衝撃の事実と平和

「何でお前がそれを持ってる!」


 ハーディスが父に吠えた理由、それは父が持ってた十字架の銅のペンダントだった。


「えっと、何でと言われましても……」


 父はいきなりのことに若干キョドっている。


「ハーディス、あなたは何を……」


「これだ」


 ハーディスは手錠がかけたまま両手で自分の服の首元を引っ張った。

 ハーディスの服の中を見てみると、何かが首にかけてある。

 フクロダさんはハーディスの服の中をまさぐり、首にかけてあるやつを取り上げると、そこには父が持ってるのと同じ銅のペンダントがあった。


「これは……どういうことですか?」


「これは俺が生まれ育った村で作られた装飾品で、その村の人間である証だ。つまりお前は俺の村のやつから分捕ぶんどったってことだよな」


 ハーディスが父を睨み付ける。なんか手錠を外して、今にも襲いかかりそうだ。


「いやいやいや待って待って! これはですね! ……………………ん?」


 父が言い訳をしようとしたら、いきなり止まった。


「あの~ハーディスさん。もしかして年の離れた妹はいますか?」


「……あぁ」


「その妹って髪の色は同じ茶色で?」


「そうだが」


「妹さんとは四、五歳くらいに離ればなれとか?」


「……何で知ってるんだ」


 父がハーディスに何か質問をしている。


「はいはいはい、つまり…………あ~~、…………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 父が少し考え事を黙ると、何やら納得したような顔をしたと思ったら、何かに驚いたのかいきなり大声をあげた。


「どうした父よ! 急に質問して、急に黙って、急に納得して、急に驚いて! 俺達にもわかるように説明してくれ!」


「母さんだよ!」


「は? 母さん?」


 これまでのやり取りが母さんってドユコト?


「このペンダント! 母さんが山で拾った時に持ってたやつだよ! しかも、最初から茶色だった!」


「え?」


 髪色はともかく、ペンダントに関しては、今初めて知った。

 父から母さんのとは聞いてはいたが、ずっと初デートとか結婚記念日とかの記念のやつだと思った。

 …………ん?


「えっと、ハーディスが持ってたペンダントが母さんも持ってて髪の色が同じ……てことは……」


「母さんはハーディスの妹で異世界人だったんだよ!」


「「「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」」」


 俺とフクロダさん、ニコだけではなく、ハーディスも大声をあげて驚いた。

 エルサレムは大声に動じず、茶をすすっていた。



 ***



 父はハーディスに母さんのことを話した。

 山で拾ったこと、記憶喪失になったこと、結婚して俺が生まれたこと、とにかく色々話し、それは夜まで続いた。


「そうか……ティカは生きてたのか……」


 ティカ……それが母さんの本当の名前……。

 ハーディスは手錠をつけたまま、母さんの写真がある仏壇の前に立っている。


「しかも結婚して、ガキ産んでるなんてな。ずいぶんいい生活送ってたみたいだな。せめて生きて会いたかった」


 仏壇の母の写真は満面の笑みを浮かべている。

 それを見たハーディスの顔は心なしか穏やかになっていた。

 その後ろで俺達はハーディスを見守っている。

 ただニコはまだハーディスが恐いため、ずっと後ろにいる。


「まさか町を滅ぼそうとしてるのが、義理の兄だとは思わなかったな耀助」


「そうか、血縁関係で言えばハーディスは俺の叔父になるのか……いや、それ以前に俺って異世界人とのハーフってことになるんだよな。フクロダさん、俺って魔法使えるかな?」


「どうでしょう……ただ耀助さんが私の世界の人間の血が混ざっているというなら、合点がいきますね」


「何がですか?」


「耀助さんの頑丈さですよ。私の世界の人間はこの世界の人間より、鍛練による身体の影響力が数段速いんです」


「えっと……どういうことですか?」


「この世界の人間は鍛えてもコツコツとゆっくり上がるのに対して、私の世界の人間はその成長が速いということです。簡単に言えばゲームで数時間でレベルが上がるような感覚です」


「それは簡単ですね」


「耀助さんの場合、歩美さんにプロレス技や格闘技の実験台をされ続けた結果、耐久力が常人離れにレベルアップしたわけですね……」


 わぁ嬉しくないレベルアップだなおい。

 まぁでも、そのおかげで俺はこれまで生き延びて来たんだよな……。

 フクロダさんはハーディスに近づき話しかけた。


「ハーディス、言い訳になるかもしれませんが、あなたの妹は黒髪の人間に救われて、大人になるまで育ててくれて、家庭も持ちました。向こうの世界とこの世界の黒髪を一緒にしないでもらいたいんです……いや、そもそも黒髪を忌み子扱いするという言い伝え自体間違いだと私は思います」


 フクロダさんの言葉に勇気づけたのか、ずっと後ろにいたニコは俺の隣まで近づいた。

 ハーディスはフクロダさんや俺達を見て、ため息をついた。


「はぁ…………そうかもな。俺は家族を失ってからずっと黒髪を殺し続けて来た。だが、次第に罪のない人を殺すのに内心罪悪感を覚えて、だけど家族が死んだのを忘れるために続けて、そんな感覚も麻痺して、もう元に戻れない、後戻り出来ないと思ったから殺し続けたかもしれないな……」


 ハーディスは心の内を明かしてくれた。

 本当はハーディスの心は思った以上に強くない……だから狂ったように黒髪を恨み、この町を滅ぼそうとしていた。


「もう俺は死んだ方がマシかもな……」


「それは私が許しません」


「え……」


「殺された人達の分まで、あなたは罪悪感に苦しみながら行き続けなくてはいけません。それがあなまに出来る罪滅ぼしだと私は思います」


 フクロダさんは変わらないフクロウの顔をしているが、おそらく真剣な表情なんだろう。

 ハーディスもフクロダさんの言葉に何も言えなかった。


「…………わかった」


 ハーディスは生きることを決意した。

 殺された人を償うために……。


「いやぁよかったよかった! これからよろしくね、お義兄にいさん」


 父がハーディスに握手を求めた次の瞬間、ハーディスは目にも止まらぬ速さで、父の背後に回り込み、手にかけてある手錠で首をしめた。

 足にも手錠かけてるのになんというどうやって動いたの!?


「ぐ、ぐるしい……」


「だからと言って黒髪を好きになるわけではない」


「あぁ……やっぱりですか」


 ハーディスの目がすわっている。

 おそらくフクロダさんが言ったように、何十年も黒髪を嫌い続けたせいで、体が自動的に黒髪を始末しようとしているんだ。


「ストップ! ハーディストップ! このままじゃ死ぬから! フクロダさん止めて!」


「は、はい!」


 フクロダさんは力ずくでハーディスの手を持ち上げ、父を離した。


「はぁ、はぁ……あぁ~死ぬかと思った!」


「やはり黒髪と共に暮らすのはハーディスのストレスにも、耀助さんの命にも無理でしょうね」


 うわぁ、それはどっちのためにもならないな……。

 いやそれ以前にフクロダさん、さりげなくハーディスをうちでずっと住まわせる気だったの?


「ハーディスを住まわせるならやっぱり黒髪だらけのこの町で住むのは無理ですね」


「ていうか町どころか、日本すら無理でしょう。最近髪を染めてる人が多いと言っても……」


 はぁ、先が思いやられる……。


「あ、だったら方法あるよ」


「あるんかい!」


 ーーと思ったら、父の発言で数秒で解決しそうだった。



 ***



 その後の話をしよう。

 あれから一ヶ月後、ハーディスはアメリカに行った。

 父のコネで前に仕事をしていたアメリカの日本料理の店で働くことになった。

 黒髪がいる日本より、金髪だらけの外国ならと、父はそう考えたのだ。

 父がパスポートを発行し、頭がいい金山と浅羽さんに頼んで英語の勉強をさせた。ただ浅羽は黒髪のため、遠ざかりながら教えている。

 ハーディス曰く「なんとなくだが日本語よりは読みやすい」らしい。おそらく異世界の言語は英語に近いのかもしれない。

 そのためものすごい速さで英語をマスターした。

 そしてハーディスがアメリカに行ってさらに一ヶ月後、ハーディスから手紙が届いた。

 手紙には短く「黒髪はいないがテンションがすごい……」と書いてあった。

 写真も一緒に送られたが、そこには疲れた顔をしたハーディスと明らかにテンションが高そうな外人数人と一緒に写っていた。

 疲れてはいた感じだったが、あのときの殺意に満ちた目ではなく、それなりにうまくやっているみたいだ。


 ちなみにエルサレムは、隣町にある地元の人達がやっている小さなふれあい動物園で働くことになり、そこから近い独り身のおっさん達が集まる珍しいシェアハウスで暮らすことになった。

 動物になつかれる体質を利用して初めてながら大活躍してるらしく、うまくやってるようだ。


 こうして町も元に戻り、ハーディスもエルサレムも別の場所でちゃんと働いているため、これで正真正銘、めでたしめでたしである。

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