全にナメられている。

その余裕で命を落とす事になるだろう。相手は人を簡単に殺す悪人。わたしは迷わず斬りかかった。

「んじゃ？..おわおわ！？、ま！」

「そいやぁーっ！！」

両手で確り握ったロングソードを一気に振り下ろしたが、ギリギリで回避された。しかし攻撃はまだ終わらない。前に出ている右足を軸に回転する様に剣を振り回す。

「ぎっ？！待たんか！のぉわ！」

「ぶっ飛べ悪人！」

回転斬りも上手く回避されてしまった。中々の反応速度も判断力を持つ者らしいが、しゃがみ回避を選んだ事を後悔するがいい！回転の余韻を残したまま腕を回し斜め上から攻める。

その時、わたしは相手のフードがはだけている事に気付いた。

「そんな顔だったのか悪人！」

「ええ加減にせんか！バカ者！」

地面に膝をつき、両手を合わせ頭を下げる。

膝に瓦礫の破片がチクチク攻撃してくるが、気にしていられない。

なんせ、今わたしは全力で謝罪しているのだから。

教会内で見たフードローブの集団の１人が外でわたしを待ち伏せしていたと思い込み問答無用の斬撃を繰り出していたのだが、なんとこの人物は先程の連中とは関係なかったらしい。それどころか、わたしと同じく興味本意で教会に潜入していた、噂の２人目だった。

「ごめんなさい」

「なーにが ごめんじゃ！ウチの話も聞かんで、ぶっ飛べ悪人！...お前さんバカじゃろ？ん？バカじゃろ！？」

相当お怒りのご様子。

いきなり斬りかかって来られたら誰でも怒る。だからこうして全力の謝罪で許しを頂こうとしているのだが...。

「もしウチがここで斬られておったら、お前さんが悪人じゃったんじゃぞ？ん？何とか言ってみバカ者め！」

「ごめんなさい」

「なんじゃ、それしか言葉を知らんのか？お前さんの様なバカ者は初めてじゃ！」

「...わたしもお前さんの様なじじ言葉初めてでゴザル」

はっ！つい、いらん事を口走ってしもうたのじゃ。

マズイマズイ、ここで怒りが頂点に達しでもしたら、次はわたしが狩られる。ここは即謝るべきだ。しかし、今更ごめんなさいを言っても逆効果にならないか？クソ。何か、何か手は...。

「...お前さん、ナメとるじゃろ？」

こうなったらアレしかない。禁じられたスキル。

わたしはゆっくり無言で立ち上がり禁じられたスキルを発動した。

腰と頭を少し下げ、利き腕を頭より少し上に出し指を合わせる。逆の腕はお尻辺りで同じ形を造りあげ、そして言葉と同時に縦に手首を...チョップする様に動かし笑顔で喋りながら、歩く。

「さーせん、ちと、トイレに。すぐ戻ります」

これでいい感じに離れて一気にダッシュする極秘スキル。

これが決まればどんな相手からでも逃げられる。

「待たんかアホ。この状況でトイレ優先にするバカは居らんじゃろ」

「....ですよねー！冗談ですよ姉貴」

くそう！まさかのスキル失敗！いやまて、コイツ...スキルブラスターか！？今確実にわたしの使うスキルを先読みしてスキルをキャンセルさせたぞ...強敵だったか..。

赤色ショートヘアの毛先を指に巻き付けクルクルしつつため息混じりに言った。

「もうええ、お前さん名前は？」

「エミリオです。昨日から冒険者です」

「そかそか、ウチはキューレじゃ」

「キューリみたいな名前..ぶっ」

冗談と出来心で吐いた言葉のお返しが拳。お腹にクリティカルヒットしたわたしはキューレに手のひらを見せ、戦う気はない。を全力で伝えている。

何とか落ち着きを取り戻したキューレは瓦礫に腰掛けわたしの回復を待つ。

何なんだこの女。何しでかすか解らない危険な性格...。迷惑かけられそうだし、この女とは仲良くなれないな。

「お前さん冒険者２日目じゃろ？」

お腹の痛みがまだバリバリ残るので親指を立て返事する。

美しく立てられた親指を見てキューレは頷きフォンを取り出す。

まさか、もがき苦しむわたしを撮影して晒すつもりか？

「フレンドリストにお前さんを登録してやる、ほれフォンを出さんか」

はい？なんだコイツ！わたしがこんな意味不明な女とフレンドになると思ったのか！？

丁寧にお断りしようと思った時、キューレは続けた。

「ウチは情報屋をやっとってのぉ、皇位持ちじゃぞぉ～」

「なにその顔ムカつくし、皇位？意味解んないし.....でも情報屋か...港町までの近道を教えてよ。それが本当だったらフレンドなってあげるよ」

デマ情報を売ってお金をとる作戦かもしれない。ここは１回わたし自らテストし、使える情報屋と判断した場合フレンドになってやろう。

するとキューレは少し考えてからクチを開いた。

「うむ、ならばウチが近道を使って港町までお前さんを送ろう。情報料はその港町でゴハンを奢る。どじゃ？」

「うーん、うん、いいのじゃ！」

契約成立、という事でわたしはキューレの案内で港町まで近道を使い行く事に。

平原を少し歩き、丘へ登り草むらかき分け丘を下りた時、鼻に届く香りが変わった。

生臭い...までではないが、今までとは違って独特な香りが風に乗って届けられる。

「なんの匂い？」

情報屋なら何でも知ってるだろう。と、テキトーな感じに聞いてみると、潮。と答えた。意味が解らないが、ふーん。と返事をし少し歩くと眼の前に広がる世界に新たな音や色、匂いが加わった。

大きく青い水、これが海か。

雨とは違ったザーザー音、これが波の音か。

そして先程より濃い香り。これが海の、潮の香りなのか。

全てが初めてのわたしは立ち止まり黙って海を眺める事しか出来なかった。

平原でアスランに会った時よりも、ワタポやヒガシンと蜘蛛退治した時よりも、ワクワクする心。

始まるんだ。ここを越えればわたしの冒険が。

「冒険者２日目...嘘ではないみたいじゃの」