ファントム・スミス ~霊器鍛冶師の成り上がり~

祐祐

冒険者編

第一章 駆け出し

第一話 ファントムスミス

今から十五年ほど前、中央大陸の中でも一二を争うガルシア帝国と言う国に一人の赤ん坊が産まれた。


名をレオ=パルディア。パルディア公爵家の第四婦人から産まれた第五男。

三歳にして魔法を使いだした天才児。


そして七歳の時、彼は人工的に精霊を生み出した。


……精霊。それは世界に存在する実態がない霊的存在。


彼はそれを生み出し物の中に宿した。


それは霊器。滅多に手に入るものではない。


何故ならそれは精霊が宿ったものを探さなければいけないからだ。


しかし彼は人工的に産み出した。


人は彼を畏敬の念を持って、こう呼んだ……


ファントムスミスと。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



空が割れる。


それに人間は気付かない。


何故か?


それは人間が魔力を見ることができないから。


その裂け目からひとつの魂が。


若く、強い衝撃によって死んでしまった魂が……。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



紅い光に白いカーテンが照らされ橙色に染まる。


床を飛び散った鮮血が濡らす。一部の血は乾き、血痕を残す。


眼前には黒いローブの男と、全身から血を流し倒れ伏す母。


黒いローブは擦りきれ端はギザギザになり、その手に持つ短剣の刃には血がこびり付いている。


「これでリリの敵が打てる!」


短剣を逆手に持ち男が襲い掛かってくる。自分は男にとって恋人を殺した悪魔でしかない。


振るわれた短剣を紙一重で回避し、男の手首を掴む。


腕を捻り上げて拘束し、首に手刀をくらわせて意識を奪う。


短剣を男の首に突き刺して、男を殺す。


肩の力が抜ける、母は俺を庇って死んだ。


涙が溢れてくる。


痛い。左目が。


左目の視界が赤く染まっている。


その日、俺は最愛の母と、左目を失った。


大きすぎる力は猛毒となる。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



新月の夜、地上を照すのは星明かりのみ。


そんな中、玄関扉の前でこの十五年間過ごしてきた屋敷を見上げる。


母と過ごした部屋、見習いメイドが好きで育てていたハーブ、何時も笑いながらご飯を作ってくれた料理人がいた厨房。


みんなあの日の夜死んでしまったけれど、残っている。


そんな場所とも今夜でお別れ。


俺は背を向けて歩き出す。


もう二度と此処には帰って来ないだろう。


思い出も捨てる。


門から出て町中に消える。


少年の双眸は蒼と金に輝いていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



彼の蒼と金の双眸が見据えるのは紅い体躯に黒色の角を持つ大きな牛。


Jランクモンスター《レッドブル》


彼、レオ=パルディアがその両手に持つのは二本の鉈。


大黒鉈カドモス


大白鉈ハルモニア


Aランクモンスター陽陰竜から採れた二つの魔石より造られた霊器。


Aランクモンスターの魔石を使ったその能力は切断と吸収。


大黒鉈はあらゆる物質を切断。大白鉈は魔力を吸収する。


彼が作った霊器の中でも上位の霊器だ。


突進してきたレッドブルの脳天に大黒鉈を叩き込み絶命させ、そのまま突っ込んでくるのを回避する。


ドカッ。


既に死に至ったレッドブルは一回転して地面に崩れ落ちる。


「まあこんなものでしょうね。」


魔物で試し切りをしようとしたのだがJランクモンスター程度では無駄だったようだ。


それも当然と謂える。


片や小国程度なら単体で滅ぼせるAランクモンスターの魔石から作られた霊器。


一方で村を滅ぼす程度のJランクモンスター。


比べるまでもなかった。


「一応素材とか回収しときますか。」


そう言って解体を始める。


レッドブルの素材は角と毛皮、そしてモンスターには必ずある魔石だ。


解体が終わると。《アイテムボックス》に収納する。


《アイテムボックス》とはSランクモンスター《リッチロード》の魔石を使っている。


異空間に物を収納するのだ。四次元ポケットみたいな感じで。


この霊器を造るのには苦労した。


物をいれるのはよかった。


出すときが大変だった。

ということでパソコンのデータ保存のように名前を登録するようにした。


お陰で魔石が追加で7個程必ようになったのだが。


彼が家を出て四ヶ月。


彼が前世で死にこの世に生を受けて十五年。


そう、レオ=パルディアには前世の記憶がある。


彼は前世、まだ学生であったが、父がプログラマーだったこともありその知識と転生の影響か身につけていた魔力を見ることができる能力を使い、人工的に精霊を産み出したのだった。


馬に股がりまた西へと駆ける。


間もなく風竜の顎と呼ばれる断崖絶壁の小道へと向かう。


この道は狭く、強い魔物もでる。


ただこの道には関所がないため帝国から逃げようとしている自分からすれば都合がいい。


彼はもう一度行くべき所を確認すると馬を走らせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る