第百十七章 絶対者
聖哉の言葉を聞いた瞬間、やはり私の覚悟待ちだったのだと確信する。つまり私の死は、これでほぼ決まってしまったのかも知れない。それでもさほど恐怖はなかった。今は死のうとも生きようとも思わない。ただイクスフォリアを救いたいという熱い気持ちだけがあった。
「聖哉! イシスター様の許可は下りてる! 最短で、魔王城から一キロ離れた地点に門を出せるわ!」
「いいだろう」
私は呪文を唱えて、門を出す。ジョンデもキリコも少し興奮しているようだ。
「よし! 行くぞ、勇者! イクスフォリアを救いに!」
「こ、これが最後の戦いなんですね!」
しかし、聖哉は門に向かう前に、足で地面を踏み鳴らした。突如、神界の広場の地面が隆起して、土の中からゾンビの如く多数のゴーレム達が這い出してくる!
「魔王との決戦前、多数の雑魚や幹部クラスが出現することが考えられる。そういった場合、なるべくこのゴーレムで仕留め、体力を温存する。現地に着いたら、更にゴーレムを増産するつもりだ」
聖哉は数百体を超えるゴーレムに指示。ゴーレム達が門を開き、ぞろぞろと中に入っていく。
私やジョンデ、キリコと同様に、広場にいた神々も現れたゴーレムを見て驚いていた。その中には聖哉と合同修行をした雷神オランド様や風神フラーラ様の姿もあった。
「全く。最後の決戦だというのに、初陣を切るのはゴーレムなのか」
「まぁ、この勇者らしいと言えば勇者らしいわね」
苦笑いを浮かべつつも応援してくれているようだ。近くには、アリアやアデネラ様もいる。アリアが私の手を握ってきた。
「リスタ……頑張ってね……!」
「うん!!」
「き、キリコ、ジョンデ。む、無理はするな。れ、連撃剣は自分の身を守ることに使え。き、基本、聖哉に任せていれば、も、問題はないだろう」
「はいっ!」
「世話になったな、軍神!」
セルセウスもやって来て、キリコとジョンデと握手を交わす。
「無事を祈っているぞ! お前らはカフェ・ド・セルセウスの大事なバイトだからな!」
「セルセウスさん、ありがとう! 行ってきます!」
そうこうしているうちに広場にいた最後のゴーレムが門を潜った。
「……よし。それでは俺達も出発するとしよう」
後も振り返らず門に向かう聖哉とは対照的に、私達は見送ってくれる神々に笑顔で手を振りながら決戦の場へと赴いたのだった。
門を抜けた瞬間、じっとりと生暖かい空気を感じる。見上げれば、邪気が蔓延しているかのような紫色の淀んだ空。その空を突くようにして、巨大な城がそびえ立っている。魔王城は、それ自体が生き物であるかのように黒い瘴気を発散させていた。
「アレが魔王の居城か……!」
「あそこにアルテマイオスがいるんですね!」
進むべき方角は分かった。だが、私はおずおずと聖哉に語りかける。
「あ、あの聖哉……周りの状況が分かんないんですけど……」
私達は今、先に門を潜った多数のゴーレムに囲まれていた。巨大なゴーレムのせいで前後左右に何があるか、よく見えない。
現地に着けばゴーレムを増産すると言っていたのに、聖哉は一体のゴーレムの背中に飛び乗ったまま、周囲を窺っている。私も気になって、ゴーレム達の間から頭を動かし、どうにか周りの様子を見た。
「な、何よ、コレ……!」
魔王城付近の荒野には、多数のモンスターが倒れていた。賢者の村で見たような悪魔神官や、見るからに人間とは思えない異形の怪物達が地面に突っ伏している。
「死んでいる……のか?」
私の隣から様子を窺ったジョンデがそう漏らす。確かに辺りには死臭が漂っていた。
「本当に死んでいるのか確かめる」
聖哉はそう言って、数体のゴーレムに指示を出す。ゴーレム達が倒れているモンスターを突いたり、転がしている間、聖哉は目を瞑っていた。どうやらゴーレムの目とリンクしているようだ。
「……数体、検死してみたが、確実に息絶えている。体内に罠を仕組んでいる様子も見受けられない」
ジョンデが手でヒゲを触りながら言う。
「まるで誰かが先に魔王城に攻め入ったかのようだな」
「ええっ!! ってことは、私達の他に味方がいるの!?」
生き残ったイクスフォリアの人間が加勢に来てくれた!? 私は嬉しくなったのだが、
「で、でも、この死体を見てください! 酷いです……!」
キリコに言われて、転がったモンスターを改めて眺める。手足や首の無い死体、また、臓物を周囲に撒いているものもあった。まるで楽しみながら、なぶり殺したような感じがしてゾッとする。
「ともかく、死体はエンドレス・フォールで埋めておく。アンデッドになって復活されては面倒だからな」
聖哉は倒れている死体を地中に落とす。そしてその後はゴーレム達と一緒に魔王城に進軍した。ゴーレムは私達を囲って、前後左右より来る敵から守ってくれているのだが、襲い掛かってくるモンスターは一体もいない。途中で目にするモンスターの死体をエンドレス・フォールで落としつつ、私達は魔王城に近付いていった。
「……此処で一旦停止だ」
私達を呑み込むようにポッカリと口を開けた魔王城、城門。そこまで数十メートルの地点で聖哉は足を止めて、地面に手を付ける。たちまちのうちに生み出した新たなゴーレム約百体を左右に展開。護衛のゴーレム十数体を残し、城を囲うように配置させた。更に、土属性の魔法戦士から火属性の魔法戦士へと職業転換。炎の魔法鳥オートマティック・フェニックスを十数基、生成する。フェニックスは、聖哉が地面から生み出した多数の『ばくだんロック』を脚で抱え、魔王城に飛び立つ。
「な、何を始める気?」
「爆撃だ」
「爆撃!?」
気付けば、魔王城を取り囲むゴーレム達も、手にばくだんロックを抱えている。そして、
「……
聖哉の号令と共に、ゴーレム達が魔王城に向けてばくだんロックを投擲! 更に空高く舞ったオートマティック・フェニックスが、ばくだんロックを投下する!
ばくだんロック爆撃で、魔王城は業火に包まれたように見えた。しかし、着弾と同時に耳をつんざく甲高い音が響き、青白い壁のようなものが城を覆うようにして現れる! 煙が晴れた後も、魔王城は傷一つなく健在していた。
「城に結界が張ってあるみたい!! 効いてないわ!!」
「フン。予想通りといえば予想通りだ。やはり俺自らが魔王城に侵入し、魔王を倒すしかないらしい」
「い、いやまぁ、そりゃあそうだろ。『爆撃』とかそんな魔王討伐、聞いたことないぞ……」
ジョンデは呆れているが、事前に出来ることは何でも試してみるところが聖哉らしいと私は思った。
聖哉はゴーレムを先頭としながらも、魔王城の入口へと向かう。その時、不意に聖哉が呟く。
「
聖哉の体が赤黒いオーラに包まれる! 私は驚き、周囲を窺う!
「て、敵!?」
キリコ、ジョンデも身構えるが、辺りには相変わらずモンスターの死体が転がっているだけだ。
「いや。早めに戦闘の準備をしておいたのだ」
「だから言ってからやれよ!! 普通、何も言わずに急に狂戦士にはならないだろ!!」
「黙れ、ゾンビ。それより、あの門から侵入するぞ。正面から行くのは気が進まないが、ゴーレムを先頭に細心の注意を払いつつ、進むとしよう」
そうして、ようやく着いた魔王城城門では、凶悪そうな二体の魔物がやはり無惨な死体となってくずおれていた。キリコが私のドレスの裾を握る。
「こ、このモンスターって城の門番だったんじゃないでしょうか?」
「そ、そうね……」
聖哉は同じように淡々とモンスターをエンドレス・フォールで落としているが……門番まで殺されている異様な状況に、嫌な予感がどんどん高まっていく。
――魔物同士の仲間割れ? い、一体、魔王城で何が起きているというの?
「それでは現況より、魔王城に突入する」
門番の死体を沈めた後、聖哉が言った。だが突入と言いつつも、もちろん先頭はゴーレム達。まるでゴーレムのパーティに私達が付いていっているような状況だったが、侵入してすぐに、私はまたも驚愕する。
「えええっ……!」
燭台のか細い光が照らす、石造りの魔王城広間にも、モンスターの死体が溢れていた。鎧を着たアンデッドや竜人の兵士など強そうな魔物が無惨な姿で倒れている。城の中までこの有様とは、いよいよ意味が分からない。
城内でエンドレス・フォールは使えないので、聖哉は炎の魔法戦士にジョブ・チェンジした後、丹念に死体を燃やしながら進んでいく。歩みは鈍くなるが、この地道な作業が死皇戦で役に立ったのは記憶に新しい。私達は文句を言わずに聖哉の行動に従った。
遅々としてではあるが、私達は城内を歩む。城の中は螺旋階段が天高く伸び、また周囲には沢山の部屋の扉が見えた。
「結構広くて複雑そうな造りね」
「まずはあの階段を上ろう」
それでも聖哉はまるで、地図でも持っているように迷うことなく突き進んでいく。
「次はこの部屋に入る」
「うん」
「今度はあちらの通路を歩く」
「ね……ねえ、聖哉。どうして道が分かるの?」
「特殊スキル『占術』を発動している。何となくこちらのような気がするのだ」
「そうなんだ! 『占い師』って、捨て職じゃなかったんだね!」
だがしばらく進んで私達は愕然とする。目の前には壁があった。
「せ、聖哉さん! 行き止まりです!」
「うむ。的中率60%といったところか。やはり占い。当たるも八卦当たらぬも八卦だな」
「「「ええーーーーっ……」」」
このように、たまに間違えることもあったが総合的に考えれば早く進めているような気はした。此処は魔王城。罠などが用意されている可能性がある。それでも無事に歩けているのは占術スキルのお陰かも知れなかった。
悪魔を象った彫像を横切り、長い階段を上り、曲がりくねった通路を歩く。普通、魔王城では強力なモンスター達と激烈な戦闘が繰り広げられるもの。なのに、此処でも襲ってくる敵は一体も現れない。
……やがて目の前に現れた巨大かつ、おどろおどろしい扉を前にして聖哉が足を止めた。
――こ、この部屋は……!!
私の女神の勘が、部屋の中におぞましい邪気が満ちているのを察知する。キリコも震える声を出す。
「か、感じます! きっと、魔王は此処にいます……!」
私はキリコに頷いた後、聖哉の様子をちらりと窺う。
――聖哉のことだから「お前達は此処で待っていろ」なんて言うかも! で、でも、私だって命懸けの覚悟で来たんだから! 何と言われようが付いていくわよ!
しかし。
「行くぞ、リスタ。付いてこい」
「えっ?」
「お前はこの戦いを見守る義務がある」
「う、うん!」
――アレ……? ひょっとして私、少しは女神として認められたのかな?
瞬間、感じた嬉しさは、ゴーレムが重い扉を開くと同時に消え失せる。
絨毯を敷き詰めた空間は、ターマインにある王の間より広く、薄暗くて退廃的な雰囲気を醸し出していた。しかし、魔王の間に入った刹那、何より私の目を引いたのは、
「し、死体!? 此処にも!!」
広大な魔王の間にも外と同じく多くの魔物の死体があった。そして、その屍の先。遠くにある窓から外を仰ぎ見るようにして佇む者がいる。
聖哉が片手を上げて、私達に指示を出す。
「お前達は動かず、ゴーレム達の背後に隠れていろ」
「わ、分かった。お前の戦いの邪魔をするつもりはない。だが、用がある時はいつでも呼べよ?」
私は窓の近くにいる者を凝視する。細身の体を黒のマントで包み、手には杖を持っている。振り返りもせず、それは語り出した。
「かなりの数のゴーレムが城を取り囲んでいるな。このアルテマイオスにもそんな時があった。堅固な魔王城を作り、獣皇、機皇、怨皇、死皇など強力な配下を生んだ……」
知的さの混じった冷たい声だった。やがて、ゆっくりと聖哉の方を向く。
「不思議な気分だ。殺した相手と再び相まみえるとは。とは言っても、貴様はあの時の記憶はないそうだな」
――あ、あれが……魔王アルテマイオス……?
イシスター様の水晶玉で見たアルテマイオスは緑色の皮膚、裂けた口、手足合わせて八本の醜悪で巨大な怪物だった。だが、目の前の姿はまったく違う。皮膚の色のみ薄い緑だったが、痩身の男性に似た人型の容姿だ。
「絶対的な強さを得れば、部下など全て不要だと知った。故に新しい我が力の実験台になって貰った。喜んで死んでいったかどうかは分からんがね」
「!! あ、アンタが魔王城の魔物達を殺したっていうの!?」
私が叫ぶと魔王アルテマイオスは「そうだ」と乾いた声で嗤う。
「此処まで来たことは褒めてやろう。だが、残念ながらまともな戦いにはなりえない」
そして魔王アルテマイオスはこちらに向けて、歩み始めた。
――く、来る!!
「自惚れが敗北を生むことは承知の上。しかし、これは慢心ではない。大人が赤子に負けることはありえないのだから……」
語りながら近付いてくる魔王。隣にいた聖哉も魔王に向かって一歩踏み出した。
――聖哉!!
遂に最後の戦いの火蓋が切られる……緊張した瞬間、ありえない光景が私の目に映った! 向かってくるアルテマイオスから左方向、赤い軌道が薙ぐように走る! どうにか私の視覚の端に映ったそれは、狂戦士のオーラをまとった聖哉だった!
せ、聖哉が二人!? いや、歩きながら魔王に向かっている聖哉にはオーラがない!!
おそらく魔王が窓から外を覗き、私達の視線が魔王に集中している間に土人形と入れ替わったのだろう。変わり身、そして死角からの不意打ちという聖哉らしい攻撃! だが、甲高い音がして、聖哉の剣は見えない障壁に弾かれる!
「……ククク。既に命を一つ、邪神に捧げている」
くぐもった声で嗤うと、魔王はマントを翻す。
「
「フォームド……な、何よ、それ!?」
「今の我が体には魔術しか通じない」
「魔法しか効かない、ですって!?」
本当かどうか確かめようと能力透視を発動したが、視界に映ったのは砂嵐。アルテマイオスのステータスは確認出来ない。
「さぁ、魔法対決といこう。勇者よ。貴様の魔力を見せてみろ」
楽しそうに言いながら、振り上げた杖の周りの空間が歪む。
「……
途端、杖から黒い障気のようなものが拡散されるようにして聖哉に放たれる! 私の体に怖気の走る感覚! きっとあれは
しかし、いつものように聖哉に動揺は見られない。
「
聖哉は職業を変えると、右手を自分の前にかざし、
「
風神フラーラ様との修行で得た技を発動! 聖哉の周り、そして背後にいる私達を覆うように風のバリアが張られる! 迫った黒き風は私達を避けるようにして後方に広がった。魔王の魔法で、変わり身に使った土人形と周囲のゴーレム数体、また、くずおれていた魔物の死体が瞬時に塵になるのを見て、背筋が凍った。
「ほう。以前、戦った時は炎の魔法だけだったが……風の魔法も覚えたのか。では、これはどうだ?」
アルテマイオスは杖をくるりと回転させる。
「
即座に杖から放出されたのは、漆黒の雷! 放電する黒い軌道を宙に描きつつ、聖哉に迫る!
――ど、同時に風と雷、二種類の魔法を!? イクスフォリアは魔法体系が細分化されている世界!! なのに、複数の魔法を操れるというの!?
聖哉はその都度、職業転換しなければ、違う系統の魔法は使えない。圧倒的不利な状況に思われたが、
「ジョブ・チェンジ。雷の魔法使いへ」
聖哉は即座に雷の魔法使いに転職! オランド様との修行で会得した腕から放った雷魔法で、迫る漆黒の雷撃を相殺した! だが、間髪入れず魔王が再び風の魔法を放出している!
「聖哉っ!!」
私は焦って叫ぶが、
「……ジョブ・チェンジ。
またしても聖哉は職業を変え、涼しい顔で魔王の魔法を防御する。
「そ、そんなに速く職業を変えられるんだ!?」
「うむ。これが商談の神との修行で得た『
「!? あの無駄っぽい修行、無駄じゃなかったんだ!!」
自らの魔法が聖哉にダメージを与えられていないにも拘わらず、アルテマイオスは感心したような声を出した。
「なかなかやるな。では、得意の火炎魔法の対極となる氷結魔法は凌げるか? ……
即時、魔王の間の高い天井近く、数十を超える黒い氷柱が形作られる!
「な、何という数だ! 串刺しになるぞ!」
「聖哉さんっ!」
ジョンデとキリコが叫ぶが、
「ジョブチェンジ。炎の魔法使い」
聖哉は何食わぬ顔でつま先で床を叩く。すると床の至る箇所から火柱が上がる! 天井の氷柱と同じく数十を超える火柱は、鋭利な武器のように変形していく!
――ま、まるで槍……! これはきっと、火炎魔法と槍の修行が合わさったものなんだわ!
アルテマイオスが掲げた杖を振り下ろす! 即座、無数に降り注ぐ氷柱! だが、
「
聖哉が呟くと同時にミサイルのように発射された炎の槍が空中で黒き氷柱を迎撃する! 多数の氷柱は聖哉に到達する前に消滅した!
「ほう。だが数が少々、足りないようだぞ?」
アルテマイオスが嗤う。気付けば聖哉のフェニックス・スピアは全弾撃ち尽くしている。なのに、空中には未だ氷柱が残っている!
「喰らえ……
先程よりも速度を増した数本の黒き氷柱が聖哉に飛来! その体を貫く!
「せ、聖哉ぁっ!!」
私は叫ぶ! だが、氷柱に貫かれた聖哉の体が砂になる!
「大丈夫です、リスタさん! アレは土人形です!」
「そ、そっか、よかった……って、ええええええええええ!?」
絶叫してしまう! 気付けば、いつの間にか辺りには聖哉だらけ! ひい、ふう、みい……十人以上はいるわ!
「コレ全部、土人形!? でも土もないのに、こんなに沢山の土人形をどうやって!?」
「きっと護衛のゴーレムです! 変化の術で自分そっくりにしたんですよ!」
なるほど! 言われてみれば確かに周りにいたゴーレムの数が減ってるわ!
「土魔法で変わり身か。なら、全て壊すのみだ」
再び形成された闇の氷柱が聖哉の土人形に向けて降り注ぐ! 動きの鈍い土人形が次々に壊されていく!
「ううっ……!」
その中に本物の聖哉がいるのではないか、と私は気が気でない。だが、ふとアルテマイオスが動きを止めて、視線を下に向けた。
アルテマイオスの足下には、片足が無く、内臓の飛び出たモンスターの死体があった。無惨な姿でくずおれているのに、その手はしっかりとアルテマイオスの足首を握っている。アルテマイオスが杖を向けるよりも早く、死体が口を開く。
「……
途端、アルテマイオスの体が雷に打たれたようにバチバチと音を立て、放電。その間に朽ちたモンスターが立ち上がり、たちまちのうちに聖哉の姿になる。
「!! し、死体に化けてたの!?」
「うむ。そして雷撃で一時的に麻痺させた。この期を逃さず、片を付ける」
次に炎の魔法使いとなった聖哉は、動けないアルテマイオスに向けて、マキシマム・インフェルノ《爆殺紅蓮獄》を放つ! 業火で魔王を包んだ後は続けて、両手を天に掲げる!
「
魔王の氷柱と間逆に、今度は天井に聖哉の炎の槍が出現! 無数の炎槍が魔王に降り注ぐ! 槍は突き刺さると同時に発火! アルテマイオスの周りが、熱気の舞う火の海となる!
「や、やったか!?」
凄まじい熱気にジョンデが腕で顔を守りながら、そう呟いた。だが……燃え盛る炎に包まれながらも、アルテマイオスは嗤っている!
「ククク。致命傷だ。素晴らしい魔力だな」
猛る炎の中、アルテマイオスの体は徐々に消し炭となって朽ちていく。自ら『致命傷』と言いながらもその声には余裕があった。
「それでは命を二つ、邪神に捧げよう」
言った途端、消し炭になろうとしていた体が膨張するように増大していく!
「バカな……! 奴は不死身か?」
「ま、また……形態が変わりました!」
ジョンデとキリコが震える声を出す。炎が消えた時、アルテマイオスは鎧をまとったサイクロプスのような筋骨隆々とした巨躯へと変貌を遂げていた。
「
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