◇2




本日、二度目の平原はまた違った雰囲気がある。昼過ぎは馬車の数も増え騎士の姿もちらほらと。一番の違いはわたしエミリオさんがソロではない所だ。

ドメイライトに冒険者はわたししか居ない。ドメイライトにはクエストがないからだ。冒険者はより良いクエストを求める。クエストもなく騎士の眼があるドメイライトに集まる訳がないのだが、今日はたまたま平原で出会った冒険者アスラン。

彼が今受注中のクエストにわたしも同行。枯れた森に生息するモンスターを討伐し、小さな花石 を6つ入手するクエスト。


森までの道はマップを使わずサクサク進めた。モンスターに遭遇する事もなく無事、枯れた森入り口に到着したが、立ち止まりアスランがマップを開く。先程マップデータを送ろうか?と言われたがどうせ行くし断った。



「よし、エミリオ。森に入ったらキッズマウスを探すぞ」


キッズマウス?さっきの玉ねぎモンスターから小さな花石が出るのか?ならドロップしているかも知れない。

フォンを取り出そうとしたわたしにアスランは続けた。


「キッズマウスを発見したら声を掛け合い、キッズマウスを斬る」


「斬る!?体液臭いんでしょ!?やだよ!」


「確かに臭いし仲間を呼ぶ。でもそれが一番早い。小さな花石はキッズマウスの親、マザーマウスフラワーからドロップするんや」



親...キッズマウスの親がマザーマウスって名前なのか。普通すぎてつまんない。

キッズでわたし程の大きさだったがマザーはどれ程の大きさなのか?見た目は想像でしかない。そんな相手を探すとなるとやはり呼び寄せる手段が最適。それは理解できるが体液の臭いに釣られてキッズ達の数も増える。最適だがリスクも高い。と、言っても現在二人。草木をかき分けて探すのは効率が悪すぎる...。


一応長期戦も考えてポーション類を多めに用意しているしやるだけやろう。



「よし、そろそろ森に入る。入ったらお互いカバーできる距離を保ちつつキッズを探す。ええか?」



キッズとはいえ、囲まれれば厄介。そこでお互い距離を取りつつカバーする作戦。わたしは頷き、枯れた森へ足を踏み入れた。




名前とは裏腹に緑が多く高く育った木々が太陽の光を遮る。昼過ぎなのに薄暗い森。夜の森は危険と定番の会話をよく聞くが、モンスターの危険度もそうだが視界の悪さ等の条件も上乗せされ 夜の森は危険 と言われていたのか。


辺りを見渡しながら進むと遠くの草がガサガサと揺れ動くのを発見した。すぐにアスランへ報告し、様子を見る。

すると別の草が揺れ、また別の草が揺れ、確実に何かが複数いる。


隠れ、観察しているアスランも揺れ動く草を見て腰背へ手を伸ばす。それに習いわたしも武器へ手を。

音を立てずゆっくり鞘を走る刃。抜き終えると同時に姿を表す音の主。球根の身体に大きなクチ、根蔓の様な手足に花。ついさっき見たので間違える訳がない。キッズマウスフラワーだ。

他の揺れる草からも現れ、現在3匹のキッズマウスが目の前にいる。少し離れた位置に居るアスランと眼を合わせ頷き、ほぼ同時にキッズマウスへ襲いかかる。一番近くにいるキッズマウスをターゲットに剣術を撃ち込んだ。細剣がフワッと光を纏う。

剣術や体術は会得し体得する事により完璧に我がモノに出来る。頭で理解し身体で覚える事により、何時、如何なる時も瞬時に発動出来る。

と、まぁ、これはわたしに剣術を教えてくれた人の言葉なのだが、格好いい&強者オーラが出るのでわたしも使う。


会得の中に体得がある。そうして覚えた剣術は発動すると無色の光を武器が纏い、ただの斬りでも、剣術アリと剣術ナシでは速度、威力、他にも全てが天地の差。

ならば常に剣術を使い剣を振れば?と思っただろう?わたしは思った。

しかし剣術を扱うには体力、発動するには集中力や精神力が要求される。素早く一撃一撃が重い剣術となれば制御するのに体力が要求され、剣術を発動するには魔術と違って、武器に空気中のマナを溜めて発動するので集中力、精神力が必要になる。

そんな事を一振り一振り続けると5分と持たず限界がくる。魔術と同じく剣術にも不発、ファンブルが存在し、高レベル高威力の剣術は発動後に武器が一瞬ずっしり重くなる。その時、少なからず隙が生まれる。これらの事から常に剣術を使い戦うのは不可能。

ここぞ!という時に奥義、普段は通常攻撃+特技で戦うのがセオリー。


わたしは剣術を極めている訳ではないのでセオリーに従い、今まさにチャンスなので奥義...レベルではないが強めの剣術を発動した。


無色に発光する剣が素早く振られ、キッズマウスへ襲いかかる。

左斜めからの斬り下げ のみの剣術。名前も飾り気のないスラスト。基本中の基本だが走りの速度を殺さず発動したスラストの一撃は結構凄い。

玉ねぎの様な胴体を簡単に両断。剣の光は剣術の終わりを告げる様に消える。

基本剣術なので剣が重くなっても気にならない程度なので素早く地面を蹴り別のキッズマウスへ。しかし。



「やるなエミリオ」



そう言うアスランは既に2匹目のキッズマウスを倒していた。クローは本来 軽く手数重視の武器。しかしキッズマウスの死体は綺麗に両断されていて他に傷も見当たらない。この男...なかなか出来る様だ。



「終わりだね、てか...」


「..言うな言うな」



鼻がバグる程臭い。

何と言うか...緑の臭いではなく、そう、茶色の臭い。この臭いを出す体液が綺麗に切断されキッズマウスから止まらず流れ出る。

緑色の体液だけを地面に残し、キッズマウスの死体は微粒のマナとなり消滅。

モンスターの死体は数秒~数十分その場に残り、そこ後マナとなり消滅する。体液等は死体が消えてから数分残り消滅する。

ドロップアイテムは倒した時点でフォンのポーチに収納されるが100%ではない。角等の部位を入手する場合は生きている時点で角を破壊、切断し、それが消滅する前にフォンに収納する方が確実だ。

生きている間は破壊切断された部位もすぐ消えない。勿論、その部位を放置して戦っていると死体扱いになるので時間で消滅する。

恐らくこの体液もビン等に入れ入手出来るのだろう。絶対いらないが。

ちなみに体液等のアイテムもドロップする。ドロップした体液はポーチから取り出した場合ビンに入っているので安心。体液がビンから全て無くなるとビンも微粒化し消滅する。

臭いにも慣れてきた頃、遠くからガサガサと葉が擦れ合う音が聞こえた。お互い武器を構え音のする方を睨む。すると姿を現したのはビビる程の数のキッズマウスと一回り大きく、花もより美しいマザーマウスと思われるモンスター。



「アレがマザーマウスや!涎が広範囲で酸度も高い!」


「キッモ!クチがグロいし...てか数よコレ!どーすんのさ!」


わたしの言葉を聞きアスランはたっぷり3秒停止し、強く、短く言った。



「...死闘やね」



....。ここからは作戦なし。食うか食われるかの死闘。ふむシンプルで解りやすい。なんて思える程の実力も度胸も備えていないわたしはフリーズ。アスランは実力的余裕なのか腹をくくったのか、焦り等の感情は読み取れない。


小さく可愛らしい瞳がわたし達の姿を発見し、マウスフラワーは高くガサガサした声で鳴いた。

キモい。グロい。臭い。最悪の3つが揃うこの場で死闘開戦。飛び掛かってくるキッズマウスを回避と同時にフルーレで斬る。そしてすぐ別のマウスから繰り出される蔓を回避。一瞬の判断ミス、迷いが取り返しのつかない結果を招く。これが本当の戦闘。

背を撫でた冷たい風に臆する暇もなく、次々にキッズマウスが攻めてくる。

アスランも回避、攻撃、と、同じ事を繰り返しつつ隙を見つけてはキッズをマザーの方向へ蹴り飛ばす。



「エミリオ!クチ花を出来るだけ1ヶ所に集めるんや!」



そう叫びまたキッズをマザーへ蹴る。マザーを中心にキッズを集める。この作戦に頷きわたしも黄金の左足で激臭玉ねぎを蹴る。

ピュギッ、とキモい鳴き声を残し蹴り飛ぶキッズマウス。丸いのでなかなか蹴りやすく、動きも速くはないのて狙いやすい。蹴られる子を見てマザーが怒り鳴き叫ぶまでは。


怒りを解放するかの様に叫ぶマザー、それを合図にキッズ達も叫び、今までのが嘘の様に猛攻を始める。

涎を飛ばす涎部隊。黙って浴びる訳もなく回避すると体当たりしてくる捨て身部隊。

しかし体当たり等所詮体当たり。迫り来る身体を切断すればいい。臭いなんて今更だ。

アスランも同じ様に動く。

予想通り臭いに釣られてキッズマウスが現れた。かと思ったが甘かった。

草木の影から姿を現したのはキッズではなくマザー。そしてマザーより更に大きいマウスフラワーが1匹。

キッズは約140㎝。わたしの身長程だ。マザーは160㎝。そして謎のマウスフラワーは2メートル程と見て間違いない。ボスマウス?ビッグマウス?等と名前を考えているとアスランが言った。



「マズイな、あれはクイーンマウスや。死んだな」



わたしは即フォンを取り出しクイーンマウスと呼ばれている巨大なヤツを的にしフォンを向ける。クイーンマウスのマナを感知したフォンはすぐ更新情報を表示。対象のマナを感知する事により情報を検索、表示する機能がモンスター図鑑。


[クイーン マウス フラワー]

マウスフラワーの最大権力を持つモンスター。ボス。

キッズ、マザーよりも戦闘力は遥かに高く体液には麻痺効果も。遭遇した場合は迷わず逃げる事をオススメする。



と。

大変なヤツを呼び寄せてしまった事に焦るが、もっと恐ろしい事に今目の前にはキッズの姿が無く、クイーンを中心にマザーのみが集まっていた。


死んだな。と、呟いたアスランの気持ちが、今やっと解った気がした。





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