第百四十章 十年の絆

 私の目前、血相を変えたロザリーがイレイザを睨み付けていた。


「欺く、だと? どういう意味だ! 我ら人魔は対等だろうが!」

「人と魔族が対等の筈があるまい。有史以前より、お前達は家畜以下の存在だ」


 イレイザの態度は一刻前とは豹変し、周囲にはピリピリとした空気が漂う。セルセウスが私の肩を突いた。


「お、おい。何だか雲行きが怪しくないか?」

「思った通りだわ……! やっぱり悪魔に騙されてたのよ!」


 ロザリーは激昂のあまり、震えるような声を放つ。


「イレイザ……あまり私を怒らせるな! 悪魔の体を得た人間の力――よもや忘れた訳ではないだろう!」


 ロザリーは悪魔の腕を発現させた後、抜いた剣を地面に叩き付けた。凄まじい膂力で岩盤が陥没する。それでもイレイザは落ち着き払っていた。


「確かに過去、その力は魔族にとって脅威たり得た。そして我々が人間と争いを続ければ美味い汁を啜るのは竜人共。それ故、時が来るまで利用しようと思ったのだ。しかしそれも、ルシファ様が復活された今となっては何ら価値を持たない」


 テスタメントを投げ捨て、深紅の瞳でロザリーを見据える。


「契約は終了。この町の人間は全て死すべきだ」


 不穏極まりない台詞にロザリーの周りにいた幹部達がざわつく。「狼狽えるな!」と叫ぶと、ロザリーはテスタメントを拾い上げた。


「貴様が勝手にどう思おうが、テスタメント人魔協定がある限り、悪魔は人間に手出しすることは出来ない!」


 あの盟約書に絶大な魔力が宿っているのは疑いようのない事実である。狂戦士と化し、攻撃力を極限まで高めた聖哉ですら破けなかった。つまり、内容を書き換えることもまた不可能な筈。


 ――なのに……何なの、イレイザの落ち着きは?


 ロザリーがイレイザに抜き身の剣を向け、睨み付ける。


「盟約には『悪魔は人に危害を加えることは出来ない』と書かれている。だが、我々人間にそうした制約はない。その気になれば悪魔を滅ぼすことも出来るのだ」


 今度は代わってロザリーがイレイザを脅し始めた。それでも依然イレイザの表情に変化はなかった。


「お前の言う通り、魔族は人を傷つけることもこと、またその盟約を破棄することも叶わぬ。条文にある通り、この盟約を破棄出来るのはただ一人、人類代表ロザリー=ロズガルドのみだ」


 イレイザの顔がにやりと歪んだ。


「そう……俺達が破棄するのではない。お前自身が破棄するのだ」

「何を言って、」


 言いかけてロザリーは言葉を止める。テスタメントに両手をあてがえたロザリーの悪魔の腕が小刻みに震えていた。


「う、腕が……!」


 自分の意志とは違うところで働く力に、ロザリーは必死に抗おうとしているようだった。しかし、無惨な音がして、あれほど聖哉が挑んでも傷一つ付かなかった盟約書がいとも簡単に破られる。自身で破棄したテストメントを見て、愕然とするロザリー。イレイザが鼻で笑う。


「悪魔の力を得た人間を操る術はとうに構築されている。選定魔術師のフラシカが存命ならば、魔法で防がれたかも知れんがな」


 テスタメント破棄を目の当たりにして、ロザリーの幹部達が怯えた声を出す。


「ま、まさか……こんな!」

「わ、我々はこれからどうなるのだ……?」


 一方、一部始終を見ていたデモンズ・ソードの兵士や町にいた悪魔達が邪悪な笑みを浮かべている。その瞬間、私は押し込められていた邪気と殺気が町中に溢れかえるのを感じた。 


 ――ううっ! やっぱり悪魔! 人間よりずっと悪知恵が働く! こんなの信じちゃ絶対にダメだったのよ!

 

 悪魔は狡猾だ。テスタメント締結の際、既にそれを破棄する方法まで考えていた。そして邪気を消して、十年もの長きに渡り、人間を欺き続けたのだ。


 心の拠り所であるテスタメントを失ったロザリーが、ふらふらと覚束ない足取りで向かったのはケオス=マキナのいる場所だった。


「ケオス=マキナ……! まさか、お前まで私を裏切るのか……!」


 ケオス=マキナはロザリーから顔を逸らし、無言を貫いた。ロザリーは訴えるように叫ぶ。


「今まで何度も竜人討伐の為に遠征した! 命を救ってくれたこともあった! お前と共に過ごした十年の歳月は全て……全て嘘だったというのか?」

「姫……」


 そう言って振り向いたケオス=マキナの顔を見て、私は絶句する。ケオス=マキナはかつて私と聖哉に見せたことのある残虐な笑みを浮かべていたからだ。


「悪魔って寿命が長いからさー。十年って姫に取っては長くても、私達にしたら数ヶ月って感じなのよー。それにねー、そりゃあ裏切るし噓も吐くわよー。だって、」


 一際大きな声でケオス=マキナは嬌笑を上げた。


「私達、悪魔ですものー!」

「……貴様っ!」

 

 歯を食い縛って、ロザリーはケオス=マキナに斬りかかった。だが、


封印解除リリース


 呟いたケオス=マキナのオーラが瞬時に増幅する。得意の大剣を使うこともなく、ただ腕を振り払っただけでロザリーの剣は回転しながら宙を舞った。


「なっ……!」


 驚いたロザリーはそのまま足払いされて尻餅をつく。子供をあしらうように簡単に攻撃を防いだ後、ケオス=マキナはロザリーに馬乗りになった。


「ごめんねー。私、実はアナタよりずっと強いのよー。覚えておきなさい。本当の強者は奥の手を最後まで見せないものなのー」


 暴れようとしたロザリーだったが首根っこを掴まれ、押さえ込まれる。そしてケオス=マキナはロザリーの顔に自らの顔を近付けると、長い舌でべろりと頰を舐めた。


「ふふふ。まぁそれなりの付き合いですものねー。裸に引ん剝いて首輪でも付けて、夜の慰み者として使ってあげても良くってよー?」


 怒りと羞恥からか顔を真っ赤に紅潮させて、ロザリーはギリッと歯噛みした。やがて抵抗しても無駄だと悟ったのか、ケオス=マキナから顔を背ける。


 この様子を見て、私の隣にいたセルセウスがごくりと唾を飲む音が聞こえた。


「ケオス=マキナ……! 何てイヤな奴……そしてイヤらしい奴だ! 夜の慰み者だと? はぁはぁはぁ……ちょっと興奮してきちまったぜ!」

「!? 何か喋ったと思ったら、くだらないこと言ってんじゃねえよ!!」


 ケオス=マキナが立ち上がった後も、憔悴しきったように地面に伏したままのロザリーを見て、周りの悪魔達が下卑た笑いを向けた。


「ぎゃはははは! ケオス=マキナ様がお前など信用する訳がないだろう!」

「バカな女だぜ! 言われるがままに生け贄まで工面してよー!」

「まぁまぁ、そう言わないの。姫には感謝しなきゃあね。お陰でルシファ様が復活されたんだものー」


 そしてケオス=マキナは恍惚とした表情でルシファ=クロウを眺めた。


「見なさい! 魔王ゼノスロードをも上回る、途方もない能力値を! 神竜王とて恐るるに足らず! これより魔族が支配する世界の始まりよー!」


 悪魔達が大きな歓声を轟かせる。ロザリーの幹部や周りにいた町の人々は、慌ててこの場から逃げ出した。


 突如として訪れた悪魔の反逆と町の崩壊。だが、この混沌とした状況の中――


オートマティック・フェニックス鳳凰自動追撃!」


 聖哉の冷静な声が響く! 途端、聖哉の背後から数十羽の炎の鳥が飛び立った!


 ――聖哉!? 今までモブみたいだったけど……遂に本気を出すのね!! そうよ!! この人、いざって時はやってくれるのよね!!


 何だかんだでやっぱり勇者だわ、と見直していたのだが、聖哉のオートマティック・フェニックスはイレイザやルシファの方ではなく、明後日の方角へと飛んでいく。


「あれえっ!? フェニックスは!?」

「ふと、ルシファが仕留め損ねたパラドゥラの分身がまだ生きていれば厄介だと思ってな。オートマティック・フェニックスを町中に放ち、調べることにしたのだ」

「!? このタイミングで紛らわしいな!! 悪魔を倒すんじゃないのかよっ!!」

「だから放っておけ。ちなみに悪魔が人間を裏切るなど至極当然のこと。計画に全く支障はない。俺としてはルシファが最終的に神竜王を倒してくれればそれで良いのだから」

「アンタ、まだそんなこと言ってんの!? あんなの頼りにしちゃダメだってば!!」


 そう言いながらルシファを指さそうとして、私は息が止まりそうになる。離れた場所から、ルシファがこちらを眺めていたからだ!


「……ケオス=マキナ。あそこにいる人間は何だ? 先程あしらった女よりも能力値が高い。近くにいる男と女からもおぞましい神気を感じる」


 う、うわっ!! それって、私とセルセウスのことよね!?


 ドキドキしているとケオス=マキナが笑いながら言う。


「勇者と女神、そして男神らしいですわー。けれど心配はご無用。所詮『旧時代の遺物』。今のルシファ様の敵ではございません」

「だ、誰が遺物よっ!!」

「だってだってー。ルシファ様の能力値は、その勇者の数倍はあるんですものー。それにねー、一応こんなのだって用意してるのよー」


 背後にいた悪魔から細身の剣を受け取る。鞘から抜いた刀身から禍々しいオーラが発散されていた。


チェイン・ディストラクション連鎖魂破壊。効果は……説明しなくても分かるわよねー?」

「うっ……!」


 私はおののき、セルセウスも怯えた声を出す。


「ま、マズい!! 殺されちまうぞ!!」


 その時。バサバサバサッ、と音がした。振り返ると聖哉の背後から、さっきの倍近くのオートマティック・フェニックスが飛び立った!


 ――聖哉! 遂に動くのね!


 しかしフェニックスは悪魔達に向かわず、町の方に飛んで行く。


「確実に駆除出来ているか確かめる為、五十羽ほど増やしておいた」

「!? まだそれやってたんか、お前!! つーか、どんだけ放つの!? 鵜飼いかよ!!」

「ふーん。この現状を見て、その態度……本当に変わった勇者ねー」


 ケオス=マキナが聖哉の行動に毒気を抜かれたように、きょとんとした顔を見せていた。聖哉が頷く。


「敵対する気は全くない。むしろ協力してやりたいくらいだ」

「へぇー?」


 私は完全に戦う気のない聖哉に呆れまくっていたが、セルセウスが私の耳元でぼそりと呟く。 


「な、なぁリスタ。聖哉さん……ひょっとしたら戦ってもルシファに勝てないと思ってるんじゃないか?」

「ええっ!? アンタだって聖哉の強さ、知ってるでしょ!! いくら素の能力値が下回っていても狂戦士化すればルシファだって、」

「ステータスは近付けたとして、どうやってあの魔法弓を防ぐんだよ?」

「そ、それは……!」


 セルセウスには珍しく、的を射た質問に押し黙ってしまう。


 そ、そうなの、聖哉!? 戦っても勝てないから……だからルシファに取り入ろうとしているの!?


 突然、セルセウスがごきりと拳を鳴らした。


「……俺が行こう」

「ちょ、ちょっと!? 聖哉が勝てない相手に、アンタが敵うわけないじゃない!! 相手はチェイン・ディストラクションだって持ってるのよ!?」


 だが、私はいつの間にかセルセウスの頭から魔神の角が生えていることに気付く。


「魔神化!? 下界ではやらない方が良いってウノちゃんが!!」

「ほんの数%、力を解放しただけだ。これぐらいなら支障はない」


 ほ、ホントに戦う気!? 此処にきて剣神としての熱い思いが溢れ出したというの!?


 そんな風に見直したのも束の間だった。悪魔の一団に近寄るとセルセウスは、にやけた顔で愛想笑いした。


「見てください、この角! 僕、実は魔神なんです! そう、皆さんの仲間なんですよ! ケオス=マキナ様、よかったら僕も夜の慰み者にしてくれませんか!」

「!! 自ら進んで慰み者に立候補しやがったああああああ!? このクズ男神があああああああ!!」


 私は絶叫するが、もう一人のクズが近くで独りごちていた。


「町中のチェック完了。流石はルシファ=クロウだ。生きているパラドゥラは何処にも存在しなかった」

「褒めてる場合じゃないじゃん! ルシファは人類の敵なのよ!」

「知ったことか」


 そして聖哉もルシファを囲う悪魔の群れに近付いていく。立ち塞がるケオス=マキナに語りかける。


「先程、言ったように敵対する気はない。協力して神竜王を倒そうではないか」

「勇者が悪魔に協力ー? どうせ嘘っぱちでしょー? 悪魔を騙そうったって無理だわよー」


 イレイザもやって来て聖哉を睨む。


「勇者よ。ならば、この町の人間は皆殺しにするが、それでも構わないのか?」

「うむ。一向に構わない」


 即答した聖哉にイレイザもケオス=マキナも驚いた顔を見せた。私ももちろん驚いて叫ぶ。


「ちょっとは構えよ!!」 


 だが聖哉は、ふと何かに気付いたように小首を傾げた。


「いや待て。『町の人間』と言ったな。まさかひょっとすると、その中には俺も入っているのではあるまいな?」

「くくく。勇者とて人間だろう。当然だ」


 イレイザが笑い、セルセウスも顔色を変える。


「ぼ、僕は違いますよね? 仲間ですよね?」

「アナタもダメよー。魔神としても神としても中途半端なオーラだものー。第一、その勇者と一緒でまるで信用出来ないわー」

「そ、そんなっ!!」


 するとセルセウスは、そそくさと私のところに戻って来た。


「チッ! 隙を突いて、悪魔共全員ブチ殺してやろうと思ったがダメだったぜ!」

「私がアンタをブチ殺してやりたいわ……!」


 聖哉は未だケオス=マキナの傍で、考える素振りを見せていた。


「俺に危害を加えられては困るのだが」

「あははは! 困るって? 命乞いでもするつもり? ああ情けない、情けない、情けない勇者ねー!」

「お願いだから、殺すのは俺を除いた人間だけにしてくれないだろうか?」

「!! いや本当に命乞いしているううううう!? 聖哉、もう止めてええええええええ!!」


 何だか恥ずかしく、そして悲しくなって叫ぶが、それでも聖哉は諦めずに離れた所にいるルシファ=クロウに言葉を投げかけた。


「もう少し膝を折って話し合おう。お前がどれほど人間を殺そうが構わない。そして神竜王を倒す為なら俺も陰ながら協力しよう。この言葉が真実である証拠に、今から町の人間を数人殺してきても良い」


 さ、さ、最低すぎる……!! いくら捻曲世界だからって、よく言えるわこんなこと!!


 懇々とルシファ説得に励んでいる聖哉に心底呆れ果て、視線を外すと放心状態のロザリーが独り言を呟いていた。


「私……私は今まで……一体何を……」


 片方の目から涙が頰を伝って、ぽたぽたと零れ落ちている。


 ――ロザリー……!


 私はルシファの為に生け贄を捧げたり、忠臣のフラシカを見殺しにしたロザリーを心から嫌悪していた。だが今、ロザリーは憑き物が取れたような顔付きに戻っていた。無謀なところはあるが性格はまっすぐだったロザリー……そう、私がよく知っているロザリーに。


「私はバカだ……悪魔の手先となり、民を生け贄に差し出した……あまつさえフラシカの命でさえも……」


 唇を噛み、悔悟の言葉を口にする。こんな状況で何と声を掛けてやれば良いのか分からない。するとロザリーは剣を自分の方に向けた。


「ちょ、ちょっとロザリー!?」


 フラシカと同じように、ロザリーもまるで躊躇無く剣を自分の喉に突き刺そうとした。慌てて止めようとしたが、私よりも早くロザリーの腕を握った者がいた。


「お止めください、ロザリー様!」


 悪魔達が本性を表したことで、町の人間の殆どはこの場から逃げ出している。それでも、


「ニーナちゃん!?」


 ニーナはロザリーの腕に手を当てたまま、真摯な瞳を向けていた。


「何故止める? 私はお前の父親を生け贄に差し出した女だぞ?」

「父さんは常日頃からロザリー様を信頼しておりました。ロザリー様は本当は心の優しい御方、人類を救う為あえて心を鬼にしておられるのだ……そう言っていました」

「違う……私は……!」


 ニーナはロザリーの手を握りしめたまま、優しく微笑む。


「父が死んだ日、家に戻ると一枚の手紙が残されていました。『ロザリー様を決して憎んではならない』――それが父の遺言です」


 ロザリーの片目から涙が滂沱と溢れ出した。


「許してくれ……! 許し……許して……!」

 

 ――ううっ、何だか私まで泣けてくるわ……!


 抱き合う二人を見ながら、私は涙を拭う。こっちはこんなにシリアスな感じだったのだが、ふと聖哉の方を見てみると、まだルシファを説得していた。


「……もう一度言う。殺すのはこの町の人間だけにしてくれないだろうか?」

「!? いやお前、いつまで命乞いしてんだァァァ!! 話もさっきから平行線のままじゃねえかよ!!」


 あまりにも不甲斐ない勇者に激怒してしまう。ルシファも汚いものでも見るような目を聖哉に向けていた。


「そんなにも命が惜しいか。勇者とは名ばかりのあさましい虫けらめ」

「虫けらで良いから、俺の代わりに神竜王を倒してくれ」


 虫けらでも良いとか言っちゃってる勇者に、ルシファは厳しい台詞を吐く。


「先程の一抹を見て、まだ分からぬのか。人と魔族が協力するなど未来永劫にない。劣等種族よ。お前達は竜人討伐の前に死に絶えるべきだ」


 するとその言葉にケオス=マキナが反応した。


「えーと、全員殺しちゃうんですかー? 数人は家畜にして、こき使っては如何かしらー?」

「人間が近くにいるだけで怖気が走る。家畜にする意味はあるまい」

「でもでもー……」


 今度はケオス=マキナとルシファが話し合い始めた。だがその内容は死か家畜。最悪なものと絶望的なものとの二択だ。どちらに転んでも人類に未来はない。


 いつしかロザリーは剣士の顔に戻っていた。


「ニーナ。好機だ。今の内に逃げろ」

「ロザリー様は……?」

「私のことなど、どうでも良い。だが、お前だけは必ず私が守る」


 そうこうしている内に「はぁー」と大きな溜め息を吐きながら、聖哉があからさまに不機嫌な表情でこちらに戻ってきた。


「やれやれ。結局こうなるのか」


 そして首を回したり、手をぶらぶらさせたりして、準備体操のように体を動かし始める。


「こ、今度は一体何してんのよ?」

「手を汚さず敵に勝つのが安全かつ最上の策なのだが……上手くいった試しはないな。こうなっては、もう仕方あるまい」

「え! ってことは?」

「ルシファ=クロウと戦う」

「そ、そう! とうとうやる気になったのね! でも……大丈夫? 全体攻撃の魔法弓もそうだけど、アイツ、マジで魔王クラスのステータスだよ?」

「お前に言われるまでもなく確認している。イクスフォリアのグランドレオン並の能力値だったな」

「あ……ちゃんと見てたんだ、ステータス……」

「捻曲世界だろうが何だろうが、自衛の為には常に細心の注意を払っている。説得が上手くいかなかった場合、ルシファと戦闘になるのは当然の帰結だからな」


 私達の話が聞こえたのだろう。ロザリーがちらりと聖哉を見上げた。


「お前達も逃げろ。戦闘などするだけ無駄だ。十年の歳月を掛けて復活させた神竜王討伐の切り札ルシファ=クロウ――前魔王すら上回る伝説級の怪物に勝てる人間など、この世に存在しない」

「黙れ、けロザリー。お前は戦いの後、荒れ果てた町の再建のことでも考えていろ」

「お、おい!」


 止めようとするロザリーを残し、聖哉はルシファ=クロウに向けて歩み始めたのだった。

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