◇1
皇都ドメイライト。
この世界で一番大きく、栄えている街。ドメイライトは段階層に別れていて、一番下...一層目が一番広い。
この一層目が通称 街 。
装備品を販売する店や酒場、他にも色々な店があり、人々が住む家がある。
わたしもこの街に住んでいる。小さな家を借りて一人、毎日コレといって決まった事もなく、1日1日を過ごしている。
仕事は 一応、冒険者。
冒険者はクエストとよばれる仕事をこなし、お金を稼ぐ職業。クエストにも種類があり、その難易度で報酬も変わる。
報酬が多いと危険度が高い。危険度が高いと成功率が低い。中でもモンスターの討伐は下手を打てば死ぬ可能性もある。
そんな危険と隣り合わせの職業が冒険者だ。
今日も街で困っている人を助ける為、頑張っている。
わたし、正義の味方みたい。
先程、遅めの朝食をとるために行ったレストラン。そこで店主からクエストをもらった。冒険者っぽく言うとクエストを受注した。になるのか?正直、冒険者と言っているわたしだが、冒険者がどんなモノなのか知らない。
この街では困った事などがあれば全て騎士にお願いするのかセオリー。わたしみたいな冒険者など一人もいない。
それもそうだ。冒険者にお願いするとお金やらを払わなければならないが、騎士にはお礼金など必要ないのだから。
そのせいもあり仕事は毎日ある訳じゃない。それに仕事と言ってもお手伝い程度の内容でメインの稼ぎ口はモンスターを討伐し、その時入手したアイテム等を売ってお金を稼いでいる。
今回のクエストも内容は 店に飾る花の採取。採取クエストだ。
白色の花なら何でもいいらしい。やはりお手伝いレベルのクエスト。
しかし一度受注したクエストは全力で頑張る。それがわたし エミリオさんの良いところ。
わたしは街を出てすぐの平原に咲く白く小さな花を採取するため、門を目指す。
右腰から下げた細剣ジャンルの武器、フルーレの鞘を撫で見えてきたアーチ状の門を潜るため歩く速度を上げた。
街を囲う城壁。唯一の出入り口が門。そこに門番騎士が居る。しかし出入りする者に声をかける事はまずない。
怪しいヤツや危険な物を持っているヤツ等には声をかけるが、この街には騎士団本部があるので怪しく危険なヤツなど現れない。
門番に止められる事なく門を抜けた。
門を抜けると心地良い風が頬を撫で、消えた。
毎度毎度、門から抜けた時感じる風は違う気がする。
さて、今回のクエストは採取。討伐系ではないので危険度も高くないが油断はできない。
平原には無数のモンスターが生息しているので、いつ何処からモンスターが顔を出すかなど解らない。何度も平原でモンスターを狩っているがヤツ等は本当に危険だ。
自分で言うのもアレだが、わたしは戦闘には多少慣れている。しかし戦闘に慣れていない者ならば高確率で死んでしまうだろう。
新人とはいえ訓練を積み重ねた騎士でさえもモンスター戦闘で負傷する。偶然遭遇した平民レベルでは即死だ。
右腰から下げられたフルーレを撫で、平原大地へ強く踏み込んだ。
ターゲットは白い花。種類などの指定はないが出来る限りいい花を探してみよう。街で売っている花じゃ話にならない。
今回の報酬は1500ヴァンズ。
最低でも1500vで取引される花を採取しなければ冒険者として成長できない。
「...よし、っと」
自分に気合いを入れ腰のポーチからアイテムを取り出す。
冒険者には絶対必要な便利アイテム携帯端末 [フォン] だ。
多彩な機能があるフォン。数ある便利機能からわたしが選んだのはマップ機能。
一度通った道を記憶し、記録するマップ機能。何度も平原に出ているためマップもそこそこ埋まっている。
何度か指でマップを撫で、気になる所を拡大すると地形の詳細まで見れる。勿論、一度そこを通った道だけだが。
「うーん、ここの丘に花がありそうだなー」
マップを見て、その方向を見て、足をゆっくり進める。
モンスターの気配も無いのでフォンを右手に丘を目指す。
途中で馬車とすれ違い、他に花がありそうな場所等を聞いたり、街までの道を教えたりと何も変わらない日常。
何事もなく目指していた丘に到着し、小さな白い花も見つけた。薄っすら青白い花びらを持つコレは街で2300vで取引されている花だ。
これはいいモノを見つけた。
花に手を伸ばし優しく摘む。そこでわたしは手を止め、摘んだ花を一度地面に置きフォンを。
このまま持って行ってもいいのだが、帰り道モンスターと遭遇しないとは言いきれない。
マップを閉じアイテムポーチ機能を。
摘んだ花をフォンに近づけるとフォンが花の[マナ]を感知し、アイテムポーチに収納できる場合は画面に固有名とポーチに収納しますか?と文字が出る。yesをタップすると持っていた花が一瞬、薄い緑色のマナになり、消える。
これでアイテムポーチに収納完了。
ポーチを閉じず同じアイテムを収納する場合はこのやり取りは不要、サクサク採取しサクサク収納。
限界数になると、収納できません。と文字が出て、今収納されている数が画面に。
青白の花 20/20 と。
この花の名前と所持数/限界数だ。
「お、MAX20なんだ..んし!帰ろうかな」
収納できる限界数を採取し、フォンのアイテムポーチを閉じ、腰のポーチへフォンを入れる。
まだ花は咲いているが必要以上に摘む必要はない。
丘を後にしようと立ち上がった時、ふと視界に何かが。
帰り道...街とは逆の方向に見えた人影。
そう離れていない距離だ。
普段なら別に気にせず街へ戻る所だが、様子がおかしい。
走る人を追う...あれはモンスター?!それも見た事ないモンスターが.1.2...5匹!
わたしは丘を蹴り走った。
知ってる人なのかも解らない、助けてヒーローになりたい? それも違う。
この街に来て、住み、生活に慣れ、毎日似たような事を繰り返すだけの日々に退屈していたのだろう。
迷わず地面を蹴った。
右腰から下げられた細剣フルーレへ手を伸ばし、抜刀。
シュィン、と軽く澄んだ音が短く届くが、その音を置き去りにただ走った。
あの人を助けるためでもなく、見た事もないモンスターと戦いたいからでもなく、ただ...
ワクワクしたから。
根の様な足をうねらせ器用に走る植物系モンスター。胴は球根..玉ねぎの様に丸々太くそこに大きなクチ、左右から伸びる蔓の腕。眼と思われる小さな2つの点、頭には赤い花。正直、キモい。
そしてそのキモンスターに追われる人間。
まさか平原でこんな絵を見る事になるとは...なんて幸運なんだ。
このくらいの刺激がなきゃ毎日つまらない。
わたしは迷う事なく植物系モンスターに向かい走る。腰にあるフルーレを抜刀した時、モンスターに追われる人物がわたしに気付く。
どうする?このまま逃げるか?一緒に戦うか?
追われていた人物の性別は男。軽装で武器を持っている様子はない。
男は両手を腰背へ伸ばし、わたしの方へ飛んだ。空中で身体を捻りモンスターの方向を見る。戦う...という事だ。
武器は腰背にあったらしく、両手に装備された爪、クロー。手の甲から伸びる鋭い爪。左右の爪を擦り構える。
わたしも習い、柄を握り直し構える。
「あのモンスターはキッズマウスフラワー、クチから吐き出される粘液は鉄を溶かし蔓の様な腕は切れ味抜群や!頭の花だけを斬り落として戦う、いけるか?」
「オーケーオーケー!」
素早く最低限の説明をし、即戦闘へ。1度縮めたかと思うと勢いよく伸びる蔓の腕。わたしと男はお互い左右に回避。
「お互い近くのキッズマウスを狙え!」
叫び、男は近くのキモ花を狙い走る。蔓を余裕で回避しつつ接近し、頭の花へクローを。近距離でさらに相手は攻撃後の硬直に襲われている。植物系モンスターは力技を繰り出した後、高確率で硬直に襲われる。これはもう勝った。
しかし振り下ろされる腕が何かとぶつかり、男の攻撃は弾き返された。
シュルル、と変な音をたて1匹わたしの近くに来たがわたしは斬らず、蹴りで今をやり過ごし言った。
「何がどーなったの!?」
「多分、周りの花が助けたんや、腕いてー」
そう言い右手をぶらぶらと揺らしキッズマウスを見る。
数は5匹...匹でいいのか?など今どうでもいい事を考えてしまったわたしに男は言った。
「君は魔術が使えるタイプか?」
魔術。魔法だ。
武器を使った戦術は槍でも爪でも、剣術と言われ、拳や蹴り回避等は体術、魔法は攻撃系が魔術、回復系が治癒術、補助系がバフだ。補助系は魔術以外でも存在しそれもバフと言う。
男が言ったのは魔術、攻撃魔法は使えるか?と聞いてきた事になる。わたしの答えは...イエス。
わたし個人、剣術や体術よりも魔術が得意。
使えるか?に対し頷き答えた。それを確認した男は よし、と言ってから続けた。
「俺が奴等の気を引く、その間に魔術の準備をして合図を出したら頼む、火が効く」
「りょ、んなら出来るだけ敵を集めて。一っ気に燃やすから」
男は何も言わず戦闘体勢へ。それが答えだと判断し、わたしは大きく1歩下がり魔術の詠唱を始めた。
詠唱は魔術を使うのに必要。儀式的なモノだ。詠唱を必要としない魔術も存在するが基本的には必要。
魔女語を詠み唱え、空気中にあるマナと自分の魔力を混ぜ合わせて発動する。
ほんのりと赤い魔方陣がわたしを中心に展開され詠唱を終えると魔方陣は消える。
詠唱中は喋ると失敗、ファンブルしてしまうが詠唱後は喋っても問題ないが動けない。動くとマナや魔力がブレ動いて不発になってしまう。
詠唱を終えたわたしを見て男は叫んだ。
声を合図にわたしも魔術を発動。下級炎魔術のファイアボール。溜めた魔力を放出する様に魔術を発動、空中に小さな赤い魔方陣が浮かび、そこから火球が放たれる。スイカやメロン程の大きさで燃える球体がモンスターへ襲いかかる。ファイアボールは基本火球の数は3つ。しかし魔力を多く使い詠唱すると多少威力と数が増やせる。今回は倍の6つだ。ちなみに最大は8つ。
火球は完璧にヒットし、キッズマウスフラワーは燃え消滅した。余った火球は空高くに飛ばし消滅させた。
ファイアボールは下級基本魔術。威力も低く長距離火球を飛ばすと燃え尽き消える。しかし多少ならば方向を操作でき、魔力消費も少ないので使い勝手がいい。
「サンキュー、助かった」
武器をしまい言う男。
わたしもフルーレを鞘へ戻し、おつかれー。と答えた。
助けてくれたお礼に奢る、と言われ断る理由もないので街へ戻って御馳走に。
キッズマウスフラワーなんて平原で1度も見た事ない。そんなモンスターに追われていた。話を聞きたいがこんな場所でダラダラする訳にもいかないしゆっくり聞きたいので、この話題は街へ戻ってからにした。
モンスターの死体は灰になり風に吹かれて消え、生き物の体内に存在するマナは自然に還される。
マナは空気中や体内など、何処にでもあり、無限と言ってもいい数が生産され続ける。
酸素みたいなモノだ。詳しくはわたしも知らない。
害もなくどれだけ使っても減らない、それどころか増える一方なので学者達も他を優先し、マナについては調べていないと聞いた事がある。
ま、わたしは学者ではないのでどうでもいいし難しい話は解らない。
街までの道中、モンスターに遭遇する事はなかった。
「...くぁーっっ!」
豪快にドリンクを飲み干し、声を上げる男。
街に到着後、わたしのクエスト報告を済ませてから酒場ではなくレストランに入った。
まだ夜ではないしアルコールを避けたのか、わたしがまだアルコールを摂取していい歳ではないと判断したのかは不明。
注文していた料理等がテーブルに届き、男は話を始めた。
「さっきは助かったわ、森でコイツの修行をしてたらキッズマウスに襲われてな。1匹切り裂いてみたら体液が臭くてその臭いがキッズマウスを集めるんだ。焦ったわー」
焦ったわー、と言っているが全然焦った感が感じられない。そして コイツ と言って出されたモノは魔銃。
初めて見る魔銃に興味がない訳でもないが、魔銃なんてこの辺りでは滅多に見れない代物だ。この男は商人なのか?そもそも名前すら聞いていない。
「おお、自己紹介がまだやったな」
わたしの思考を読んだのか、たまたまなのか自己紹介を始める男。それにしても何処か胡散臭い喋り方だ。
「俺はアスラン、まぁ冒険者やね。無所属や」
無所属。ギルドに加入していない という事だ。
「わたしはエミリオ、同じく無所属ね」
「エミリオか、冒険者なら一緒にクエストせんか?今やってるクエストが中々面倒なんや」
アスランはそう言いフォンを操作し、クエストリストを見せてくれた。
[孫に宝石]
孫娘がパーティーに参加する事になった。そこでアクセサリーをプレゼントしたいと思っているのだが、平凡なアクセサリーではなく特別なモノをプレゼントしたい。
小さな花石を6つ入手してほしい。
報酬 14000v 、優しい爪×10
ほほう....えぇ!?報酬14000vって高っ!なんだこのクエスト。これが本物の冒険者が受注するクエストなのか?
これは是非とも同行したい、が、わたしはコーラを一口飲み質問をした。
「同行した場合、報酬は?」
「君、金持ってないやろ?」
「な、持ってるし!」
「うそつけ。さっきのクエスト報酬見たが、くっそ安いやんけ。報酬金は全部やるわ素材は全部貰う」
まぢかよアスラン!アンタって人は...。
わたしは少々迷うフリを見せ、頷いた。
迷うフリをしたのはお金なんてなぁ。。ってオーラを出す為だが、恐らく見抜かれているだろう。
「よっしゃ、小さな花石は森...[枯れた森]に生息するモンスターからドロップできる。15分後、さっきの門集合な」
「おけおけ」
アスランは席を立ちお金を払って出ていった。
アイテムや装備の調整をする為の15分だろう。わたしも料理を食べ終え、フォンのポーチと腰のポーチにあるアイテムを入れ替えた。
腰のポーチは手を伸ばせばすぐ取り出せて便利だがフォンの様にガンガン収納できる訳ではない。しかし戦闘中にフォンを操作しアイテムを取り出す時間もないので、まぁ、臨機応変に。
今回の目的地は[枯れた森]
平原を進むとある森。さっきのキッズマウスも枯れた森に生息しているだろう。一応解毒ポーションもポーチに入れておこう。入り口を見たくらいで森の中に入るのは初めてだ。アイテム、武具の確認を必要以上にし、準備を済ませたわたしは店を出て待ち合わせ場所へ向かった。
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