それから……。
ハーディスの件から数ヶ月。
町の件のニュースは結局原因がわからないまま、自然消滅したかのように聞かなくなった。
俺達は元の生活に戻った……いや、少しだけだが変わった。
まず金山……岩下に聞いたが、なんと船橋先生と付き合っていたことが発覚した。
これには俺と歩美、ニコが声を出して驚いた。
歩美が二人に質問攻めをして、二人はバレたことで顔が青くなったり、からかわれて赤くなったりと、顔色が忙しかった。
二人は金山が卒業したら本気で結婚を考えており、二人の愛は熱くなる一方のようだ。
次に浅羽さん……最近岩下のことが気になっているようだ。
ここ最近一緒になることが多いこともあり、ハーディスの件で色々守ってくれたから、頼もしい男性として見たらしい。
歩美と金山はそれを聞いてニヤニヤしていた。
とはいえあれからクラスが違うため、会う機会がなくなって、そのままの状態。
そこで金山はあまり学校に行ってないため、成績も悪く、進級が危うい岩下のために勉強会をすることにし、成績がいい浅羽さんも誘った。
歩美と金山は二人を近づかせたり、二人っきりにしたりしている。
その時の浅羽さんの顔は、少しばかり赤面して、今まで鳥を怖がる以外表情を変えない彼女から新鮮な表情を見せた。
しかし、岩下は勉強だけで精一杯なのか、そんな浅羽さんは眼中にないため、この恋の進展は難しそうだ……。
あとフクロダさんが働いているフクロウカフェが全国ネットのテレビに出た。
その番組にサブリナさんとフクロダさんが映り「強烈店主とキモカワイイマスコット」とテロップが出て、話題となった。
フクロダさんはキモカワイイという言葉に複雑な心境だったが、今はフクロダさん目当てで来る客が増えて、連日行列の状態だ。
父の方は相変わらずの商才なのか、店の方は日本人、外人の半々に連日満員で売り上げも上々。それ以外は全く変わらずちゃらんぽらんだ。
ただ、義理の兄であるハーディスの様子を知るため、後輩であるアメリカの日本料理店の店長とメールのやり取りをしてハーディスの様子を報告してもらっているらしい。
最近ではその店長が黒髪日本人ということで、ハーディスに近づく度に殺意を出すため、店長が髪を染めたとか……まぁどうでもいいな。
ニコは俺達以外の友達と話すようになった。
前は兄に扮したチャイナドレスのフクロダさんが現れて、チヤホヤされなくなったが、最近クラスの女子に話しかけるようになった。
最初はこの世界の今時のJKと話が合うのかと心配していたが、話しかけて来た女子達は見た目はギャルっぽいが、漫画研究部のオタク女子だった。
どうやらニコを漫画のモデルにしたいらしく、最近は漫研の部室に足を運び、ポーズを取らされる日々が続いているらしい。
ニコにどんな内容なのかと聞くと「女の子同士で抱き合う肌色の多い作品」らしい。それ以上は聞くのをやめた……。
アーネ達は相変わらずわがまま言いながら歩美の家でこき使われているが、最近スネーリアとウルルンがバイトを始めた。
スネーリアは村にある二十四時間営業じゃないコンビニで、ウルルンは村の食堂で働いている。
理由はスネーリアは将来は就職しようと、資格などの勉強をするため、歩美の家ではこき使われて集中出来ないため、あまり来ないコンビニで客がいないときに勉強。ウルルンは野菜中心の兵藤家の食事に限界を感じ、肉がある賄い目的で働いている。
二人とも最初は慣れない様子だったが、二人に聞くと、声を合わせて「家でこき使われるよりはマシ」と言った。
そして、農業の手伝いから飛鳥と角人の面倒を使い魔の分までこき使われているアーネは文句を言いながらたくましくなり、野菜たくさんのカゴを持つくらいの力を得て、元貴族のお嬢様からなんか泥が似合う平民女性のようになった。
歩美は最近部活の助っ人をやるようになった。
きっかけはソフトボール部のボールを取ってと言われて投げた。すると五十メートル先のグラウンドの端のキャッチャーの所まで投げたことから、色んな部活からスカウトがやってきた。
歩美はすごいバカのため、ルールを覚えられない。だから助っ人行く度に俺がルールを注意をしなくてはいけなくなった。
いちいち俺を疲れさせる奴だよ全く……。
そして俺、俺は変わったと思う。
***
「ふふ~ん! どやー!」
十一月上旬、学校に行く朝の家の前、俺は手を前に出して、人差し指を上に上げた。
その指の先には小さいライターくらいのサイズの火が灯してあった。
ハーディスがアメリカに行ってから、俺は母さんが異世界人だとわかり、異世界人の血を引いている俺に魔法を使えるかどうかフクロダさんに試しに教えてもらった。
そして結果、俺にも魔法が使えた。
このように指から火やら水やら色々出せるようになった。
そして歩美とニコに成果を見せ、このドヤ顔である。
「……しょぼい」
「しょぼ!?」
歩美の感想に俺は驚き、火が消えた。
「だってフクロダさんやアーネと比べるとしょぼすぎるんだもん」
「いやそうだけどさ! いきなり幼なじみが魔法を使えるんだよ! せめて驚きの一つもあってもいいんじゃないの!」
「いや、おばさんが異世界人だってことは聞いてたから耀助もそうなんじゃないかなとは思ってたよ」
「うそ!?」
「あと、アーネが飛鳥と角人と耀助んち行った時、二人が使えたことしゃべってたから」
「うそ!?」
「あとそのドヤ顔がすごいムカつく」
「ぐはっ!」
ようやく出来た魔法を全然驚くこともなくしょぼいと言われた。
歩美の叩き込むような毒舌、結構ショックだわー……。
「耀助さん、十分すごいですよ! 頑張ればノーマル様くらいにはなると思います」
「ニコさん……」
ニコさん、あんたの優しさに、俺は十分癒されたよ……。
「でも何で魔法なんか覚えようとしてるのよ? やっぱり好奇心から?」
「いや、それもあるけどさ、いつハーディスやエルサレムみたいな悪人が来るかもしれないだろ。だから……守られるより、お前やニコさん達を守れる人間になりたいしな」
「そうなんだ……」
「耀助さん……」
我ながら恥ずかしいセリフを言ってしまった……。
歩美とニコはそれを聞いて顔が少し赤かった。おそらく俺のセリフにつられて赤くなったんだろう。
「あ、そういえば歩美、ハーディスとかで思い出したんだけどさ」
「ん?」
「ハーディスとの戦いで、俺が死にそうになった時、俺になんて言おうとしたんだ?」
「ふぁ!?」
歩美の顔が一気に真っ赤になった。
俺が契約の腕輪の力で死にそうな時、歩美が顔を近づかせて何かを言おうとした。
「わ……忘れたわよ!」
歩美はそっぽを向いてそう言った。
「あ、そう」
「少しは気になりなさいよ!」
「え!?」
もう歩美がわけわからん……。
「耀助さん、私は耀助のことが……」
「ちょちょちょ! 何でいきなりニコちゃんが言うのよ!」
「あの……歩美さんが言おうとしてるので、先に今のうちにと……」
「意外に抜け目ないわね!」
いきなりニコが何を言おうとしたのを歩美が遮り、言い合いになってしまった。
もう本当にわけわからん……。
「まぁまぁ、二人とも落ちついて」
「おや? お三方」
家のドアからフクロダさんがで出て来た。
「もうそろそろ行かないと遅刻しますよ」
「「「え!?」」」
ポケットのスマホを見ると、結構時間が経っていた。
「うわやば!」
「早く行かないと!」
「行ってきますノーマル様!」
「いってらっしゃい。あ、私も行かないと」
俺達は田舎の刈られた田んぼの風景の中、自転車を走らせる。
その上を飛んでるフクロダさんが通り過ぎていく。
今日も丸々市にフクロウ人間が町を飛んでいる。
普通だった俺の日常が魔法使いによって崩れ去り、非日常となったが、それが溶け込み、調和された今の退屈しない日常は、これからも続く。
完。
魔法使いのフクロダさん 三合 雷人 @raitox3
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