第百十八章 超越者

 今、聖哉の前に立ちはだかるのは、打撃に特化した形態変化をした魔王アルテマイオス。


ダーク・アソールト魂壊す闇の拳


 アルテマイオスが黒いもやに包まれた頑強な腕を引いて構える。その腕がチェイン・ディストラクション連鎖魂破壊を内包しているのは明白だろう。


 巨体から動きの鈍さを想像した私だったが、次の瞬間、片腕を振りかぶったアルテマイオスは聖哉の目前だった。


 ――な、何てスピード!! 聖哉っ!!


 だが、唸りを上げて振り下ろされたアルテマイオスの拳は空を切り裂くだけ。聖哉の姿もまた忽然と私の視界から消えている。


「……かわしたか」


 ぼそりと呟くアルテマイオス。その視線の先、離れた位置で聖哉は深呼吸をするように息を吐き出した。

 

「ステイトバーサーク・フェイズ2・7……」


 狂戦士状態を自身に出来る限界値まで引き上げる! 聖哉の体から、ぶわっと赤黒いオーラが溢れ出た! 


「ほう。オーラが増したな。それでは、グランドレオンを倒した力を見せてくれ」


 両者、一直線上に対峙して攻撃の機を窺っている。キリコが心配そうに私に尋ねてきた。


「聖哉さん……大丈夫でしょうか?」

「へ、平気よ! 聖哉には拳神アルクス様を軽くあしらった格闘センスがあるもの!」


 自分にも言い聞かせるように言った途端、強烈な打撃音が聞こえて、私もキリコも体をビクッと震わせる。既に両者の戦闘は開始されていた。


 聖哉がアルテマイオスの拳を避けるところや、聖哉の拳をアルテマイオスが腕でガードする場面が断続的に私の視界に入る。だが、時間が経過する度、二人のラッシュはより速くなり、やがて赤のオーラと黒のオーラが衝突するところしか視認出来なくなる。


 一際、大きな音がした後、離れた場所で向かい合っている両者の姿が見えた。とにもかくにも聖哉の無事な姿を見て、私は安堵する。一方、アルテマイオスの腕は赤黒く変色しているように思えた。


「鉄壁の防御力を備えた我が肉体にダメージを与えるとは。一体どういう理屈だ?」

「破壊神から教わった技を拳に乗せている。破壊術式は対象の防御力を超えて発動する」

「素晴らしい。なら、こちらも本気を出そう」


 すると、またもアルテマイオスの体に変化! もともとあった腕の下から、肉を突き破るようにして、体液に塗れた新たな腕が出現する! 


 合計、四本腕になったアルテマイオスを見て、私達は戦慄した。


「ぐっ! 勇者は本気だった! なのに魔王はまだ全力じゃなかったのか!」


 猛然と聖哉に襲い掛かる四本腕の魔王! 嫌な予感が私を襲う!


 ――ううっ! 聖哉!


 ……赤と黒のオーラが交差すると同時に、今まで聞こえた打撃音とは異なる不気味な音が聞こえた。


 心臓を激しく鼓動させながら私は行方を窺う。まず視界に映ったのは、聖哉だった。


 ――よ、よかった、無事で……って……何よ、アレは!?


 聖哉の腕に握られているものを見て、愕然とする。銀色に輝く、鋸のような刀身――それは聖哉のキラーソードだった!


「や、やったぞ……!!」


 隣からジョンデの感嘆が聞こえ、今度は視線をアルテマイオスに移す。何と、アルテマイオスの首から上が無い! 頭部は足下に転がり、切断された首から紫の血液を噴出させている! 


 間違いないわ!! 聖哉がキラーソードで首を切り飛ばしたんだ!! ……ってか、剣、使っちゃったのね!? アルテマイオスは体術勝負だって言ってたのに!! ま、まぁ剣が通るなら、使えばいいよね!! 魔王の遊びに付き合う必要なんかないもの!!


「……ククク。酷い奴だな」


 しかし、魔王の笑い声が響き、私は総毛立つ! 床の上に転がった魔王の頭部は笑いながら聖哉に話し掛けていた。首を無くした胴体も動いて、落ちた頭部を拾うと、元あった場所にあてがう。溶接でもしたかのように、頭部が首と一体化した。


「嘘!! 攻撃が効いていないの!?」


 私が叫ぶと、聖哉は淡々と言葉を返す。


「先程も今も、俺は魔王を殺している。だが奴は複数の命を持っているのだ」


 ――以前、アルテマイオスは二つの命を持っていた!! パワーアップした今は、それを何個も持っているというの!?


 おののく私と裏腹に聖哉は事も無げに言う。


「構わん。何個あろうが叩き潰す」

「ほう。威勢がいいな。それでは……命を三つ、邪神に捧げよう」


 !! また形態変化するの!?


ステージ・スリー邪法の変。『フォームド・ゴースト霊的攻撃限定領域』」


 筋骨隆々だったアルテマイオスの肉と皮がドロドロに溶け始める! そして現れたのは、角の生えた漆黒のスケルトン! 私はその姿に見覚えがある。それは死皇シルシュトの最終形態に酷似していた。


「今度は霊的攻撃でないと通じない体だ。……おっと、先程のような手を使われぬよう、もう一段階、領域を広げておこう」


 ――えっ!? い、今、何て!?


 魔王は骨だけの手を高く掲げる。


「更に命を四つ、邪神に捧げる……」


 軋むような音を立ててスケルトンの胸骨が開く。何と、その中にはもう一つ、角のある頭蓋骨が入っている! 死皇の外見に怨皇の禍々しさが組み合わさったような容貌! 胸の髑髏が笑う。


「けけけけけ! ステージ・フォー邪法の練……『フォームド・カース装備武器無効化領域』!」

「……む」


 聖哉がキラーソードを見ながら小さく唸った。まるで何千年もの月日が一瞬で経過したように刀身が錆び、朽ちていく! 腐食はすぐさまグリップの部分まで伝わり、キラーソードが砂になる! 


「滅びる滅びる滅びる! けけけけけけけ! お前の持っている武器は全て滅びる!」 


 胸の髑髏がケタケタと笑い続けていた。


「せ、聖哉の剣が……!」

「いや、女神!! 心配はない!! こういう時の為に、あの勇者は予備を沢山持っているじゃないか!!」

「あっ、そっか!! そうだよね!!」

「今、新しい武器を渡してやるからな!!」


 ジョンデが踵を返す。だが、背後では既にキリコが荷物袋を逆さまにして首をブンブンと振っていた。


「だ、ダメです、ジョンデさん!! 袋の中にあった武器全て……スペアのスペアのそのまたスペアの剣まで無くなっています!!」

「!! 嘘だろ!?」

「けけけけけけ! 言ったろうが! 所持している武器は全て滅びる! これがフォームド・カース装備武器無効化領域なんだよおおおおおお!」

「も、持ってる武器が全部消えちゃうなんて、何て卑怯なチートスキルなのよ!!」


 堪らずに私が叫ぶと、胸部の髑髏ではなく、本来の魔王の頭蓋が口を開く。


「ククク。先程のお返しだ」


 そして骨だけの腕を聖哉に向けて構える。鈍い音がして両腕が鋭利な刃物に変形していく!


「こちらの武器はあるがな。これが勇者を壊す剣――ボーン・グレイヴ魂穿つ闇の刃だ」


 アデネラ様のように両腕を剣に変化させて戦闘態勢を取ったアルテマイオス。私の顔から汗がぽたりと床に落ちた。


 ――前回、聖哉は死皇の最終形態をドレイン・チャージムーブ吸収動力解放からのゴーストバスター・オーバードライブ限界突破型・幽滅霊剣で倒した! だけど、剣が無ければ溜め技も使えない! そもそも、こんな状態でまともに戦えるの!?


 アルテマイオスが素手の聖哉に迫ろうとした時、聖哉はすっと右手を頭上に掲げた。


破壊術式・其の四フォース・ヴァルキュリエ……アストラル・ブレイク幽壊鉄鎖


 聖哉の手の平から霊的な鎖が出現! 伸長しながら、幾重にも弧を描き、聖哉自身を守るように浮遊する!


「霊的物質による防御か。だが……」


 聖哉との間を詰めたアルテマイオスが腕の剣を振り下ろし、一閃! 聖哉を守る鎖のお陰でヒットはしないが、掠った鎖は簡単に切れてしまう!


「それでは半霊半物質たるボーン・グレイヴ魂穿つ闇の刃の攻撃を止めることは出来ん。無論この身も破壊することも、な」


 余裕の口調だったアルテマイオスだが、切れたと思った鎖がまだ空中で浮遊していることに気付く。鎖は蛇のようにボーン・グレイヴを伝い、アルテマイオスの腕を絡め取っていた。


「……小細工を」

「小細工とは違うな」


 そう言って聖哉が指を鳴らすと、魔王の足下からも破壊の鎖が現れ、あっという間に足首を縛る!


「お前との戦闘開始直後より、隙を見ては少しずつ仕掛けておいた。それなりに細工だ」


 更に前後左右の床や柱、魔王の間の至る所から鎖が出現する! 破壊の鎖はアルテマイオスの手足、胴体、首にも巻き付いていく! 身動きの取れないアルテマイオスに更なる鎖が折り重なる! 怨皇セレモニクを倒した時のように、鎖で雁字搦めにされ、繭状になったアルテマイオスを聖哉が見据える。


「今から破壊の鎖に、ネフィテトとの修行で得た霊力を付与する……」


 ぶわっと聖哉の体から周囲数メートルに渡って拡散された白い靄を見て、吃驚してしまう!


「す、凄い霊力!! 死皇戦よりパワーアップしてるじゃない!!」

「ネフィテトに教わった霊的トレーニングはあの日以来、欠かさず継続している。ちなみにこの間、神界にいる時、霊的細マッチョ達が集う霊の祭典『ベスト霊体コンテスト』で優勝した」

「!? 出たんだ、そのコンテスト!!」


 あの時は『そんな暇あるか』とか言ってたのに……! 私は唖然とするが、コンテストで優勝したという聖哉の霊力は凄まじかった。


アストラルブレイク・ベータ幽壊鉄鎖・改


 聖哉の体から発散された霊力が、まるで火の付いた導火線のように破壊の鎖、全てに伝わっていく! 鎖の繭が白く輝き、蒸気のようなものが発生している!


「攻撃が効いてるわ!! このままセレモニクみたいに消滅させるのね!?」

「いや。今回はあの時とは違う。霊力だけでは半霊半物質である奴の体は砕けないかも知れん。故に、」


 聖哉は喋りながら身動きの取れない魔王に近付いていく。


「……殴る」

「!! 殴るの!?」


 そして腕を引くや、本当に鎖の上から殴打し始めた! 聖哉の涼やかな表情とは対照的に熾烈極まる拳の連打で鎖の繭が揺れる! 狂戦士と化した力で滅多打ち! 

 ま、まるでサンドバッグだわ!


 最後に思い切り上段蹴りを喰らわせると、魔王は雁字搦めにされた鎖ごと遠くの柱に激突した。聖哉がアストラル・ブレイクを解除し、全ての鎖が消えるとアルテマイオスの姿は何処にも無かった。


「消滅したわ!!」

「勝ったのか!?」


 私とジョンデは声を張り上げるが、キリコが一点を指さす。


「あ、あそこを見てください!! アルテマイオスが!!」


 ……乾いた拍手の音がした。いつの間にかアルテマイオスは、魔王の間の奥まった場所にある玉座に腰掛けている。その姿を見て、私は狐につままれたようになった。今までの戦いが夢であったかのように、アルテマイオスは最初出会った時と全く同じ格好をしていた。


「魔力、体術、霊力……全てが想像以上だ」


 座ったままでアルテマイオスは褒め称えるような笑みを浮かべている。


「喜ぶが良い。勇者よ。お前は魔王アルテマイオスを倒した」

「た、倒したって何よ!? アンタ、まだ全然元気そうじゃない!!」

「ククク……『邪神の助言を受け、眠りにつく前のアルテマイオスを倒した』と、そう言ったのだ。そして此処から先はいよいよ未曾有みぞうの領域に入る……」


 アルテマイオスは玉座から、ゆらりと立ち上がった。


「命を五つ、捧げる」


 ううっ!! 一体、何回、形態変化するのよ!! 聖哉は武器も持ってないってのに!!


ステージ・ファイブ邪法の極。『フォームド・インフィニティ絶対者領域』」


 途端、アルテマイオスの体が太陽のように発光した。あまりにも眩しくて、私はアルテマイオスを直視出来ない。いや……単に眩しいだけではない。


「ぐうっ!」

「あ、熱いです……! うう……!」


 ジョンデとキリコが苦しそうに喘いでいる。


 あ、明らかにこれまでのアルテマイオスの変化とは異なってるわ!! これは一体……!?


 目を細めながら、何が起こっているのか見ようとする。そして、どうにか私の視界に映ったのは、驚愕の光景! 眩い光の中、アルテマイオスの背に白鳥のような翼が現れていた!


 ――こ、このオーラは……!! あれじゃあ、まるで……!!


 信じられない。だが、アルテマイオスの体から発散されているオーラに私は馴染みがあった。それは統一神界で何度も見て、感じてきたものと同じだ。


「神気!? こんな……!! う、嘘よ……!!」

 

 統一神界に住む上位神の如き、神々しいオーラを放ちながらアルテマイオスは厳かに口を開く。


「我が名は……神皇アルテマイオス。邪神の力は魔王としての、我が存在自体を歪ませたのだ……」


 眩い光に目を細めながら、ジョンデが舌打ちする。


「チッ!! 魔王め!! 神の真似事などしやがって!!」

「違う。違うよ、ジョンデ……」


 私は震えながら言う。


「アレは本物の神気……! アルテマイオスは、本当に神になったんだ……!」

「な、何だと!? そんなバカな!!」


 アルテマイオスは微笑を浮かべている。


「神と化した我が身に損傷を与え得る可能性があるのは、闇属性の武器のみ。もっとも、それ以前に現在、貴様らが所持する武器は全て失われている」


 アルテマイオスは、私達に自分を倒す術が無いことを分かっているのだろう。落ち着き払った態度で言葉を発していた。そう。フォームド・カース装備武器無効化領域によって、聖哉の武器は全て無くなってしまっている。


 ……神となったアルテマイオスがこちらにゆっくりと歩んでくる。こ、こんな敵相手に、こんな状況で勝機はあるの!?


「せ、聖哉……!」


 私は聖哉の居た場所に目を向ける。だが、さっきまでいた場所に聖哉はいない。


 ――いないっ!? ど、何処に!?


 勇者は忽然と姿を消していた。そして、ふと気付けば、アルテマイオスは私の眼前だ。


「ひいっ!?」

「勇者は……隠れたか。いや、何か策を練っているのかも知れんな。無駄な策を」


 私は逃げようとするが、何故だか体が動かない。


「それでは、同胞よ。我が力の一部となるがいい」


『誰がアンタの同胞よ!』そう叫ぼうとしたが、声も出ない。


 気付けば私の体から出る淡い神気がアルテマイオスの神気に同化するように吸い込まれていた。


 力が抜ける。頭が真っ白になって、抗おうとする気力さえ失われていく。私はその場にへたり込んだ。


「り、リスタさんっ!!」

「女神!!」


 キリコとジョンデが叫んでいた。だが二人共、アルテマイオスの放つ神気で近寄ることが出来ないらしい。その間にも、私の意識は薄れていく。


 ――そっか。これがきっと私の最後。聖哉は魔王戦で、こういう展開を予見してたんだ。だから、神界で私の覚悟と決心を待った……。


 死ぬのは怖くない。だが、不安があった。神になったアルテマイオスに聖哉は勝てるのだろうか。でも、聖哉は神界で『レディ・パーフェクトリー』と言った。なら、勝つ方法は僅かながら、まだ残されているのかも知れない。


 ――後は頼んだよ、聖哉……。


 聖哉の勝利を願いつつ、目を閉じた刹那、


「ぐっ!」


 低い唸り声が聞こえた。それと同時に私の体に力が戻る。


 な、何が……起こったの!?


 目を開けば、顔を歪ませたアルテマイオス! そして聖哉が私をかばうように、前に立ち塞がり、振り切った剣を構えている!


「……ダメージを受けた、だと?」


 アルテマイオスは胸を押さえていた。今まで何があっても平静を保っていたアルテマイオスが、初めて驚愕の表情を見せていた。


「闇属性の武器……? いや、武器自体がこの場に存在している筈はない! 貴様の装備武器は、全て塵に変えた筈だ!」


 それでも聖哉は手に赤黒い刀身の剣を握っている! 私もアルテマイオス同様、理解が追いつかない!


 聖哉がゆっくりと口を開く。


「お前に有効な武器が魔王戦の前、或いは最中、何らかの理由で失われる可能性は考えていた。故にこの武器を隠していたのだ」


 隠してた!? け、けど、一体いつの間に!? ……あ、そっか!!


「聖哉! アストラル・ブレイクの鎖みたいに、隙をついて隠してたのね!」

「いや。流石にその暇はなかった」

「えっ……。じゃ、じゃあ、いつ?」

「一年前だ」

「……は?」

「詳しく言えば、お前がセレモニクに呪われ、クロノアに時を戻して貰った時だ」

「!! それって時間を遡った時のこと!?」

「うむ。魔王の間が今回も最終決戦の場になる可能性は充分にあった。ならば、本来侵入することの出来ない魔王の間に入れるチャンスを活かさない手はない」


 わ、私がセレモニクの呪いで死にかけてた時、既にこの魔王戦を見据えて……? 私がボロ泣きしてたあの時、ティアナ姫を看取りながら……ちゃっかり魔王の間に武器を仕込んでたっていうの!?


「ちなみに隠していたのは柱の中だ。各属性の武器は勿論、所持武器全てを無効化された時に備え、原材料から作成出来る合成キットも入れておいた」

「合成キット!?」

「『邪神のお守り』と『生気を吸い取る剣』を一旦、分解し、材料に戻したものだ。今回はそれが役に立った」

「そ、その材料!! ってことは今、持ってる剣は、」

「うむ。リスタル毛人形を加えることで、あの時より更にパワーアップに成功している。これが……」


 聖哉は赤黒い刀身の剣先をアルテマイオスに向けた。


「『ホーリーパワー・ドレインソード改』――別名『リスタ・スーパーババアソード』だ」

「!? いや、何その名前!! 私が『すっごいババア』みたいに聞こえるけど!?」

「そんなことより、リスタ。もっと俺から離れていろ。リスタ・スーパーババアソードは神気を吸い取るパワーが凄まじい。近寄るとババアになるどころか即死するだろう」

「!? 怖っ!!」


 飛ぶようにして後退した後、私はアルテマイオスの顔を窺う。


 ――この武器なら神になったアルテマイオスにも通用するわ!! 武器が消失した筈の領域で、時空を超えたまさかの逆転劇!! どうよ、アルテマイオス!! これが竜宮院聖哉よっ!!


 今まで聖哉に相対してきた敵は、聖哉のありえない慎重さからくる策に驚き、激しく狼狽した。さぞやアルテマイオスも焦り、面食らっているのかと思ったが、


「……よもや邪剣を準備し、フォームド・インフィニティを破るとは。邪神が危惧する筈だ。一年前倒した勇者と貴様は全くの別物らしい」


 アルテマイオスは不敵に含み笑っていた。


「それでも、貴様が勝つことはない」


 な、何なの、アルテマイオスの余裕は!? 神となった形態変化をも破られたっていうのに!!


「教えてやろう。このアルテマイオスは神上がりした後、更に残りの命を捧げることで、神の究極奥義と呼ぶべき技を一度限り発動出来る。つまり……僅かながら時間を止めることが可能なのだ」

「じ、時間を……止める……ですって……!?」


 そんな!! 時の女神クロノア様にしか出来ない技をアルテマイオスが!? いくら何でも……い、いや、あの余裕!! それにこんな状況でハッタリを言うとは思えない!!


「命を六つ捧げる」

「さ、させるな!!」


 ジョンデが叫ぶ! いくら聖哉が強かろうが慎重だろうが、時を止められてはどうしようもない! だが、既にアルテマイオスは腕を高くかざしている!


「もう遅い! ステージ・シックス邪法の終! 『フォームド・タイムリーパー時空超越領域』!」


 ――もうダメ……! まさか時を止められるなんて……!


『神となって、時空を操る』――この為に魔王は長い眠りについていた。やって来る勇者を確実に殺す為に……。


 アルテマイオスの勝利への執念に身震いした。聖哉と私、そしてジョンデにキリコは死んだと感覚する暇もなく、これから止まった時の中でアルテマイオスに殺されるのだろう。


 絶望的な瞬間が到来しようとしていた。だが、


「何故だ……」


 アルテマイオスの声が響く! 見ると、高く掲げたアルテマイオスの腕に亀裂が走っている! アルテマイオスの顔が激しく歪んでいた!


「何故だ!? 何故、フォームド・タイムリーパー時空超越領域が発動しない!?」

「……先程『遅い』と言ったな。だが、本当に遅いのはお前だ」


 いつも通り、喜怒哀楽を感じさせない聖哉の声がした。


「魔王の間に入った時より既にアンチ・クロックフィールド時空間操作無効領域を展開している」

「き、貴様が……我と同じく時空を操るというのか!?」


 私もジョンデも顔を見合わせる。そして私は聖哉に叫ぶ。


「待って、聖哉!! 時を操るのは人間には不可能だって、クロノア様も言ってたのに!?」

「それでも『敵の時空操作を未然に防ぐ技』なら身に付けることは出来た。それがクロノアとの修行の成果だ。俺がアンチ・クロックフィールドを展開している空間では、アルテマイオスは時を止めることも進めることも、また戻すことも出来ない」

「ってことは、勇者! お前は、魔王が最終決戦で時を止めることさえ予見してたってのかよ!」

「アルテマイオスは無敵になろうとしていた。そして無敵とは実は選択肢が少ない。『永遠の命』、『物理、及び魔法攻撃無力化』、そして『時空間操作』など選択肢は限られている。ならばそれに対する対策を練り、一つ一つ潰していく」


 聖哉がアルテマイオスに、にじり寄る。


「こ、こんな!! こんなことが!!」


 ……アルテマイオスの態度は、一変していた。顔色を変え、明らかに狼狽えて、迫る聖哉から後ずさる。


 私はごくりと唾を呑み、聖哉を眺める。


 ――魔王から神となり、更には時間を止めようとしたアルテマイオス……なのに、それさえも聖哉の想像する可能性の範疇はんちゅうだった……!


 あまりにも凄すぎて、私の口元は緩み、自然と笑みがこぼれてしまう。


 相手の思惑より、一枚も二枚も上手うわて! そう……過去の失敗を乗り越え、あらゆる可能性を考慮して、万全に万全を期して準備をした! 全ては今日、この時の為に……!


 逃げようと背後を振り返ったアルテマイオス。だが、その前には既に聖哉がいる。


アトミック・スプリットスラッシュ原子分裂斬


 神気を奪う剣の威力に狂戦士化、更に土属性の特技が合わさった強力無比な一撃が、アルテマイオスの眉間に打ち下ろされる! 同時に爆裂と爆音! 魔王の間の床が粉砕された!


「ぐおおおおおおおお!!」


 聖哉の攻撃を浴びたアルテマイオスは頭を押さえ、野太い唸り声を上げた。頭部に出来たヒビが瞬く間に体中に広がってゆく。次の瞬間、破砕音と共に体の内部から膨張するようにして、口が裂け、複数の腕を持つ怪物が出現した。


 巨大な怪物は呼吸を荒くしている。これは新たな形態変化ではない。聖哉の攻撃によって引きずり出されたアルテマイオス本来の姿だった。


 水晶玉で見たのと全く同じ醜い化け物に戻ったアルテマイオスを、聖哉がつまらないものを見るような目で眺めていた。


「今回、ヴァルハラ・ゲート天獄門を使う必要は無さそうだ」

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