◇5
ドメイライトから旅立ち馬車に乗りバリアリバルを目指している途中、巨大なムカデに馬車が襲われる事態に。
しかし同じ馬車に乗っていたニワトリ頭の騎士ヒガシンの命を張った時間稼ぎで騎士隊が到着。ムカデは隊長のヒロが瞬殺した。
その後、近くにあるポルアー村で今日は休もうと馬車から降りると騎士達が謎の罪でこのわたしを逮捕。
身に覚えもない罪で拘束されたが、大人の対応で拘束から解放、罪も無実だと理解してもらい一件落着。といきたい所だが。
騎士達が探しているあるモノをわたしがゲットし、莫大な金額で売り付けてやる作戦に疲れが消し飛んだ。
お金をそんなに持っていないわたしはこのポルアー村で少し稼ぎ、バリアリバルを目指そうとしていたのだが、こんな所でナイスクエストに出会えるとは幸運。
敵国をビビらせるのにあるモンスターの素材を求めているらしく、詳しい話は後で隊長ヒロが宿屋へ来て話す。と。
それまでわたしは宿屋でゆっくりしている事に。勿論この宿代も騎士に払わせた。
ポルアー村にある唯一の宿屋の二階を借りていた。
三階建てだが、二階のこの部屋が村を一望出来るらしく、是非ともポルアー村を隅々まで見てやろう。とこの部屋を選んだ。
ベッドが1つに窓が1つ。
本棚が1つに机イス。フォンを自分のアイテム倉庫へ繋ぐ為のプラグが1本壁から。
部屋はシンプルすぎてやる事もない。やはり村を上から見下ろしてやろう。
両開きの窓へ手を伸ばし一気に押すと、夜のポルアー村が眼下に広がる。
村の至るところにあるT字型の大小様々な木製オブジェ。最初は、なんだアレ?と思っていたが夜になるとオブジェ必要性が理解できる。
この村には街灯がない。その為、日が沈むと同時に村人達がランタンに暖かい光を灯しT字オブジェに引っ掛ける。
形も灯り方も各々違って、素朴な美しさを産み出す。
ドメイライトと違って騒がしくない。
仕事を終えた村人達が大きくでも飾り気のないテラスで1日の疲れを癒すかの様にワイワイ夕食をとる。村全体が仲良くしているのか。そのテラスの横には石材のオブジェ。見慣れないモノだがアレは...?
ストーンオブジェを細めた眼で見ていると、コンコンと音が薄暗い室内に響く。
「ん、入っていいよー」
わたしの声を聞き終えてからドアを開き部屋へ入ってきたのは騎士隊長ヒロとニワトリと子犬.....。
「子犬!?」
さらっと目線を外したがすぐに目線を子犬に戻し、ついクチから言葉が漏れた。
くりっとした瞳と白銀の毛。ヌイグルミかと思う程の可愛さ。尻尾を左右に振りヒロの足下に座っている。
「と、とりあえず入って」
立たせておくのも悪いし、観察したいので中へ招くと、堂々とした歩きで一番に中へ入ってきた子犬。なんだコイツ。
「早速だけど、ワタシ達が探してるモンスターは」
「説明なし!?」
「説明なしっすか!?」
部屋に入るやすぐにクエスト説明を始めるヒロにわたしとニワトリ騎士がついツッコミを。今求めているのはクエスト説明ではない。そこらを歩いている白いヤツの説明だ。
「あぁ、ゴメンゴメン....んしょ。この子はクゥ、さっきのフェンリル。“結界” がある場所に入る時は子犬の姿になるの」
フェンリル?結界?何の話なのか全く解らない。子犬を抱くヒロは先程よりも更にほんわかふわふわ雰囲気で...綿毛みたい。
「...エミさん、結界って解る?」
わたしの表情から読み取ったのか何なのか、とにかくナイスだニワトリ。わたしは首を左右にフリ答えた。
ニワトリは鶏冠ヘヤーを揺らし窓へ近付き、そして指差し続けた。
「あのテラスの横にある石見える?」
わたしも顔を出し指差している方向を見る。さっき見つけたストーンオブジェ...ってゆーか。
「何でタメグチなの!?」
「え?いや、隊長じゃないし、馬車で大人って言ってたじゃん?なら同じ歳くらいかなって」
「は!?ニワトリいくつ!?」
「俺20」
「は!?クソガキじゃん!ふざけんな!わたしは!...あ、20だわ」
自分の歳が一瞬解らなくなったが、確かに同じ歳だ。ニワトリが20歳って事は...この隊長は!?正直ニワトリは歳下で隊長が同じくらいだと思っていたが、、、。
「あー、騎士は基本18歳からなれるんだ。騎士学校卒業が18だからな。まぁ特例もあるけど...隊長は25歳、この歳での隊長はそう珍しくないが実力は団長の隊へ来ないかって誘われるレベル」
「ほぉーワタポは25歳なのか。で、そのストーンオブジェが??」
話が脱線したので戻そうとした時、実力派隊長殿がそれを阻止するかの様に会話へ乱入。ホント乱暴な入り方。
「ちょ、ワタポってなに!?ワタシ!?」
「え、うん。綿毛みたいでポワポワしてるから、ワタポね。隊長!なんて呼べねっすよ!」
「良かったじゃないっすか隊長、あだ名が出来て」
「バウ!!」
隊長ヒロはワタポで決定し、話を戻した。
この村にあるストーンオブジェ。あれが噂の “結界” らしい。と言っても石全体が結界ではなく石の中心にある宝石がモンスター避けの力を秘めているらしい。
魔力を秘めた結晶が “魔結晶” と呼ばれる石。その石....魔結晶を加工したモノを “マテリア” と呼ぶ。
魔結晶はモンスターの体内や自然の力で生成される。魔結晶の段階だと武具等の素材にもなるが、マテリアに加工してしまうと武具素材には出来ない。
発見しても、ほいほいマテリアに加工せず考えてから使うべきだろう。
その魔結晶にも無限と言える程種類があり、ここポルアー村のランタンも火ではなく発光マテリアを使っている。ドメイライトの街灯も同じく。
マテリアはアクセサリー等に加工し装備すると能力が上昇するモノもあるので冒険者や騎士等は欲しい代物だが、魔結晶自体が希少なのでマテリアの値段も安いモノで数十万は必要。魔結晶のままの場合はそのマテリアの倍の値段がつく。
あのストーンオブジェに装備されているのが結界マテリア。結界マテリアは希少中の希少で村や街に絶対ある訳でもないらしい。
この結界マテリアは自然が産んだモノ。モンスターの体内で生成されたモノではないので最近発見された結界で約5年前らしい。
モンスターが嫌うマナを生成、排出するマテリア。
人間等には何も感じないレベルだがモンスターには苦痛なのか。
フェンリルのクゥはワタポがテイムした時点で人間同様の扱いになるので結界を嫌がらないが、影響で子犬化してしまうらしい。面白いヤツだ。
それにしてもフェンリルってカッコイイ名前のモンスターだが、どんなモンスターなのか。出来心でクゥのデータを頂いてみた。
[フェンリル]
白銀の毛を持つ巨大オオカミの希少種。その他の詳細は不明。
...なんだよモンスター図鑑も手抜きか。つまらない情報を見て溜め息が自然と出る。
まぁ、凄い犬って事は解ったしいいか。
「....結界とフェンリルの話は理解した!で、探してるモノってなに?高く売れる?」
本題を忘れかけていたが、理解し一段落して思い出す。そう、今回ここに騎士が来たのはわたしのお金稼ぎの為なのだ。
モンスター素材って言っていたが、どんなモンスターなのか、今からそれをワタポ隊長がビシっと話してくれるに違いない。
「あ、えっと...夜になるとこの村周辺に姿を見せるボスモンスターの素材で、大きな蜘蛛らしいの。真っ黒で赤く光る3つ瞳、頭が王冠の様な蜘蛛」
王様蜘蛛?大きいってどの位なんだろうか?...。
ワタポは小さく微笑んで続きを話さない。
「...え、情報それだけ!?」
「うん、騎士団長から直々に下された命令でね。情報が少ないが頑張ってくれ。って」
...騎士団長が直々に?
そんなに重要な任務ならば団長の親衛隊でも動かせばいいのに、なに考えてるんだドメイライトの騎士は。
確かにワタポは強いけど、ニワトリは弱っちーし、、待てよ。騎士団長が直に命令するって事は、騎士団長が欲しいモノって事にならないか?と、なると...
「おーけー。村周辺に出る化け蜘蛛なんでしょ?村長とか居ないの?聞いてみよう!いくぞトサカ!」
わたしは近くでユサユサ揺れるニワトリ騎士のトサカを掴み、部屋を飛び出した。一刻も早く蜘蛛の情報を集めて即討伐して騎士団長殿からガッポリお金を貰わなければ。いや、お金だけではない。バリアリバルまでの地図やらも頂こうじゃないか。こうしちゃ居られない。早く情報を!
「エ、エミさん髪抜けるって、トサカ無くなるって!」
首を絞められたニワトリの悲鳴が静まり返った夜に響く。
ニマニマとヨダレ混じりに笑う女がニワトリの首を夜な夜な引きずり回し、数を数える声。
静かな夜の悲鳴。
数日後から子供達を中心に語り継がれる怖い話はこうして誕生した。
「ヒガシン、本当にこの辺りに現れるの?」
「はい、、。」
「ヒガシン機嫌わっるー」
わたし達はポルアー村で村長から大きな蜘蛛の話を聞いた。
平原にある大きな木。それも不自然に生えている木。そこに噂の蜘蛛が生息しているらしい。村の人々も何度もその姿を見たらしく、150㎝程の大きさを持つ蜘蛛らしい。
わたしの身長が140㎝なので.....生意気な蜘蛛って事になる。
なんでも、この木が吐き出すマナには小型の獣を呼び寄せる力があるらしい。しかしそのマナは夜しか排出されない。村人達も夜に狩りをしていた時、この木に集まる小型獣を狙って近づいた時、根こそぎ横取りされた。と言っていた。
ポルアー村にも少なからずの影響を与えている生意気な蜘蛛をわたしが討伐し、ポルアー村からもお礼を、騎士団長からもお礼を。
誰もが羨む最高のクエストを受注したわたしは自然と口元が緩む。
わたしのクチが、にまぁ~ ならば、ヒガシンのクチはへの字。髪をやたら気にしている。この騎士も年頃の男。髪型に拘る理由はモテたいから以外あり得ないだろう。
そんなどうでもいい事を考えていると、小型のモンスター、ウルフが木に集まり始めた。こちらには全く気付いていない様子のウルフ。
「エミちゃ、ヒガシン、集中」
ワタポが低く鋭い声でわたし達の集中スイッチを押す。
ニワトリヒガシンと同時に頷き、木を睨む。...ってちょっと待てよ。
「わたしエミちゃ?!」
「うん、ワタシはワタポ」
低く鋭い声で、ワタシはワタポ、と言う。集中しているのだろう。騎士隊長スイッチが入っているのだろう。しかし...。ニワトリや他の騎士数名は笑いを堪えている。
意外な顔でワタポを見る騎士もいる。
集中もなにも無い状態になってしまったが、これ以上何かを言うと吹き出してしまいそうな連中もいるので無言のまま木を睨む事を選んだ。
勿体無い気持ちは無くもないが、お金の方が大事。
ウルフが10匹程集まった時、小さな震動がブーツに伝わる。騎士達もその震動に気付いた瞬間、黒く太長い2本の何かが地面を貫いて現れた。
その2本の黒い何かはそのまま一気に互いを近づけ合わせる。ウルフが3.4匹挟まれているのが土埃の中でも確認できた。
「全員下がれ!」
ワタポの声で騎士全員がバックステップをする。わたしも習い下がると先程より大きな音、派手に地面をエグりついに姿を現した。
ギィィィ、と高く耳を刺す鳴き声をあげ、2本の黒く太長い腕を振るりウルフを飛ばしてきた。
「隊長、アイツがビネガロです!」
甲高い蜘蛛の鳴き声の中、わたしのフルーレは鞘を走った。
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