第二話 風竜の顎

風竜の顎。それは何万年も昔から使われている風竜山脈の山越え道だ両側は断崖絶壁で落ちたら即死する。


こんなところを通る商人はいないので、基本的に急いでいる旅人が多い。


一応、双方は風竜の顎から来るかもしれない敵軍を監視するため小さな砦がある。


さて、では商人は何処から風竜山脈を越えるのだろうか?


それは風竜の口だ。


風竜の口は五千年ほど前に終結した人魔大戦の時できた。


その時、風竜山脈の東(現在の帝国領)は魔軍に占領されていた。


そして魔軍は飛行可能なモンスターで風竜山脈を越え、村々を襲った。


そんな時に、現れた一人の少女。後に聖女ハルーカと呼ばれる少女は渾身の魔法で風竜山脈の一部を吹き飛ばしつつ飛行可能なモンスターの基地を狙撃した。


その時に出来た穴が風竜の口として交通に使われているのだ。


まあ風竜の顎の説明はここまででいいとして、僕は風竜の顎に着いた。


徒歩だ。


馬は危険なので途中の村で置いてきた。


両側は断崖絶壁。たぶん落ちたらミンチだ。


風竜の顎の恐ろしい点は飛行可能なモンスターが襲って来ることだ。


Gランクモンスター《ヘルホーク》


その凶悪な爪と素早いスピードで遠距離攻撃の手段がない敵には圧倒的に強い魔物だ。


ヘルホークの爪がレオの喉笛を掻ききろうと飛び込んでくる。


それに対しレオは只、右手を突き出す。


バチィッ


レオの紫色の雷撃は正確にヘルホークの左の翼を穿つ。


ヘルホークはバランスを崩し左の崖へと落ちていく。


こんな場所ではモンスターの素材は回収が難しい。


レオはまた歩き出した。


歩いて数時間。風竜の顎を越えて、エルドシア王国に入った。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



金属のぶつかり合う音がする。


眼に魔力を集め視力を強化すると複数の馬車が見えてくる。


レオは駆け出す。


「ギャハハハハ!その物資はいただいたゼ!」


「女騎士さんヨォ!?はやく降伏しなヨォ!?気持ちイイことしてやんヨォ!?」




「賊に渡すものなどない!!」


「あなたみたいな人は嫌いです!!」


近付くと声が聞こえてくる。なるほど騎士団が盗賊に襲われているようだ。盗賊Bがヨォヨォ煩い。


面倒臭いので魔眼で蹴散らすことにした。


魔眼古竜眼。SSランクモンスター古代竜(エンシェントドラゴン)の魔石から作られた霊器。この古代竜(エンシェントドラゴン)はかつてガルシア帝国建国時に倒した六匹の古代竜(エンシェントドラゴン)の内の地竜の古代竜(エンシェントドラゴン)だ。十二歳の時に失った目の代わりとして作った義眼の霊器。


その能力は魔力操作、古竜魔法、力場操作の三つ。


その力を発揮する。


力場操作。


「ウガァァァァァ」

「飛んでるヨォォォォォォ」

「ギャァァァァァァ」


空高く放り投げ。


バチィッ


雷の魔法。


「「「「グベラッ」」」」


黒焦げになって落下する二十人分の死体。


騎士さん達は呆然としている。仕方ないだろう。戦っていた相手がいきなり吹っ飛んで、雷食らって死んだんだから。


呆然としている騎士さん達の方へと僕は歩みを進めた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「やったわ♪」


蝋燭に灯った火が部屋をぼんやりと照らす。


彼女はとても幸せだった。


「ウフフ。母親しか殺せなくて挙げ句の果てに義眼を霊器にするために我が家に伝わるエンシェントドラゴンの魔石のひとつを持ってかれた時には焦ったけど家出してくれるなんて。今頃モンスターのお腹の中かしら?ウフフ嬉しいわこれで家督は息子のもの。私は公爵の母!」


確かに長男の母である彼女が公爵の母となっただろう。


しかし彼女は失念していた。


レオ=パルディアは霊器鍛冶師だと言うことを……。

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