-魔女と人間と-

◇4


焦る事なく馬車に乗れたわたし冒険者エミリオさん。馬車内にいたお客とワイワイ騒いでいた。車内にはわたしを含めて4人がいる。貴族と思われる風貌の男と女、夫婦だろうか。貴族は謎の美を持つ。たまに、アンタは茹でタマゴか。と言いたくなる様な貴族もいる。

そしてもう1人は、金髪で前髪が逆立つのニワトリみたいな髪の男。バリバリの騎士装備なので間違いなく騎士だろう。シールドにライオンのマーク...ドメイライト王国の騎士だ。

そしてそして、チャーミングなアイスブルーの髪を持つプリティーなエミリオさん。


貴族に騎士に冒険者。てっきりわたし以外は全員普通の市民だと思っていたが、予想は大いに外れた。



「ほぉ、それでキミはドメイライトから旅立った訳か。冒険者...過酷な道だろう。しかし何事も頑張るんだぞ。そうすれば明日が見える!フハハハハ!」



グラスに少量入ってる赤ワインが揺れる。この貴族のおっちゃん、貴族特有の偉そうな感じが全くない。人生の先輩感は半端ないが、こっちの方が話しやすいし好き。

隣の女貴族も上品だが、話しやすい。



「冒険者か、楽しそうだな。俺は騎士になったけど冒険者も悪くないな」


と、普通にさらっと会話に参加し、冒険者いいね!する騎士。騎士と冒険者って仲悪いイメージがあったけど、そうでもないのか?それに普通に貴族と会話してるし、貴族は騎士より偉い感じしてたけどそうでもないの?....まぁどうでもいいか。

女貴族がくれたジュースを飲み、わたしは最初に貴族へ質問をぶつけた。



「おっちゃん貴族でしょ?貴族って普段なにやってるの?」


「おっちゃん、ときたか!フハハハハ!ワシはワインを造って各国の貴族に販売している、キミも大人になったら売ってあげよう、ワシのワインは美味いぞ」


確かにいい香りがするワインだ。でも貴族ワインは眼がバグる程のお値段なのだろう。


「へぇー、わたしもう大人なんだけどね....、で、騎士は何してるの?ワイン夫妻の護衛?」


ニワトリ騎士に会話相手をチェンジし、ワイン夫妻との会話を一旦終わらせた。大人ならば呑まなきゃ損!みたいな流れになったら財布が爆発してしまう。話の的になった騎士の男はパンを片手に答えた。



「いや、俺は隊とはぐれたから馬車でポルアー村を目指してる所だ」



ポルアー村...確かドメイライトから一番近い村で...それしか情報ないや。

ポルアー村か。考えてみるとバリアリバルまでどう進めばいいか知らない...ここは一旦ポルアー村で情報を集めつつクエストがあれば受注したい所だが、この騎士が向かっている事から考えて、その村に隊が数日滞在しそうな予感。もしかするとポルアー村に派遣された騎士かも知れない。それならば数日滞在ではなくずっと居る事になる。ドメイライトでもクエスト受注の時などウルサイ騎士に見つかると面倒だったし迷う...このニワトリ騎士だけなら問題ないが、多分他にも騎士が居るだろう。クエストは諦めるとして、もう空がオレンジ色に染まり始めているので村の宿屋に泊まるとしよう。



「わたしもポルアー村で今日は休もうと思ってたんだ、てか何で村に行くの?本部はドメイライトっしょ?」



それとなく、他の騎士も村に居るのかを聞き出す作戦に入ったわたしは言葉を選びつつ会話を続ける。



「今任務中なんだよ、で、隊とはぐれたから任務拠点の村に戻って隊を待とうかなって」



そこまで言ってパンをクチに運ぶニワトリ騎士。任務、か。内容が気になったが聞くのは止めておこう。隊で行動している騎士..隊の大きさにもよるが、村を拠点に選んでいる事から4~8人の小隊だろうか...ま、着いてみれば解る事だし今は窓から見える夕暮れ空と平原を楽しもう。


落ち着いて考えてみると今日1日で色々な事があった。

起きて準備してクエスト。ここまでは平凡な日常だったが、そのクエスト先でモンスターに追われているアスランを見かけて、好奇心からなのか、絡みに行ったら平凡な日常が変わった。森でマウスフラワーと戦った時のドキドキハラハラ。その戦いに乱入してきたデザリアの騎士。その中でもハクという名の騎士は凄かった。マザーマウスフラワーを1人で、それも楽々と倒したあの実力も凄いが、慣れに驚いた。実力面もそうだが、毎日の様に危険なモンスターと戦っているからこその余裕だろうか。近接戦闘が苦手なわたしには味わえない感覚だろう。冒険者アスラン。危険なモンスター。他国の騎士。もっと色々な事を見て、聞いて、感じて、もっと知りたい。そう思ったわたしはドメイライトから出たんだ。本当濃い1日だった。

ポルアー村までは後どのくらいなのか知らないが、多分もうすぐだろう。村に到着するまで馬車の揺れに身を任せてみると、心地良い感覚に勝てず眠ってしまった。














誰かがわたしを揺らす。もう少し寝かせて。


「なに言ってるんだ!起きなお嬢ちゃん!」


「...、、!?」


寝ぼけている中届いた声にわたしは飛び起きた。馬車の持ち主がわたしを揺らし起こしていた。ポルアー村に着いたのか?と思い、1度大きなアクビをして窓に眼を向けると、そこはまだ平原だった。



「~..っ、ん?おじさんここ、どこ?ポルアー村は?」



右を見ても左を見ても平原。それに寝る前までは乗っていた貴族と騎士がいない。何がどうなったのか解らず変な不安がわたしの心を通り抜ける。



「お嬢ちゃん話は後だ!早く降りて逃げなさい!」



馬車のおじさんは真面目な顔でわたしに言う。逃げるって何から...?

気になったわたしは馬車を降りてみると、数十メートル先にいるモンスターに言葉を失った。濡れている様にテカるオレンジ色の巨大なムカデ。真っ赤に染まる夕暮れ空が更にキモさを底上げする。

寝起きでこんな気持ち悪いモンスターを見てしまうとは...最悪なんてレベルじゃない。



「お嬢ちゃん!騎士さんが相手してくれているうちに早く離れるんだ!」



先程より大きな声で言う馬車のおじさん。表情は焦りと言うのか、とにかく迫力がある。もう1度ムカデの方を見るとニワトリ頭の騎士が1人で巨大ムカデの相手をしていた。正直1人でどうにかなる相手ではないが、ここはニワトリ騎士の勇気ある行動に感謝し、わたしも全力で逃げようとしたのだが、ニワトリ騎士が面白い程高く打ち上げられた。



長い胴体をムチの様に使い攻撃するムカデ。うじゃうじゃウネウネの足がまたキモい。

ワシャワシャと移動し、騎士が落下するであろう場所で大きくクチを開き待つムカデ。キモい。


あんなのに食べられたら騎士も死にきれないだろう。それに騎士に借りを作っておくのも悪くない。

落下中の騎士を狙って風属性の魔術を放った。少なからずダメージはあるが食べられるよりはいいだろう。風の刃が騎士の鎧にヒットし、なんとか食べられずに済んだ。数十メートル離れた位置から放ったウインドカッター。風魔術は距離を開ければ速度と威力が増す。下級魔術とはいえ横っ腹にヒットした騎士は地面に落ちもがいている。



「おーい!大丈夫ー?!」



ちょっと心配になり声をかけてみると手を上げて反応したので大丈夫だろう。しかし...今のでムカデはわたしをターゲットに選んだ。最悪すぎる。あんなウジャウネが地を這って近付いてくるのを想像しただけでも吐き気が。。黙って逃げいてればよかったと本気で後悔していると、後ろから走る足音が聞こえてきた。目の前にモンスターがいて、自分をターゲットにしている時に後ろを見るなんて命知らずがする行動だと解っていても、振り向いてしまった。

振り向くと同時に大きな影がわたしを飛び越えた。人間ではないだろう。時間にして1秒程なのだか体感は3、4秒の様に思える感覚。

飛び越えた、と気付きすぐに首を元の方向へ戻すとやっと足音の主を見る事ができた。


夕焼け色に染まる綺麗な毛。多分白銀の毛だろう。1本1本が確りしているのが見て解る。馬よりもの少し大きい犬...オオカミなのか?

そのオオカミの背中に乗る人影。乗っているのは1人だがあと2、3人は乗れそう。



「ここに居たんだねヒガシン」



ヒガシン?とはニワトリ騎士の名前だろうか。オオカミに乗っていたのは騎士だったがそれよりも驚いたのはその騎士が女性騎士だった事。よく見ると長い髪を束ねている。



「ヒロ隊長!ナイスタイミング!」



なんと!オオカミ使いの女性騎士は隊長だった。オオカミにニワトリ、隊長は髪をポニーテール...アニマル騎士隊なのか?

まぁ何にせよムカデのターゲットは確実にオオカミだろう。助かった。こんな綺麗な夕焼け空の下で、あんな気持ち悪いムカデと戦うのはゴメンだ。あとは騎士に任せて見学させてもらおう。恐らくあの隊が村を拠点にしている騎士だろう。戦闘を見ておいて損はない。



「はぐれたと思ったら任務のターゲットを発見とは、さすがヒガシン!」



今回の騎士の任務は討伐だった訳か。あのムカデの。討伐任務で隊とはぐれるとか騎士ヒガシンよ...怖かっただろうに。


隊長ことヒロはゆっくりオオカミの背から降り、オオカミの頭を撫で余裕を見せる。ムカデはその余裕にプライドが反応したのか ギイィィ と鳴きヒロへ一気に詰め寄る。地面を這う姿は想像以上に気持ち悪い。波打つ様に足を動かしクネクネと前進。10メートルは無いと思うがそれ程長く大きなムカデがヒロを襲う。巨体に似合わない俊敏な動きで近付き、ひと噛みする作戦だろうか。前身を上げ大きな顎を開き一気に喰いかかる。ヒロもただ黙ってる訳もなく、左腰にある剣へ手を伸ばす。

左手で鞘を掴み、右手で柄を確り握った瞬間、空気が変わった。

正直、隊長にしてはオーラというか、雰囲気がない人物だと思っていたが剣に手を伸ばした瞬間彼女から出るオーラは巨大ムカデも雑魚に見えるレベル。



「セイッ!」



短い気合いが平原に響くと同時に巨大ムカデの前身は空中に打ち上がった。抜刀と同時に斬り上げたのだろう。全っ然見えなかったけども...これが隊長の実力。こんな実力者がまだ沢山いると思うと...ワクワクする!


剣を鞘に戻すとオーラも消え、何だか ほんわか した女性に。武器を持った時に性格変わるタイプか...ヤバイヤツだな隊長ヒロ。



「よし、ヒガシンはこのままあの馬車で村まで来てね」



そう言いまたオオカミの背中に乗り村へ向かった。わたしの方を見てニッコリ笑った隊長は戦闘中とは全然違ったほんわかふわふわした雰囲気だった。

ニワトリヒガシンは短く息を吐き馬車主の元へ。わたしも一緒に行き再び馬車でポルアー村へ。

空も落ち着いた色になり、月が顔を出し、濃い1日がやっと終わろうとしていた頃、馬車はポルアー村の前で停止。



「騎士さん、お嬢ちゃん、ここがポルアー村だよ。俺はこの先まで馬車を走らせるからここまででいいかい?」



この馬車はポルアー村を経由していただけで最終目的地は別。わたしも騎士もここで降りすぐ近くのポルアー村へ足を進めようとしたのだが、、、。



「そこの青髪の女!止まれ!」



と、張りのある声が響き渡り鉄が擦れる音..鎧装備の者が動く時に鳴る音が聞こえる。

指名されたのは間違いなくわたしだ。ニワトリ騎士の髪色は金色。それに同じマークの装備をしているので仲間だろう。



「助けてもらったのに悪い。でも君に変な疑いがあるんだ。今はおとなしく捕まってくれないか?」



ニワトリ騎士が頭を掻きながら申し訳なさそうに呟き、わたしに剣を向け強く言った。



「デザリア王国騎士と森で会っていたのはお前だな。敵国へ情報を流した罪で逮捕する」


「は!?なにそれ!?意味解んないんだけど!...ちょ!やめ」



ニワトリ騎士が言うと他の騎士が一斉にわたしの方へ。わたしの言葉等に耳を傾けず、拘束された。
















なんなんだ!一体わたしが何をした!?と、心の中で叫ぶ。実際に叫んでも問題ないのだが、今わたしが居る場所はポルアー村にある騎士拠点のテント。誰もいないし拘束されているし最悪。



馬車がポルアー村前に到着し、いざ!と意気込んで足を進めると騎士に逮捕された。なんて笑い話みたいな状況。それも敵国に情報を流した罪とか、、、。


「情報ってなにさ!わたしが何の情報を流したの!?知らねーよぉー!!バカ騎士!頭バグってんじゃないの!?」


「まぁ落ち着いて。ゴハンまだだろ?持ってきてやったぞ」



叫びタイミングでゴハン持って来たのはニワトリ騎士のヒガシン。だっせートサカを今すぐ引っこ抜いてやりたいが手が使えないので今回は見逃してやる。でも...。


「手使えない。ハラヘッタ。タベサセテ」


わたしの言葉に一瞬固まったが、やはり優しいニワトリはパンを小さくちぎりクチへ...この瞬間を逃すと2度とチャンスはないだろう。わたしは大きくクチを開き、一気にパンへ、いやニワトリ騎士の指へ噛みついた。


首を絞められたニワトリみたいな奇声をあげるヒガシン。こりゃ大ダメージだ。

只今噛み付き中。にテントへ乱入してきた騎士達は躊躇なく剣を抜きわたしへ向ける。奇声さえあげなければ、まだ噛み付いててやったのに残念だ。


「はいはいはいはい、やめますよ。なんだよすぐ剣に手伸ばしてバカなの?」


クチを尖らせ半眼で言うと騎士様のプライドを逆撫でしてしまった様で、調子に乗るなよ!と叫ばれ剣を降り下ろしてきた。多分凄腕冒険者ならばここで敵の斬撃を利用して手の拘束やらを切るのだろうけど、わたしには無理。

何も考えず挑発しただけだし。

降り下ろされた剣は鉄っぽい音を響かせ止まった。


「まてっての」


おぉ!ヒガシン格好いいな。まてっての。とかクールに呟いて自分の剣で受け止める。騎士の真似か。やるな。


「ホントにやめなさい。さ、出てって」


そう言い入ってきたのは隊長ヒロ。やっと隊長のお出ましか。コイツの指はどう噛んでやろうか...。

指噛み作戦を考えているとヒロは何一つ迷わずわたしの拘束を解いた。


「暴れるよ?いいの?」


「そんな事しないでしょ?大丈夫、話を聞かせて」


けっ、なんだこの騎士。隊長という名の余裕か?ホントに暴れてやろうと思った瞬間、地面にドスっと鞘のまま剣を突きニッコリ笑った。この子怖い。


「話も何もさ...」









今日あった事をそのまま話した。安っぽいパンと薄味のスープを食べながら根掘り葉掘り話した。

ヒロ隊長は顎に手をおき只今考え中...のポーズで数分停止し、クチを開いた。



「あなたがこの村に来た目的は、本当に休むため?」


「だーかーらー、そだってば!それとバリアリバルまでの道とついでにお金稼ぎにクエでもしよーかなーって!騎士こそムカデ倒したんだし帰れば?いつまでも村にいてウザイっての」


わたしの言葉を聞きヒロは立ち上がりテントを出た。数秒後戻ってきて森で見た騎士の事を更に詳しく聞いてきた。そんなにヤバイ状況なのか?ドメイライトとデザリアって...。わたしも思い出しつつ答えていると、テント外から隊長を呼ぶ声が。一旦話を止め再び外へ。何なんだ。話を聞く気がないのか。

今度は先程よりも早く戻り、そしてすぐクチを開く。



「大変申し訳ありませんでした。只今あなたのおっしゃっていた街のレストランへ連絡をした所、間違いなく住んで居たとの事で...大変申し訳ありませんでした」


なるほど、嘘かホントかの確認をする為にチョコチョコ外に出てた訳か。まぁこれで疑いが晴れたならい...いくない!


「あ、そ。んじゃ教えて。アンタら騎士は何をそんなに焦ってるの?何の情報がヤバイの?言わないと本部に文句言いに行くよ?本部までの道でも叫びながらね」


「うぇ..っと...」


渋るヒロに変わり乱入してきたニワトリがさらっと答えた。


「焦ってるのは両国の関係が結構悪いから。流れちゃマズイ情報は あるモンスターの素材からいい武器が作れる。って情報。敵国がそんなの企んでたら黙ってないだろ普通」


「ちょ、ヒガシン!」


「大丈夫っすよ、馬車で話したけどスパイとかそれ系じゃないですし、丁度いいじゃないすか?お金欲しいなら」



ほほぉ。戦闘力を上げる為に武器を作って敵国をビビらせる作戦か。だっせーしめんどくさそ。でもお金になるってのは何となく理解した。

わたしがその素材をゲットしちゃったら...国からお金を取れるって事だ。戦争なんて勝手にやってくれ!お金は貰う!


「隊長さん、騎士としてじゃなく、ヒロさんとして冒険者さんにクエお願いしてみない?みんなにはまだ罪が消えた訳じゃないから連れていくって適当に言ってさ」




こりゃ100万くらい貰えるぞ!ここでガッポリ稼いでバリアリバルまでの道中ウハウハ大作戦だ!


テント内にある鏡に眼を向けるとニヤニヤしたわたしと眼が合った。








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